晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「海外特派員」(40・米)80点

2020-12-31 13:17:29 | 外国映画 1945以前 


 ・ ヒッチのハリウッド2作目は、アイデア満載のパニック・サスペンス。

 第二次大戦間近の欧州で国際的事件を取材した米個人記者を描いたパニック・サスペンス。大戦勃発の一年後公開され反ナチス・プロパガンダ映画ながら才気溢れる41歳のアルフレッド・ヒッチコックが惜しげもなくその技量を存分に発揮して、のちにこの種の作品のお手本となっている。

 ハリウッド進出第1作「レベッカ」でオスカー作品賞を獲得したヒッチだが、本来の才能を遺憾なく発揮したのは本作だった。

 フィクションであるというクレジットが冒頭流れるが、その切り口の鮮やかさからストーリーに入った途端テンポ良く進んで行く展開にただただ身を委ねる気分で映像に見入ってしまった。

 大戦防止のキイを握るオランダの政治家ヴァン・メアの暗殺事件を皮切りにカーアクション・風車小屋でのサスペンス、聖エドタワーでの墜落シーンそしてハイライトである飛行機墜落のパニックまでカメラアングルの巧みさやユーモア溢れるシークエンスでアイデア満載で観客を楽しませてくれる。

 主演ジョン・ジョーンズを演じたのは西部劇でお馴染みのジョエル・マクリー。ヒッチはゲイリー・クーパーをオーダーしたが断られ回ってきた。そのせいかヤンキー記者役としては地味な気がしないでもないが、充分期待に応える演技で彼の代表作となった。この映画を観たクーパーは大いに後悔したという。

 相手役平和運動家フィッシャーの娘キャロルにはラレイン・レイが扮している。ジョンとのラブ・ストーリーもあるがあっさりしていて如何にも添え物という風情。のちに女優にコダワリを見せたヒッチも当時はあまりきが向いていなかったようだ。

 その分脇を固める達者な俳優陣がこのドラマを盛り上げる。

 なかでもイギリス人記者スコットのジョージ・サンダースはそのウィットに富んだ演技で中盤は主役並の扱い。平和運動家フィッシャー役のハーバート・マーシャルとともに英国俳優の底力を感じさせる演技でこのフィクションを魅力的にしている。

 他にもオスカー助演男優賞にノミネートされたヴァン・メア役のアルバート・バッサーマン、本業コラムニストを活かしたコメディ・リリーフ役のやる気のない在欧特派員ロバート・ベンチリー、私立探偵で殺し屋のエドマンド・グウェインなど多士済々。

 のちの名作に同じようなシーンが沢山観られるという本作。

 なかでも階段でヴァン・メアが射殺され群衆が雨傘が俯瞰で映されるなか犯人が逃げるシークエンスやジョーンズがHOTEL EUROPEのネオンELを壊しHOTになるところは名シーンとして印象深い。

 日本で公開されたのが76年なので驚きはなくなってしまったが、もしリアルタイムで観たら太平洋戦争は起こらなかったかも!?

 
 


 

 

「天国は待ってくれる」(42・米)70点

2020-12-17 15:33:51 | 外国映画 1945以前 


 ・ E・ルビッチ監督、初のカラーでのファンタジー・コメディ。


 レスリー・ブッシュニフェキートによる戯曲「Birthday」をサムソン・ラファエルソンが脚本化、「ニノチカ」(39)のエルンスト・ルビッチ監督、初めてで唯一のカラー作品。オスカー作品・監督・カラー撮影賞にノミネートされたが受賞はならなかった。

 恋多き男が亡くなって地獄の番人に自分の生涯について語り始める。それは愛妻とのラブストーリーでもあった・・・。

 惜しくも本作の4年後に50代で亡くなってしまったが、ビリー・ワイルダーの師匠でもあり小津安二郎も影響を受けたというルビッチ監督ルルビッチ・タッチと呼ばれるその絶妙な語り口とテンポの良さは健在。なにしろ男の一生をエピソードごとにクスリと笑わせ僅か112分で語り終える手腕は唯一無二の存在だ。

 主人公ヘンリー役を20代から70歳まで演じたのはドン・アメチー。「コクーン」(85)での老人アーサー役でお馴染みだが、当たり前だが彼にも若いときがあり、しかもなかなかの美男子!
 NY上流階級ヴァン・クリーヴ家の御曹司で従兄弟の婚約者マーサを奪い駆け落ちして結婚。以来銀婚式を迎えるまでその後も浮気癖は治らずマーサを失っても三つ子の魂は~生涯続いていく。

 マーサを演じたのは当時最高の美女と謳われたジーン・ティアニー。D・アメチーより格上で最初にクレジットされている。青いドレスで画面に現われただけでその美しさは際立っていて目を奪われる。ヘンリーが一目惚れしたのも納得だ。

 二人を取り巻くそれぞれの家族や親戚のキャラクターが立っていたのもこのドラマの面白さ。なかでもヘンリーの祖父役チャールズ・コバーンがコメディ・リリーフ的存在を好演。
 地獄の番人を演じたレアード・クリーガーも印象的な風貌だったが、30歳という若さで亡くなってしまったのが惜しい。

 スタイリッシュで豪華な衣装や家具調度が映えるカラーの本作が太平洋戦争の最中に作られたのが大国のゆとりを表していて、唯一エンディングに戦時国債のクレジットにその面影を残すのみというのも驚きだ。

 

 
 
 

 

「太陽の中の対決」(65・米)75点

2020-12-05 15:02:17 | 外国映画 1960~79


 ・ M・リット監督、P・ニューマン主演の骨太な異色西部劇。


 エルモア・レナードの小説「オンゴレ」を「ハッド」(62)のコンビ、マーティン・リットの製作・監督、P・ニューマン主演で映画化。脚本はアービング・ラヴェッチ、ハリエット・フランク・JRで、アパッチ族に育てられた白人が主人公の異色西部劇。

 19世紀末のオレゴン。幼い頃アパッチに育てられたジョン・ラッセル(P・ニューマン)は「オンブレ」<男の中の男>と呼ばれていた。白人の彼は、養父からの遺産である下宿屋を営む家を売って駅馬車で新天地を目指す。
 同乗者は先住民の監視官フェーバー(フレデリック・マーチ)とその若い妻、下宿屋の女主人ジェシー(ダイアン・シレット)、保安官を辞めたブラデン、同じ下宿住まいの若い夫婦、そして強引に乗り込んできたグライムズ(リチャード・ブーン)という荒くれ者だった・・・。

 原作は村上春樹の翻訳本が出ているが、単なる娯楽アクション西部劇ではない。若い頃の経歴で赤狩りにマークされていたリベラル派のリット監督は、「ハッド」同様西部劇でも複雑な人間ドラマに焦点を当てている。
 本作では米社会が抱える人種問題や豊かな暮らしのためには人間愛を犠牲にする人物像を浮き彫りにした骨太な作品だ。そのため、駅馬車・先住民・強盗など西部劇には欠かせない設定でありながら終盤までスリリングなアクションは極めて少なく、主人公のラッセルも無口で控え目だ。
 
 映画は人間の本性があからさまとなっていく白人社会を、冷静に見極め機敏に行動する主人公の目を通して描いている。

 P・ニューマンは冷静沈着でその眼で感情表現し、その内に秘める勇気や優しさをひた隠しにしながらも究極の選択をしていく格好良さが、西部の男の在り方を具現化して魅せる。

 対極にいるのが先住民を犠牲にし私腹を肥やし若い妻と逃亡しようとした初老の紳士フェーバーで、金の力で全てを謀り最後は妻を犠牲にしても生き残ろうとする仮面の男で最悪の人物像である。
 強盗一味のリーダーである悪党グライムズがまだマシに見えてくるから不思議なものだ。

 気丈な女主人ジェシーとフェーバーの若い妻の人物描写も人は見かけで判断してはいけないという暗示だろうか?

 登場人物ひとりひとりが現代のアメリカにも存在していそうな描写がこの映画の面白さ。21世紀になってもアメリカ社会はそんなに変わっていないのでは!?