晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ハードウェイ」(91・米)70点

2019-08-30 17:43:26 | (米国) 1980~99 


 ・ マイケル・J・フォックスとJ・ウッズの異色コンビによるバディ・ムービー。


 ハリウッドのアイドル・スターが役作りでNY市警の刑事とともに連続殺人犯を追うハメになるというアクション・コメディ。アイドル・スターにマイケル・J・フォックス、刑事にジェームズ・ウッズが扮し異色コンビによるバディ・ムービーに挑んでいる。監督は「サタデイ・ナイト・フィーバー」(77)、「張り込み」(87)のジョン・バダム。

 マイケルは「バック・トゥー・ザ・フィーチャー」のマーティ役でお馴染みだが、そこから抜け出せるかが見どころ。

 J・ウッズは「ワンス・ア・ポンナ・イン・アメリカ」(84)のマフィア役以来、個性的な脇役で鳴らした演技派。シリアスな役柄が多くアクション・コメディは珍しい。

 この二人のコラボによる相乗効果は期待通り成功したようだ。

 ただし、シリーズ化するほどには至らなかった。原因は二人の役柄に限界があって、次はどんな展開になるのかという広がりには無理な設定だったかもしれない。
 
 あるいは、マイケルの病(パーキンス病)が重くなったからか、ウッズが大作での貴重な脇役に引く手あまただったのか。

 連続凶悪犯パーティ・クラッシャーを捕り逃がした刑事ジョン・モス。
 新しい役柄に挑むため、本物の刑事から演技を学ぼうと知るアイドルスターのニック・ラング。<スピルバーグのオスカー授賞式で自分の名前をいわれなかった>とか<メル・ギブソンの刑事アクションは誰が観たいのか>とか自虐的ネタで本作は始まる。

 短気で乱暴だが刑事という仕事に命を懸けるが恋には不器用なジョン・モスのコンビは連続凶悪犯パーティ・クラッシャー(スティーヴン・ラング)という難敵を追ってマンハッタンを駆け巡る。

 最大のハイライトは、ジョンの交際相手であるシングル・マザーのスーザン(アナベラ・シオラ)まで巻き込んだタイムズ・スクエアの広告塔で繰り広げられるスリリングなアクション・シーン。

 改めてマンハッタン中心街でのロケができたハリウッドのパワーを知る想い。バブル末期の日本企業ブランドの華やかさも懐かしい。

 ポリス・アクション全盛期のこの時代、チョッピリ変わった相棒による本作は笑いありアクションあり心情ドラマありの盛り沢山なバディ・ムービーだった。

 

「眠れぬ夜のために」(84・米)70点

2019-08-28 12:01:13 | (米国) 1980~99 


 ・ J・ランディス監督による緩めの巻き込まれ型サスペンス・コメディ。


 不眠症のエンジニアが、ロスの空港で謎の美女をひょんなことで助け事件に巻き込まれるサスペンス・コメディ。「ブルース・ブラザース」(80)のジョン・ランディス監督でジェス・ゴールドスミス、ミシェル・ファイファー共演。
リチャード・ファーンズワース、ヴェラ・マイルズ、イレーネ・パパス、デヴィッド・ボーイなど豪華な布陣が脇を固め、さらに監督本人のほかポール・マザースキー、ロジェ・バディム、ドン・シーゲルなど著名な監督がカメオ出演している。

 この手の作品ではヒッチコックが第一人者だが、「ケンタッキー・フライド・ムービー」(77)でメジャー・デビュー以来ユニークな作品を手掛けてきたJ・ランディス監督が事件以来2年後、再起作として挑んでいる。

 事件とは、「トワイライトゾーン/超次元の体験」(82)撮影でヴィッグ・モローと子役二人の死亡事故のことで、落ち込んでいたランディスを応援するため有名監督のカメオ出演とつながった。
何しろトイレから出てきた浮気男がD・シーゲルで、J・デミは殺しや一味,J・アーノルドは浮浪者など、今となっては貴重なフィルムになっている。

 肝心のストーリーはかなり緩めで、行きずりの美女に振り回される主人公のお人好しぶりを追う展開は、ハラハラ・ドキドキ感は皆無。長身で個性的風貌のJ・ゴールドスミスの初主演。

 ヒロインM・ファイファーは「スカー・フェイス」(83)の情婦役で注目された若手時代。シャム猫のような魅力でシャワーを浴びるサービスカットも潔く?赤いジャケットと細身のジーンズがお似合いだ。

 その後J・ゴールドスミスは「ザ・フライ」(86)のハエ男、「ジュラシック・パーク」シリーズでの活躍、M・ファイファーは「危険な関係」(88)、「恋のゆくえ/フェビラス・ベイカー・ボーイズ」(89)などでブレークして行く。

 ふたりが繰り広げるエメラルドを巡る国際密輸組織との逃亡劇は、BBキングの<アーバン・ブルース>が流れる80年代夜のロスがお似合いだ。

「キネマの天地」(86・日)75点

2019-08-25 12:01:30 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 


・ 昭和初期の撮影所秘話と下町人情を絡めたスター誕生のドラマ。


昭和初期、松竹蒲田撮影所を舞台に映画作りのエピソードとそこで働く人々を描いた137分のドラマ。監督は男はつらいよシリーズの山田洋次。脚本は井上ひさし・山田太一・朝間義隆・山田洋次の共同執筆。

出演は中井貴一、有森也実のほか渥美清、倍賞千恵子、しまけい、松本幸四郎、藤山寛美など。

角川が製作し松竹が配給した「蒲田行進曲」(82)は、つかこうへい原作を深作欣次が監督して大ヒットしたが、舞台が京都太秦撮影所だったため東映時代劇色が強く、本家松竹にとっては忸怩たる思いがあった。

大御所・野村芳太郎監督が、本家・松竹蒲田撮影所での映画作りに情熱を燃やした人々を描くことを念願し<大船撮影所50周年記念>として映画化、野村監督の助監督でもあった山田洋次が「男は・・・」を休み挑んでいる。

そのため渥美清・倍賞千恵子を始めスタッフ・俳優の山田組常連が勢揃いした下町人情ドラマという雰囲気の色が濃い。

記念映画に傑作なしとは、昔から言われているが、本作も例外ではなく豪華キャストによる顔見せによる演技比べの趣き。

 映画館の売り子から大部屋女優になった田中小雪<田中絹代>が、川島澄江(松坂慶子)<岡田嘉子>恋の逃避行により大役を演じるというドラマ設定のように、藤谷美和子降板によって新人・有森也実が小雪に扮している。
 さらに戦後の松竹大スター佐田啓二の御曹司中井貴一が助監督・島田健二郎役で相手役を務め、二人の奮闘と恋物語を軸にした浅草六区の賑わいと裏長屋に住む人々の人情噺が絡んで行く。

 二人の初々しい演技は、日本橋老舗の若旦那と旅役者の娘の身分違いの恋物語にうまく噛み合っていた。

 本作の主役はなんと言っても蒲田撮影所という舞台で、監督・俳優・カメラマン・照明など活気ある映画作りスタッフたちでエピソードの数々が繰り広げられる。

 軍国化の波が押し寄せながら活動大写真と言われた無声映画からトーキーとなって行く映画を、大衆のために大量に送り届けた城田所長(松本幸四郎)<城戸四郎>のリーダー・シップとそれに応えたスタッフたち。
 
 山田監督は尊敬する小津安二郎と喜劇映画王・斎藤寅次郎をモチーフに、<映画は芸術か娯楽かを問いながら映画作りに携わってきた>ことが窺える。

 島田が<ここで泣け、ここで笑え、そういう映画を作っていいんですか?>と問いかけた台詞は自問自答のよう。

 渥美清のアリアや大好きな落語ネタ<らくだ>と浪曲<石松三十石舟道中>をミックスし笑いを取りながら、左翼活動家(平田満)の逃亡や不当逮捕など不穏な社会情勢も挟み込むのは監督自身の映画づくりの原点を観る想い。

 劇場公開から30年以上たったが、山本直純のテーマ曲に乗せて様々な懐かしい俳優たちの演技を楽しむことができるのも至福の喜びだ。

「夕陽の群盗」(72・米)75点

2019-08-21 12:00:26 | 外国映画 1960~79


・ 南北戦争時代、若者たちを非情なタッチで描いたR・バートン監督デビュー作。


「俺たちに明日はない」(67)でニューハリウッド映画の先駆けとなったデヴィッド・ニューマン、ロバート・バートンの共同脚本家が、1930年代から南北戦争時代にトキを移して描いた青春群像西部劇。原題は「BAD COMPANY」(悪い仲間)。のちの「クレイマー クレイマー」(79)でオスカー監督のデビュー作でもある。

主人公は良家育ちのドリュー(バリー・ブラウン)で兵役を逃れミズリーへ旅立つ。途中出会ったのが小悪党のジェイク(ジェフ・ブリッジス)で真面目で世間知らずだったドリューは小悪党集団5人と旅するうち非常な世間を知り、いつしかジェイクとの奇妙な友情が芽生え始める・・・。

少年が未知の世界へ踏み出し非常な現実を思い知らされるストーリーは、同年の「男の出発」と重なるが、本作は「俺たちに明日はない」の悲劇性が伴う。

銃と金、そして悪知恵と力が全てという無法地帯を生き抜くためには、盗みや裏切りは日常茶飯事。若者6人の旅はエピソードを重ねる度に一人減り二人減って結局残ったのはドリューとジェイクの二人だけだった。

R・バートンの演出を支えたのはヴィルモス・ジグモンドと並ぶ70年代を代表する撮影監督のゴードン・ウィリスと音楽のハーヴェイ・スミチッドだ。

中西部カンサスでの荒涼とした秋から冬への寒々しい風景は美しくもあり、厳しさを感じさせる茶色の寒々しい大平原が続く。太陽が差し込む逆行の光と影が美しく、生きて行く厳しさを映し出している。

カリフォルニアを目指し夢破れた中年夫婦は金がなく、妻を少年たちに2ドルで相手をさせる。女性を敬わなくてはいけないと教わったドリューにジェイクは首を傾げるが、「ジェーン・エア」の朗読を聴き納得するところが微笑ましい。

11歳のブークは鶏を盗んだ後、パイを盗もうとして銃殺される。
ビッグ・ジョー(デヴィッド・ハミルトン)一味のような無頼漢に出会い身ぐるみ剥がされ、ローニー(ジョン・サヴェージ)兄弟のように吊るされたり若者たちの末路はあっけなく絶たれてしまう。

そんななかでも若さが唯一の取り柄だった少年たちを観る眼差しには優しさが込められていてた。ベトナム戦争の最中に作られた本作には、閉塞された社会でもわずかな希望を友人との絆に求めようとする若者たちへの思いやりがあったのだろう。

ノスタルジックで軽快なピアノが奏でる音楽が、本当の悪にはなり切れない二人への鎮魂歌のように流れていた。






「オレゴン魂」(75・米)60点

2019-08-18 12:00:51 | 外国映画 1960~79


 ・ J・ウェイン、K・ヘプバーンの初共演。


 ジョン・ウェイン扮する「勇気ある追跡」(69)の主人公ルースター・コクバーンが再登場する西部劇。1907年5月生まれの同い年キャサリン・ヘプバーンと初共演、監督はスチュアート・ミラー。

 大酒飲みで左眼に眼帯、犯罪者は容赦なく射殺する保安官R・コクバーンが6年ぶりに登場。白髪が増えたが相変わらず同居人の中国人に世話を焼かれ将軍という名の猫も健在だ。
 
 相変わらずの逮捕ぶりで何人殺したか覚えていないと詰問され、パーカー判事(ジョン・マッキンタイア)からバッジを取り上げられるが、騎兵隊を皆殺ししてニトログリセリンを奪ったホーク(リチャード・ジョーダン)一味を生け捕りすれば、賞金2000ドルと終身保安官にするという条件で追跡の旅に出る。

 古き善き西部劇というものがあるとすれば50年代が全盛期で、J・ウェインがオスカーを獲った「勇気ある追跡」はその終焉を飾る名作だった。

 その続編を作ったのはハリウッドの名優に最後の華を咲かせたいという周辺の配慮があったからこそ。そのためには相手役が大切で、ハリウッドの盟友でありながら共演したことがないK・ヘプバーンに白羽の矢が立った。

 監督のS・ミラーはプロデューサーとして有能で、二人の初共演と「勇気ある・・」のイイトコドリをして完成した本作は本国では公開前から評判を呼び大ヒット。

 ただしクオリティに関しては前作の二番煎じの域を超えられる筈もなく、かなりどこかで観たことがあるシーンや破綻のある展開が目立つ。

 それでも勝ち気で愛らしい修道女に扮したK・ヘプバーンが登場し、J・ウェインとともに旅をするうち打ち解けていくさまは、まるで熟年夫婦を観るよう。大男のウェインがヘプバーンに言い負かされ大人しく従う姿はほのぼのムードが漂い、魅入らされてしまう。

 J・ウェインは翌年の「ラスト・シューテスト」が遺作となったが,K・ヘプバーンはその後も大活躍したのは周知のとおり。

 ストローザー・マーティン、R・ジョーダン、アンソニー・ザーブなどに囲まれてはまり役を全うしたJ・ウェインにとって、本当の意味で最後の作品といえるだろう。
  

「荒野にて」(17・英)80点

2019-08-16 12:00:54 | 2016~(平成28~)


 ・ アンドリュー・ヘイ監督が描いた居場所探しの少年の旅。


 アメリカ北西部ポートランドに住む15歳の少年が父を亡くし、殺処分が決まった競走馬とともに自分の居場所を探すため旅に出る人間ドラマ。
 「さざなみ」(16)のアンドリュー・ヘイ監督がウィリー・ブロンティンの小説を脚色。「ゲティ家の身代金」(17)で注目されたチャーリー・プラマーが主演し、ヴェネチアで新人賞(マルチェロ・マストロヤンニ賞)を受賞した。

 米国北西部のロード・ムービーを英国人監督が映画化した珍しい作品で、アメリカン・ドリームの現実を少年を通して映し出していて、ハートウォーミングな少年と馬の交流ではない。
 その抑制の効いた演出と美しい広大な風景と猥雑な街並みが交互に映し出される映像が現代のアメリカを的確に捉えている。

 主演した少年チャーリー役のチャーリー・プラマーが素晴らしい。とてもナイーブだが、純粋で芯が強い。環境が恵まれず学校にも行っていないが、フットボール好きな繊細な15歳を分身のように演じている。これからが楽しみな演技派俳優に育つことだろう。

 前半登場する父レイ(トラヴィス・フィメル)は生活力もなく欠陥の多い駄目親父だが、チャーリーを愛していて父性愛は深い。チャーリーが幼いころ捨てていった妻にも決して憎しみを抱いていない。たった一人父と息子を心配するチャーリーの伯母とも疎遠なのは、息子を獲られたくなかったのだろう。

 競走馬リーオンピートの馬主デル(スティーブ・ブシェ)や女性騎手ボニー(クロエ・セビニー)からは生きていくことの大変さを身をもって教えられるが、チャ-リーにとって唯一心を許せるのは殺処分が決まったピートだけだった。

 疎遠だった伯母を訪ねるためワイオミングへのピートとの旅は、馬へ語りかける幼い頃の楽しい思い出や不遇だった近況やその心情が浮かび上がって、何とか彼の旅が成功することを願わずにはいられない。

 旅先で出会うウェイトレス(救ってくれる女性)には何人か遭遇するが、荒野は弱者が必死に生きていく世界で足を痛めた競走馬と15歳の少年の居場所はどこにもなかった。

 弱者がもっと弱いものを踏みつけて生き残る社会を知ったチャーリーの旅はララミーで安息の場を得て終わるがラストシーンはチャーリーの始まりでもあった。

 S・ブシェ、C・セビニー、スティーブ・ザーン(ホームレス・シルバー役)、A・エリオット(伯母)などインディペンデントの名優たちが脇を固め、揺るぎのないドラマに仕上がっていた。

 A・ヘイ監督にはチャーリーのその後を期待したい。

 
 

 

「ヴィクトリア女王 最後の秘密」(17・英/米) 70点

2019-08-13 17:08:53 | 2016~(平成28~)


・ 20年後、再びヴィクトリア女王になり切ったJ・デンチを楽しむ。


「Queen Victoria 至上の恋」(97)に続いて、ジュディ・デンチが晩年のヴィクトリア女王に扮し、インド人従者との交流を描いた事実をもとにしたドラマ。
シャラバニ・バスの原作を「リトルダンサー」のリー・ホールが脚本化、「クイーン」(06)、「あなたを抱きしめる日まで」(13)のスティーヴン・フリアーズが監督、「英国王のスピーチ」のダニーコールマンが撮影。

1887年、ヴィクトリア女王在位50周年記念式典で記念硬貨の贈呈役として選ばれたアブドゥル(アリ・ファザル)は、英国領インドから英国へやってくる。
決して目を合わせてはいけないと忠告されたアブドゥルだったが、思わず目を合わせ微笑んでしまう。最愛の夫アルバート公、心から気を許す従僕ジョン・ブラウンを相次いで亡くし、心を閉ざしてしまった女王にとってインドからきたのっぽの若者が心を開かせるものとなった。
従者として連れのモハメドとともに引き止められたアブドラル。インド皇女でもある女王は、いきなりつま先に口づけする大胆な行動や、母国を熱く語る物おじしない態度にすっかり魅せられてしまい、インドの文化・歴史を教える先生(ムンシ)として傍に置くようになる。
やがて王室を揺るがす大騒動へと発展することに・・・。

息子エドワード7世により歴史から抹殺された事実が2010年明らかになり、ほぼ実話をもとにしたストーリーとして映画化された。

女王の肖像画を見る限り大柄で豊満な感じだが、小柄なデンチが演じるとこんなだったと納得してしまう。
王宮の慣習を覆し多様な人生を歩んできたヴィクトリア。儀式にはほとんど興味がなく、侍従たちをひやひやさせるただの老女の姿をさらす。
ところがアブドゥルを観る瞳は少女のようでチャーミングな表情になる。孤独だった権力者にとって彼は異国から来た息子のようで、まだ観ぬ領国は興味の的だった。

 アブドゥルにとって英国は観るもの聴くもの新鮮な驚きの連続で、観光気分から女王の庇護の元居心地の良い環境だった。

 フリアーズ監督は前半は文化の違いをコミカルに中盤以降はシリアスに描くことで女王への敬意を忘れていない。女王の愛した離宮オズボーンズ・ハウスでのロケや衣装・勲章など細部へのこだわりも流石!

 皇太子バーディ(エディ・イザート)を敵役に、首相のソールズベリー(マイケル・ガンボン)を堅物で面白みがない男に、秘書のホンソンビー(ティム・ピゴット=スミス)をイエスマンにさせたのも、女王の引き立て役にする演出だった。

 お気に入りの刑務所書記官のインド人から教わった歴史には嘘もあり、爵位を授けたいという女王の行き過ぎた行為も描くことで彼らの差別主義者だけでない危機意識も伝わってくる。

 微笑ましい逸話を感動の物語にするだけでなく、大英帝国の栄華と植民地の現実が描かれた宮廷劇だった。


 

 

 



「女王陛下のお気に入り」(18・アイルランド/米/英)75点

2019-08-11 12:07:12 | 2016~(平成28~)


 ・ 三者三様の人間模様を描いたギリシャの鬼才Y・ランティモス監督によるブラック・コメディ。


 18世紀初頭イングランドのアン女王と彼女に仕える二人の女性のバトルをシニカルに描いた人間ドラマ。宮廷で繰り広げられる人間模様は、シニカルでブラックユーモア満載。監督はギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス、ベネチア審査員グランプリ受賞、オスカー作品賞など九部門にノミネートされ、アン女王に扮したオリビア・コールマンが主演女優賞を獲得している。

 スペイン継承争いでフランスと交戦中のイングランドで、女王アンの幼なじみでもある女官長レディ・サラは病気持ちで精神不安定な女王を意のままに操り絶大な権力を握っていた。そこへサラの従姉妹で没落貴族の娘アビゲイルが現れ、侍女として仕えることに。男たちが戦争を巡って政治的駆け引きが渦巻くなか、絢爛豪華な王室を舞台に女王の寵愛を奪い合う二人の女性の愛憎劇が繰り広げられる。

 まず注目されたのはアン女王のO・コールマン、サラのレイチェル・ワイズ、アビゲイルのエマ・ストーンによる演技合戦。
O・コールマンは役づくりのため体重を増やし、病身で気まぐれな権力者を表情や態度で表し、翻弄されているようでありながら二人の愛憎を楽しんでいるふうも。
R・ワイズは男装の麗人風の出で立ちが颯爽としていて、善人ではないが権力に執着しながら誇りと信念があり、誰よりもアン女王を愛しているレディ・サラを演じていた。
E・ストーンは、調理場の掃除係から何とか這い上がろうとあらゆる知恵を駆使し、狡猾にのし上がって行く娘・アビゲイルを体当たりで演じ、本作でますます役柄の幅を広げている。

 三人の立ち位置がコロコロと変わるうち、複雑怪奇でリアルな人間模様は共感し辛いものとなっていくが、三者三様の演技は甲乙つけ難い。

 ランティモス監督作品は初見だが、王道の宮廷絵巻とはほど遠い権威を滑稽に風刺しながら、現代にもつながる権力の不条理さを露骨な宮廷劇に仕上げた剛腕はなかなかなもの。

 場違いな音楽、時代考証を無視した演出、絢爛豪華な衣装・メイク・小道具など気になる点は多いが、何よりも自然光やろうそくの灯りで撮影された魚眼レンズ広角レンズ映像の力強さに魅了されてしまった。

「何がジェーンに起ったか?」(62・米)85点

2019-08-06 14:50:40 | 外国映画 1960~79


・ 二大女優の確執そのままに、姉妹の愛憎によるサイコ・サスペンス。


ヘンリー・ファレルの小説をルーカス・ヘラーが脚色、B級アクションの名匠ロバート・アルドリッチ監督が、女同士の情念をモノクロで描いて大ヒットしたサイコ・サスペンス。
プライベートでも確執があったジェーン役のベティ・デイビス、ブランチ役のジョーン・クロフォードの二大女優がバトルを繰り広げ、大いにゴシップ雀を喜ばせた。

ベビー・ジェーンという名で舞台の名子役だった妹のジェーン。長じて美しいスターとして銀幕で大活躍した姉のブランチ。
その絶頂期に車の事故で半身不随となってしまったブランチ。映画関係者のハナシでは、泥酔したジェーンが誤ってブランチを轢いてしまったというもっぱらの噂だった。
いまでは屋敷で同居しながらジェーンが嫌々ながら姉の世話をしていたが、酒に溺れ異常な行動を起こすようになりブランチへの嫌がらせが段々エスカレートしていく・・・。

134分の長さだが、テンポ良く進むストーリーは目が離せない。

天才子役だった意地の悪い妹・ジェーンが長じてスターとなった姉に嫉妬、車いす生活になったブランチをイジメる展開は尋常ではない。観ているうち、ブランチには通いの家政婦・エルヴァインの勧めのように妹を入院させ静かな生活を送ってほしいと思わずにはいられない展開に。

まだ50代半ばだったB・デイヴィスは白塗りの厚化粧で老け役に挑み、過去の栄光にすがる痛々しい姿の怪演ぶりは辺りを圧倒していた。
 B・デイビスより4つ年上のJ・クロフォードは元スターの面影は失わず、自分のコネで役をもらう哀れな妹の面倒をみていた優しい姉に扮し観るひとの同情を買う役柄。

好対照の二人が迎える愛憎劇の結末は、かつてジェーンが父親とリハーサルした浜辺で<意外な真相>が明らかにされる。

最後で、ベイビー・ジェーン人形が不気味な雰囲気のタイトルバックや、幼いころ我儘なジェーンがアイスクリームをねだり羨ましい姉は<死んでも忘れない>と言った冒頭の言葉が蘇る。

荒唐無稽な展開やハナシに若干の破綻がありながら、B・デイビスの圧巻な演技を支えたアーネスト・ホーラーの絶妙なカメラアングルが戦慄のサスペンスを成功させている。

オスカーにノミネートされたB・デイビスを阻止しようとJ・クロフォードが奔走し、授賞式でプレゼンターとして出席した彼女がアン・バンクロフトの名を読み上げB・デイビスに微笑んだというハナシは後世にも伝わる逸話となっている。

 晩年までどんな役にもなりきった女優B・デイビスと、いつまでもスターでいたかったJ・クロフォードは、再起を賭けた本作を境に右と左へ分かれていった。

 女優が主演することが極めて稀なこの時代、全てをなげうって映画に賭けた二代女優による共演作は、映画史を語る上で避けては通れない作品だ。

「さらば愛しきアウトロー」(18・米)70点

2019-08-01 12:03:47 | 2016~(平成28~)


 ・ レッドフォードらしいオシャレでノスタルジックな俳優の幕引き。


 ハリウッドの大スター、ロバート・レッドフォードが俳優引退記念として公開された実在の銀行強盗フォレスト・タッカーの晩年を描いたドラマ。
 タッカーを追う刑事ジョン・ハートにケイシー・アフレック、恋人ジュエルにシシー・スペイセクのオスカー俳優が共演。監督はサンダンス映画祭出身のデビット・ロウリー。

 伝説の銀行強盗タッカーは拳銃をスーツの内側からチラつかせるが、発砲もせず笑みを浮かべ紳士的な態度でバッグに札束を詰め込ませ堂々と帰って行くスタイル。
 行員たちは異口同音に「紳士的だった」「礼儀正しかった」「いい人に見えた」「楽しそうだった」とコメントするぐらい強盗らしくなく冷静沈着だった。

 10代から晩年まで90回以上銀行強盗を繰り返し、脱獄も16回あまり重ねてきたタッカーは「楽にいきるのではなく、楽しくなりたい」という独自の犯罪哲学を持った男。

 レッドフォードが御年82歳で俳優引退記念作品として選んだのはオシャレでノスタルジックな伝説の銀行強盗で、シワを隠さない年相応の役柄だった。

 売り出したのは「明日に向かって撃て!」(69)で約10年の下積み時代を経て32歳の頃。
70年代には「スティング」(73)、「華麗なるギャッツビー」(74)など、ハリウッドを代表する美貌のスターとして一世を風靡した。
 さらに「普通の人々」(81)「リバー・ランズ・スルー・イット」(92)で監督としても活躍するいっぽう、アンチ・ハリウッドでもあるインディーズ映画に尽力したという反骨精神の持ち主だ。

 冒頭のクレジット「これも真実の物語・・。」は、一瞬C・イーストウッドの「運び屋」を連想したが、「明日に向かって撃て!」の主人公のことのようだ。

 監督のD・ロウリーはレジェンドへの敬意を込めて往年の名作へのオマージュ満載で、まさにレッドフォードのための映画だった。スーパー16ミリフィルムでのセピア色は、まるで西部劇のようで80年代の時代感覚を再現している。

 筆者が観た映画館観客の平均年齢は75歳位で思ったより男性が多く、銀行強盗のハナシなのに終始穏やかな流れはジャジーなスコアとともに心地よい。そのためか隣の若者は途中軽い寝息を立てていた。

 ジュエルに扮したS・スペイセクとの晩年の淡い恋が華を添え、別れ際のキスシーンなどお互いいい年の取り方をしたなと思わせる。

 ハントを演じたC・アフレックは家庭を大切にする真面目な刑事だが、タッカーのような自由な生き方に憧れのような親近感を持つ男として登場。タッカーの相棒役の二人(ダニー・グローバー、トム・ウェイツ)ともども役柄が中途半端で、レッドフォードの引き立て役だった。

 原題「The Old Man & the Gun」を邦題に変更した配給会社も含め、レッドフォードの引退記念に相応しい映画。これからも監督・プロデューサーとして映画界を賑わして欲しい。