晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

伊園 旬 『ブレイクスルー・トライアル』

2010-11-28 | 日本人作家 あ
この作品は、第5回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞、
「このミス」といえば、歴史は浅いながらも、浅倉卓弥、海堂尊
といった、すでに売れっ子作家を輩出していますね。

過去の大賞「四日間の奇蹟」や「チームバチスタの栄光」を読んだ
ときのような「衝撃!」とまではいかなかったですけど、この
『ブレイクスルー・トライアル』は、デビュー作とは思えないほど
レベルの高い作品です。

北海道の、町から離れた周りに何もない場所に、5回建ての真四角
なビルがあります。
このビルは、あるIT企業の研究所施設で、あらゆる最新技術を
駆使して、何人たりとも侵入を許さないというハイテク建造物なの
です。

そのIT企業はゼッタイの自信からか、このビルに侵入し、4階に
あるマーカーを持ち帰ってくれば、なんと賞金1億円というビッグ
イベントが開催されることに。

この大会の主催企業であるセキュア・ミレ二アム社員の門脇は、
大学時代の友人だった丹羽と再会、この大会の参加を持ちかけられ
ます。
関係者である門脇は、大会に参加するべく退社し、システム管理の
知識は群を抜いてる知人の協力を得て、万全の体制で大会に臨むの
ですが・・・

門脇、丹羽チームの他にも、IT企業チーム、そしてなぜか、宝石
強盗グループも参加することに。

はたして、どのチームが究極のセキュリティを突破できるのか・・・

ハラハラドキドキの展開、スピード感、複雑な建物内を上へ下へと
駆け巡るということで、かなりの描写テクニックが要求されるところ
ですが、途中で分からなくなることもなく、とても緻密。

門脇の話、丹羽の話、別の参加グループの話、研究所管理人の話など
がところどころ絡み合って、そんな相関が面白いのですが、もうちょっと
ページ数があればさらに充実されたのになあ。と感じました。

すでに第2作が出ているということで、楽しみです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

海堂尊 『イノセント・ゲリラの祝祭』

2010-11-25 | 日本人作家 か
そういえば先日、新聞に「作家」としてというよりは「医師」
として海堂尊が、検死の死後画像診断の必要性について語る
記事があり、紙面にてはじめてご尊顔を拝したわけではあり
ますが、この国の医療システムの不備(不備だらけですが)
を憂う、影響力のある現役医師がなんとか改善させようとし
ているその姿勢は、いちファンとして応援します。

「このミステリーがすごい!」第4回の大賞に選ばれた「チーム
バチスタの栄光」をはじめて読んで、まさに、このミステリーは
すごい!と唸ったのは記憶にあたらしく、そこからさらにガンガン
と、愚痴外来の田口医師&厚生労働省のロジカルモンスター白鳥
コンビのシリーズに魅了され、そして、スピンオフ作品も楽しめて、
長い間、落ち葉や泥がたまるにまかせて詰まってしまっていた川の
掃除をして、ふたたび流れを取り戻したようなスッキリ感もあり
ますが、その「蓋」を開けたことによってさらに大きな堆積物が
あるという現実を知らされる・・・この国の医療システムの問題
点は底なしなのではと悲観してしまいそうになるのですが、流麗
な文章力で、とりあえず読んでいる最中は物語に没頭できます。

今作では、不定愁訴外来(患者の愚痴を聞く)責任者にして、
東城大学リスクマネジメント委員会委員長という、本人の希望
で得たわけではない肩書きを持つ医師の田口が、とうとう、医療界
の本丸、厚生労働省へと乗り込むことに。

といっても、これも田口の意思あってのことではなく、裏で
田口を呼び寄せたのは厚労省の役人で鼻つまみ者、白鳥の差し金
だと気付いた時には遅し、田口は「医療事故調査委員会」という、
ご大層な集まりに出席することになります。

折しも、田口の住む桜宮市で、ある宗教団体が絡む死因の特定しに
くい遺体に関して、検死官が心不全と診断するも、疑心を抱いた遺族
が警察に再検死を頼み、なんと亡くなった12歳の少年は、大量出血
による外傷性ショック死、つまり死ぬまでボコボコに殴打され続けた
ということだったのです。

これに関連して、死後画像診断を推したい側、病理学会、法医学会の
それぞれの主義主張のぶつけ合い、これを良質のパフォーマンスと
して国民に「我々は日本医療の未来を考えてますよ」という姿勢だけ
見せたい厚労省の官僚、こんな人たちでは、話がまったく進みません。
しかし、白鳥にはどうやら「奥の手」があったのです・・・

しかしそれにしても、この国の医療現状は惨状といってもいいですけど、
こうしたほうがいいのにというアイデアも、役人たちがそれに関わった
途端に遅々として進まなくなります。というのも、彼ら役人の第一義は
予算、次に自分たちの退官後のポスト(天下り先の確保)、三、四が
なくて、五にメンツ、彼らの脳には微塵も「国民の利益」はありそうに
ない、というか。

相変わらず、強烈に面白いです。しかしそれにしても、これが映像化
されると、配役が強烈にミスマッチなのは、どうしてなのでしょうか。
原作のファンは、「え、なんで白鳥があんなシュッとした俳優なの?
え、どうして田口が・・・」と感じたことでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宮部みゆき 『人質カノン』

2010-11-22 | 日本人作家 ま
たとえば、人から「本を読みたいのだけれど、どの作家から読み
はじめていいのやら」と尋ねられれば、短編にせよ、ミステリー
にせよ、SFにせよ、ファンタジーにせよ、時代小説にせよ、ど
んなジャンルも網羅してして、しかもそれらがいずれも「面白い」
とくれば、宮部みゆきをオススメしたいところ。

のですが、この『人質カノン』は、宮部みゆきビギナー(初心者)
には、ちょっと受け付けないというか、正直オススメはできない
のです。

というのも、短編集なのですが、表題作をはじめ全編にわたって、
「やるせない」「やりきれない」とでもいいましょうか、宮部みゆき
の真骨頂ともいえる、絶望の中からでも締めくくりには光明を見出せ
る作品もあるにはあるのですが、そのパワーがちと弱いというか。

もちろん、「面白くない」というわけではありません。短編であり
ながら物語構成や人物背景、描写はしっかりとしていて、ミステリー
ではありますが、陰惨と軽快さの中道といいますか、重くもなく
軽くもなく、作品としてもクオリティはいずれも高いとは思うので
すが、それにしても、テーマが「やりきれない」のですね。

宮部みゆきファンとしては、こういう作風もたまにはいいね、と
思うのでしょうけど。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スティーヴン・キング 『スタンド・バイ・ミー』

2010-11-19 | 海外作家 カ
去年あたりから読みはじめたキング、もっとも小説ではなく
キング原作の映画はずいぶん見ていて、映画を先に見たのなら
別に後になって本を読まなくてもいいだろう(ネタバレを先に
知っていれば驚きが半減してしまう!)とも思っていたのですが、
先日「グリーン・マイル」を読み、映画とはまた別な楽しみとい
いますか、新たな驚き、映画の出来が悪かった、というわけでは
なくとも(トム・ハンクスは素晴らしかったです)、原作の描写
のほうがより心に深く滲み入った場面もあり、一概に、原作を読
んでから映画を見るのが正しい順序というわけでもないなあ、な
どと自分に言い聞かせ、それなら、日本でも大ヒットした『スタンド・
バイ・ミー』を読んでみようじゃないか、と。

『スタンド・バイ・ミー』は、(恐怖の四季、秋冬編)に収められて
いる、キングの中編作品で、もうひとつの作品は「マンハッタンの
奇譚クラブ」という、こちらは短編の部類にはいるくらいの長さで、
「まえがき」によると、ホラー作家としての名声(名誉か不名誉かは
言及されてませんが)があり、ここにきて、中編ばかり4編集めた、
ふつうの小説を出すに至ったいきさつを書いています。

ただし、「ふつう」とはいっても、田舎の少年4人組が死体を発見し
に旅をする、という話の筋は「ふつう」の範疇ではないところが、ま
えがきに「これは恐怖小説ではありませんよ」とは書いたものの、そ
れでも人を食った仕掛けでもあるんじゃないの?と期待をした人を大
いに裏切るようなことはないところが、なんともユーモアですけど。

大人になり作家となったゴーディという男の少年時代の回想。メイン州
の片田舎で、仲良しの4人組、少年時代の自分、家庭に問題のあるクリス、
気性の荒いテディ、ちょっと行動と思考が遅いバーンは、ある話で盛り
上がります。それは、ある少年が仲間とはぐれて行方不明となり、その後
どうやら事故死したらしく、その死体がはぐれた森のどこかにあるという
のです。

自分たちの遊ぶテリトリーからは、歩いて20マイルも30マイルもある
森。でも4人は興味と好奇心に抗えず、庭でキャンプをすると親たちに
ウソをついて、その森へ死体を探しに旅に出るのですが・・・

1日に数本しか通らない電車の線路がかかる橋。これを渡らなければ遠回り
になります。一同おそるおそる渡っていたところに、ちょうど橋の中腹まで
さしかかったあたりで、耳をすますと、遠くから電車の音が。
森の入り口近辺に、ゴミ捨て場の管理をしている男と、獰猛な番犬がいるの
ですが、これを突破しなければならず、運悪く男と犬に見つかってしまう。
とまあ、少年たちの旅に出てくるイベントは、インディ・ジョーンズのような
大アクションは当然出てきません。途中、些細な揉め事も勃発しますが、
大人の視点では「なにをそんな小さいくだらないことを」でも、彼らに感情
移入して読むと、小さいことにいちいちムキになったり、くだらないことに
真剣に取り組んだりするのは、うんわかるわかる、とノスタルジック。

これが、たんなる少年時代の冒険物語であったら、正直さほど面白くは
なかったでしょう。というのも、大人になった4人組のうちのひとりが、
このことを、たんに懐かしんで書いている、ということではないからです。
大人と子ども、大人の中でもうちの親と他所の親、子ども同士でも自分と
友達、それぞれ違う立場があり立ち位置がある、それを、はっきりと認識
まではしなくとも味わった、その頃のビッグイベント、それが死体を探す旅
だったのです。

「マンハッタンの奇譚クラブ」は、日々の単調な生活にいささか「うんざり」
していた男のもとに、上司から、ある面白い集まりに来てみないかと誘われ
ます。妻は、どうせ大昔の戦争の武勇伝だのそういった「昔は良かった」的
な話を聞かされるだけとしらけますが、上司の誘いということもあり、男は
東35ストリート249Bの建物を訪れて、そこである医師の老人から、
とても奇妙な話を聞くのです。

こちらはなんというか『スタンド・バイ・ミー』とはうって違って、大人の
雰囲気漂う、窓の外は雪、暖炉の前のロッキングチェアに座って、ブランデー
入り紅茶でも飲みながら読みたいなあ、などと夢想を抱かせる作品。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

遠藤周作 『わが恋(おも)う人は』

2010-11-16 | 日本人作家 あ
遠藤周作の作品はそんなに多く読んでるわけではないのですが、
背表紙のあらすじ説明に「異色長編小説」とあり、確かにこれは
異色です。

雑誌記者の秋月美子は、原稿をもらいに、作家の別荘がある軽井沢
へと向かいます。そこで、作家と知り合いだという男を紹介される
のです。その男は、戦国時代の武将、小西行長の子孫だというのです。
歴史に疎い美子はそれに関しては興味を持ちませんでしたが、その男、
実業家の小西には別な意味で惹かれます。

そこで、ある面白い話を聞きます。それは、行長の娘たえは、九州の
対馬領主、宋義智に嫁ぐのですが、その後の関が原の合戦のさい、小西
家と宋家は敵味方となってしまい、義智はたえと離縁します。しかし
たえと義智は互いに深い愛で結ばれていたようで、離縁後も手紙の
やりとりがあり、そして、ふたりが大切にしていた雛人形を持ち分け
たそうなのです。

男雛のほうは、子孫である小西の家が代々持っていて、現在は小西の
姉が持っているとのことですが、宋家が持っていると思われる女雛の
ほうは行方知れず。それもそのはず、義智はたえと離縁後、あらたに
正室を迎えたのです。

こんなみやげ話を、美子は編集長に話すと、編集長は食いつき、雑誌で
失われた女雛の捜索の記事を載せるとはりきります。

何件かの問い合わせがあり、そしてとうとう、由緒も正しい、どうやら
本物らしいという連絡があって、美子はその女雛を400年ぶりに男雛
と再会させるために・・・

ところが、持ち主は、その女雛が家にきてからというもの、悪いことが
起こり、なんと女雛が夜中に笑っているところを目撃し、そして身内に
不幸があり、これはあの女雛のせいだと思い、新聞に包んで捨ててしま
ったというのです。

女雛を持った人、とくに女性につぎつぎと不幸がふりかかるようになり
ます。はたしてこれは女雛に乗り移ったたえの「祟り」なのか・・・

心理学セラピー、催眠療法、そして前世の記憶(輪廻転生)というアプ
ローチでこの謎を解明しようとするも、失敗におわります。
「前世の記憶」といえば、遠藤周作の名作「深い河」で扱われるテーマ
ですが、ちょっと取り扱いを変えるとオカルトとなってしまうところを
絶妙なバランスで恐怖を緩和させていますね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宮部みゆき 『日暮らし』

2010-11-12 | 日本人作家 ま
宮部みゆきは、ミステリーから短編からエンターテインメント
からファンタジーから、どっぷりとした恋愛モノはまだ書いて
ないのかな?とにかく、さまざまなジャンルの作品を提供して
楽しませてくれます。

その中でも、特に面白いと思うのが、時代小説。
歴史モノはちょっと・・・と思う方は、ぜひ一度読んでほしい。
とにかく「読みやすい」のです。

そして、時代小説がニガテな方は、おそらく歴史の授業を思い
起こさせるから・・・ということもあるでしょうが、宮部みゆき
の作品には、戦国時代のごちゃごちゃした相関だの、教科書で
お目にかかるようなスターは出てきません。
基本、舞台は江戸時代の下町辺り。そして登場人物は、現代で
いうところの大家さん(差配人)、岡っ引き、同心、さまざまな
職種の、市井の人々の暮らしの中に起こる、それこそ教科書には
載らない「些細な事件」を描きます。

携帯どころか電話がない、テレビもない、バスも電車もない、
そして、庶民は庶民というだけあって、みんな貧乏。
よって、現代とは比べようもないほど、人々が協力し合って
いかなければならず、繋がりも重要なのです。

『日暮らし』は、「ぼんくら」という作品の続編というか、同心の
平四郎、甥の弓之助、岡っ引きの政五郎、手下の“おでこ”といった
キャラクターが登場し、植木職人、煮売屋の女将も「出演」。

短編または中編の物語が描かれ、表題の「日暮らし」があって、最後に
締めくくりの短編、という構成になっていて、それぞれの話はうっすら
と繋がっているくらいで、途中までは脈絡もない、と思っていたのが、
最後にガシッとまとまって、「おお、スゴイ」と感嘆。

浅草で人気を博していた似顔絵売りが突然殺され、その手口から、素人
の仕業ではないと平四郎は読みます。
別な話。植木職人の佐吉は、死んだと聞かされていたはずの母親の存在
を・・・
そして、これまた別な話。気持ち悪い男に言い寄られて、逃げた奉公先
の女主人と隠居に助けられ・・・
ここで多少のつながりがようやく出てきます。なんと佐吉が人殺しで
捕まったというのです。殺した相手は、母親の葵?・・・

名誉や地位のための隠蔽、それによって振り回される弱い立場。基本構図
は江戸時代だろうが平成だろうがいっしょなのです。
ただ、せめて物語の中でだけは、スカッと解決してもらいたい、そんな
胸のすくような読了感。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宮部みゆき 『夢にも思わない』

2010-11-08 | 日本人作家 ま
たしか、去年あたりでしょうか、この『夢にも思わない』を買って、
読み始めてそうそう、じつはこれは「今夜は眠れない」という作品の
続編なんだということがわかり、それじゃあ前編を買ってくるまでは
ストップしておこうと思ってから、だいぶ時間が経過してしまい、
ようやく、「今夜は眠れない」を読みました。

で、『夢にも思わない』を読み終わって、ああ、前編を先に読んでおいて
よかった(ごく当たり前の感想)と思ったのであります。

主人公の語り手は「ぼく」、雅男という中学生。東京の下町に住み、
ごくありきたりな“普通の”中学生。
とはいっても、こちらもごく普通に恋などをしていて、同じクラスの
クドウさんに目下片思い中。

そんなクドウさんが、近所の庭園で開催される「虫聞きの会」という
風流なイベントに行くことを知り、雅男は親友で将棋部の島崎(彼は
前編「今夜は眠れない」で雅男の巻き込まれた事件の究明に協力して
くれた)も誘ってみますが、将棋の大会が近いことと、雅男のクドウ
さんに対する想いを知っていて「それならひとりでいけ」と言います。

ひとりで参加することになった雅男は、庭園内にいるはずのクドウさん
を探していると、遠くから悲鳴が聞こえ、なんと、中学生くらいの女の
子が殺されていると・・・

急いで駆けつけてみると、そこには、雅男の知っているクドウさんの印象
とはだいぶかけ離れている、派手な服装で、しかし、顔を見てみると、
それはどう見てもクドウさんだったのです・・・

意識を失ったようで、気がつくとそこは病院。話を聞くと、被害者の女性
はクドウさんではなく、なんと、クドウさんの親戚だったのです。
ところが、この事件がクドウさんを困らせることに。なんと「亜希子ねえ
ちゃん(クドウさんは歳の近いこの親戚をそう呼んでいた)」は、都内に
暗躍する売春組織に関わっていたということが週刊誌に載り、心ないクラス
メイトたちは、血縁であるクドウもひょっとして・・・などと噂したり
するのです。

雅男は必然、立ち上がって、島崎とともに、この事件のナゾを解明しようと
するのですが・・・

前作「今夜は眠れない」は、こういってはなんですが、大した「事件」は
起こらないのですが、『夢にも思わない』は、殺人からはじまり、第二の
殺人も起こり、さすがにこれには中学生が気安く首を突っ込むわけにも
いきません。

前作では「いけすかなさ」「可愛げのなさ」ぶりを出した島崎ですが、
今作でも、まあ冷静沈着で可愛げのないところは変わりませんが、それでも
ここが宮部みゆきの「巧さ」といいますか、子どもが大人をむこうに立回り
を見せると、周りの大人が子ども側に合わせて(譲歩して)、それが全体的に、
登場人物がみんな幼く感じてしまうのですが、島崎は「大人ばりの思考では
あるけれども、大人ではない」というスタンスで描かれます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マイクル・クライトン 『失われた黄金都市』

2010-11-05 | 海外作家 カ
マイクル・クライトン(ハヤカワではマイケルではなくマイクル)
の小説を読んだのは久しぶりで、今まで読んだ作品に共通している、
危機が起こる、なんとか解決、また別の危機、これまたなんとか解決、
そして最後にわれわれ人類に対する「未来はこのままでよいのか」という
警鐘、この構成。

アフリカのザイール川流域に地質調査へ出かけた「地球資源開発技術社
(ERTS)」の隊が全滅、アメリカのヒューストンと連絡が途絶えます。
そして、送られてきた映像には、聞いたことも見たこともない遺跡のよう
な建造物と、隊員が「何者」かに襲われている、というもの。

映像を詳しく解析してみると、どうやら灰色のゴリラのように見えます。
そして、ぜーぜーという奇妙な息づかいの音。
ただちに隊員を派遣して、何が起こったのか究明しなければならなくなり、
ERTSの女性科学者、ロスが名乗りをあげます。
ロスは、カリフォルニアに住む霊長類の学者、ピーター・エリオットに
連絡をつけ、ピーターの研究対象であるゴリラとともにアフリカへ行って
調査隊に同行してほしいと依頼。

これにピーターは、待ってましたとばかりに賛成します。
というのも、ピーターの研究、ゴリラは人間と会話はできなくとも、人間
が話している内容は理解しているはずで、手話を教えこんで、コミュニケ
ーションを取る、という研究をしていて、アフリカでみなし子だったメス
ゴリラのエイミーとピーターは、簡単な会話は手話を通してできるまでに
なりました。
ところが、どう間違ったのか、ピーターの実験は動物虐待だという情報が
出回り、動物愛護協会から、霊長類学会から袋叩きにあってしまうのです。
そんな状態でのロスからの誘いだったのでした。

ロスとピーター、そしてゴリラのエイミーはザイールへと旅立ちます。
現地で、元傭兵でガイドのマンローを雇い、連絡の途絶えた隊員のもとへ
と向かうのですが、この地域には、コンピュータの性能が格段にアップする
といわれる「ブルー・ダイアモンド」が埋まっているという報告があり、
ERTSは、日本・ヨーロッパの合弁会社の調査隊より早く現地に着き、
採掘権を取らなければならないのです。
敵は、ERTSの行く手をさまざまな形で妨害、エイミーを誘拐したり、
彼らの飛行機に盗聴器をしかけたり。

はたして、ロスたち一行は、カメラ映像にあった遺跡まで辿りつけるのか。
そして、映像に写っていたゴリラのような生物は何者なのか・・・

物語は1970年代の後半ごろの話で、今現在から30年近く前の設定
なのですが、この当時の未来予測は、コンピュータの世界席捲、中国の台頭
など、大まかなところで当たっていて、さすがクライトンというか、思うに
優れた作家の条件は、先見の明があるということですね。

クライトンの作品の特徴として、虚構の「資料」の内容を掲載したりします。
これが、リアルなのかフィクションなのか分からず、なんとも人を食ったような。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする