遊び人親子の日記

親子で綴る気まぐれ日記です。

シューマンの指

2010年12月12日 15時10分18秒 | 読書
               シューマンの指       奥泉光(著)2010年7月発行

   ピアニストの命である『指』をめぐるミステリ。
   なのでしょうが、私には、ミステリーというよりは、
   独特のシューマン論に基づいた幻想怪奇小説といった印象が強かったです。

   今年は1810年生れのショパンが、生誕200年でクローズアップされましたが、
   実は、シューマンも同じ年の生まれだそうで、
   著者はこのドイツ・ロマン派の作曲家シューマンを直接描くのではなく、
   シューマンをモチーフにしてこの作品を描いています。
   シューマンといえば、作曲演奏に才能を発揮しつつも、
   ベートーベンへのコンプレックス、指を痛めピアノが弾けなくなるなどの問題を
   抱え、ついに狂気に駆られ川で入水自殺をはかり(未遂)、
   その後は精神の病で入院生活を送り生涯を終えたという。
   
   この小説は、そんなシューマンの作品を心から理解し賛美し演奏する
   美貌の若き天才ピアニスト「長嶺修人」を取り巻く人々の人間関係をめぐり
   封印された長嶺の指の謎を繰り広げられるミステリー。
   「長嶺」の高校時代の友人で、音楽大学に合格後、間もなく退学し、
   医者になった「里橋」が物語の語り手となり、もう一人一緒に「ダヴィッド同盟」
   と称する会誌を作ろうと奔走する「鹿内」が加わり、天才「長嶺」を頂く
   「里橋」「鹿内」三人のなんとも不思議な関係が出来上がっていく。
   この辺りは、ほとんどが「長嶺」が論じ断じる執拗なまでのシューマン論で、
   クラシックに疎い自分としては、多少飽きてくるのは否めなかったが、
   その中にはハッとさせられる言葉もあった。
   ━
  「音楽はもうすでにある。それは人間が演奏するしないに関係なくもうここにある」
  「シューマンは、宇宙全体の音を聴いて、それを演奏している」だから
  「指が駄目になったとき、そんなに悲しまなかった」━
  
   ピアニストは「指」が命と言われるが、「指」が全てではない。
   といいたいのだろうか?
   一冊のなかに占める楽曲解説やシューマン狂とも思えるようなシューマン論の割合が
   多く、それに較べると、後半ミステリーとしての展開はアッという間な感じで、
   絡み合う人間関係の謎も、一気に明らかになっていく。
   終盤のどんでん返しの連続で、やっぱりミステリーだったのだ、と気付かされる。
   ミステリ小説に、クラシック好きには、楽しさ倍増だろうと思えるシューマン論、
   音楽論がたっぷり入っているお得な(?)一冊。
   
   個人的には、この小説は、『神器』とはかなり違った雰囲気の小説で、
   描いている作家自身が、自由で楽しそうな印象を受けました。


     わがまま母
   
   
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