晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

フィリップ・プルマン 『神秘の短剣』

2011-01-31 | 海外作家 ハ
「ライラの冒険」シリーズの第2作、前作「黄金の羅針盤」では、
今のこの世界とは似てはいるものの、どこか”ちょっと違う”世界
でのお話で、人間には「ダイモン」という動物の守護聖霊がついて
いて、子どもの頃のダイモンはいろんな動物の姿に変身できるの
ですが、大人になると、ダイモンは1種類に固定されます。
そのダイモンが人間と切り離されると、生きながら死んでいるような
状態になってしまい、ある研究組織が、恐ろしいことに、子どもの
ダイモンを切り離す実験をしていたのです。

その組織をつきとめ、施設から子どもを開放するライラ一団、
そして、別の世界へ行く裂け目を通って・・・というのが前作。

その「別の世界」では、少年ウィルが、ウィルと母親のまわりをうろつく
謎の男たちの一人を殺してしまい、母親を信頼のおける知り合いのもとへ
預け、ウィルは逃げます。

どうやら、その男たちは、冒険に旅立ったまま行方不明になった父から
来た手紙を探していたようなのです。

一方、別の世界に来たライラ。その街には、大人はどこにもいなく、
子どもたちしかいません。

ウィルは、謎の“裂け目”を発見し、そこをくぐると、ある街に出ます。
そこでライラとウィルは出会うのです・・・

ここから話は、あっちの世界、こっちの世界とめまぐるしく変わり、
ウィルの父親探し、そしてライラの父親探し、それを追うライラの母親、
前作に出てきた魔女や気球乗りもライラの行方を探します。
そしてふたりは「神秘の短剣」を探しますが、ウィルの世界のある人物に
ライラの真理計が盗まれてしまい・・・

前作とくらべて、話の範囲が急激に広がって、読んでる途中に「あれ、今は
どっちの世界だ?」なんて混同してしまいますが、とにかくこの世界観が
面白いです。
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宮部みゆき 『平成お徒歩日記』

2011-01-26 | 日本人作家 ま
この作品は、小説新潮誌上で連載していた企画で、よく時代小説
などで、「同心の誰それの使いで、向島から八丁堀まで出かけ云々」
という登場人物の「移動」は、じっさい当時の人の足でどのくらい
かかったのか、昼前に出立して夕方までに目的地に着けたのか、
など、当然、江戸時代は都バスもタクシーも電車もありませんし、
自転車だってありません。
そこで、古地図を片手に歩いてみよう、という酔狂な企画。

まずは、ご存知「忠臣蔵」で、浪士が吉良邸で討ち入りを果たし、
そこから泉岳寺まで歩いていった道程を歩いてみようというもの。
夜中に討ち入りし、すべてが終わったのがおそらく明け方前。
そこから、武士のフル装備を着こんで、泉岳寺まで、しかも
討ち入りとはいえ、殺し合いの実戦を終えて疲労困憊のなか、
ほうほうの体。
このような状況で、今でいうところのJR両国駅から品川駅まで
の距離を歩いたというのですから、たまったもんじゃありません。

そしてお次は、これもよく目や耳にする「市中引廻しの上、獄門」
のコースを辿ってみようというもの。
当時の「拘置所」にあたるのが、小伝馬町にあった「牢屋敷」で、
ここから、死罪の場合は、鈴ヶ森か小塚原まで歩かされるわけです。
しかし、もう一種類、これは江戸城のまわりをぐるりと一周して、
ふたたび牢屋敷にもどるというもの。
当時の警察組織、いわゆる「奉行」は、拘置所内でも処刑は行ってた
んですね。

そのほかにも、箱根旧街道を歩いてみたり、流罪でおなじみの八丈島
へ行ってみたり、宮部みゆきさんのホームタウンである本所深川近辺
を歩いたり、「お伊勢参り」をしてみたり、といったところ。

新興住宅地では無理ですが、江戸時代から名前が残っている街や街道を
じっさいに歩いてみて(飛脚や町娘のコスプレをすれば最高?)、当時
の人々に思いをはせるというのもまた一興ですね。
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垣根 涼介 『午前三時のルースター』

2011-01-23 | 日本人作家 か
前に、垣根涼介の「ワイルド・ソウル」という作品を読んだとき
の感想が
<<スケール感に圧倒されっぱなし。読み終わってからしばらく、
興奮冷めやらぬといった状態でした。こんなに心震えた日本の
アクション&ミステリー作品は、服部真澄の初期作品か、真保裕一
「ホワイトアウト」を読んで以来>>
というもので、この作家の作品は片っ端から読みたい!という衝動
に久しぶりにかられてしまい、サントリーミステリー大賞を受賞した
デビュー作を読むことに。

旅行代理店勤務の長瀬は、ある日、お得意先の宝石会社社長から、
ある「奇妙」なツアーの同行を依頼されます。
それは、この社長の孫の父親、社長にとってはひとり娘の夫、
つまり義理の息子が、宝石会社勤務の仕事でベトナムに出張中に
行方不明になってしまい、現地で襲われた形跡があったものの、
捜査は打ち切られてしまったのです。
しかし、社長の孫は、父親とおぼしき男が映像に映り込んでいた
テレビ番組をたまたま見て、父はまだ生きていると確信。
ところが、社長のほうは、とっくに義理の息子の生存は諦めて、
娘に再婚をさせようと動いていたのです。

社長は、孫に父親の生存を自分の目で確かめて、諦めさせようと
じっさいに現地まで行くことを許可し、しかしまだ高校生の一人旅は
危険ということで、長瀬に同行してもらおうということだったのです。

さっそく長瀬は、社長の孫の慎一郎に会い、長瀬は旧友で映像関係に
詳しい源内の紹介で、このテレビの制作担当と会うことに。

しかし、テレビの制作は、おかしなことを告げます。この市場で
慎一郎の父とおぼしき男が屋台で魚を売っている市場を撮影して
いると、危険な目に遭いそうになったのです。

源内はこれを聞いて、興味を持ったのか、ベトナムまでいっしょに
行くと言い出し、3人はホーチミン市に到着。

信頼のおけそうなタクシー運転手、通訳として、現地の売春婦を雇い、
さっそく父のいたとされる市場へと向かったのですが・・・

彼らの行く手には、さまざまな妨害が待ち受けていたのです。
はたして、その妨害の相手とは?なぜ彼らは狙われなければならない
のか?彼らが知られたくないものとは、そして父の行方は・・・

ぶっちゃけると、アクションミステリーが好きな方は、ああ、この後は
こういう展開になるんだろうな、と思った通りだったのですが、しかし
それにしても、面白い。背景や人物の描写は素晴らしく、展開も、ここは
スピーディーに、ここはじっくりと読ませる、といたペース配分も
しっかりとしています。
そして、なんといっても特筆すべきは、プロローグ。本編の足がかり
というか、期待の持たせ方が、カンペキ。

ぜひとも、翻訳されて海外に紹介してほしいですね。

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馳星周 『長恨歌~不夜城完結編~」

2011-01-18 | 日本人作家 は
はじめの「不夜城」、そして続編にあたる「鎮魂歌」はだいぶ前に
読んだので、この「長恨歌」の読み出しから、あれ、この人は?
そして、この人とこの人の人間関係は?という基本情報が抜けていて、
かといってせっかく読もうとしているのに前編をもう一度読み返す
というのも正直メンドクサイ(汗)ので、自分が過去にこのブログに
書いた書評を見ておさらい。

まず、しょっぱなからとんでもないことが起こります。
これは「不夜城」「鎮魂歌」を読まないと、その関係性はわからない
のですが、素直な感想として「とうとうやっちまったか・・・」
というもの。

今作品の主人公、武は、もともと中国人でありながら、ある方法で残留孤児
なりすまし、日本国籍を取得、そのまま日本人として日本で暮らすも、
勤めていた会社がつぶれ、なんだかんだで歌舞伎町の裏社会と関わる
ことになります。

そこで、銃だのクスリだのを危ない組織と取引する、いわゆる「運び屋」
のようなことをしていたのですが、このまとめ役に呼ばれて、ある大きな
仕事の見張りをすることに。そこで、まとめ役でリーダー格の男が、待ち
合わせに指定された喫茶店で取引中に突然、見知らぬ男たちが散弾銃
をぶっ撃ち、リーダー格の男と、取引に来ていた暴力団は死亡。

一部始終を見ていた武は、はっきりとこの男たちの顔を見ますが、
とりあえずその場から逃げます。するとその時、道で不気味さの漂う
男とぶつかってしまいます。

自分の部屋で隠れるように引きこもる武。携帯の留守電には、運び屋
の仲間から、出て来いとのメッセージが引っ切り無し。
その中に、聞き覚えのない男からのメッセージが。取引相手の暴力団
関係者でした。
とりあえず、この暴力団の男に会いにいくことに。逃げた犯人の顔を
見ていたのは武だけということで、犯人探しを頼まれます。もちろん否や
など不可能。

しかし、センセーショナルな事件だっただけに、歌舞伎町は辺りいっぱい
警察が、そして、この街に住む危ない人たちも一時的に表立って動こうと
はしていないので、情報収集も容易ではありません。

そんな時に、この歌舞伎町でスゴ腕の「情報屋」がいると訊き、さっそく
その「情報屋」のもとへ向かう武。
その「情報屋」とは、事件の時にぶつかった、あの男だったのです・・・

男の名は、劉健一。

劉健一といえば、「不夜城」から出てくる、まあ、一言でいえば「ヤバイ」
人です。またこの男が表に出てくるのか・・・

逃げようと思えば逃げられるのに、なぜか今の酷い境遇にとどまろうとする
その心理は何なのか。
一様に「破滅願望」とまとめることもできません。

怜悧なのか、人情に厚いのか、それは人間性の核ではなく、その時その場面
に応じてころころ色を変えるカメレオンのよう。

相変わらず、読み始めると「うわあ、読まなきゃよかった」と思いつつも
そのままぐいぐいと引き込まれてしまい、アッという間に読み終わる。
そしてなぜか、その世界感にまだとどまっていたいとさえ思わせてくれます。
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マイクル・クライトン 『大列車強盗』

2011-01-12 | 海外作家 カ
この作品は、いつものクライトン(らしさ)というか、作風とは
ちょっと違うといいますか、1850年代のイギリスで起こった
列車に積まれた金塊の強奪事件を描いた作品で、首謀者である
正体不明の貴族が、クリミア戦争の戦費をロンドンの銀行から
列車で港へと運び大陸へ船で輸送するその途中、戦費である
12,000ポンドもの金塊を盗もうと画策する、といった流れ。

しかし、面白いには、物語の途中、この正体不明の貴族ピアースの
裁判が差し込まれているところです。
つまり、ネタバレというわけではなく、結果、金塊強奪は成功し、
その後逮捕されるという流れはあらかじめ分かるようになっていて、
しかし、その強奪までのプロセスがなんともスリルがあり、この時代
(ビクトリア女王時代)の世相、風俗なども説明されていて、しかし
そこはクライトン、どこまでが本当でどこからがフィクションなのか
わかりません。

クライトンの作品によく出てくる「参考資料、文献」などは、あとで
ネットで検索しても出てこなかったりして「ああ、フィクションだった
のか」とガッカリしたことも多く、しかし、決して嘘っぽくなく、また
真に迫っているのでコロリと騙されます。
ただ、首都警視庁である「スコットランド・ヤード」という名前の由来
が説明されていますが、それに関してはおそらく本物かと。

ある意味「ノンフィクションノベル」のように読めますし、冒険活劇
とも読めますし、クライムノベルとしても楽しめます。

それでいて、きちんとしたまとまり感があるのが構成力の凄さです。

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宮部みゆき 『孤宿の人』

2011-01-04 | 日本人作家 ま
新年。慶賀。

宮部みゆきの時代小説は、ふしぎと「重さ」のようなものは
感じられず、かといってライトタッチというわけでもなく、
説明過多ではないのにすんなりと理解できる、なんとも形容
しがたいのですが、要は「面白い」ということですね。

四国、讃岐国(現在の香川県)の丸海藩は、北に瀬戸内海、
南は山に囲まれた、小さな藩。
(※作者があとがきで記しているように、このモデルは一文字
変えた「丸亀」だそうです)
ここに、江戸から金毘羅参りの途中で捨てられた小さな
女の子がいました。その名は「ほう」。

江戸の商家の若旦那が外腹で産ませた「ほう」は、むげに
扱われず、かといって厄介ものでもあり、縁者筋の老夫婦
にあずけられますが、そこでの暮らしは悲惨そのもので、
ろくにしつけもなされず、ふたたび商家に連れ戻された
「ほう」は、家中に病人が相次いで出たために、年輩女中
に連れられて、四国の金毘羅さま参りに出かけます。

しかしこの女中は底意地が悪く、道中「ほう」を苛めとおし、
挙句、四国に入ると、途中で「ほう」を置き去りに。
しかし「ほう」は、丸海藩で代々医家の井上家に助けられて、
女中として暮らします。
それまで字も数勘定も教わっておらず、「ほう」は井上家の
お嬢さま、琴江に教わり、幸せな日々だったのですが、ある
大雨の日、家近くの高台にある畑にいると、琴江さまの友人
で井上家によく遊びにくる藩役人梶原家の美弥さまが傘を
さして家に入っていくのを見ます。
それからしばらくして、家の中で琴江さまが倒れているのが
見つけられ・・・

琴江さまは医師の兄の所見で毒殺されたとわかり、かけつけた
同心の渡部に「ほう」は、確かに美弥さまが井上家に入って
いったところを見たといいます。

しかし、事態は「ほう」の想像だにしない方向に進んでいきます。
なんと、琴江さまは心臓の病で急死し、そもそも美弥さまは井上
の家には来ておらず、「ほう」の見たのは琴江さまが死んだショック
の幻想だというのです。

周りの大人たちがこう言うのを、にわかに「ほう」は信じません。
そのうちに「ほう」は、美弥さまを琴江さま殺しの犯人だと言い出し
かねないので井上家には置いて置けないという話に発展。

そんな中、女でありながら引手見習いの宇佐に引き取ってもらい、
ふたりで暮らしはじめます。

そして、丸海藩にとって一大事である、江戸幕府役人で家族と家来を
切り殺して流罪となった加賀殿の請け入れの日が迫ってきて、まるで
その呪いでもあるかのように、藩内では事故や不審な病死が相次いで
起こります。
琴江さまが死んだのも、この加賀さまのせいなのか・・・

なんと、「ほう」に、その加賀殿の幽閉されている屋敷で女中奉公を
せよとお達しが・・・

はたして加賀さまは丸海藩に厄災を運んできた鬼悪霊なのか・・・

のちに「ほう」は、この加賀さまと交流をもちはじめるのですが、
それが泣けます。たまりません。

比較してはいけないとは分かりつつ、しかしこの作品は、山本周五郎の
「樅の木は残った」に匹敵する素晴らしい時代小説。

コメント (2)
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