晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

拓未司 『禁断のパンダ』

2011-03-31 | 日本人作家 た
この作品は、第6回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作で、
おもな舞台は、料理界。というだけでも料理好きとしては「おお、
それは楽しみだ」なんて思ったのですが、もちろんそれ抜きにして
もじゅうぶんに楽しめるミステリーです。

が、ネタバレは書きませんが、ちょっとグロテスク・・・。

神戸で小さなビストロを経営する料理人、柴山幸太は、妊娠中の妻
が出席したいという結婚式の披露宴に付き添いで行くことに。
しかし、妻の身を案じてというのはもちろんですが、それよりも
幸太が積極的に行こうとする理由は、その披露宴をやるレストランが
グルメガイドで最高評価をつけていて、なかなか予約の取れない
有名店で、こんな機会でもないと食べられないからだったのです。

式は、ちょっとしたトラブルに。幸太の妻の友達である新婦側の親族
は出席しているのに、新郎の母が親族じゅうから嫌われているために
片方の新郎側がスカスカ。

披露宴に移っても、テーブルの片側がスカスカというのも見栄え悪い
ので、幸太と妻は、新郎の親族が来るはずだったテーブルに座ること
になります。

そこで、新郎の祖父という人が遅れて着席。その人は、神がかり的な
舌を持つ料理評論家「ゴッド中島」だったのです。
じつは、このレストランは中島がオーナーで、料理長はその彼に認め
られた凄腕。

幸太も料理人ということを知ったゴッド中島は、幸太が料理にほんの
少しだけ加えられえた隠し味を言い当てたことで、幸太の実力を見抜き
ます。

またさらにトラブルが。結婚式にはいたはずの新郎の父親が披露宴に
あらわれなかったのです。

一方、話は変わり、このレストランの厨房での話。
披露宴の料理は終わり、翌日は休日だったのですが、その休日に開か
れる会員制の特別ディナーがあるため、そこで料理人のひとりが、その
特別ディナーに出されるフォンドヴォーの下ごしらえをしていました。
なんやかやあって、翌朝に仕込み終わり、家に帰ろうとしたそのとき、
前日の披露宴に姿を見せなかった新郎の父が、荷物を抱えて店に入って
きたのです。

そして、この時間に、レストランの店のすぐ近くで、新郎の父が社長を
つとめる運輸会社の社員が殺されていたのです・・・

その後、社長は行方不明。警察は被害者の会社に行き聞き込みをします。
そこで警察の応対に出てきたのは社長の息子で、この事件の前日に件の
レストランで挙式をおこなった新郎でした。

この一家にはゴッド中島の資産をめぐって娘と兄弟が相続争いをしており、
それが原因で何がしか巻き込まれたのか、あるいは会社が違法な輸入を
していて、それに関するトラブルなのか、社長は行方不明のまま。

タイトルの『禁断のパンダ』というのは、この主テーマである料理と
何らかの関係があるのですが、なるほどそういうことなのか、と。

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マイケル・ブレイク 『ダンス・ウィズ・ウルブズ』

2011-03-27 | 海外作家 ハ
原作を読んで、そのあとに映像化された作品を観てガッカリした、
あるいは、先に映像を観て、そのあとに原作を読んで、原作のほう
が素晴らしいと思ったりすることもありますが、どちらも素晴らし
いと思える作品には滅多にお目にかかれないのです。
が、このマイケル・ブレイクの作品、ケビン・コスナーの監督、主演
で映画化された『ダンス・ウィズ・ウルブズ』は、どちらを先に
(原作→映画、映画→原作)しても、その両方に感嘆するでしょう。

1860年代のアメリカ、ミシシッピ川以西はまだ手つかずの自然が
残されていました。「自然」とは、そこで暮らす動物たち、そして
その動物たちと上手く共生していた人間の部族たち。
そしてここでいう「手つかず」とは、はるか東のさらに海の向こうから
来た、肌の白い、口髭をたくわえ、それまで見たことのない「馬」と
いう動物にまたがりやって来た「侵略者」のこと。

この時代、すでに「アメリカ合衆国」は誕生していて、その領土は
どんどんと西に拡がっていき、“インディアン”たちは、その住処を
奪われ、狭められていったのです。

そして、南北戦争が起こります。まだ見ぬ西部に魅力を感じたひとりの
青年、ダンバー中尉は、みずからセジウィック砦への配属を志願します。

しかし、その「勤務地」は、みすぼらしい小屋があるだけで、さらに
前任の兵はどこにも見当たりません。過酷な環境に逃げ出してしまった
のか、それとも、殺されてしまったのか。

いずれにしても、ダンバーにとってまずは荒れ果てた小屋の修理をはじ
めなければならず(すでにこの地まで付いて来た御者は帰ってしまった)
当面は日誌をつけて過ごします。
そんな辺境の暮らしの中で、ひとつの楽しみといえば、年老いた狼が
小屋の辺りをうろついて、はじめは警戒していたのですが、徐々に
ダンバーと打ち解けてきたのか、投げやったベーコンを食べたりする
ようになります。
その狼は前足の先が白く、ダンバーは「ツー・ソックス」と名付けます。

この砦から少し離れたところに、コマンチという部族の集落があり、
彼らは、肌の白い、口髭をたくわえた集団がかつていた砦の小屋に、
同じ種の男がひとりいることを発見。
一方、ダンバーもこの近くに部族がいることがわかり、彼らの集落の
位置を確かめます。

ある日、砦近くの泉に出向いたダンバーは、人がいるのを発見します。
それは女性で、なんと自分の体を切っていたのです。
女性の服装こそ、先住民族のそれだったのですが、顔や髪は、どうみて
も、ダンバーと同じ人種のもの、つまり白人だったのです。

じつはこの女性は、コマンチの部族が襲ったある白人の家で、生け捕りに
した女の子で、彼女はコマンチとして成長し、コマンチの男と結婚して
その夫が戦死して、悲しみのために自分で命を絶とうとしていたのです。

ダンバーは気を失った女性を馬に乗せて、集落へ連れていきます。
なんといっても驚いたのはコマンチの人たち。
馬に乗った口髭の男が、<拳を握り立つ>を抱えていたのです。しかし、
どうやら口髭の男に敵意のようなものは見えず、<拳を握り立つ>は
集落へ戻ることに。

コマンチでは、独特な名前がひとりひとりについていて、女性の名前は
もちろん、他にも<十頭の熊><蹴る鳥>などがいて、その人間の特徴を
名前として呼ぶのですが、ある夜にダンバー中尉が狼「ツー・ソックス」
と遊んでいたのを目撃したコマンチの男は、彼を<狼と踊る>と名付けます。

ここから、ダンバーとコマンチ族との交流がはじまります。はじめこそ、
我々の土地を奪い仲間を殺してきた白い肌の男が、なぜ我々に溶け込もう
としているのか、部族内でも意見が分かれますが、ダンバーには純粋な
好奇心、そして酋長は彼を何かに利用できれば、ということで、<拳を
握り立つ>を通訳にしようとするのですが、なにしろ小さい頃に連れて
こられたので、すでに英語は記憶の奥底に沈んでいて、思い出すのもやっと。

徐々にダンバーは打ち解けてゆき、そのうち砦よりも集落で過ごす時間が
長くなっていき、バッファロー狩りのときには白人に先を越されて、彼らの
問答無用の殺戮に怒りをおぼえるようになります。

インディアンに感化されていったというわけではなく、ダンバーに
とって、この生活こそ自分の求めていたものだと実感するのです。

人間は特別な存在などではなく、晴れや雨の日、草木や山川、動物たち
と同じくこの大地に存在する生き物として、自然を敬い、自然に恐怖します。

とても美しい作品です。
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畠中恵 『しゃばけ』

2011-03-23 | 日本人作家 は
地震発生からブログ投稿再開までに読んだ本の連続投稿、
これでファイナルの4冊目。

舞台設定は江戸時代、主人公は廻船問屋”長崎屋”の、今
でいうところのお坊ちゃま(悪くいうとボンボン)一太郎。
と、その周りにいるのは、妖怪。

といってもホラー要素はゼロで、どちらかというと登場人物
はコミカルに描かれています。

そんな一太郎は、幼少の頃から体が弱く、身を案じて今は亡き
祖父が、この若だんなのために、手代(世話係?のようなもの)
として佐助と仁吉という2人をそばに置くことになるのですが、
なんと、この2人は、普段は人の姿に化けた妖怪だったのです。

じつは一太郎の周辺にはふたりの手代だけではなく、さまざま
な妖怪が、この長崎屋に住み着いており、そしてさらに、外に
住む妖怪とも一太郎は接触できます。

ある日の夜、一太郎は佐助の仁吉の目を盗み、どこかへと出かけ
ます。人通りの少なくなった辺りで、夜盗に追われてしまいます。
命からがら逃げ遂せた一太郎ですが、その近くで大工が首を斬ら
れて殺されていたのです。

あの夜盗に顔を見られたかもしれないと怯える若だんな。しかし、
病弱の一太郎がなぜひとりで夜中に外に出ていたのか、手代が聞い
ても理由は明かしません。

ただちに妖怪たちが集められて、犯人探しをはじめます。一方、
長崎屋によく出入りする岡っ引きの親分も、この事件を追っていて、
調べによると、殺された大工の道具が盗まれていて、道具のそれぞれ
がばらばらの店に売られていたのです。

なぜ犯人はそんなまどろっこしいことをしているのか。

そんな中、薬種も扱う長崎屋の店に身なりの貧しそうな男がやって
きて、「ある薬」を所望します。
しかしその「ある薬」とは、匙一杯でこの男のひと月分の稼ぎでも
追いつかないほどの高価な品で、あいにくお売りできないと言う
一太郎や手代に、どうしても欲しいと食い下がる客。

そんなにいうならということで「ある薬」を見せようと倉に入った
そのとき、一太郎と手代は客に襲われて・・・

そして、長崎屋の若だんなが襲われたことをきっかけに、次々と事件が
起こるのです。
犯人はひとりなのか複数なのか、その目的は、なぜ襲われるのか・・・

これがデビュー作だそうで、シリーズ化してもいいくらい、各キャラ
クターがしっかり確立してますね。

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宮部みゆき 『スナーク狩り』

2011-03-22 | 日本人作家 ま
宮部みゆきの小説は大好きなのですが、それにしてもこの
『スナーク狩り』というタイトルは…、こんな状況下で
おどろおどろしい内容なのかなあ、と思い、ページ冒頭に
書かれていたのは、この「スナーク」とはルイス・キャロル
の詩なんだそうで。

いきなりはじめから、関沼慶子という女性が、散弾銃を持って
結婚式場に・・・という、おだやかじゃないですね。

慶子は、釣具店へ出向き、釣りのおもりに使う鉛の板を購入。
釣りにあまり興味の無さそうな若い(お嬢さま風の)女性が
鉛の板なんて・・・と訝しがる、釣具店の店員、織口邦男。
同じく店員の修治は、この女性に興味を持ったらしい様子。

邦男は、慶子が散弾銃を持っていることを知り、なんと、その
銃を奪おうとするのです。しかし、修治にはその銃で何をする
つもりかを悟られる恐れが。

慶子は、なぜ昔の恋人の結婚披露宴の式場に銃を持っていくのか。
邦男は、なぜ銃を奪おうとするのか。

だいたい、ここまでが全体の3分の1くらいで書かれていて、
これ以上説明してしまうと、けっこうなネタバレになってしまう
ので書けないというもどかしさ。

邦男は、修治に夜行列車に乗って出かけると「嘘」をついてまで
慶子の銃を奪おうとするのですが、この”夜行列車”というのも
重要なキーワード。邦男は”ある裁判の傍聴”に出かけるのです
が、その裁判とは・・・

各登場人物の過去と現在が、説明過多にならない、かといって
情報が少なすぎもない、というギリギリのラインで描かれていて、
このバランス配分は相変わらずお見事。
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ジョン・グリシャム 『最後の陪審員』

2011-03-21 | 海外作家 カ
こういっては何ですが、移動しなくていい、あまりお金をかけない、
それでいてけっこう時間を費やす、一人で楽しめる、読書という習慣
があって、ここ数日は助かりました。
まあ、ちょっとした現実逃避にもなりますしね。

それよりなにより、家に未読本がけっこうたくさんあったことが
良かったというか。

時は1970年、アメリカのミシシッピ州フォード郡で、ある
残忍な事件が発生。この地に住む未亡人ローダが、深夜、何者
かに家に侵入され、暴行され刺殺されます。
恐ろしいことに、その一部始終を残された2人の子どもたちが
見ていたのです。
騒ぎを聞きつけた隣の家の住人が向かうと、そこには血まみれの
ローダが。そして「やったのはダニー、ダニー・パジット」と
いう言葉を残して、命を落としたのです。

すぐに警察か駆けつけて、近くに車内にいた返り血を浴びたダニー
を逮捕。子どもたちは親戚の家に。

この事件が起こる少し前、メンフィス出身で北部の大学を卒業した
ばかりのウィリー・トレイナーは、祖母から借りた5万ドルで、
フォード郡にある小さな新聞社を買い取ります。
小さな街ではちょっとした”ニュース”となり、それまで赤字続き
だったこのタイムズをてこ入れし、発行部数を増やそうと試行錯誤
していた時期に起きたのがローダの事件。

この地域にはある”聖域”があり、それは逮捕されたダニーの一族
のパジット家が、長い間、裏に表に手を回して違法な商売を続けて
(権力)を持っていたのです。住民は苦々しく思うものの、警察も
パジットの手によって腐敗しているありさま。

これはもう、ダニーは死刑に間違いない、これを皮切りにパジット
家の裏支配からこの街が解放されると住民は裁判の話題で持ちきり。

そして、陪審員の選定に入ることになるのですが、なんとその中に、
一人の黒人女性が。全米じゅうが公民権運動の嵐が吹き荒れるこの
1970年代でも南部のミシシッピ州はいまだに差別意識が根強く、
この陪審員に選ばれたカリア・ラフィンという女性は、以前タイムズ
で、子どもたちをみな大学に進学させ、彼らは教授など立派な職に
就いているというラフィン家を取材したことがあり、ウィリーが個人的
に仲良くしていたのです。

当然、被告側弁護士ウィルバンクスは、あからさまに差別は口にしな
いものの、黒人で女性は被害者に同情的という理由で陪審から外そうと
しますが、最終的に12人の陪審員のひとりにカリアは選ばれます。

小さな街が大騒動の中、裁判ははじまります・・・

しかし、いまだかつて、どんな悪行でも、捕まったことのないパジット
一族。あらゆる汚い手を使ってダニーの死刑回避を企てますが・・

相変わらずといっては法廷サスペンスの巨匠に申し訳ないですが、裁判
の緊迫感は読んでいて手に汗握るほど。
そして、物語後半になって次々に起こる事件。法廷の内でも外でもドキドキ
しっぱなしで、寝しなに読むには途中でやめられなくなりオススメできません
(寝不足覚悟の上でなら、どうぞ)。
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秦建日子 『推理小説』

2011-03-20 | 日本人作家 は
普段は私事は書かないのですが、私の住む千葉県北東部は
地震発生から停電と断水になり、翌日の昼には電気が、水
は5日後にようやく復旧して、まあそれからも何やかんや
と忙しく、ブログの更新をしばらく放置してしまいまして、
この「To Read, or Not To Read, That Is The Question」
を楽しみにしてくださっている方(がいるかどうか分かりま
せんが)、まあそういった事情がございましたのでご了承
くださいませ。

ブログ更新をサボっていた間に4冊読みましたので、
今日から4日間連続で投稿させていただきます。

この秦建日子という方、テレビや舞台方面では知られた方の
ようで、途中まで読んでいて気付いたのが、この小説は、篠原
涼子さん主演のドラマ「アンフェア」の原作だったのですね。

都心の公園で、会社員と女子高生が殺されているのが発見され
ます。警視庁捜査一課の女性刑事、「無駄に美人」な雪平夏見
とそのパートナーの安藤は現場に向かい、そこに落ちていた

「アンフェアなのは、誰か」

と書かれた本の栞を見つけます。

犯人の素性も、犯行の目的もまったくわからないまま、第3の
事件が起きます。それは、ある文学賞の授賞式で、編集者の
飲んだグラスに毒が仕込んであり、それを飲んだ編集者は死亡。
そして、現場にはまたもや

「アンフェアなのは、誰か」

の栞が・・・

混迷の中、ある出版社に、原稿が送られてきます。それは、この
事件の関係者どころではなく、犯人しか知りえないような情報が
小説形式で書かれたもので、なんとこの作者は、とんでもない高額
でこの小説を落札せよ、と要求してきたのです・・・

物語は、犯人と思しき者あるいは疑わしい者、その近辺の人たちの
側の視点、それから本筋での捜査する刑事側の視点が並行して進んで
いき、ちょっと小説の「枠(わく)」を超えた、面白い描写をして
います。
全体はそんなに長くはないのですが、その中にも雪平の背景やその他
登場人物の描写もしっかりと描かれていて、隙間無く詰め込まれた、
収納上手、といった感じですね。
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ローレン・ワイズバーガー 『プラダを着た悪魔』

2011-03-07 | 海外作家 ラ・ワ
自分の中で決めた(まあどうでもいいたぐいの)ルールとして、
日本の作家の小説、海外の翻訳小説と交互に読んでいくという
のがありまして、さらに、同じジャンルもなるべくなら連続は
避けます。というのも、気が滅入ってしまうようなミステリー
を読んだあとまた陰気なミステリーだと、どうしても読む気が
うせてしまうのですね。あと、日本と海外を交互、というのは、
まあかんたんにいえば気分転換。

ですがたまに、そんな単純なルールを破ってしまうほど、書棚
に並んだ未読本の中に、たまらなく惹かれる作品があったりする
わけです(自分で買っておきながら)。

前に読んだのは、海外ミステリ。とくれば今回読む「べき」作品
は国内の、ミステリは避ける。という不文律は・・・まあ置いと
いて。

正直、この本を見つけるまで『プラダを着た悪魔』に原作の小説
があったことを知りませんでした。映画はすでに見ていて、あの
ファッション雑誌編集長演じるメリル・ストリープの印象があまり
に強烈で、さてじっさい原作を読み始めてみると、ううんなるほど
さすが名女優、ファッション誌(ランウェイ)編集長、ミランダ・
プリーストリーを見事に立体化再現しましたね。

物語は、大学を卒業し、文章を書く職業を希望しているアンドレア
が、とある雑誌社に面接に行くと、面接官から、ファッション誌
(ランウェイ)編集長のアシスタントを勧められます。しかしそれ
は口実で、ランウェイの編集長、ミランダのアシスタントは採用さ
れてはすぐ辞める、過酷な現場だったのです。
しかしアンドレアには、アシスタントを一年勤めれば、第一希望の
雑誌編集に就かせてあげると”いいくるめ”ます。

かくして、それまでファッションに興味をまるで持っていなかった
アンドレアは、「アメリカじゅうの百万の女の子の憧れ」である、
ミランダ・プリーストリーのアシスタントとなったわけですが、初日
から、シニアアシスタントのエミリーから、アンドレアのダサダサ
な格好をなじられ、着替えさせられます。
そして、アシスタントの仕事内容とは、コーヒーを買いに行かされる
のですが、決まったカフェの決まったメニューでなければならず、
ちょっとでも遅れてコーヒーが冷めるとまた買いに行かされ、ランチ
もどこそこの何というお決まりのメニュー、クリーニングを家まで
届け、毎朝、決まった新聞と雑誌をデスクの上に並べ、あげくミランダ
の家族(夫と双子の娘)のケアまでしなければならず、毎晩遅くまで
ミランダからかかってくる携帯電話の着信に怯え、開放されるのは
日付の変わるちょっと前、それでも翌朝は7時までにオフィスに着いて
いなければならず・・・

その要求たるや、「前に新聞に出てたレストラン調べといて」「車で
通ったときに見かけた64丁目辺りの店を調べといて」などと、無理難題
をふっかけてきます。しかし口答えや聞き直すのはご法度。
アンドレアはなんとしてでも一年間、アシスタントを続け、自分の希望する
雑誌編集に移るべく、恋人や友人との時間を犠牲にしてまでもアシスタント
を最優先します。

いっそのことミランダを殺してしまおうとアンドレアは何度となく思う
のですが、果たして気に入られる優秀なアシスタントになれるのか・・・

作者のローレン・ワイズバーガーは、大学卒業後にファッション誌
(VOGUE)の編集長アシスタントとして勤務経験があったそうで、
つまりミランダは、VOGUEの編集長がモデル?などと噂されたそう
です。

正直、女性のファッションには疎いですが、それでもじゅうぶん楽しめ
ました。特にユーモアの描写は素晴らしいですね。
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パトリシア・コーンウェル 『死因』

2011-03-03 | 海外作家 カ
この作品は、ヴァージニア州検屍局長の女性、ケイ・スカーペッタ
と、はじめの頃こそいがみあっていたのに、回を重ねるにつれて
以心伝心、とまではいかないまでも良きパートナーとなった、リッチ
モンド市警察警部のピート・マリーノ。
そして、ケイの姪で、天才的なコンピュータ頭脳の持ち主で、現在
はFBIに所属するルーシー。
いちおうは、ケイを中心として、この3人を主軸にシリーズは続いて
きているのですが、シリーズ第1作目では、まだルーシーは、ほんの
ティーンエイジャーで、やがて大学を卒業、FBI職員となったので、
この『死因』(7作目)までに、およそ10年が経過したことになる
のですが、その時間経過を感じさせるものは、ルーシーくらいなもの
で、ケイやマリーノに関しては、基本あまり変わっていません。

海軍の造船所跡で、ダイバーの死体が発見されます。この地域は潜水
禁止であったのですが、このダイバーはケイも知っているジャーナリスト
で、どうやら何かを探そうとして、不慮の事故に遭った模様。しかし、
検屍にかかってみると、他殺の可能性も出てきます。

ところで、なぜケイが海軍の造船所跡という海辺にいたのかというと、
ヴァージニア州のチェサピークという地域を管轄する検屍官のドクター・
マントが所用でイギリスへ行っているために、代理でチェサピークに
来ていたのです。

地元とは違うので、ずいぶんと勝手が違うのは当たり前ですが、それに
しても、海軍のグリーン大佐や、地元警察のローシュ刑事は、なにかと
ケイの行動に”ちょっかい”をかけてくるのです。

ケイが滞在しているのはマントの家で、そこにルーシーとマリーノも
来るのですが、その夜、何者かが家の周りをうろつき、車をパンクさせ
ます。

招かれざる客となってしまったケイ。死んだジャーナリストの自宅を
捜査してみると、そこにはおびただしい数の銃器、そして、なぜかカルト
教団の本が・・・
そのカルト教団の本拠地は、なんと、ジャーナリストが死亡した湾がある、
チェサピークだったのです・・・

初期の作品は、ケイの検屍がきっかけで、というかそれこそが重要な
ポイントで犯人を追い詰める、というカタチだったのですが、やがて
犯罪のスケールも大きくなってゆき、今作では、ジャーナリストの
死因が事故ではなく他殺だとケイが発見する、ところまではいいのです
が、そのあとの展開としては、狂信カルト集団対FBIという大掛かり
なものになり、こういってはなんですが、飛んだり撥ねたりのアクション
エンタテインメントは他でもじゅうぶん楽しめますので、この検屍官ケイ
シリーズは、派手な展開ではない、じっくりと読ませる医学系ミステリー
のほうがいいですね。


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