今頃ですが、月曜に放送されたWOWOWエキサイトマッチ、解説はジョーさんと西岡利晃でした。
番組冒頭、井上、ドネア戦のハイライトや、ポストファイトインタビューが流れました。
ハイライトは、時間として正味3分ちょっとくらいだったでしょうか。
この大一番が決まって以降、試合までの間には、ネットはもちろん、様々なメディアが予想や展望などを取り上げました。
元王者や評論家、現役選手その他、芸能人なども含め、多くがこの一戦について語っていたものです。
しかし、その中に西岡利晃のコメントを見ることはなかったように思います。
ひょっとしたらどこかにあったのかも知れませんが、私が知る限り、では。
ご存じの通り、西岡利晃のラストファイトは、ドネアへの挑戦試合でした。
バンタム級での挫折を経て、Sバンタムで世界の王座に到達するに留まらず、海外に雄飛し「早熟の天才にして、大器晩成」というべき成功を手にし、海外で残した戦績、そのインパクトから、後継の世代にあたる長谷川穂積、山中慎介以上に、国際的に評価された西岡が、ボクサー人生の集大成として臨み、そして打ち砕かれた、あの一戦。
当時、フライ級からSバンタムまでの軽量級ゾーンで、各階級において最強の王者を悉く打ち破っていたノニト・ドネアに挑み、敗れたことは、西岡利晃の心中において、誇りでもあるが、当然のこと、痛みでもあったはずです。
今回、井上尚弥と対するノニト・ドネアについて、西岡利晃の心中はどういうものだったのでしょう。
そこには、単に「健闘を祈る」というに留まらない、語り尽くせぬ思いがあったのかもしれません。
具体的に言えば「自分と闘ったドネアと、今のドネアは違う」という思いだったのではないか、と下世話に推測することも出来ます。
仮にそうだとして、それをそのまま口にすれば、何が起こるかということも、これまた容易です。
そして、それが対する井上尚弥への敬意を欠くことにもなる、と見做されるかもしれない。それとこれとは別の話、であっても。
実際のところがどうだったのかなど、知る由もありません。
ただ、一向に目に付かない西岡利晃の言葉、届かない声のことを、試合前に何度か思った次第です。
そしてこの月曜日、ほんの短い時間ですが、西岡はほとんど、ドネアのことだけを語っていました。
「ドネアは36歳で、バンタム級に落として、コンディションしっかり作ってくるのは、厳しかったと思うんですけど、まあ、良いコンディションでしたね。」
「(2回の映像を見て)良い左フックですね。」
「(5回の映像を見て)普通の選手だったらね、もう倒れてると思うんですね。ドネアだからこそ判定まで...こういう、良い試合が出来たと思いますし...。」
「(9回の映像を見て)ドネア、右も左も一発ありますからね。」
「(10回の映像を見て)この辺、よく頑張ってますよね。ドネアだからこそ、こういう激しい試合、面白い試合が出来た、っていうのが言えますね。」
「(試合終了後)本当にドネアが良く頑張って、こういう良い試合を、ドネアが作ってくれましたね。」
試合が終わって時を経て(初めて?)この試合について語った彼の声は、言葉は、軽量級最強を謳われたノニト・ドネアと闘ったことの誇りと、痛みと、それ故に抱く「戦友」への思いが、じわりと伝わってくるものでした。
その声色は、労いの穏やかさを湛え、同時に、自身の誇りをも託す対象としての、ドネアへの称賛に満ちたものでもありました。
もちろん、若き王者、井上尚弥への称賛、敬意も心中に秘めているはずですし、そもそも番組の構成者が、ドネアについて語る役割を、西岡に割り振っただけなのかもしれません。
しかし、闘い終えて時を経て、短い時間であっても、彼の声を、言葉を聞けて、見る側のこちらとしては、やっとこの試合が「完結」したかな、というか、一段落ついた、という気持ちです。
この辺は、やはりWOWOWエキサイトマッチならでは、というところでもありますね。感謝。
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西岡利晃について、一番最近書かれた記事についても、ご紹介。
Number webに掲載された、二宮寿朗氏による「井上尚弥にバトンを渡した人がいる。西岡利晃の「不滅のジョニゴン戦」」です。
先頃発売されたNumber誌において、事前に取材をした上で、こういう記事が載るのだろうな、と想像していた、ほぼそのままの内容です。
記事の半分以上が再録だから、Web上のみの掲載になったのでしょうが、長きに渡り西岡利晃の拳歴を見つめてきたファンにとっては、じわりと「来る」内容です。
すべては「つながっている」のです。そのはずです。
そう信じて、長きに渡ってボクシングを見てきましたし、これからも同じことを続けるのでしょう。
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ということで、一曲。
amazarashi「未来になれなかったあの夜に」。
今と違ってフィジカル面で劣り、コンディショニングも安定しない、という意味で、当時の顔ぶれは、今の目で見ると不安も多いですね。川島と勇利はその点でも抜きん出てはいたと思いますが。
世界最強の選手と闘う、という事例は、一時は本当に激減、皆無という時期もありましたが、最近は徐々に変わってきていて、その集大成が先のさいたまでしたね。西岡が短い時間であっても語り、それを聞けたことは、感慨深いものがありました。
当時、今もですが、当方チキンなボクオタだったので、勇利は誰とやっても倒すか倒されるかスッキリした結果になりそうで実現したら良いなと思っていましたが、他の3人は力を出しきれずにやられる可能性が高そうに感じていたので、実現しない事を残念に思いつつどこかホッとしていましたね笑
長谷川ーモンティエル(ードネア)、西岡ードネアという先人の闘いの系譜と、世界の超一流の壁の高さに打ちのめされた歴史があってこその、今回のDrama in Saitamaの感動でもありましたよね。その当事者の西岡のポツリポツリと挟むようなコメント、心に沁みますね。
そのお方については「ああ、いたなあ、そんなのも」という感じですかね(笑)。木村悠が話聞きに行った記事がYahooに出ているみたいですが、意味わからんですね。しょうもない試合連発した者同士、気が合うんでしょうか。と、コメント欄で牙を剥く(笑)。
長谷川、西岡は確かに、世界の強敵と闘うことで、今の井上尚弥に繋がる道を行った先達ですね。辰吉がカニサレスと、川島がタピアと、勇利がチキータ、カルバハル、ジョンソンと、平仲がチャベスと闘うことなくキャリアを終え、誰もそれを惜しみもしなかった頃からすれば、時代は大きく動いていますね。
西岡はやっとこの試合について語れる、という安堵もあったのでしょうね。普段以上に声色が穏やかに響きました。
>元おっさんボクサーさん
傷つく権利、ですか。なるほど...語り尽くせぬ、というところですね。
そういえばウィラポンを巡っても、同じような構図でしたね。あのとき西岡はブログかHPかで長谷川の勝利を祝したあと「長谷川!俺の立場はどうなんねん!」と自虐的に笑いを誘うコメントをしていましたが...。
巡り合わせの悪戯という意味では、西岡は結果的に、色々複雑な思いをすることが多かったわけですね。
>NBさん
試合が終われば整理もついて、何かを言う機会があるだろう、二日後のWOWOW録画放送で解説してくれるかな、と思ったのですが、それは時期尚早だったのでしょうね。
確かに引退後、いろいろ立場もあり、言葉を選ばず語るというのは難しかったでしょうね。しかし仮に彼が思うところを率直に述べ、それが我々ファンにとり、聞き心地の良いものでなかったとしても、真に世界の頂点を争ったようなボクサーが心中に抱く自我のひとつとして、受け容れるべきものでしょうね。今はもう、ボクシングに限らず、当たりも障りもしないような言葉ばかりで、つまらんなあ、と思うことが多いです。中身を伴わない戯言は論外ですが、もうちょっと「言いたいこと言い」の存在が許容されてほしいなあ、と。
ジムで生中継観戦ですか。ジム会員の皆様にとっては贅沢なひとときですね。
>もみあげ魔神さん
それまでは西岡が同じ思いを多くの対戦相手に与えてきたわけですし、それがキャリアの最後、自身に返ってきた、ということですね。
人生、という言葉を押し立ててボクシングを見ることには、抵抗感もありはしますが、結局はそこに帰ってくるのかな、とも思います。その矛盾も含めて、ボクシングはボクシングとしてしか見ようのない、唯一無二のものなのですが。
ボクシングは、スポーツであり格闘技であるとともに、その「人生」が見えるものだとも思います。
しかし、まぁ現在の立場上、解説者もやってますし、公に言葉にするのは、難しい所だったでしょうが。
ブログで試合の生中継をジムで、皆さんで見てらっしゃったみたいですね。とっても羨ましかったです(笑)。身近ではいろいろとこの試合への想いは話してただろなー。
西岡利晃の一番の真骨頂、『執念』だと勝手に思ってますが、ドネアにもそれを感じさせられた今回の試合でした。
それが今、井上尚弥に伝わっていると思っています。
やっとこの試合が「完結」 素晴らしいお言葉ですね。
ある意味 ドネア氏の敗戦で、もっとも傷つく権利があったのが日本国内においては、西岡氏だったのかもしれませんね。
西岡氏とは二度、食事をさせていただきましたが 本当、ザ職人 でした。
ウィラポンに勝った長谷川
ドネアに勝った井上
当たるタイミングは
神様のおイタなんでしょうか…
もしアリとタイソンが
なんて 何の意味もない想像。
強い奴が勝つのではなく
勝った方が強い
ボクシングは単純明解なはずなのに
その刹那
常に深く考えさせられてしまいます…。