晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

佐伯泰英 『吉原裏同心(十八)無宿』

2021-04-30 | 日本人作家 さ
何度か当ブログでも書いていますが、去年から通信制の大学で勉強をはじめて、無事に2学年に進級できまして(手続してお金引き落としされただけって話ですが)、これから本格的に勉強をしていかなければならないので、先月と今月のような投稿の回数(ひと月に5~6回)はちょっと難しいですが、まあちょっと時間ができたり息抜きに読書をしたいのでちょびちょびと読んで投稿できたらなと。

そんなこんなで。

「吉原裏同心」シリーズの18巻です。ざっとおさらいを。九州の某藩の下級家臣だった神守幹次郎は、上役に嫁いだ幼馴染の汀女といっしょに脱藩します。追っ手が来ますが、じつは幹次郎、若いころに旅の侍に薩摩示現流の手ほどきを受け、追っ手をやっつけます。そうして日本各地を流浪し、流れ着いた先は江戸の吉原。自治組織の会所頭取に剣の腕を見込まれ吉原の用心棒にスカウト、汀女は読み書きや俳句の先生に。

時は寛政、江戸には地方から浪人がやって来て治安が悪化。そこで当時の火付盗賊改方長官の長谷川平蔵が、無宿者や軽犯罪者に職業訓練、自立支援の場つまり更生施設を設けようと老中松平定信に提案します。そしてできたのが、大川(隅田川)河口の石川島の人足寄場。

幹次郎は朝稽古に行こうとして浅草の観音様近くを通ったときに、怪しげな雰囲気のふたりの男とすれ違います。殺気はないのでそのまま通り過ぎたのですが、稽古の帰りに質屋が襲われて金を奪われ一家皆殺しという凄惨な事件があったと聞き、ひょっとして朝方にすれ違ったあのふたりと思い、町方同心に報告します。
こうした凶悪犯罪人は大金をせしめると吉原に繰り出して豪遊と分不相応な振る舞いをすることが多く、それで(足が付く)ということもままあるのですが、吉原会所も警備を強化します。

それとは別に、幹次郎が薄墨花魁と話していると、どこからか視線が。何者かわかりません。のちに、薄墨に手紙が、どうやら相手は薄墨が武家の娘ということを知っているよう。幹次郎が訪ねると、この手紙の送り主は薄墨に恨みがあるようなのですが・・・

質屋を襲った凶悪犯、さらに薄墨を狙う謎の男とふたつの問題がある中、おめでたい話も。かつて遊女だった(おいね)が訪ねてきます。吉原時代は(萩野)と名乗っていて、砂利場の七助親方に落籍されて夫婦となりますが、吉原の茶屋で祝言を挙げたいといい、その準備に会所の人間も汀女も幹次郎も手伝うことに。

今作の『無宿』というと、鬼平ファンは「相模無宿の彦十」を連想すると思うのですが、「人足寄場」でも触れているように、ちょうと時代的に「鬼平犯科帳」と「吉原裏同心」は同じ寛政年間。平蔵さんや息子の辰蔵、岸井左馬之助や木村忠吾、小房の粂八や五郎蔵おまさ夫婦などと幹次郎と汀女がどこかですれ違っていたかもと考えるとたまりませんね。
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宮部みゆき 『希望荘』

2021-04-25 | 日本人作家 ま
気が付いたらもう今年の3分の1が終わりそうです。充実したかというとあまりしてないし、じゃあ不満だったかというとそれもないし、攻めも守りもせず、ただ流れていた、そんな4か月でしたね。まずそれができる環境というのが有り難いんですけどね。

近況報告。

さて、宮部みゆきさん。今作の『希望荘』は、杉村三郎シリーズの3作目「ペテロの葬列」に続く4作目。

3作目を読んでない、いやこのシリーズをまだ読んでないという方には申し訳ありませんが、豪快にネタバレをぶっこまさせていただきますと、杉村は今田コンツェルンの会長の娘と離婚し、会社を辞めます。娘は母親が引き取っています。さて杉村さん、三十代後半で晴れてバツイチ無職となったわけでありますが、なんと探偵業をはじめることに。

といっても、もともと小さな出版社の編集者から転職して大企業の社内報を作ってきたという経歴の杉村が、ツテもコネもなくいきなり「探偵会社はじめます」などといっても難しいわけでして、その経緯は後で出てきますが、(まともな)調査会社の「オフィス蛎殻」というところから下請けがメインで、さらに杉村自身が調査する(探偵業務)と並行して、というかたちで独立開業します。

そんな杉村のもとにご近所が依頼を持ってきます。その内容とは、幽霊話。それはアパートに住んでいて亡くなったおばあさんで、(亡くなった)とはいっても、管理人に「家賃が払えない、もう生きていかれない」と電話で言い残して部屋からいなくなっていたそうで、ということは、おばあさんが確実に故人であるとはいえず、不動産会社に聞いてみると、アパートに入居する前はホームレスになる寸前の様な状態だったそう。で、話のよれば、娘がいるけどカルト宗教にはまって金をせびるようになり、定期預金も下ろされ、さらに年金受給口座のキャッシュカードも取られ、つまり「逃げてきた」ようなかたち。
杉村は、さっそくおばあさんの娘に会いに前におばあさんが住んでいたアパートへ。すると中には3人の女性が。娘ではありません。聞けば「わたしたちはスターメイト」と言い、部屋には(銀河の精霊)(アトランティスの聖女の御言葉に耳を傾けよ)などと胡散臭さ満載で・・・という「聖域」。

次の依頼は、老人ホームに入居していてつい先日亡くなった父親の息子からで、依頼内容は、父が生前「人を殺したことがある」と告白した、というのです。息子は都内でレストランを経営していて、その息子が父から直接聞いたわけではなく、担当の介護士が父といっしょにテレビを見ているとワイドショーで殺人事件の話題をやっていて、すると「俺はよく知ってる、そんなつもりはなかったんだけど、つい頭に血がのぼって手を出しちまった・・・」と話したというのです。はじめはドラマの見過ぎで自分の過去と混同しちゃってるのかなとも思ったそうですが、真相も聞けずに亡くなってしまいます。息子から聞いた父の情報と、父と介護士の会話の中から、父の(告白)した事件が起きたおおよその年代がわかり、殺人事件を調べますが・・・という表題作の「希望荘」。

新宿駅で「杉村さーん」と声をかけられます。杉村も「店長、お久しぶりです」と答えます。(店長)こと中村さんは、杉村の実家のある山梨県某市の地元農産品の直売店(なつめ市場)の店長。杉村は、離婚と退職をして、杉村の父親が病気でもう長くないということで看病も兼ねて実家に戻ります。そこで(なつめ市場)で働くことに。そんなある日のこと、地元で蕎麦とほうとうの人気店(伊織)の店主夫婦が注文の品を取りに来ません。(伊織)に行ってみると、中には妻だけがいて、様子がおかしいので聞いてみると「夫が不倫をして出て行った」と言って気絶します。
後日、杉村は配達にでかけます。配達先は(蛎殻様)という別荘に滞在している人で、杉村が注文の品を届けると、「どうも、蛎殻です」と出てきた家主はまだ若く、「杉村さんにお会いしたかった」といいます。はて、どういうことかと思ってると、蛎殻は東京で調査会社を経営していて、じつは(伊織)の夫婦の件の調査を受けようとしていて、そこで蛎殻は杉村のことを調べ、協力してほしい、というのですが・・・という「砂男」。

そんなこんなで、東京に戻って「杉村探偵事務所」を開業したのですが、東日本大震災から2か月が過ぎ、「希望荘」に出てきた依頼人の高校生の息子の知り合いという女子高生がやって来ます。依頼内容は、母親の付き合ってる人が震災以降、行方がわからない、というもの。前日に「東北に行く」と言い残したそうで、彼はアンティークショップを経営していました。店は現在、バイトが管理していて、さっそく行って話を聞くと、店長には名古屋に兄がいて、その兄から店のことをいろいろ指示されているよう。なにはともあれ、その(お兄さん)に会うことに・・・という「二十身」。

杉村三郎は、今作で探偵業をはじめることになったので、今作より「探偵もの」というカテゴリになるのでしょうが、もともと杉村は探偵になりたかったわけでもありません。ただ過去3作で、本人が望む望まないに関わらず「厄介ごとに巻き込まれる」というか「巻き込まれやすい」ということがどうやら認めざるを得ないとようやく決心したといいますか。
このシリーズはこれで完結ではなく、続編が出ているようなので、またネットショップで注文しますか。
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宮部みゆき 『ペテロの葬列』

2021-04-22 | 日本人作家 ま
去年から世界中を取り巻くこの状況下で、世界の片隅のそのまた隅っこではありますが、なんとなく「時間」というものを真剣に考えるようになりました。まず、当たり前ですが「人生は永遠ではない」ということ。世間でいうところの「人生の折り返し地点」も過ぎ、「残り時間」というものがうっすらと見えてきて、じゃあもう他人に迷惑をかけないレベルでやりたいことをやっていかないと間に合わないんじゃないかということで、じつは通信制の大学に入学したのもそういうわけ。

あとはあれですね。若いころは「なにごとも経験」と思ってましたが、大切な残り時間、ファーストインプレッションで「あ、自分の人生に必要ない」と決めたらなるべく避けてく方向で。避けられない状況でも最低限に抑えて、例えば仕事とか。

そんな与太話はさておき。

この作品は、「杉村三郎シリーズ」の3作目。前回2作目の「名もなき毒」を読んだのが8年前、ずいぶんと間をあけました。

タイトルの「ペテロ」とは、イエスキリストの使徒のひとりですね。英語読みだと「ピーター」ですね。スイスだと「ペーター」ですね。ハイジの友達。

「今田コンツェルン」会長の娘婿の杉村三郎は、グループ会社の社内報の編集という仕事をしています。はじめはなにげなく調べようとしていたものが掘り下げていくうちに現代社会の闇みたいなものが見えてくるといった感じの過去2作。

杉村は編集長といっしょに引退した元役員の自宅へ出向いてのインタビューの帰り、バスに乗ってると、年配の男が運転席に近づきます。「走行中は立ち上がらないでください」と注意書きがしてあるのに、まったくもう、と他の乗客が思ってると、いきなり拳銃を取り出します。映画や治安の悪い外国ならここで「手を挙げろ!」となりますが、老人は「静かに座っててください」とおだやか。この老人、自分は強盗ではない、金が目的ではないというのです。そして運転手に、バスの路線の途中にある閉鎖された工場へ行ってくださいと命令、ではなくお願い。

バスの周りを警察に囲まれると、老人は3人の名前を挙げて「ここに連れてきてほしい」というのです。さて、このバスジャック事件、意外とすんなりと解決してしまいます。しかし、この老人は、たまたまこのバスに乗り合わせた不運な客、いちおう「人質」にですが、とても奇妙なことをお願いします。それは「みなさんに(慰謝料)を受け取ってほしい」というのです。

それはいったいどういうことか。杉村はこの老人、そして老人が「連れてきてほしい」といった人物を調べることに。事件が解決する前に編集長がバスを降りる際に老人と交わした「あなたみたいな人、知ってる」「それは申し訳ない」という謎の会話の意味が分かってきます。

この作品の内容も「現代社会の闇」なのですが、方法こそ違いますが、現代だけではなく過去にも、人間が「社会」を形成しはじめたときからあったものだと思います。そして、どんな立派な人でも善人でも、一歩間違えばその「闇」に足を踏み入れることになるかもしれない。

なんといいますか、ラストに杉村に関することで「えっ!?」となりますが、過去2作よりもそういった人間の弱さをさらにこれでもかと描いています。
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垣根涼介 『狛犬ジョンの軌跡』

2021-04-14 | 日本人作家 か
ここ最近、というか去年あたりから、テレビをあまり見てません。テレビというかニュースですね。つけても気の滅入ることしかやってないので、基本は旅番組か動物もの。どうせなら、明るい話題、ほのぼの話題しかやらない専門チャンネルというのができたら人気になるんじゃないですかね。

痛烈なメディア批判をしたところで。

さて、垣根涼介さんです。クライムノベルを書いたと思ったら、リストラ請負人とOLの話もあり、最近では歴史小説も書かれてるみたいですね。で、この作品はというと、動物もの。
といっても、絵描きになりたい貧乏な少年が雪の夜に大聖堂の絵画の前で犬と一緒に息絶える的なやつではありません。

建築士の太刀川要は、ドライブで都内から千葉の銚子へ。すると、車道に何かが出てきて、ブレーキを踏んだのですが間に合わなくてぶつかったよう。車から降りてみると、そこには大型犬が。人間ではないからひき逃げにはならないだろうとは思いつつも、いちおう付近の動物病院を調べますが真夜中に開いてる所は無く、(ダメもと)で人間の病院の夜間救急に行きますが、案の定断られます。ここで朝になるまで待つよりも東京に帰った方がいいと思い、後ろのシートに乗せて、自宅の近くの動物病院に連れていきます。

すると獣医が、この犬の犬種がよくわからないというのです。一見マスティフ系とも思えるけど、ロットワイラーかレオンベルガーか・・・

とりあえず入院ということになったのですが、不思議なことが。この犬が病院に来た時から、病院にいたほかの犬や猫がものすごく鳴くのです。獣医から電話があり、ちょっとこのままだとまずいので、こちらから診察に行くのでご自宅で面倒見てもらえませんか、といわれて、一軒家の貸家住まいなので、空いている部屋にケージを置いて、そこに寝かせます。

とりあえず名前を決めなきゃなあということで、ジョンと命名。

傷の治りが極端に早い、動物病院内だけでなく、散歩に連れて行くときも他の犬がぎゃんぎゃん鳴く、といった不思議な現象はあるものの、エサも食べてくれるし、散歩もどうにかできるようになります。そんなある日のこと。週刊誌を読んでいると、そこに「深夜の惨劇、黒い幽霊犬」という見出しが。中を読むと、銚子に車で行ったあの日の夜、「犬のような」大型の動物が3人の少年を襲い、2人が死亡、1人が重傷、とあります。

これはもしかしてジョンの仕業なのか。そもそもジョンの正体は・・・

と、こんな感じで書くとまるでディーン・クーンツのホラーかスリラー系のようですが、主人公の建築士がジョンと暮らすことによって心境の変化といいますか、他人との向き合い方みたいなものがだんだん変わってゆきます。主人公は人間嫌いでまったくの孤独というわけではなく、恋人もいます。恋人との話、建築士の仕事の話といった人間模様から、合い間に(犬の視点)の話が差しはさまれて、といった構成。
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宮部みゆき 『あんじゅう 三島屋変調百物語事続』

2021-04-09 | 日本人作家 ま
いつのころからか、たぶんまだ二十年は経ってないと思うのですが、桜の花が満開を迎えるのが三月の中旬ぐらいになってしまいました。あ、これは関東南部の話です。思えば昭和の時代は、学校の入学式、というと四月の第一週あたりですか、その前後に満開を迎えてたような記憶が。
そのうちどんどん早まって、桜の開花が節分あたりになる日が来るかもしれません。
あとはここ最近、東京で雪が降るのはけっこう珍しく、たまに降ったかと思えばドカ雪で交通がマヒしてしまったり。昭和くらいまではけっこう降ったりしてましたっけ。でも江戸時代は、それこそ忠臣蔵なんかは、旧暦の師走、あとは桜田門外の変、あれは旧暦の三月、東京になってからも二二六事件は雪ですね。

地球温暖化に警鐘を鳴らしたところで。

宮部みゆきさんです。この『あんじゅう』は、「おそろし」という作品の続編で、その前作がいったいいつ読んだのやらと記憶のかなたで、当ブログで検索したら、約九年前。

ざっとあらすじ。
江戸、神田に「三島屋」という袋物屋さんがあって、そこの主人の伊兵衛の姪にあたるおちかが三島屋に住むことになります。おちかの実家は川崎の宿屋で、そこであるトラブルというか、恐ろしい体験をしたせいで心を閉ざしてしまい、家にいられなくなり、親は娘を江戸にやって気分転換でもさせようとします。
おちかは三島屋の主人と奥さん、女中や番頭からお客さん扱いされることをきらい、積極的に家の仕事を手伝います。

おちかの経験した「恐ろしい体験」は、別におちかに落ち度というか非があったわけではないのですが、おちかは自分を責めて、他人の辛い体験を聞くことで自分も過去の忌まわしさと向き合うことによって、少しずつ快復できるようになるのでは、と感じた伊兵衛は、ちょっと変わった「百物語」をしよう、と決めます。

といった感じ。

さて、今作では、ある店の番頭と小僧がやって来て、店での悩みを聞けば「水が逃げるのです」と意味不明なことを告げます。さてどういうことか。井戸からも水瓶からも花活けからも小僧が来てからというものの、空っぽになってしまうというのです。そんな手品みたいなことあるんかいなとおちかが不思議に思ってると、小僧は「お旱(ひでり)さん」の仕業だというのです。じっさい、三島屋でも、鉄瓶の中の湯が無くなったりします。話し合いの結果、小僧を三島屋で預かることに。小僧は江戸生まれではなく、上州の山奥出身で、じつはそこの奉公先でもあらゆる水が空になるというので江戸に寄越したそうなのですが、そもそもこの小僧の出身の村では「お旱さん」を祀る風習があって、小僧はその「お旱さん」の(ご神体)と会話をしたというのですが・・・という「逃げ水」。

三島屋の近所にある住吉屋という針問屋の娘がようやく嫁入りするとのこと。聞けば三十手前で、十代後半で嫁入りが普通のこの時代では「晩婚」どころの騒ぎではありません。その嫁入りの日、三島屋に挨拶に来た白無垢の花嫁をちらと見たおちかは驚愕します。これは住吉屋の娘さんではない。さらに、嫁入りを見ている人だかりの中にその娘がいるではありませんか。ではこの女はだれなのか・・・という「藪から千本」。

三島屋の新太という丁稚が、手習所で殴られたそうで、聞けば加害者は直太郎という友人で、複雑な家庭環境で心の病。直太郎の父親は火事で死んだのですが、その「空き屋敷」が怪しいと、おちかは塾の師匠に「百物語」の場を設けて話してもらいます。するとこの屋敷は前から誰も住んでいなかったようで植物は生えるがままの状態で、でも紫陽花が見事だったので「紫陽花屋敷」と呼ばれていたそうな。そこにがある老夫婦が住むことになったのですが、なにか生き物がいるような気配がすると・・・という「暗獣」。

塾の師匠の知り合いで偽坊主の行念坊が三島屋にやって来て、ある村を訪れた時の不思議な話をはじめます。いちおう修行僧の真似事をしていた行念坊は、とある山道で転げ落ちて、近くの村人に助けられます。その村には寺があって、そこの和尚の世話になることに。この村では和尚は本職の寺の住職としてはもちろん、庄屋でもあり代官でもあり医者でもあり、村人から崇拝されています。しかしある日、行念坊が田植えの手伝いに行くと、一枚だけ空白の田があるのに気付き、あれはなんで使ってないのと聞いても答えをはぐらかされます。そのすぐ後、寺に痩せ衰えた男が駆け込んできますが和尚は「連れ戻して二度と逃げられないようにしろ」というのです・・・という「吼える仏」。

これはあくまで想像ですが、例えば時代小説も書けば現代ものも書くしファンタジーも書く作家さんは、書きたいテーマがあってそのテーマに合う設定を決めたらそれが二、三百年前の日本つまり江戸時代というだけであって、特に「時代小説にしなきゃ」という強いこだわりみたいなものは無いように思うのです。あくまで想像です。
以前、ケン・フォレットの「大聖堂」のエピソードで、「書きたいテーマがあってふさわしい設定が中世だったので特にこの時代の話を書きたかったわけではない」というのを読んで、そうかなあと思いました。

「時代小説」となるとどうしても「難しいんじゃないの」「自分には敷居が高い」と、読書は好きなのに手を出さずにいるという方は少なくないと思います。そんな方には宮部みゆきさんの時代小説はオススメ。
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ジェフリー・ディーヴァー 『ソウル・コレクター』

2021-04-04 | 海外作家 タ
ここんところの投稿は「時代小説→ジェフリー・ディーヴァー」という流れが続いていました。しかしこの流れはこの投稿でおしまい。なぜなら去年ネットショップでまとめて購入した分はここまで。続きはまたいつの日か。
ちなみに次に読む本は時代小説、の予定。

この作品は「リンカーン・ライムシリーズ」の8作目。

ライムのもとに「お久しぶり」と訪ねてきた人物が。その人物とはいとこのアーサー・ライムの妻で、なんでもアーサーが殺人容疑で逮捕されたというのです。アーサーは「やってない」の一点張りで、妻は「そういえばいとこに鑑識の第一人者がいるじゃないの」と提案するも「リンカーンには伝えないでくれ」というのです。子ども時代は兄弟のように仲の良かったリンカーンとアーサー。しかし大学を卒業してからはずっと疎遠となってしまっています。
ライムは現在、イギリスに逃亡したと思われる犯人を担当していてそれどころではないのですが、(身内のよしみ)で関係者に聞いてみると、アリバイもなし、物的証拠もあるし、容疑者にとっては現時点で(100パーセント分が悪い)といった状態で、裁判になったら有罪は確実だから今のうちに「あっしがやりやした・・・」と自首すれば多少の減刑はあるだろうと弁護士のありがたいアドバイス付き。

しかし、この事件をまとめてみると、気がかりなことが。あまりに証拠が(そろいすぎているの)です。もっというと、容疑者の(条件があまりにできすぎている)のです。容疑者が何者かに濡れ衣を着させられているのではないか。

直近で似たような事件があるか調べていると、まさに今、強姦殺人の容疑者の男の家を包囲しているという情報が入って来て、これはひょっとしてと思い、アメリア・サックスは現場に直行し、容疑者とされている男に話を聞くと、被害者の女性も知らないし全く身に覚えがないというのです。現場から帰ろうとしたサックスは、自分の車にちょっとした異変があると気が付きます。すると銃を突き付けられます。
銃を突き付けてきたのは連邦麻薬取締局の捜査官で、付近でサックスの人相に一致する女性が麻薬取引をしていると通報があったというのです。

アーサーの件と今回の強姦殺人で共通しているのは、匿名の電話通報があったということ。男の声で「叫び声が聞こえた。現場から車が急発進した」というもので、さらに「ナンバーは・・・」と頭の数字(だけ)を伝えているのです。サックスの件もだいたい同じ。

捜査が進んでいくうちに、犯人は情報サービス会社から被害者と犯人(に仕立て上げる格好の人物)の情報を手にしているのではと思い、ニューヨークに本社のある(SSD)という会社があることを知るのですが・・・

前の事件でサックスと仲良くなったパムという女の子が登場するのですが、まるで娘のように思い心配をするサックスと、年頃ならではの悩みや問題ありのパムという、こちらの「人間ドラマ」も、本筋の恐ろしい話の合い間にちょいちょい出てくる、別な意味で「読ませる話」。

当ブログでたびたび言及していますが、海外、特にアメリカのミステリのシリーズものは回を重なるごとに敵側がパワーアップしていってもはや人間レベルではなくなるという問題があって、検屍官ケイ・スカーペッタシリーズなどはまさにこれで、ケイの恋人のFBI捜査官が殺された件の犯人は「催眠術だか心理学だかで容易に他人を操れる」という(なんでもあり)状態。

まあ、それをいってしまうと、リンカーン・ライムの鑑識能力も「神がかり的」なんだけどそれはどうなんだって話ですが、今作の(敵側)も「なんでも知ることができる」という恐ろしい相手だったのではありますが、コンピュータの情報システムの「悪用」という側面があるので、もちろんエンターテインメント性を考えてオーバー気味といいますか、さすがに現実にはそこまではないでしょとは思いますが、情報を悪用すれば神にも悪魔にもなれるという警鐘もあって、楽しめて考えさせられるといった読書の醍醐味を味わえた一冊でした。
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