晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

垣根涼介 『人生教習所』

2024-02-22 | 日本人作家 か
暦の上では春ということで、先日お散歩に行ったら梅がちらほらと咲いていました。桜は関東南部だと3月下旬には満開になってしまって入学式シーズンにはすでにサクラチルになっているといった温暖化ではありますが、そういえば南半球では季節が反対なので9月ごろが桜の季節になります。たとえ季節が反対の場所に植えられてもちゃんと春に咲くなんてずいぶん律儀な木だなと思いますが、ところで季節が反対の場所の最初の年ってどうだったんでしょうね。おそらく日本から苗を持っていってむこうで移植したんでしょうが、おや?って思ったのでしょうかね。

以上、木の気持ち。

さて、垣根涼介さん。ここ最近は歴史小説が多いですね。アウトロー的なシリーズものも面白いです。

小笠原に向かう船にある「共通の目的」を持った28名が乗っています。その目的とはセミナーなのですが、主旨に「新しい生き方の指針となるセミナーを行う」と、一見怪しい団体っぽいですが、主催の代表は元経団連会長で、途中で試験を行い、合格者には就職の支援もあります。応募したのは浅川太郎、19歳。現在は東京大学休学中。柏木真一、38歳。元ヤクザで現在は無職。森川由香、29歳。フリーのライター。物語のメインはこの3人と、あと竹崎という定年退職した人の4人が中心になってます。

まずは一次セミナーでいくつかの科目の講義を受けてレポートを提出し、中間試験を受けて合格者は二次セミナーへと進みます。二次セミナーに進んだ人はその後の最終試験はありますが、そこで不合格はないので、二次に進めば就職支援が受けられます。

最初の講義は「確率」。人生における確率というテーマで、レポートを提出します。他にも心理学や社会学といった講義があって、中間試験の合格者は父島から母島へ渡って二次せみなーへ。はたして何人が進めるのか・・・

セミナーの参加者は人生をやり直したい、再出発したい、自分探し、まあいろいろですが、こういったセミナーの是非はともかくとして、少なくとも現状に満足はしていないわけで、それを解決しようと行動に移せるということが大事ということですね。その第一歩の踏み出しがないと自暴自棄になって「誰でもよかった」になってしまいますからね。

これは個人的な話ですが、とあるホームレスや生活困窮者支援のNPOにボランティアに行ったことがあって、そこでは生活相談や健康相談といったのもやってまして、NPOの方とのお話でとても印象に残っているのが、「本当に助けが必要な人はこういう場所に来ない(来れない)人」という言葉で、たしかにそういった団体に相談に来る人はその時点で現状を変えたいと思っているわけですからね。
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安部龍太郎 『生きて候』

2024-02-11 | 日本人作家 あ
今年度の学校関係のテストやらレポートやらが全部終わって、ひとまずホッとしてます。いちおう卒業は今年の9月なのですが、履修期間の延長をして来年の3月を予定しています。すでに卒業に必要な単位は取ってしまってるので、あとはやり残した科目をいくつかやろうかなと。仕事と試験対策勉強以外は時間ができるので、思い切り本を読もうかと考えてますが、年間100冊はきびしいとしてもせめて月に5冊くらいは読みたいですね。

以上、今のところ積ん読はありません。

さて、安部龍太郎さん。この作品の主人公は倉橋長五郎政重。どなた?はじめは架空の人物かと思いましたが、実在の人物でした。

戦国末期、徳川家康の家臣である御先手組の槍奉行、倉橋長右衛門の養子である政重は、同じ御先手組の鉄砲組のひとりと対決しているところに長右衛門危篤の知らせが。政重にかけた言葉は「与えられた命は美しく使い切るように。生き急いでも死に急いでもならん」と言い残します。通夜が終わると政重と一緒に長右衛門から兵法を教わっていた戸田蔵人がやって来て一緒に酒を飲んでいるところに妹の友達の絹江が長右衛門の好きだった梅干しを運んできます。蔵人は絹江に一目惚れしますが、絹江は蔵人の父と政敵、岡部庄八の娘。そこに本多佐渡守正信がやって来ます。正信は政重の実の父親。政重はなぜ自分が倉橋家に養子に出されたのか理由を知りません。

葬儀の日、江戸にいた重臣はもちろん、榊原康政、井伊直政、本多忠勝といった徳川四天王が使者をよこすだけでなくなんと家康自身も弔問に訪れ、あらためて長右衛門の偉大さに感じ入ってるところに本多正純が話があるといってきます。正純は正信の息子、政重にとっては異母兄。政重に本多に戻ることを断った理由を聞いてきます。すでに理由は正信に話していたのですが、正純は大番頭で一万石として迎え入れるから戻ってきてくれと誘うのです。家康が江戸に入城してはや七年、家臣団の中で正信と正純が苦しい立場に追い込まれていることは政重も知っています。戦場で目立った活躍もしてないのに家康から目をかけられていることを四天王や武断派は良く思ってなく「腸腐れ」「佐渡の腰抜け」と罵るほど。そんな中にあって武断派内で政重の評価は非常に高く、正信と正純にとっては喉から手が出るほど戻ってきてほしいのです。

ある日のこと、戸田蔵人の父親が岡部庄八と対決し、斬られて絶命したという衝撃のニュースを聞いて政重は蔵人の家に行きますが扉は閉ざされています。ところがこの一件は喧嘩両成敗にならず戸田が賄賂をもらっていたとして所領没収と江戸追放、岡部は何もなし。賄賂というのはもちろんでっち上げでこれに不満を持った蔵人は家に立て籠もることに。このままでは総攻撃になるので政重は蔵人を訪ねて勝負を挑みます。実力は互角、そのうち政重は死なすのが惜しくなり勝負をやめて「考えがある」といって蔵人が火薬庫に入って自爆するぞといって屋敷の周囲の人を避難させて政重は馬に乗って屋敷から出ます。しかしその背中には風呂敷で隠した蔵人が乗っていたのです。
でっちあげの証拠をつかんだ政重は蔵人の代わりに岡部庄八と勝負し庄八を斃し・・・

政重は京、伏見にいます。蔵人は西国のどこか。すると「政重どのではありませんか」と声をかけてきたのは、加賀の前田利家の次男利政。かつて政重は利政の指南役だったのです。翌日、前田家の大坂屋敷に出向くと、久しぶりに利家に会います。この頃、天下統一を果たした豊臣秀吉は朝鮮出兵を各大名に命じていましたが、前田家は出兵していません。そこで利家は現地の情報が欲しいので、政重に密偵となって朝鮮に行ってほしいと頼みます。
政重の愛馬、大黒とともに九州へ。前田家の書状には、馬を朝鮮に渡すために政重を朝鮮に送ってほしいとありますが、馬を運べるのは大名家専用の船でしか運べず、宇喜多秀家の船で渡ることに。そこに銃声が。なんと追手として絹江が・・・

このあと、朝鮮に渡った政重が見た、聞いた朝鮮半島の現状とは。そして日本に戻ってきた政重は石田三成に会いに・・・

政重が実在の人物なのはいいとして、描かれている出来事がどこまでが史実でどこからがフィクションなのかよくわからないので、なにがどうしてどうなったという部分はだいぶ省略しまして、なんだかんだで最終的に政重は加賀藩の家老にまでなります。
物語内に適度なロマンスもあり、あと隠し味のように歌(短歌)が物語にアクセントとして効果的で、とても読み応えのある作品でございました。



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