さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
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拳闘見聞の日々。

選手には、辞める以外の自由がない 井岡一翔の王座返上、ジムが発表

2017-11-10 08:52:04 | 井岡一翔




井岡一翔、WBAフライ級王座返上。本人不在の会見で、ジム会長が発表しました。
恒例となっている年末、大晦日TBS放送試合への出場もなくなる、とのことです。

以前から、あれこれ噂になったり、一部報道が出ていましたが、
4月の試合以降、東京に居を移し、井岡ジムで練習していない、と言われていました。
理由については触れていませんが、今回の会見で、それが事実であると明らかになりました。


会長のコメントからは、やる気が、モチベーションが、という「精神論」が語られていますが、
具体的なことは、いろいろ不都合もおありのようで、何も語られていません。
また、取材する側も、それ以上突っ込んだ質問をしていません。

これを、ジャーナリズムの力不足と批判するのはたやすいですが、
取材する側に、これはまともな社会常識の範疇にはない世界での取材活動である、という認識、
それが諦念であれ、蔑視であれ、そういうものが前提にあると考えれば、仕方の無い部分もありましょう。

もっとも、相手の言いなりに、結婚したから...みたいな印象を記事にしているところは、
あまりに低俗で、卑怯で、もはや論外としか言えませんが。



それはさておき。
噂に聞いたり、勝手に想像したりするだけですが、結局のところ、選手がジムに対し、
待遇その他諸々の不満を持ち、それが限界を超えた、ということなのでしょう。

そして、日本のボクシング界には、マネジメントとプロモートの権益を、事実上独占することが許された
「会長」と称される異形の怪物が数多存在し、数少ない例外を除けば、選手の意志や権利は無視されます。

井岡一翔を取り巻く状況がいかなるものか、本人のコメントもなく、つぶさに知れようはずもないですが、
実の親子だけに、逃れられない柵みがあり、身一つで新たな活動拠点を見つけられなかったのでしょう。
仮に移籍しての現役続行を、本人が望んでいたとしても、その実現はおろか、その意志があることを
公に発信することすらままなかったのではないか、とも。


そして、これまた想像ですが、おそらくはライトフライ級、フライ級において、
先日、村田諒太がゴロフキンの存在を念頭に語った「自分より強い王者」の存在を無視し、
ジムの興行、経済的事情を最優先した活動、キャリア構築に対して、
井岡一翔本人が、反旗を翻したという側面も、あるのかもしれません。

厳しいことを言えば、ライトフライ級においてローマン・ゴンサレスに、
フライ級においてファン・エストラーダに挑んでいれば、部分的に健闘し、
好試合を繰り広げることはあっても、最終的には敗れていた可能性の方が高い、とは思います。

そしてそれは、所属する井岡ジムが、TBSに「世界戦」を定期的に、安定供給する
「窓口ジム」の立場を、大きく揺るがす事態に、十中八九、直結したことでしょう。


こうした事情に縛られ、真の世界最強、ないしは団体内でも最強の座を争うことのない
井岡一翔の、王者としての価値については、私なぞがあれこれつべこべ言うよりも
もっときつい痛罵の声があり、それは本人の目に触れ、耳にも入ったはずです。

彼がついに、ジム側と離反したという話を聞いて、やはり彼の誇りは
このようなジムの舵取りでは満たされなかったのかもしれない、と思いました。
もしそうならば、彼がその誇りを満たす闘いの場を得られるように、なんとか移籍なり何なりの形で、
現役続行の道が開かれるように、と願ってもいました。


現状、というか、ジム側の会見のみの段階では、井岡一翔の今後は、
井岡ジム復帰か、引退か、という二択のみ、なのでしょう。

仮にジム復帰、現役続行となった場合、それは従来路線の再開を意味するのでしょう。
会見の記事を読む限り、自分の立場を、面子を最優先して、選手の側の精神面に
全ての原因があるかのような発言をしている会長には、何かを変える意志は見えません。
その結果、大晦日の興行における主導権を失うことになっているのですが、
それでも、何一つ譲歩しようという気がない。もはや本末転倒の域だと思います。

もしかしたら、選手生命を賭してでも、その部分に変化を求めたのかもしれない、
井岡一翔の今回の行動も、結局は何の意味も持たなかったのかもしれません。



そうなると、引退の二文字も現実味を帯びてきます。
井岡一翔というボクサーへの評価や好悪はさまざまにあれど、
こんな形で失われるには惜しい人材である。それは誰の意見も一致するところでしょう。

しかし、どのような不満があろうとも、移籍の道が閉ざされ、業界有力者の後ろ盾もなければ、
結局、選手には、辞める以外に、何の自由もない。
それが日本のボクシング界です。

そして、井岡のような有名な選手に限らず、そのようにして、失意とともに
この世界を去るボクサーは、ごまんといたし、今もいます。
その現実は、長年ボクシングを見続けていても、何も変わらないのだなぁ、と、
改めて見せつけられたような気がします。


日本のボクシング業界の構造的欠陥は、いよいよ限界に来ているなと感じることが多いですが、
これまた、あまり良い気持ちのしないお話ですね。





コメント (12)
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