結果も内容も、非常に残念な試合だったと感じました。
西岡利晃の偉大さが、この一試合で変わることはないと思う反面、
この国際的に大きな注目を集めた一戦が、こういう試合になったことは、
何よりもまず、残念に思えます。まずはその気持ちから書きます。
立ち上がりからの、右ガードをこれまで以上に高く上げる代わりに、
右のリードをほぼ放棄したかのような闘い方は、あまりにも防御に偏りすぎと感じました。
試合後のコメントで、前半しのいで後半勝負、という狙いがあったとありましたが、
率直に言って、今時の世界戦でそんなファイトプランは成り立ちません。
12回戦制が導入されて約30年、短いラウンドの中にどれだけ濃密な攻防を詰め込むか、
そのテーマの元に、攻撃技術、コンビネーションの多様化、パワーショットの強化が進み、
昔日の「探り針」のために序盤の数ラウンドを放棄するボクサーなど、ほぼ皆無です。
そして序盤から相手にほぼ無償でペースを与え、リズムに乗せてしまったら、
12ラウンドなんてあっという間です。右向いて左向いたら終わり、の世界でしょう。
私は、序盤から積極的に右リードと左強打で攻めて出て、
ドネアに脅威を与えれば、その脅威を軸にドネアの速さを削り落とし、減じさせて、
試合を作れるだけの力が、現状の西岡には充分あると思っていました。
しかし現実には、西岡はそれとはほぼ正反対のアプローチをしました。
そのアプローチがいかにして無力化され、結果として破局を招いたか、
その過程は皆さんがご覧になった通りです。
結果論でなく、あくまで一般的に、ですが、あれだけ防御に偏り、重心を後ろに置いて構える型は、
自分が優位に立つ時なら、あれで良いのかもしれません。
しかし、自分より若く、速く、強いとされる相手に対して採る闘い方では無かったと思います。
あれこれ考えると、上記のような残念さが残る試合でした。
それは率直に、ファンの気持ちとして書かせていただきます。
しかし、仮に私が戦前に想像したような展開になっていたとしても、
それでも結果が変わることはなかっただろう、とも思っています。
その意味では、納得感のある試合でもありました。
ノニト・ドネアが、122ポンド級三試合目にして、ついにベストフィットした状態であったこと。
西岡の堅いガードを見て、左フックの強打に固執せず、サイドに出て多彩な攻撃を仕掛けてきたこと。
そして何より、西岡の頼みの綱である左を、徹底して外しきり、リターンやカウンターで抑え込んだこと。
これらの面で、ドネアは最近の西岡の試合をつぶさに見て、徹底的に研究してきたことが伺えました。
パウンド・フォー・パウンドで上位につけ、軽量級では最強と目されるボクサーに、
これほどまでにしっかりと見られ、水漏れ無しの完璧な仕上げで迎撃された日本のボクサーが、
果たして過去にどの程度存在したでしょうか。
例えばエデル・ジョフレを破ったファイティング原田は、これほどまでにジョフレに警戒されていたでしょうか。
もしこのレベルの対応を試合前からされていたら、原田はジョフレを破り得たでしょうか。
答えはそれぞれにありましょうが、私は否だと思います。
西岡利晃が挑んだ最高峰の闘いは、最強のノニト・ドネアとの試合前からの関係性において、
日本のボクサーが過去に挑んだどの試合よりも困難なものだったと、終わってみて思います。
そして、上記の見解と矛盾するかもしれませんが、その困難な闘いに赴いた西岡が、
すでに昔日の力を失っていたのかな、とも感じました。
もちろん、ドネアの圧倒的な速さ、多彩さ、肉体面での優位性(これほど西岡より大きく見えるとは
想像していませんでした)などが、西岡を圧倒したのは事実だと思います。
しかし西岡が防御偏重の構えを取らざるを得なかったのは、西岡自身がすでにこれまでの試合で見せた、
攻撃を仕掛けながら、相手の攻撃をガードだけでなく、柔軟で立体的な動きで外してきたボクシングを
実現できなくなっていたからだ、とも言えるのではないかと。
いずれにせよ、言えることは、西岡利晃の「素敵な続編」に、ついに幕が下りる日が来たということです。
私なぞがつべこべ言うてみたところで、その事実は変わりません。
結果として、西岡利晃はノニト・ドネアに、力で、技で、負かされたのです。
残念ですが、仕方のないことです。何せ、今まで自分だって大勢を負かして来て、今日は負かされた。
言ってみればだたそれだけのことに過ぎないのですから。
数年前、無冠時代の西岡の試合を、後楽園ホールまで見に行ったことがありました。
時は長谷川穂積台頭の時期で、世界戦の目処など全然立たず、ファンからの注目もされなくなった西岡が、
目の前の現実に懸命に抗い、闘っている姿に、悲しみさえ覚えたものです。
しかし彼は孤独な闘いから這い上がり、最後には、全世界注目のビッグマッチのリングに立ちました。
残念な結果に終わりましたが、その道程において、多くのボクシングファンが、
彼の戴冠に涙し、世界への飛躍に驚愕し、壮大な夢を抱き、希望を与えられてきました。
その過程はアラサーファンさんが「素敵な続編」と名付けられた通り、本当に素敵なものでした。
加古川の天才少年は、本人すら改めて振り返れば驚くであろうほど、長きに渡り闘い続け、
様々な希望や絶望、歓喜や悲嘆と共に存在し続けてきました。
そして、その日々も、今日、終わります。
西岡利晃というボクサーが与えてくれた壮大な夢に、感謝と拍手を送りたいと思います。
長きに渡り、数々の試合を楽しませてもらいました。本当にありがとう。お疲れ様でした。