昨夜は神戸にて観戦してきました。
「あまりのこと」に喜びすぎて、動揺すらした、というのが正直なところです。
試合展開について、G+の放送をご覧になった方の印象とは違う部分もあるかもしれませんが、
会場で見た印象を。
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初回早々から、オラシオ・ガルシアの右強打を長谷川が丁寧にダックして外し、右サイドに出る動きが冴える。
その位置から左のダブルフック、左ストレートを上下に連打。望外、というべき好スタート。
2回以降、時にガルシアの右クロスや左フックも単発で出るが、総じて長谷川が外し、サイドに出て、
打たれない位置から左、右と当てていく流れ。
3回、ガルシアのクリーンヒットがほぼ皆無のまま終わる。実に丁寧な長谷川の防御。
4回、ロープ際に追われるも長谷川が足を止めず、ダック、右回り。時にクリンチ。
5回、前の回に足を踏んだ咎で減点されたガルシアが構わずまた足を踏む。
長谷川左へ逃れ左フック。右回り中心、たまに左側へ身体をさらす、その配分が絶妙。
右リードもいつになく出る。
6回、ガルシアが前進、ロープ際。長谷川左当てて脱出、ここから左上下、逆にプレスかける。
ガルシア空振りにも怖さがあるが、左ダブル、上下ヒット。
7回、少し長谷川休み加減?しかし左当てポイントは抑えたか。
8回、このあたりから、負傷した右足首がつっかえるように見える。
ガルシアそれに乗じ?攻める。長谷川ロープ際で打ち合い、クリンチ。場内からクリンチに拍手が。
9回、長谷川への心配と応援で場内に一体感が生まれる。
長谷川右ヒットされるが、コンビネーション出して反撃。クリンチも使う。
最終回、あと3分!という気持ちが場内を埋め尽くす。長谷川左当て、ロープ際では動き止め加減で外す。
左右のコンビ、クリンチ、試合終了に場内大歓声。
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2012年12月のアルツロ・サントス戦に比べるとやや劣るものの、
この会場における興行としては例外的な盛況の神戸市立中央体育館の観衆は、
スピーディで鮮やかなダックの数々、丁寧な右回りで若き強打者ガルシアを空転させる長谷川の
かつて見た才気溢れる姿が再現されたことに、歓喜していました。
そしてそれが打ち崩されぬように、無にならぬように、と願いながら、試合を見ていました。
試合前に報じられた右足首の負傷は、靱帯の断裂であったという驚愕の情報が試合後に知らされましたが、
8回あたりからは、はっきりとその影響が見えたにも関わらず、長谷川はガルシアの追撃を許さず、
動き、外し、突き放して試合を終わらせました。
それにしても、これほど長谷川が、長谷川らしさを見せた試合は、いつ以来のことかと思います。
オーソドックスの右をダック、スリップでほとんど無力化し、右回りから切り返して左のダブル、
そして時に正面から左ストレート。なお相手が来れば、左で釣って右フックを振り下ろし、
直後に左ストレートとアッパーを連続して打つ、変則のコンビネーション。
それに今回は攻防の隙間を、今まであまり冴えたことのない右のリードジャブで「埋める」場面も。
かつて若手時代から、OPBF王者時代にかけて、私たちを魅了し、壮大な可能性を感じさせてくれた、
若き長谷川穂積の姿が、より円熟味を増した形で再現されたような気がしました。
そして何より、受けに回ってロープを背負った場面でも足を止めず、さりげなく右回りをして脱出し、
必要ならば嫌いなはず?のクリンチもして、相手の攻撃の勢いを削いでいました。
こうした部分は、ここ数年重ねられた痛烈な敗北や苦闘の際に、どうしても納得がいかなかった部分でした。
ことに昨年のキコ・マルチネス戦における、無理、無謀の感があるインファイトへの対応の悪さと、
それがもたらした決定的な破局は、もはや彼がボクサーとして、純粋に勝利を希求する精神性を阻害されている、
或いは、その何事かに、その心身を囚われてしまっている、と思わされるものでした。
ところが今回、彼はまるで、何事もなかったように、今の彼自身そのものを我々の前に提示しました。
かつて見せた、理に適った、そして同時に、理だけでは語りきれない才気に支えられた、鮮やかな攻防の冴えと、
若き強打者の力を封殺した、無理と無駄を排した試合運び。
これだけの戦績を経て、傷を負い、疲弊した末に、折れるように倒れたあの試合の一年後、
彼はそれでもなお、単にかつての自分を取り戻すに留まらず、新たに身につけた賢明さをもって、
足の負傷をものともせずに勝利したのです。
その試合展開は、試合前に抱いた様々な悲観を、徐々に打ち消し、見る者の心を晴れやかにするものでした。
長谷川穂積は、死の灰の中から、まるで不死鳥のように甦り、すでに失われたと思われていた輝きを、
私たちの目の前に再び、見せてくれた。
それはこの期に及んで見られるものではないと思い、諦めていた「成長」でした。
かつて、若き長谷川穂積を通じて見たものとはまた別の、壮大で輝かしい「夢」でした。
彼の今後がどうあろうと、それに触れられた喜びに、まさるものはありません。
このように彼が闘ってくれたこと、それをこの目で見られたことの喜びに、まさるものなど!
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怒濤のごとく続いた観戦も、これで一休みとなります。
まさか、こんなに幸福な気持ちで締め括れるとは、以前プレビューめいた記事を書いたときには
想像すらしていませんでした。
あの時書いたことが、全て、意味のない戯言と化したこともまた、とても大きな喜びです。
長谷川穂積に脱帽します。そして、感謝です。良い試合をありがとう!