さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

己を信じて「勝負」をした結果 山本隆寛、強敵ヤップの強打に沈む

2016-11-12 12:59:23 | 関西ボクシング



ということで昨夜は神戸にて観戦してきました。
OPBFタイトル4試合同時開催、とメディアにも割と大きく取り上げられた興行、
まずはそれぞれ、簡単な感想から。


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この日、事実上のメインイベントは、試合順で言えば4つのOPBFタイトル戦のうち、ふたつめでした。
バンタム級王者の山本隆寛が、強敵マーク・ジョン・ヤップを迎え撃つ一戦。
関西を中心に、上位選手を悉く破ってきたMJヤップ、昨年末には大森将平挑戦が立ち消えになる
不運に見舞われましたが、やっと掴んだタイトルマッチのチャンス。
調子も意気込みも十分の強敵ですが、山本は敢然と挑戦を受けました。

初回、両者気合い充分、距離を外さず、踏み込みひとつで当たる位置取りから、
シャープなパンチを繰り出す。山本ちょっと前にのめったところにヤップの右。
しかし山本怯まず出る。左右ボディを狙っていく。


山本はあまり動かず、出入りするというよりは攻め込む型。
最近の好調ぶりは、そのうち関西リングの枠を越えても通用するのではないかと
思わせるほどのもので、この強敵相手との闘いでも、意欲満々、という風。
しかし、この闘い方だと、ハンドスピードは生きても、足や身体捌きの速さは出ないなぁ、
それを承知で「勝負」しているのだろうけど...と期待半分、心配半分でした。


2回、山本出て、ヤップが迎え撃つ。山本は自分から出てなお、左を下げるときがある。
ジャブが出ているうちはいいが、止まるとヤップの右が来る。右アッパーものぞかせるヤップ。
山本はぎりぎりで外しては打って出る。ヤップ左フック好打。

3回、リスキーながら意欲的な闘いぶりの山本。打ち合いの中、左ボディが好打。
ヤップ目に見えて後退の足とジャブ、という型に変わる。ここは山本、少し追撃が甘かったか。
4回もヤップはジャブと足中心。両者右のヒット応酬。ヤップのカウンター、山本ボディ。

5回、ヤップの右がクリーンヒット。山本効いてふらつく。追撃でダウン。ダメージ甚大。
立った山本、ふらつきながら反撃、凄い闘志。しかしヤップも必死の形相で詰め、右で棒立ちにさせ、さらに追撃。
二度目のダウン、もう止めるべきだったが、続行。左でぐらついてやっとストップ、TKOとなりました。


それぞれに「評」する言葉はさまざまにあるのでしょうが、まず何よりも、両者は持てる力を惜しまず出し切り、
純度の高い「勝負」を見せてくれました。そのことを何より先に書き記し、両者に拍手を送りたいと思います。
これぞプロのボクシング、暇割いて身銭切って見に来るに値する試合というものだと。


試合後、キャンバスにうずくまって号泣のヤップ、壮絶に散った山本、そのコントラストは強烈なものでした。
試合運び自体は、もう少し動いて出入りして、という発想であるべきだったかな、と見えた山本隆寛ですが、
自分の評価をさらに高めようという意欲の元、強敵相手に勝負した姿は、堂々たるものでした。

そして異国で闘い続け、ついにタイトルマッチで勝利したMJヤップの歓喜と涙も、感動的でした。
好調の山本に攻め立てられながらも、正確で強烈なカウンターを繰り出し、見事に打ち勝った。
素晴らしいチャンピオンの誕生でした。今後の防衛戦も大いに楽しみです。
日本の上位陣は、是非、逃げたり避けたりせず、どしどし挑戦していってほしいですね。
この選手に勝てば、ファンの間でぐっと評価が上がりますよ。いや本当に。


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ライト級は中谷正義が、一階級下ながら元王者のアラン・タナダを7回TKOで下しました。

長身の中谷が、短躯のタナダを遠い距離からジャブで突き放し、右を狙う展開。
中谷はちょっとだけ入られてるかな、と思った序盤を経て3回、右ストレート、左フックなどを再三好打。
上下左右、全種類のパンチをヒットさせてペースアップ。
4回また右。5回右がまたインサイドに入り、タナダ後退。6回は赤青コーナーで一度ずつ詰め、打ちまくる。
7回、驚異的な闘志のタナダだが、中谷の右ストレートが右の顔面(普通は左側ですが)を捉えると、後退。
中谷連打で攻めたところでストップでした。タナダはあれだけ打たれてまだやる気で、不満そうでしたが...。

心身共に驚異的なタフネスを持つ挑戦者相手でしたが、中谷は出すべき手をほぼ全て出して、
しっかり打ち込み、仕留めました。
若干「突き放し」の部分は、完璧とはいかなかったかもしれませんが、相手の頑張りも凄かったです。

中谷は国内や東洋のライト級では、まず盤石の実力を示し続けています。
そろそろ、今より一段上の試合、いきなり世界とかじゃなくて、それに繋がるレベルの相手との試合に
臨むべき時期に来ていると思いますが...そういう話が、彼の周辺にあるのかどうか。そこが心配です。


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最初に行われたミニマム級の王座決定戦は、真正ジムの山中竜也が、元WBO王者メルリト・サビージョに判定勝ち。
元WBO王者に勝って東洋獲得、という試合でしたが、サビージョは元王者の肩書きが泣くような覇気のなさ。
動きも最軽量級とは思えぬほどスローな印象で、切れが無い。
山中はサウスポーに対し、正面の位置から遠回りのはずの右リードで入るのですが、これをサビージョが外せない。
正直、見ていて「何やろ、コレ」と思う序盤戦でした。

中盤から少しジャブが出始めた山中、左から入ると良い流れが増え、打っては動いて、リードを広げる。
しかし、好打は軽打で、しかも大半が単発。いいの当てても、追撃なし。
セコンドも打ち込ませるつもりはさらさらないようで「狙うな」「無理するな」という指示ばかり。
というか、それこそワンツーすらなく、本当に一発のみ、という感じの回もあり。
8回後の途中採点を聞いたサビージョが少し奮起するも、最後はまた山中の単発ヒットが目につく。

正直、場内の寒々とした雰囲気にマッチした、物足りないところだらけの凡戦でした。
間違っても、タイトルマッチとして、及第点とは到底言えないでしょう。
選手や陣営、後援会にとっては大勝負だったのでしょうが、第三者というか部外者にとっては...という。

試合後、この勝者が、高山勝成負傷により設けられたWBO暫定王座決定戦に出る運びだ、と知りました。
なるほど、話としては何も変なことではない。そういう風に整えられている試合だったのでしょう。
しかし、しかし...ですね。何とも言い難い気持ちです。


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順番としては一番最後だった久保隼は、韓国の林ジヌクに4回TKO勝ち。
王座獲得の見事なKO、初防衛戦の凡戦と来て、今回はまた、ワンサイドのKOでした。

しかし、KOになるか判定になるかは知らず、試合が始まると、勝ち負けだけはすぐに予測がつきました。
林は久保と同じくらいの長身で、リーチも長いボクサータイプ。
見るからにパンチ力に欠け、何よりも久保の懐を取りに来る意志がない。
苦手なインファイトをせずに済み、長い距離で闘えて、自分よりスピードが劣り、パワーも無い相手。
久保にとり、世に言う「手が合う」相手なのだ、ということが一目見て明らかでした。

久保は要所で長い左ストレートを決め、左アッパーとの組み合わせも出る。
林が来ると、下がりながら左を当てる。長い距離での当て勘は非常に良い。
4回、左で倒し、追撃でストップ。完勝でした。

しかし、こういう相手なら、こうなるだろう、という以外、あまり思うところの無い試合ではありました。
まあ、肩書きや世界ランクを抜きにして見れば、まだ、こういう段階の選手なのだ、と見るべきなのでしょう。
良いところを生かしつつ、徐々に成長していくことを期待、ですね。


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普段は真正ジムの主催興行が行われる、神戸中央体育館において、4つのタイトルマッチのうち、
井岡ジム勢のふたりは、結果だけなら明暗を分けた、となるのでしょうが、それぞれに内容のある試合を見せてくれました。

しかし、それと比べて真正ジムから出た二人の試合は、内容的に薄く、相手も物足りないものでした。
会場で直に見ていると、その差は観客の反応の違いに、如実に出ていました。

この日の会場の入りは、4大タイトルマッチということで、選手の後援や応援の人たちが、
普段よりは大勢やってきて、普通の興行のときよりも盛況なのではないか、という事前の想像とは違いました。
まあ、普段の入りよりは、あれでも多少は良いのかな、というところでしょうか。

そこへ持ってきて、まさか対フィリピン選手対策でもないでしょうが、場内は暖房が入っておらず、
二階席で見ていると、冷えたコンクリートの寒々しさが身に応え、鞄の底に眠っていた使い捨てカイロを取り出しました。
ラグビー観戦かい!という感じです。

最初の山中の試合を見終えたころは、そういう感じで非常に辛いものがありました。
それを忘れさせてくれたのが、山本隆寛とヤップの一戦でした。中谷の試合でも、それは継続していました。
しかし、最後の久保の試合になると、また場内クールダウン、という風でした。

そういうわけで、主催者の方には、次回は是非、暖房入れてくださいませ、とだけお願いしたいところです。


ところで来週、関西ローカルで一時間枠の放送があるとのころです。
こういう実際の雰囲気と試合内容から来る印象が、どのように巧みに編集されているものか、ちょっと興味があったりもしますね。
あと、割とぶっちゃけ気味?なところも含めて好評な、長谷川穂積の解説も楽しみです(^^)


コメント (4)
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