この年末世界戦ラッシュの中で、相手との技量力量の比較以前に不安だったのが、この試合でした。
あのロマゴン戦から4ヶ月弱での再起戦。しかも一階級下の試合で、それが世界戦。
たっぷり調整期間があったとしても不安な話です。
そこへ持って来て、加えて相手が極めて堅調な技巧の持ち主。
八重樫が絶好調、ベストであっても五分以上の予想は立たなさそうな相手と見ていました。
実際、試合が始まってすぐに、Youtubeで見た以上に、ペドロ・ゲバラの質の高さを感じました。
高く上げたガード、しかし肩に余計な力を入れず、脇や背中から絞った構えで、
構えた位置からまっすぐに左右のストレートパンチが飛び、最短距離で相手の軸を狙ってくる。
足捌きも良し、距離の取り方が丁寧でミスがない。
一打必倒の強打こそ持ちませんが、それがあったらリカルド・ロペスにも比較しうる、
そういう構えの良さ、確かさを叩き込まれた、一級品の「佳作」と言える選手でした。
八重樫はというと、一向に調子が出ず、連打は足で外され、攻め込んでも単発。
ハンドスピードも上がってこず、遠い距離から打たれ、正確さで劣る、苦しい展開。
バッティングでゲバラが切ったり、時にボディ攻撃が出たりという場面もありましたが、
好調であればともかく、散発的に出る攻撃だけでは到底及ばないだろう、と思わざるを得ない試合でした。
6回、右クロスを連発してはっきり優位に立ったゲバラが、7回も攻勢。
そのさなか、左ボディが綺麗に入り、八重樫がダウン。おそらく見えない角度から、
身体を締めるタイミングを外されて打たれたのでしょう、意外なほど効いていて、立てず。
八重樫はその力を発揮出来ず不調のまま、痛恨の連敗を喫しました。
ゲバラがいかに好選手であったとはいえ、この内容と結果は、想像以上に厳しいものでした。
やはり調整期間や階級の選択、そしておそらくは年末の放送枠を埋めたいTV局の意向と
井上が返上した王座にまつわる権益などが優先されたマッチメイクであり、
八重樫東というボクサーの現状、内実を後回しにして組まれた試合には無理があった。
その現実から陣営や報道陣が目を反らし続けたとしても、現実に結果が出ている以上、
そういう方向に対する批判は免れ得ないと思います。
9月の試合で敗れてもなお、その声名を高めた八重樫東でしたが、
その年の末には、痛恨の黒星を喫することになりました。
このレベルの相手と闘うには、やはり色んな意味で条件が整っていなかった。
勝ち負けは仕方ないにしても、そういう思いが残るような試合でした。実に残念です。
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この日のアンダーカードについてですが、ホルヘ・リナレスは見事なKO勝ち、
WBC2位ハビエル・プリエトを沈めました。
日本のジム所属選手としては初めての三階級制覇となるわけですが、全部決定戦というのは、
今更言うのはアンフェアでしょうが、残念ではありますね。
しかし、倒した三連打、ことに一番効いた右の威力、キレはさすがでした。
ここ数戦の無冠戦の圧勝続きとは少々違って、プリエトがしっかり狙って強振してくるので、
やや後退のステップが勝つ印象の試合運びでしたが、好機にきっちり決めました。
今後の防衛戦にてどういう展開があるのか、注目したいところです。日本勢との絡みはあるんでしょうかね。
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村田諒太はジェシー・ニックロウに判定勝ち。
場内に耳障りな大音量のライブ演奏が鳴り響いたあと登場、TVはここから生中継だったわけですが、
会場で見ていてまず思ったのは、この試合がTV放送の皮切りでは、全体の視聴率に響きやせんか、ということでした。
来年は世界ランカーと対戦して、遠からずその上に、みたいな「喧伝」はまあどうでもいいとして、
そんな話以前に、年末大イベント続きの中、ゴールデンタイムの生放送という、世界戦に準ずる扱いの試合を
闘う段階に、今の村田諒太はいるのだろうか、という疑問があります。
丁寧にボディにパンチを散らしていた序盤はまだしも、さして強さも鋭さもなく、
当然世界ランカーという言葉からも遙か遠い印象のニックロウを攻めあぐみ、迫力に欠ける展開のまま
あっさり判定に持ち込まれてしまう。これが将来、世界に飛躍する村田にとり、貴重な経験であるとしても、
その段階の試合に対する扱い、取り上げ方のギャップは、如何ともし難いほど広がってしまっている。
その現実が重く残ったように思います。そして、あの内容が「将来」「次」に繋がる何かであり得るのだろうか、という疑問も。
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長身イケメン無敗、ボクシングマガジン最新号、加茂佳子氏の記事によればなかなかの天然さんでもあるという
松本亮は、小柄なタイ人、ルサリー・アモールを最終回に倒し、WBO1位アーサー・ビラヌエバ返上のOPBF王座獲得。
しかしそれまでの展開は非常に単調で、小柄なタイ人をジャブで突き放し、右打ち下ろし、左右のボディを返し、と
ワンサイドに打ちまくり...というか当てまくっているのですが、緩急がなくキレもなく、相手の粘りを引き出し、
抵抗を許す、見ていて歯がゆい試合ぶりで、到底褒められた内容ではありませんでした。
見たところ、減量に苦しみでもしたか、動きが鈍く、切れ味が感じられませんでした。苦戦の原因はこの辺でしょうか。
一時、バンタム級転向かという話も聞いたような記憶があるんですが、どうなったんでしょうかね。
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井上尚弥の弟、拓真は、オマール・ナルバエスの弟、ネストールに判定勝ち。
桁外れに強いお兄さんと比べられるとしたら不幸ですが、この弟、普通に見てなかなか強いです。
間を詰めて出て、相手のリターンをカウンターで狙い、反撃してきたら足で外し、
ボディから上、また下、と目先を変えつつ攻め込む。
なかなかペースを上げられないネストールに再三好打を決め、7回は左ボディから右ストレート、
右ボディから左フック上、と対角線のコンビを見せるなど、ほぼフルマークでの勝利でした。
試合前の時点で、知らない間にWBAのライトフライ級5位になっていたそうですが、
さすがにそこまで言わんでも、国内上位に位置づけされて不思議の無い実力をすでに持っています。
こちらは最短だ何だと言わずとも、じっくり試合数を重ねていってほしいですね。
階級はフライくらいが妥当かもしれません、あのパワーを減量で削ってほしくはないですね。
例えばペドロ・ゲバラと組もうとかいうことは、あまり考えないでほしいです。それはさすがに無理でしょうが。