さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

痛切に敗れることは

2006-07-31 23:36:15 | 越本隆志
正直にいって、世界タイトルマッチと呼ぶにはちょっと...な試合でした。

王者の越本隆志は、報じられている両肩の故障がひどかったのか、
打ちたいパンチの半分も打てなかったように見えましたし、
挑戦者のロペスは、いかにも技量不足でした。
まず間違いなく、初防衛戦か2度目の防衛戦で陥落することでしょう。


しかし、ある意味、ボクシングの凄さを見られた試合でもありました。

この試合の挑戦者選びには、実のところ、心中に罵詈雑言が渦巻いていました。
15位までに挑戦権がある(これもふざけた話ですが)というルールを事実上無視した人選、
こんなことをやっているから、それを誰も批判しないから、ボクシングはダメなんだ。
そんな風に思いましたし、その考え自体は今も間違っていないと思います。

でも、やはり試合を見て、実際にふたりの拳が振るわれ、
決して世界のトップクラスとは言えない攻防といえど、
骨と肉がきしむ闘いのなかで、懸命に闘うボクサーたち、
そして鮮やかすぎる勝敗明暗のコントラストの前に、
私は言葉をなくしてしまいました。


越本は最後、なすすべなく打たれ、打ち返せず、また打たれ、
地元福岡の観衆が、その姿に声を失うなか、精根尽き果てたように崩れ落ちました。

その姿は、それこそ神々しくさえありました。
彼がここまで戦い続けるために費やした労苦が、一瞬にして見えたかのようでした。

大いなる勝利の歓喜と、痛切な敗北は、常に背中合わせです。
歓喜の勝利だけではなく、これほどまでに痛切に敗れ得ることもまた、
偉大なボクサーだけが成しうることなのでしょう。

越本隆志は、偉大なボクサーでした。
最強のチャンピオンではなかったかもしれませんが、
それでも偉大なボクサーでした。
己の力をすべて出し切って、掴める限りの夢を、すべて掴んだボクサーでした。

今頃になって、ようやく、実感としてそれが分かったような気がします。



コメント (1)
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