晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「イングリッシュ・ペイシェント」(96・米) 80点

2014-10-24 17:16:54 | (米国) 1980~99 
・ 壮大なラブ・ロマンスの陰に、戦争の虚しさと人種偏見批判が見える。

                   

 この年のオスカー9部門を独占した第二次世界大戦時下の北アフリカを舞台に繰り広げられるハンガリー生まれの冒険家と人妻の<愛と裏切りの壮大なドラマ>。監督・脚本は若き巨匠・アンソニー・ミンゲラ。

 大火傷を負って記憶を無くした男が、イタリアの野戦病院に運ばれ<英国人の患者>と呼ばれる。カナダ人看護士ハナの献身的介護で徐々に記憶を取り戻していく。

 それは、人妻キャサリンとの北アフリカでの激しい恋の様子だった。キッカケは夫が妻を残しカイロへ出掛けたとき砂嵐に巻き込まれ2人だけで過ごしたこと。砂漠の官能的な美しさが一変し恐怖となり、絆が深まる瞬間でもあった。

 一見単なる不倫恋愛ドラマのようだが、原作のマイケル・オンダージェという作家はスリランカ出身のカナダ人。イタリアでのカナダ人看護士ハナの視点で物語を進行させながら、ハンガリー伯爵家生まれの冒険家が何故戦争に巻き込まれ飛行機事故で瀕死の状況になったか?を断片的な回想形式で綴っている。

 主人公アルマシーはハンガリー人で、英国地理学会協会に所属している。人妻キャサリンは英国人で夫は協会のスポンサーでもある。そこには悲劇的な愛の顛末とともに人種への偏見があり、過酷な砂漠地帯での冒険は戦時中の非常時と似た厳しさをそこかしこに漂わせている。

 愛する人のための行動が連合国からはドイツ人スパイ容疑者として疑われ、戦争の虚しさが追い打ちを掛けていく。さらに、英国情報部員のカラヴァッショがアルマシーの途切れていた記憶を呼び戻させる。それは親友マドックスの拳銃自殺であり、自分がこのような悲惨な除隊になったかを解き明かせていく辛い出来事であった。

 悲劇の救いはハナで、恋人・親友を失いながら介護するうち、シーク教徒の誠実なキップという爆弾処理軍人が現れ生き甲斐を取り戻していく。

 運命のなせる非情さが追い打ちをかける悲劇的なラブ・ロマンスだが、ハナが明るい希望を持って生きて行けるだろうというエピローグに至るまで、オスカー作品賞受賞作品としての品格を充分満たしている。

 主演のレイフ・ファインズは端正な憂いを帯びたマスクのアルマシーと火傷で目鼻が分からない姿のイングリッシュ・ペイシェントの二役を見事に使い分け。気品のある妖艶な婦人がハマり役のクリスティン・スコット=トーマスとともにオスカーにノミネートされたが受賞ならず。

 ハナを演じたジュリエット・ビノシュが、その愛と哀しみを包み込む演技で助演女優賞を射止めているほか、後半重要な役割で出演したカラヴァッショ役のウィレム・デフォー、キップ役のナヴィーン・アンドリュースが予想どおりの好演。のちのオスカー俳優コリン・ファースが、哀れな夫ジェフリー役で出演しているのも印象的。

 美しい映像とともに、挿入曲で流れるJ.S.バッハの「ゴルトベルク協奏曲」、ベニー・グッドマンの「ワン・ワン・ブルース」、エラ・フィッツジェラルドの「チーク・トゥー・チーク」など、名曲がドラマ効果を一層高めている。162分の大作だが、インターミッションなしで鑑賞できた。


 

 

 
 

 


 



「グレイティスト」(09・米) 75点

2014-10-23 12:19:03 | (米国) 2000~09 

 ・ S・サランドン迫真の演技とキュートなC・マリガンのハートフル・ドラマ

                    

 日本未公開ながら、ピアース・ブロスナン、スーザン・サランドン、キャリー・マリガンという豪華キャストで描かれたハートフル・ドラマ。P・ブロスナンが製作総指揮していて監督・脚本はシャナ・フエスタ。

 交通事故で突然長男・ベネットを失った家族と、彼の恋人の<苦悩と再生の物語>。

 母・グレースは、深い悲しみのなか死の直前どんな様子だったかを知りたくて、入院中の追突した運転手の意識が回復するまで病院へ通い詰める。

 父・アーロンは、哀しみを隠し毅然とした態度を取り続ける。弟・ライアンは、ドラッグ中毒へ逆戻り。

 そんな家族にベネットの恋人だというローズが現れ、妊娠しているという。

 突然の事故で家族が崩壊の危機に陥るというドラマはよくあるストーリーだけに、出演者の演技力が成否に係るきらいがあり勝ち。

 本作ではS・サランドンの母親役が迫真の演技で、物語を引っ張っている。最後にどんな言葉を残したか?をケジメとして息子の死を受け止めたいという執念が伝わってくる。

 ローズ役のC・マリガンは24歳ながら童顔で、キュートなティーンの役柄に不自然さがない。同年「17歳の肖像」でブレークした売り出し中の若手女優。日本なら宮あおいタイプか?

 5代目ボンド役のP・ブロスナンは得意のアクションを封印、一度の過ちを悔い善き父・夫ぶりを演じている。前年「マンマ・ミーア」でゴールデン・ラズベリー賞・最低助演男優賞の名誉挽回作として挑んだ。最後に泣き崩れるシーンが見せどころだったが、好演ながら007のイメージが足を引っ張っていた。

 ヒロインの引き立て役に徹しながらシッカリ存在感を魅せ続けるS・サランドンと、キュートなC・マリガンの演技比べを楽しんだ。

 

「上流社会」(56・米) 75点

2014-10-21 11:30:35 | 外国映画 1946~59

 ・ G・ケリー最後の主演作品はミュージカル仕立て。

                    

 フィリップ・バリーの戯曲を映画化した「フィラデルフィア物語」(40)をリメイクしたグレース・ケリー最後の主演映画。「モガンボ」(54)で助演女優賞、「喝采」(55)で主演女優賞を獲得してオスカー女優として人気絶頂最中での引退はビッグ・ニュースとして世界を驚かせた。婚約したレーニエ・モナコ大公の反対を押し切って出演したという。

 キャサリン・ヘプバーン、ケーリー・グラント、ジェームズ・スチュアート競演の前作に劣らない、ビング・クロスビー、フランク・シナトラにルイ・アームストロングが加わる豪華キャストでG・ケリー引退を飾っている。

 舞台をロード・アイランドに移し、前夫の富豪デクスター(B・クロスビー)はジャズ・ミュージシャンという設定。

 隣に住む前妻トレイシー(G・ケリー)が婚約したと聞き、まだ未練があるデクスターは穏やかではない。そこで結婚式前日、記念として想い出のヨット「トゥルー・ラブ」号の模型を贈る。
 
 振付師でもあるチャールズ・ウォルターズ監督。ポール・ポーターの曲に合わせたミュージカル仕立ての作風はG・ケリーの魅力を存分に発揮している。

 B・クロスビーとのデュエット「トゥルー・ラブ」やサッチモの「ハイソサエティ・カリプソ」など名曲が聴けるのも楽しい。

 映画ファンをガッカリさせたG・ケリーの引退記念映画としては貴重だが、残念ながら作品としては凡庸なでき。御大F・シナトラの若き日も興味深いが、J・スチュアートの軽妙な記者役には及ばなかった。

 
 

「こわれゆく女」(74・米) 80点

2014-10-18 12:50:53 | 外国映画 1960~79

 ・ カサヴェテス一家総出で作った、ある家族の物語。

                    

 インディペンデント映画の父ジョン・カサヴェテス監督7作目。ヴェネツィアで金獅子賞を獲得した「グロリア」(80)で名高いが、自分が撮りたい映画しか作らないので一般には馴染みが薄い。それ故マニアにとっては興味深い作品ばかりで外すことができないヒト。

 なかでも本作は、監督の自宅を抵当に入れ、盟友ピーター・フォークがコロンボで得た収益を投入し主演、愛妻ジーナ・ローランズが共演したことで、力の入れようが分かる。

 土木作業員のリーダー・ニックは、急な夜勤工事要請の電話を断っている。妻と2人で過ごすからと断って仲間から拍手を浴びている。専業主婦の妻メイブルは3人の子供を母に預け車を見送っているが、裸足でハイテンション振りに狂気の片鱗が窺える。

 ごく一般的な家庭の夫婦が行き違い溝が深まってゆくことを、カサヴェテスはこんなプロローグで容赦なくえぐって行く。

 邦題は「こわれゆく」だが、すでに精神を病んでいる女が夫の無理解から極限まで追い込まれて行くサマを描いてとてもシリアス。

 妻は夜勤の夫を待つ寂しさを癒すため夜の街をさ迷い、見知らぬ男と夜を共にする。夫は夜勤を断り切れず夜勤明けに仲間を自宅に呼んで朝食を振る舞う。2人で過ごす筈の夜は迷走し、出口が見つからなくなって行く。

 オールロケでドキュメントタッチの作風は、一家を取り巻く様々な人々をリアルに浮かび挙がらせる。ニックの母を演じているのは監督の実母でJ・ローランスの姑でもあるキャサリン・カサヴェテス。安心して子供を任せられないとニーナを隔離しようとする姑役は妙な緊張感を持って観てしまう。

 のちに監督となったニックとアレクサンドラの2人の子供も端役で出演し、さらにメイブルの母親役はジーナの実の母レディ・ローランズが演じていて、まさに一家総出で作り上げた家族愛の物語となった。

 いつ破滅を迎えてもおかしくないニック一家。不器用で愛情表現が稚拙な夫と、<白鳥の湖>が好きな子供時代に不幸な出来事を体験した妻。生まれも育ちも違う夫婦は小さな子供3人がカスガイとなり、愛情を確かめながらエピローグを迎える。

 結末が見えないまま、一家のこれからが想像できそうなエンディングは、現代社会での愛情の探求を求めてやまないカサヴェテスらしい人間描写の傑作だ。




 

「バス停留所」(56・米) 80点

2014-10-16 08:31:58 | 外国映画 1946~59

 ・ 演技派転身?のM・モンローによるコメディ・タッチのラブ・ストーリー。

                    

 ウィリアム・インジの戯曲を「ピクニック」(55)のジョシュア・ローガン監督で映画化したコメディタッチのラブ・ストーリー。

 モンタナのカウボーイ・ボー(ドン・マレー)がロディオ大会に出場するためフェニックスへ向かう途中、付添のヴァージル(アーサー・オコンネル)から女を知るようにけし掛けられる。

 世間知らずの純朴な青年ボーは天使を見つけると張り切って、酒場の歌手シェリー(マリリン・モンロー)を見染め勝手に結婚すると決めてしまう。

 満足に歌を聴いてもらえない客を黙らせたボーに好意を持ったもののハリウッド・スターを夢見るシェリーは、結婚と聞いてボーから逃れるためロス行きのバスに乗ろうとする。

 大会会場で神父まで手配していたボーは、逃げるシェリーをバス停で見つけると、得意の投げ縄で捕まえ、強引にモンタナ行きのバスに乗せてしまう。

 「ナイアガラ」(52)でセックス・シンボルとして売り出し、以来「紳士は金髪がお好き」(53)、「百万長者と結婚する方法」(53)、「帰らざる河」(53)、「ショウほど素敵な商売はない」(54)、「七年目の浮気」(55)と役柄は違ってもイメージは不動のもの。

 イメージ脱却のため一念発起、NYアクターズ・スタジオでレッスンを受け演技を磨きハリウッド復帰作として選んだのが本作。彼女の最高傑作とも言われ、Gグローブ ミュージカル・コメディ部門の主演女優賞にノミネートされたが獲得はならなかった。(3年後「お熱いのがお好き」で受賞)

 可愛らしい演技のどこが変わったかは定かではないが、私生活では元NYヤンキースの大リーガー、ジョー・ディマジオとの離婚による傷心もあって、女としての情感は豊かになっていることは窺える。マリリンは演技以前に天性の女優なのだ。
 
 わざと下手に歌った「That Old Black Magic」は、貴重な生歌となっていてマリリン ファンには見逃せないシーン。

 前半のロディオ大会やパレードも見所のひとつだが、グレース・ダイナーというバス停留所カフェでのストーリー展開が見所。カフェの女主人ダイナー(ベティ・フィールド)とバスの運転手カール(ロバート・ブレイ)の粋なヤリトリや、シェリーとボーの恋の行方が如何もブロードウェイのヒット作らしい風情で楽しい。

 ボーに扮したD・マレーはこれがデビュー作だが、地方育ちの一途さが出てなかなかの好演だったし、A・オコンネル、女給役のアイリーン・ヘッカート、B・フィールド、R・ブレイなどベテラン陣が確かな演技でマリリンを支えている。

 今観ると問題だらけのストーリーも、半世紀前の時代背景での米国を理解した上で目くじら立てずに楽しめるバラエティとして懐かしく鑑賞。
 

「バグジー」(91・米) 75点

2014-10-13 14:52:56 | (米国) 1980~99 

 ・実在のユダヤ系ギャングを、想い入れタップリに演じたW・ベイティ。

                    


 ギャング映画の代表作「ゴッド・ファーザー」(72)でコルリオーネ・ファミリーに殺されるモー・グリーンのモデルでもあるバグジーことベンジャミン・シーゲル。バグジーとは害虫・バイ菌の蔑称で、本人はもちろん嫌っていた。映画スター並みの風貌でナルシストだった実在のユダヤ系ギャングを、ウォーレン・ベイティが想い入れタップリに演じている。

 監督は「グッドモーニング・ベトナム」(87)、「レイン・マン」(88)、「わが心のボルチモア」(90)と好調なバリー・レヴィンソンで、この頃が絶頂期だった。

 NYのユダヤ系ギャングのベン・シーゲルは幼なじみのハリウッド・スター、ジョージ・ラフト(ジョー・マンテーニャ)とともに西海岸へ組織拡大のため乗り込んで行く。アル・カポネの用心棒だったロスのギャング、ミッキー・コーエン(ハーヴェイ・カイテル)と提携し、その荒っぽさで地元のジャック・ドランガ(リチャード・C・サラフィアン)を服従させ地盤を築いて行く。

 社交的で女好きは相変わらずで、ハリウッドでは売れない女優ヴァージニア(アネット・ベニング)に一目惚れ、社交界ではフラッソ伯爵夫人(ビビ・ニューワース)とも懇ろになる。ムッソリーニとも親交がある伯爵を通してイタリアに渡ってムッソリーニ暗殺を本気で考え、マイヤー・ランスキー(ベン・キングスレー)に諌められたりする。

 終戦直後、ラスベガスの古臭い賭場を手に入れたベンが思いついたのは、カジノ付きの巨大リゾート・ホテルの建造。

 ベンがギャング史に名を残したのは、何もない砂漠のラスベガスに巨大ホテルのホテル・フラミンゴを開業したこと。しかし金銭感覚がなく当初100万ドルの予算が6倍に膨れ上がり、採算が取れなくなったため、資金調達した仲間から疑われ組織の幹部会で進退を問われるハメとなり・・・。

 ベンはマイヤーに見込まれ殺人会社のヒットマンとしてイタリアン・マフィアのチャーリー・ルチアーノ(ビル・グレアム)を裏切ったハリー(エリオット・グールド)を抹殺する一方で、NYで暮らす妻と娘2人の家族思いでもあった。

 そんなアンバランスな魅力を画面に振りまくW・ベイテイが気持ちよさそうに演じている。ヴァージニアを演じたアネット・ベニングは愛人としてホテル建造に関わりながらも200万ドルを隠匿する強かな女を演じている。この共演がもとで、21歳年上のW・ベイテイと結婚し4人の子供までいるオシドリ夫婦となったが、それまでのベイテイの女性遍歴を観ると余程の操縦上手と見える。

 脇ではB・キングスレーとH・カイテルが存在感を魅せていた。

 この年のオスカー最大の9部門にノミネートされ大本命と言われたが、主要部門は「羊たちの沈黙」に浚われ、美術監督・装置、衣装デザインの3部門のみの受賞となった。

 ハリウッドとユダヤ資本の密接な関係は本編でも窺えるが、如何せんベンとヴィクトリアのラブストーリーにシフトした創りは、奥行きに欠けるきらいがあった。

 今日のラスベガスの繁栄の祖として名を残したベンの栄光と悲運。陰ではバグジーの仇名で呼ばれたベンをリアルに表現するのを、プロデューサーでもあるベイティが許さなかったのだろう。

  

 



   

「ザ・タウン」(10・米) 80点

2014-10-09 16:37:24 | (米国) 2010~15

 ・ ポスト・イーストウッド候補となったB・アフレック監督2作目。

                    

 「ゴーン・ベイビー・ゴーン」(07)で監督デビューしたベン・アフレック。チャック・ホーガン「強盗こそ、われらが宿命」の長編を監督2作目として選び、盟友アーロン・ストッカードと共同で脚本も手掛けている。

 ボストンの北東チャールズタウンは年間300件もの銀行・現金輸送車強盗の多発地区。かつてはアイスホッケー選手として輝かしい未来を夢見ていたダグは、親の稼業・銀行強盗に戻り。暴力・ドラッグ・売春が日常の町から抜け出せないでいる。
 
 押し入った銀行で、やむを得ず人質を獲った銀行支店長・クレアを一旦解放したが、同じ町の出身だったことが分かる。ダグは始末しようという仲間のジェムを押しとどめ、行動をマークすることに。


 大都市の一角には必ずこんな地区があるが、安全なイメージのボストンにもあったことは意外な驚きがあった。しかも代々強盗稼業を生業とする一家があって、警察も手を焼いている。FBIも手を拱いてはいないが、その手際の良さと仲間の結束が固く一掃するには至らない。

 ボストン・ケンブリッジ地区出身のB・アフレックは出生地への熱い想いを込め、このドラマが単なるクライム・アクションではない工夫が込められている。狭い市街地での決死のカーチェイス・迫力の銃撃戦はもちろん、クライマックスにレッドソックスの本拠地フェンウェイ・パークのロケを敢行。脇役やエキストラに地元民を起用するなどリアル感を増して訴えてくる。

 クライム・アクションと人間ドラマのウェイト配分に苦心の跡がみられたが、程好いバランスで、段々大御所クリント・イーストウッドの作風に似てきた。

 犯罪ドラマとしては若干FBI捜査官や刑事側の印象が薄いきらいがあるものの、緊張感は充分伝わってくる。登場人物の背景や人間描写もきめ細やかで脇役陣の心理描写までキッチリと描かれていて好感が持てる。

 B・アフレックは強盗団リーダーでありながら、この街から抜け出し再生したいという想いを演技に込め、クレア役のレベッカ・ホールも真面目な銀行員でありながら、女性らしい魅力もあって適役。

 ダグの相棒ジェムにはオスカー候補になったジェレミー・レナーが扮し、「ハート・ローカー」とは真逆の切れやすい若者を好演。その妹で乳飲み子を抱えたシングル・マザー、クリスタには、ブレイク・ライリーが不幸なヒロインを演じてこの街の宿命を醸し出している。

 生花店を営みながら実は地元を仕切るボス・ファギーにピート・ポスルウェイト、服役中のダグの父・ビッグマックにクリス・クーパーが扮し、ベテランらしい骨太な演技でこのドラマに厚みを加えている。

 監督3作目「アルゴ」(12)で、オスカー作品賞を獲得したB・アフレック。ポスト・イーストウッドへ名乗りを挙げた。ラストの自己陶酔振りまで雰囲気が似てきたが、さり気ない作風はこれから益々磨きが掛かることだろう。

 




 
 


 

 

「幸せの教室」(11・米) 60点

2014-10-06 16:41:49 | (米国) 2010~15

 ・ 体験をもとに映画化したT・ハンクス製作・監督・主演作品の学園ドラマ。

                    

 T・ハンクスが自身の体験をもとに長年映画化を企画、「すべてをあなたに」(96)以来の監督・主演したハートフル・ストーリー。気心が知れたジュリア・ロバーツとの共演も見所。

 月間優秀店員賞を9回も受賞しているUマートのベテラン従業員が、学歴を理由に解雇されてしまう。一念発起してイーストバレー・カレッジに入学してキャリアアップを目指す。選んだ科目のひとつ「スピーチ217」の教室で教えることに情熱を失ってしまった教師と出逢う。

 主人公のラリーにはT・ハンクス、教師役がJ・ロバーツというだけで何となくストーリーは予感できるが、期待を裏切らない展開は安心でもあり、物足りないところでもある。2人のオスカー俳優のもっとも得意な役柄を演じながら、それ以上でもそれ以下でもない。

 日本にはない教育制度にコミュニティ・カレッジがあって、高卒なら誰でも自由に入れ2年間の単位取得で卒業できる。人種や世代を超えた環境で繰り広げられるキャンパス・ライフはとても貴重な場ともなっている。

 目的もラリーのようなキャリア・アップを目指す者以外に教養を身につけたい人、大学への足掛かりとするなどさまざま。T・ハンクスが体験したのは高度成長期の70年代だったが、リーマン・ショック以降の現代を反映してシリアスな片鱗も見せながらの学園ドラマに仕立てている。

 主人公は家のローンも返済できなくなって、マイカーを中古スクーターに変えながらもキャンパスライフを謳歌するのに現実感はないが、それを赦してしまうT・ハンクスならではの演技。さらにフリーマーケットで逞しく生計を立てている隣人夫婦や、教室で知り合った若いクラスメート・ダリアとその恋人デルとの交流エピソードが雰囲気を壊さない。また、ヴィンテージ・スクーターの登場は、マニアにとって必見もの。

 美人教師メルセデスは自称作家の夫・ディーンとの不和も相まってアルコール依存状態。夫婦喧嘩のあげく車を降りてバスを待つ彼女の前に現れたラリーは、夫と比較すると、冴えない中年男ではなく一途な若者に映ってみえてくる。スクーターでの2人乗りがキッカケでお互いを意識することに。

 ラブ・コメのオブラートに包まれたこのドラマは、中高年への応援歌でもある。5年前に離婚した失業男にも、公私とも行き詰まって出口が見つからない女性にも、この映画のように幸せな暮らしが待っているかもしれない?