・豪華キャストで異彩を放つ新珠三千代
耽美小説の大家・谷崎潤一郎の戯曲「無明と愛染」を、三隅研次監督・新藤兼人脚本で映画化。勝新太郎、高峰秀子、新珠三千代に佐藤慶が加わって豪華な顔ぶれだ。
南北朝の戦乱時代、都から少し離れた廃寺を訪ねてきた女人。出てきたのは無明の太郎で女人は妻の楓だった。荘園の息子だった太郎は白拍子・愛染に溺れ全てを失い、妻を捨てこの寺に住みついて盗賊になり下がっていた。ここで奇妙な3人の生活が続いて行く。半年後、一夜の宿を頼みに高野山の上人が訪ねてくる。
無明の太郎に扮したのは勝新太郎。「座頭市」で人気を不動のものにしつつあり、油の乗っていた頃だ。訪ねてきた武将達を長太刀で斬りまくる殺陣や山道を駆け抜けるシーンに迫力があり、多分に三船敏郎を意識しての演技が窺える。
嫌がる夫を執拗に追いかけ、愛染に嫉妬の炎をメラメラと燃やす妻・楓には高峰秀子が扮している。貞淑な女を演じながら心の奥には夫を取り戻すためにはウソも厭わず、上人にすがって愛染を抹殺しようと企む。
愛染を演じたのは新珠三千代。五社協定というルールで大映映画に東宝所属の新珠が出演するのも珍しく、そろそろ協定に縛られていては共倒れになるだろうという映画会社の危機感が出た頃で実現したと思われる。色仕掛けで男を翻弄する妖艶な笑み、享楽的な人生感は最後まで権力に逆らう悪女振りは異彩を放っている。勝ち誇って全裸で仁王立ち、高笑いするシークエンスは流石に吹き替えだろうが、映像としては違和感がなかった。
物語は佐藤慶が演じる高野山の上人が登場してクライマックスへ。元貴族(少将)で、愛染を巡りライバルを殺しその罪の意識で仏門入りしたことが分かってくる。上人と愛染の再会がどのような結末を迎えるのだろうと興味深い。
宮川一夫のカメラ・伊福部昭の音楽・4人の好演がこの生臭い人間ドラマを文芸作へと高めている。上人が法力で太郎を屈服させるシーンでレーザー光線風の特撮が場違いなのと、太郎の身体の返り血が絵具の赤がリアルさに欠けるなど、リアルさに欠ける部分が折角の雰囲気を削いでしまったのが残念だ!
唐突な終盤もあって公開時は不評だったが、今あらためて観ると貴重な作品で一見の価値あり。