そして私たちの物語は世界の一部となる
(インド北東部女性作家アンソロジー)
ウルワジ・ブタリア(編)2023年5月発行
なかなか触れる機会のないインド北東辺境地域の女性作家達による短編集を読んでみた。
以前、インド人作家の本は数冊読んだことはあるが、皆、比較的都市で生活している
男性の作家だったし、現代的な生活の中で描かれたものでも、何も自分の理解の範疇
を超えていて、正直なところ、どうも苦手・・・だった。
が、本書の舞台は、インドでも開発が遅れ、あまり知られる事のない南アジアと
東南アジアが交差し、タイ、ミャンマー、ベトナムなどの山岳民族と似た文化を持つ
山岳地と、ベンガル州と繋がりのある平野部のアッサム人が交流し独自の文化を育んできた地。
更に、先住民族やネパール人、ベンガルから多くのムスリム開拓民が移住し、多様な民族が
共存する地域に生きる女性達による貴重な本ということで、興味を持ち読み始めた。
しかし、現在も続く過度な男装女卑社会、貧困、不平等から逃れられない女性達の嘆きが
聞こえてくるようで、ああ、、、やはり予想通りだったか、、、という想いに。
近年、インドは中国を抜き人口世界一となり、経済成長も著しく、活気に溢れ、希望に満ち、
先進国に追いつけ追い越せの勢い、との報道が多いが、まだまだ知られない影の部分に
不安を覚え、未だ犠牲となっている女性達に1日も早く明るい未来がくること願うばかり。
いずれにしろ、本書は時間をかけ、様々な困難を乗り越え編纂させた貴重な一冊。
機会があれば手に取ってみては如何でしょうか。
わがまま母
— 内容紹介 —
バングラデシュ、ブータン、中国、ミャンマーに囲まれ、
さまざまな文化や慣習が隣り合うヒマラヤの辺境。
きわ立ってユニークなインド北東部から届いた、
むかし霊たちが存在した頃のように語られる現代の寓話。女性たちが、物語の力をとり戻し、
自分たちの物語を語りはじめる。本邦初のインド北東部女性作家アンソロジー。
一九四四年四月、日本軍がやってきた。軍靴で砂埃を立てながら、行進してきた。先頭の男は村人たちに呼びかけ、こう言った。「食料と寝起きする場所を提供してくれれば、あなたがたに害は及ばない。我々はあなたがたの友人だ。我々はあなたがたを解放するために来た。あなたがたを傷つけることはない」(「四月の桜」)
「これにはどんな富よりも値打ちのある宝物が入っている。死ぬ前におまえに渡したい。昔、語り部から手渡されたものを、おまえに手渡すよ」ウツラはその壺をわたしの頭の中に入れた。……何週間か経ってウツラは死んだ。……お話を語るときわたしは別の人間になった。生き生きした。それからずっと語り続けている。(「語り部」)
わたしたちは首狩り族の末裔だったが、いまはインド政府が提供してくれる資金に頼っていた。わたしたちは平地人とは違っていた。彼らは……反政府分子がいないか見張ってもいた。現代生活が、伝統的な慣習や行動とぎこちなく共存していた。(「いけない本」)
黒柳徹子さん推薦!
面白かった。私はインドには、ユニセフの親善大使として、一度、行ったことがある。非常に日本と似ている所、非常に違う所があると思った。インド北東部の女性作家たちの作品はデリケートに心の動きが書いてあり、生き生きと、また沈鬱に訴えかける。物語の結末は、思い切りがよく、また、まとまっていないようで、長いこと心の中にしまってあったものが、ひょいと出て来た、という風であった。