さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

「素敵な続編」に感謝

2012-10-14 17:33:45 | 西岡利晃

結果も内容も、非常に残念な試合だったと感じました。

西岡利晃の偉大さが、この一試合で変わることはないと思う反面、
この国際的に大きな注目を集めた一戦が、こういう試合になったことは、
何よりもまず、残念に思えます。まずはその気持ちから書きます。


立ち上がりからの、右ガードをこれまで以上に高く上げる代わりに、
右のリードをほぼ放棄したかのような闘い方は、あまりにも防御に偏りすぎと感じました。

試合後のコメントで、前半しのいで後半勝負、という狙いがあったとありましたが、
率直に言って、今時の世界戦でそんなファイトプランは成り立ちません。

12回戦制が導入されて約30年、短いラウンドの中にどれだけ濃密な攻防を詰め込むか、
そのテーマの元に、攻撃技術、コンビネーションの多様化、パワーショットの強化が進み、
昔日の「探り針」のために序盤の数ラウンドを放棄するボクサーなど、ほぼ皆無です。

そして序盤から相手にほぼ無償でペースを与え、リズムに乗せてしまったら、
12ラウンドなんてあっという間です。右向いて左向いたら終わり、の世界でしょう。

私は、序盤から積極的に右リードと左強打で攻めて出て、
ドネアに脅威を与えれば、その脅威を軸にドネアの速さを削り落とし、減じさせて、
試合を作れるだけの力が、現状の西岡には充分あると思っていました。

しかし現実には、西岡はそれとはほぼ正反対のアプローチをしました。
そのアプローチがいかにして無力化され、結果として破局を招いたか、
その過程は皆さんがご覧になった通りです。


結果論でなく、あくまで一般的に、ですが、あれだけ防御に偏り、重心を後ろに置いて構える型は、
自分が優位に立つ時なら、あれで良いのかもしれません。
しかし、自分より若く、速く、強いとされる相手に対して採る闘い方では無かったと思います。


あれこれ考えると、上記のような残念さが残る試合でした。
それは率直に、ファンの気持ちとして書かせていただきます。



しかし、仮に私が戦前に想像したような展開になっていたとしても、
それでも結果が変わることはなかっただろう、とも思っています。
その意味では、納得感のある試合でもありました。

ノニト・ドネアが、122ポンド級三試合目にして、ついにベストフィットした状態であったこと。
西岡の堅いガードを見て、左フックの強打に固執せず、サイドに出て多彩な攻撃を仕掛けてきたこと。
そして何より、西岡の頼みの綱である左を、徹底して外しきり、リターンやカウンターで抑え込んだこと。

これらの面で、ドネアは最近の西岡の試合をつぶさに見て、徹底的に研究してきたことが伺えました。
パウンド・フォー・パウンドで上位につけ、軽量級では最強と目されるボクサーに、
これほどまでにしっかりと見られ、水漏れ無しの完璧な仕上げで迎撃された日本のボクサーが、
果たして過去にどの程度存在したでしょうか。

例えばエデル・ジョフレを破ったファイティング原田は、これほどまでにジョフレに警戒されていたでしょうか。
もしこのレベルの対応を試合前からされていたら、原田はジョフレを破り得たでしょうか。
答えはそれぞれにありましょうが、私は否だと思います。


西岡利晃が挑んだ最高峰の闘いは、最強のノニト・ドネアとの試合前からの関係性において、
日本のボクサーが過去に挑んだどの試合よりも困難なものだったと、終わってみて思います。



そして、上記の見解と矛盾するかもしれませんが、その困難な闘いに赴いた西岡が、
すでに昔日の力を失っていたのかな、とも感じました。

もちろん、ドネアの圧倒的な速さ、多彩さ、肉体面での優位性(これほど西岡より大きく見えるとは
想像していませんでした)などが、西岡を圧倒したのは事実だと思います。
しかし西岡が防御偏重の構えを取らざるを得なかったのは、西岡自身がすでにこれまでの試合で見せた、
攻撃を仕掛けながら、相手の攻撃をガードだけでなく、柔軟で立体的な動きで外してきたボクシングを
実現できなくなっていたからだ、とも言えるのではないかと。



いずれにせよ、言えることは、西岡利晃の「素敵な続編」に、ついに幕が下りる日が来たということです。
私なぞがつべこべ言うてみたところで、その事実は変わりません。
結果として、西岡利晃はノニト・ドネアに、力で、技で、負かされたのです。
残念ですが、仕方のないことです。何せ、今まで自分だって大勢を負かして来て、今日は負かされた。
言ってみればだたそれだけのことに過ぎないのですから。


数年前、無冠時代の西岡の試合を、後楽園ホールまで見に行ったことがありました。
時は長谷川穂積台頭の時期で、世界戦の目処など全然立たず、ファンからの注目もされなくなった西岡が、
目の前の現実に懸命に抗い、闘っている姿に、悲しみさえ覚えたものです。

しかし彼は孤独な闘いから這い上がり、最後には、全世界注目のビッグマッチのリングに立ちました。
残念な結果に終わりましたが、その道程において、多くのボクシングファンが、
彼の戴冠に涙し、世界への飛躍に驚愕し、壮大な夢を抱き、希望を与えられてきました。
その過程はアラサーファンさんが「素敵な続編」と名付けられた通り、本当に素敵なものでした。



加古川の天才少年は、本人すら改めて振り返れば驚くであろうほど、長きに渡り闘い続け、
様々な希望や絶望、歓喜や悲嘆と共に存在し続けてきました。
そして、その日々も、今日、終わります。


西岡利晃というボクサーが与えてくれた壮大な夢に、感謝と拍手を送りたいと思います。
長きに渡り、数々の試合を楽しませてもらいました。本当にありがとう。お疲れ様でした。



コメント (7)
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