晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

半村良 『たそがれ酒場』

2009-06-28 | 日本人作家 は
直木賞受賞作「雨やどり」から20年、と本の帯に書いてあり、
続編にしてはずいぶん間隔をあけたなあ、と思い、読み始めた
のですが、ほんとうにこの人の作品は淡白な味付けでも奥深く、
忘れられない料理みたいだなあ、と独りごちてみたくなります。

新宿のバー「ルヰ」のマスターだった仙田、通称「仙ちゃん」は
20年後、神田にあるホテルの中にあるワインバー「ルヰ」のマ
スターとなっています。
このホテルは、仙田も経営に一役買っていて、支配人はかつて
想いを寄せていた女性。しかし支配人はこのホテルの地主と愛
人関係。わざと売上げを低くして手放すようにして、自分たちの
所有にしようと企んでいます。
とうとう所有は女性支配人の下になり、いよいよ売上を伸ばそうと
する中、関西出身の芸人がバーに仙田を尋ねてきました。
その芸人の母親というのが、かつて新宿「ルヰ」のホステスだっ
た女性で、子どものころにその芸人を仙田は可愛がっていたので
した。
東京の常宿としてこのホテルを利用することになる芸人はバーを
気に入り、夜な夜な芸能関係者を招待し、ホテルも隠れ家的なと
ころが受けて、徐々に部屋が埋まっていくのです。

このほかにも、新宿「ルヰ」時代の客、仕事仲間などが、今の神
田「ルヰ」に顔を出します。一様に仙田を慕い、昔話に花を咲かせ
ます。
客足の伸びも順調、手塩にかけて育てている従業員も心配なく
仕事をこなし、充足感はあるのですが反面、仙田の心の中では、
歳を重ねた自分を客観視するようになります。
そんなある日、仙田は体調が悪くなり、入院することに・・・

「たそがれ酒場」を読み終わって、「雨やどり」の内容をほとんど
思い出すことができず、もう一度読み返してみることに。
哀愁漂う文体、物語に入り込み易い言葉のチョイス、どれをとって
もなんともいえない居心地の良い空気に包まれます。

続編から前編という順番で読んでみるのもまた一興ですね。
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藤原伊織 『ひまわりの祝祭』

2009-06-27 | 日本人作家 は
この作品の主役は、とにかく会う人会う人から幼児性を指摘されたり
大人になりきれていないことを言われますが、かつて日本がアメリカ
の占領統治下に置かれていた時代、マッカーサーは「日本人の精神
年齢は12歳程度だ」という、日本人と日本の社会の未熟さを表したの
ですが、これは欧米白人種の東洋文化と有色人種の蔑視とも解釈で
きますが、それにしても、自分の学校の生徒が新型インフルエンザに
罹ったからといって涙ながらに謝罪する校長、苦情の電話をする輩、
それらをあげつらうメディアなどを見ていると、12歳どころかそれ以下
なんじゃないかと思ってしまいます。

美術の才能を持ちながら、妻を自殺によって失い、アメリカに渡っていた
男のもとに、かつての上司が訪ねてきます。
上司は、手持ちの500万円を使い切りたい、できれば馬鹿馬鹿しい理
由で、と言い、ギャンブルの才能のある男に非合法カジノで使ってほし
いとお願いします。
そう安々と頭を下げなかったかつての上司が「頼む」というからには何か
おかしいと訝りつつも、カジノへ出向きます。そこで、上司の知り合いと
思われる老人と、亡き妻と瓜二つの女性が来ます。
カジノを出て、上司は詳細を説明しようとしますが、男は断ります。そして
上司は出張で日本を離れると言い残し去りますがその直後、先程の女性
が男に話しかけてきます。いろいろと話をしていると、女性の携帯電話に
カジノに同席あいていた老人が撃たれたという連絡が・・・

なにやら不穏な事件に巻き込まれそうな予感だった男は家に帰りますが、
扉が壊されていたのです。さらに、何者かに見張られています。そこに件
の女性が来て、一連の出来事をかいつまんで説明。それは、亡き妻がゴ
ッホの未公開の油彩「ひまわり」の所在を知っていて、ある実力者がそれ
を求めているとのこと。

上司の500万を捨てたいという謎の行動は、発見されれば100億円は
するであろうゴッホの未公開の油彩を探す影の実力者と関係があるのか・・・

あまり多くを語らない、後ろ暗い過去、食生活が偏っている(コンビニのド
ーナツが主食)といったところは前作「テロリストのパラソル」の主人公と
共通点が多いところ。
とかく主人公が幼児性を指摘されますが、他の登場人物も結局のところ
子どもじみた発想や言い訳で、自分のことを棚に上げて他者に「大人に
なれ」という人がこの国には多いという著者の皮肉なのでしょうか。
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トマス・ハリス 『ハンニバル』

2009-06-25 | 海外作家 ハ
どうしても、アメリカのサスペンス系には、本作に出てくる
ハンニバル・レクター博士のような、頭脳や肉体が人並み
はずれて神がかっている人物が出てくるのですが、別に
等身大を求めるわけではありませんが、事件解決や物語
の終結にその神がかり的特長を利用してしまうと、肝心な
物語の筋立てが安易に見えてしまうというか、そりゃスー
パーマンなんだからなんでも解決だよね、という印象を抱く
のです。

前作「羊たちの沈黙」から数年経ったという設定で、物語は
レクター博士の助言で殺人鬼を見事捕まえたFBIのクラリス
・スターリングが、ある市場で麻薬取引を押さえようとする場
面からはじまります。

この作戦は失敗、クラリスは主犯格の女を銃殺してしまい、
しかもそれがテレビに撮られていて、世間からバッシングの
嵐。そんな中、数年前に刑務所から脱走し、現在も逃亡中の
レクター博士からスターリング宛てに手紙が届きます。

そして舞台は、イタリアのフィレンツェと移り、ある警官が
宮殿の司書としてブラジルからやってきたフェルという男を
レクターなのではと疑い、レクター捕獲に報奨金を出すアメ
リカの大富豪メイスンに連絡します。
このメイスンは過去にレクターによって顔の機能を失わされ、
現在も寝たきりで人工呼吸器が手放せない状態で、レクター
を生きたまま捕まえて同じ目に合わせようとあらゆる手を使
い探しているのです。

警官はあと一歩というところでレクターと思われるフェル捕獲に
失敗、逆に殺されてしまいます。そして、レクターはついにアメ
リカに戻ってきて・・・

作品中に、このハンニバル・レクターという人物の幼少時代が
描かれていて、彼がのちに「人食い」などと恐れられる狂気の
精神科医になってしまったのか、その素因のような物語があり
ます。そして、なぜレクターはスターリングになみなみならぬ興
味を持っているのか、ということも分かるのですが、これが文字
の羅列だけで説明してる(小説なのであたりまえ)とは思えない
ほどで、目をそむけたくなります。

怪物誕生の背景をつまびらかにすることで、純然たる悪魔では
ないと解釈させることが、レクター博士にどこかヒーロー的要素
を持たせるような気がしますね。
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坂東眞砂子 『死国』

2009-06-22 | 日本人作家 は
この作品は、日本の四国がじつは神話の昔によると
死者の住む島で、死者と生きている者が共存するの
はだめだと島の周りに結界を張り、それが今の四国
八十八寺巡礼ルートで、人間がぐるぐる回って死者を
封じ、さらに四国最高峰の石鎚山は生の象徴、そして
四国のちょうど中央部にある谷は死者が集まる場所と
して、そこに石鎚山の石を置いて死者の魂を封印して
あったのですが、その封印が解かれたら・・・という話。

小学校まで高知県に住んでいて、その後東京でイラスト
レーターとして活躍する女性が久しぶりに高知に帰りま
す。そこで、子供のころよく遊んだ仲良しの女の子が亡
くなったことを知りショック。
その女の子の家に行くと、母親は娘を甦らそうと八十八
寺巡礼を逆ルートでまわる「逆打ち」を行っていると聞き
気味悪くなってしまいます。
そもそもこの家は代々女性が死者と交信できる「口寄せ」
の家系で、娘が亡くなったことで口寄せが途絶えることを
恐れた母が逆打ちをしているのです。

そして、小さいころに密かに恋心を抱いていた男と再会、
かつてよく遊びに行っていた谷へ向かい、そこで泥で埋も
れていた石を男が見つけ、引っ張りだすのですが・・・

四国最高峰の石鎚山といえば、天童荒太「永遠の仔」にも
出てきます。霊山で修験道の聖地とされているこの山では
人智を超えた現象が描かれて読む人に神秘と畏敬の念を
与えてくれます。

四国を「死の国」とするのは、そこに住んでいる人からすれ
ば、そんな縁起でもない、と思われるでしょうが、そういえば
東北や九州出身者は、東京の居酒屋とかで初対面でも同じ
東北だね、九州だねと親近感を持って仲良くなれますが、と
ころが四国出身者は、こういった同郷意識が低い気がします。
まあ、これは死者を云々といった話とは関係ありませんが。
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ウォルター・モズリイ 『赤い罠』

2009-06-19 | 海外作家 マ
本作はイージー・ローリンズという黒人探偵が主人公のいわゆる
ハードボイルド小説シリーズで、舞台は1950年代のアメリカ、公民
権運動、ベトナム戦争の前のロサンゼルス。
『赤い罠』はシリーズ第2作で、第1作で主人公イージーは第2次
対戦で従軍し、故郷テキサスに戻るもそこは軍隊よりも人種差別
の激しい土地で、ロサンゼルスに移住、なんやかやで探偵稼業に
なってしまい、申告のできない大金を手にして、ちょっとした資産家
になる、といったところまでを描いています。

そして、資産家となったイージーは不動産を購入しますが、税務署
に目をつけられます。契約書などをごまかして脱税容疑を免れよう
と画策しているそんな折、イージーにFBIの男から連絡があり、ある
捜査に協力してくれれば脱税を見逃してくれるというのです。
その捜査とは、あるユダヤ人のコミュニスト活動の詳細。
イージーは引き受けざるをえず、なんとかして近づくことに成功します
が、イージーの近辺で殺人事件が連続して起こるのです。
警察はイージーを拘束しますがFBIが助けてくれて捜査を続行。しか
し、ユダヤ人の素性を知り仲良くなったイージーは、この捜査自体に
疑問を持つのですが・・・

とにかく、登場人物のキャラが濃い。イージーはもちろんのこと、アパ
ートの管理人、警察、FBIの男、イージーのテキサス時代の友人、
ロスのイージーの友人みんな。
そして、文中にこれでもかと出てくる人種差別表現。
FBIはコミュニスト活動をしているユダヤ人を逮捕しようとしますが、
この時代はいわゆる「赤狩り」旋風真っ只中で、自由の敵であるコミュ
ニストを徹底排除しようと政府は躍起になっていたのですが、しかし、
自由の恩恵は白人のみで、そもそもアメリカに住む有色人種、特に黒人
には自由も人権も無いも同然でした。

自由を与えてくれない白人主体の政府の手先となる黒人探偵。
主人公の視点から当時のアメリカ社会の歪みが描かれていて、それで
いて肉厚なストーリー設定。クリントン元大統領もこのシリーズの大ファン
だそうです。
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半村良 『湯呑茶碗』

2009-06-16 | 日本人作家 は
以前著者の「雨やどり」を読んで、新宿という街を舞台に
オムニバス形式に話は進み、舞台設定の範囲は狭いの
ですが、話に奥行きと広がりを感じさせて、さらに話自体
もこれといって大きな波風も立つことはないのですが、そ
れでも気がつくと物語に意識が入り込んで、自身が物語
が展開していく目撃者になっているような、まるで現場に
いるような心境で、観客と演者の境界が曖昧な小劇場と
でも例えましょうか。キャストは豪華で制作費もたっぷりか
けた舞台が必ずしも良作とはいえず、半村良の作品は、
座席がパイプ椅子で、チケットも手刷りなチープ全開の舞
台ながら、これは素晴らしい、絶対観たほうがいいよと誰
かに伝えたくなるような、そんな小劇場。

本作『湯呑茶碗』は、東京西部の多摩地区にあるマンション
「宝田ハイム」に住む住民たちの織り成す、それぞれの部屋
の家族に起こるちょっとした出来事を描き、次に部屋の家族
へとバトンタッチされていくオムニバス形式。

自分史編纂をしようとする老夫婦、受験を控えた子供のいる
家族、家にいても疎外感のある元植木職人、会社重役一家
など、バラエティ豊かな住民達。もちろん、ただ同じマンション
というだけで他に接点のない住民同士もいますが、何組かは
管理人の宝田夫人を介したりして仲良くなります。

・・・と、これだけ書いていても、これといって大きな出来事や
事件が巻き起こることはありません。なんだかどこかのマン
ションを覗き見しているような、あるいは自分がそこの住民に
なっているような気持ち。

事の起こりと帰結の振り幅の大きさだけがドキドキ感を味わ
えると思っていたら間違い。こんな、はっきりいってしまえば
とるにたらないどこぞのマンションでの日常が淡々と描かれ
ているだけの作品ですが、そんな中にも心が揺り動かされる
のです。
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坂東眞砂子 『蟲(むし)』

2009-06-14 | 日本人作家 は
以前、坂東眞砂子の「山姥(やまはは)」を読んで、これを
「やまんば」と読まないところが物語のキーなのだというこ
とがよく分かり、そして作品自体とても面白く、いつかまた
この作家のほかの作品を読んでみようと思っていて、この
『蟲(むし)』という、なぜ「虫」じゃいけないのか読む前から
たいへん興味をそそられるところです。

静岡県のある場所で宅地開発をする東京の業者の社員で
ある男が、現場である木の模様をした石の器を拾い、それ
を妻の土産にしようと持ち帰ります。
その石を居間に置いてからというもの、テレビやステレオの
調子が悪くなり、妊娠中の妻も変な夢を見たりします。その
夢とは、虫送りという地方の祭りで、亡くなった祖母が出て
きて「虫がでた」「虫を送れ」という奇妙な夢。
それから妻は虫が気になってしまい、夫が虫に憑かれてい
るのではと訝り、ついに夫の体から虫が這い出てくるところ
を見てしまい、ショックで倒れて流産してしまいます。

夫が虫にとり憑かれているなど信じてもらえそうもなく、自分
で調べてみると、夫が静岡で拾ってきた石に「常世蟲」という
字があり、それは大昔に今の静岡地方にあった「常世神」と
いう、虫を崇める信仰で・・・

人間の体から虫が這い出てきて、なんて聞くとさぞかしグロ
テスクなものを想像するでしょうけど、作品中ではそれほど
でもなく、どことなく神秘的に描いているのかなという印象を
持ちました。
日本の伝承や信仰にある畏怖を織り込んだ、日本の気候風
土に合ったウェットなホラー、といった感じでしょうか。
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宮部みゆき 『地下街の雨』

2009-06-13 | 日本人作家 ま
宮部みゆきの、特に短編を読んでいると、日常生活のちょっとした
空白や隙間に非日常をぽんと盛り込んで、それが違和感なく話は
進んでいく、といった筆の巧みさは、決め手なのだけれどでしゃば
らない料理の隠し味を扱う達人のような気がするのです。

表題『地下街の雨』をはじめとして全七作の短編は、ほどよくリア
ルに、さりげなく幻想的に、押しの強い主張は無いけれど、印象
に残る作品です。

この中で特筆すべきは「決して見えない」という作品で、ある雨の
夜、終電車を降りた男が駅でタクシー待ちをしているのですが、な
かなかタクシーは来ず、いっしょに待っていた老人と話し始めて、
どんどん不思議な展開になり、でもそれは夢で・・・
そして話は、ある雨の夜、男は終電車を降りて駅でタクシー待ちを
するのです。

円環的手法という、話の終わりが話の始まりに繋がっている、輪廻
状態をいうのですが、これが永劫続くのか、一代限りなのかはわか
りませんが、短編で奥深く円環的時間を描ける力はやはりすごい。
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スティーヴン・グリーンリーフ 『運命の墜落』

2009-06-12 | 海外作家 カ
よくアメリカの裁判でにわかには信じがたい判例というもので、
濡れた猫を電子レンジに入れて乾かそうとしたら死んでしまい
メーカーを訴えた、キャスター付き椅子を車の後ろに縛り、椅子
に人が乗って高速道路を走行中に紐がはずれて椅子に乗って
いた人が死亡、そんな使い方はするなと説明書に書いてなか
ったとしてメーカーを訴えた、など常軌を逸してるとしか思えな
いですが、実はこれらの判例のうちいくつかは実際には無く、
作り話あるいは誇張されて伝わったものなのです。

ただ、自分が太ったのはファストフード店のせいだと訴えたという
ケースは本当にあって、当たり前ですが原告側敗訴でした。

『運命の墜落』は、サンフランシスコで墜落した小型旅客機の
遺族や奇跡的に生存した乗客対航空会社の裁判サスペンス。
カリフォルニアの田舎町に住む弁護士キースは、ローラという
女性と不倫していて、そのローラの夫ジャックが件の飛行機に
乗っていて、奇跡的に生存していました。
ローラはキースに航空会社を訴えてほしいと依頼しますが、長
年、田舎町で軽犯罪しか扱ってこなかったキースは自信が無く、
大学の同期で航空機事故訴訟の第一人者である弁護士アリック
に頼むことにしますが、アリックは病気になってしまいます。
仕方なしにキースが法廷に立つことになり、アリックの助言で
航空会社と対峙することになります。

ジャックの損害賠償と精神的苦痛、ならびにローラに対しての
慰謝料を求めますが、被告側の調査により、ローラはジャック
との夫婦生活は事実上破綻していて、お互いに不倫しており、
さらにジャックは事故機に乗っていた際、愛人と乗り合わせて
いた可能性も出てきてしまい・・・

パイロットの操縦ミスでもなく、空港管制塔の誘導ミスでもなけ
れば、争点は飛行機の安全性で、航空会社と航空機製造メー
カーの過失を訴えることになります。
これこれの安全性を講じていれば原告は死なずに、あるいは
大怪我をせずに済んだということを主張していくのですが、当然
被告側つまり航空会社は過失は無かったと主張します。
キースは最終手段として妻ローラの反対を押し切り、ようやく片言
喋れるようになったとはいえ後遺症の痛々しいジャックを原告
側証人として法廷に招きます。そこまでするのかと思ったのですが、
日本でも裁判員制度が始まるので、対岸の出来事とはいえず、勝つ
ためには鬼にでもなるといった風潮にならないとも限りません。

もっとも、現行の警察や検察、裁判所は自白偏重主義、冤罪多発で
今の時点でじゅうぶん鬼になってますけどね。
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エリエット・アベカシス 『黄金と灰』

2009-06-10 | 海外作家 ア
読書が趣味という人の大半は、仕事や家事の合い間や休日に、
あるいは就寝前の1時間くらい本を読んでいるわけで、ある種の
息抜きタイムにもなるので、小難しい文章を並べ立てられている
ようなものはなるべく避けたい(時間が有り余ってる学生はせい
ぜい小難しい作品でも読んで苦悶すればいい)のではないでしょ
うか。

この『黄金と灰』という作品、テーマがユダヤ人の贖罪、悪とは、
絶対悪とは何か。そして、作者が二十代にして教授資格所有者
のせいか翻訳者のせいか、文章が小難しい。
「形而上学的の視点」がどうのこうのと、論文を読んでいるようで、
息抜きどころか、ちょっとした学術研究です。

ドイツ人の神学者で歴史学者のルドルフ・シラーが、上半身と下
半身を切断された状態で発見され、上半身は見つからず。
フランスの歴史学者ラファエルは記者で友人のフェリックスとこの
事件の真相を探そうとします。
生前のシラーと親交のあったパリ在住のユダヤ人ぺルルマン家
を訪ね、ラファエルはぺルルマン家の娘リザに好意を持ちます。

シラー殺しとして、はじめはリザの兄が疑われ、やがてリザの元
恋人が逮捕されます。
ラファエルとフェリックスは別に真犯人がいると確信し、ある映像
に残っていた、かつてナチス親衛隊が書いたとされる手帳にその
真相の鍵が握られていると思い、探すのですが見つかりません。
第2次大戦時のフランスの政権、ナチスドイツ、アウシュビッツ収
容所、これらがシラー殺害に絡んでくるのですが・・・

文中、物語の進行の腰を折るように、ラファエルの妄想というか、
抽象的な心理描写があるのですが、正直息苦しさを覚えました。
それはあまりに抽象的で、ユダヤの受難を憂うかと思えばヘビが
自分を睨んで云々。

「悪の起源」とは、そしてシラー殺害の犯人は。
そういえば、ある女優さんが映画の舞台挨拶でふてぶてしい態度
でバッシングされ、後日テレビで涙の謝罪をするというのがあった
のですが、その時その女優さんは「諸悪の根源は私にあります」
といいました。
ユダヤ受難の歴史もコソボ紛争もクルド人難民問題もあんたのせ
いかよ、とひとりテレビに向かってツッコミ入れた記憶があります。

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