晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

浅田次郎 『霧笛荘夜話』

2014-07-28 | 日本人作家 あ
とにかく暑くて寝ることを優先して読書の時間が削られてしまい、
ここんところあまり読めなかったのですが、まあ短編ならサクッと
読めていいなということで。

『霧笛荘夜話』は、日本のどこかの港町の運河の近くにあるアパート。
かなり古い建物で、半地下で中2階という奇妙な構造。

相場よりも安い家賃で、”纏足”の老婆という管理人が、空き部屋を
案内するのですが、その部屋に住んでいた前の住人の思い出を語る短編。

嵐の夜にやって来た星野千秋という女性。隣の部屋の住人であるホステスの
眉子に世話になります。お店を紹介してもらい千秋もホステスになります。
ある日、眉子の客だった医者の男と千秋はいっしょに食事に。
そこで千秋は、診療所に行き、睡眠薬を盗んで・・・

そして次の話は眉子。本名は「吉田よし子」で、このアパートに住む前は、
資産家と結婚し、ふたりの子もいたのですが、ある日、家に帰らず、名前も
変えて・・・

そんな眉子と仲の良かったヤクザの鉄。義理や仁義にあついというよりは
ただの”お人よし”で、他人の罪をかぶって刑務所に行き、出所しても
もとのチンピラ稼業のまま。
ひょんなことから同じアパートに住むミュージシャンを夢見る四郎と仲良く
なります。
鉄は兄貴分からクスリの運び屋を頼まれますが、執行猶予中なので断ると、
なんとその代わりに四郎が・・・

四郎はやがてプロになり、そこそこ名前の通ったミュージシャンに。
北海道から上京してきた四郎ですが、しばらく実家と連絡を取ってなかった
ので、とても弟想いだった体の不自由な姉が事故死していたことを知らずに
ショックを受ける四郎。そんな四郎を隣の部屋のカオルが・・・

カオルは”オナベ”で、ようは男装の女性。集団就職で上京し造花の工場で
働いていた花子という女の子が、どういう経緯で”カオル”になったのか・・・

そんなカオルと、顔を合わせれば喧嘩ばかりしていたのがキャプテンと呼ばれた
マドロスの格好をした男。
キャプテンは学徒動員で、特攻隊の出撃前に戦争は終わり、許婚に会いに行こう
としますが・・・

最後の話は、霧笛荘の住人に立ち退き交渉をする山崎という不動産会社の社員。
銀行から転職した山崎ですが、この地域の買収はあらかた済んで、残るはアパート
の住人に立ち退きをしてもらうだけ。
管理人の老婆は、住人の総意で決めると言いますが・・・

この住人たちは、みな器用ではありません。ちょっとでも小利口になればとも
思うのですが、小利口な人間よりも他の”何か”に重きをおいたから霧笛荘の
住人になったわけで、ロクデナシかもしれないけど人でなしではない、他人に
嘲笑されるのは構わないけど他人を嘲笑する人にはならない、そんな人たち。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

浅田次郎 『五郎治殿御始末』

2014-07-19 | 日本人作家 あ
この本に収録されている短編「柘榴坂の仇討」が映画化されるようで、
まだ読んでないや、ということで、さっそく買ってきました。

全6話の短編なのですが、すべて時代は明治初期で登場人物は元武士。
鎌倉、室町、江戸と続いてきた武家政権が終わり、新しい時代に変わって、
まあいつの世にも機を見るに敏な人もいたわけで、一方、武士であること
が生きる”よすが”で、そう簡単に「明日から武士じゃありませんよー」
と言われたところでハイそうですかと肯けるわけじゃありません。

そんな時代の変化に翻弄される元武士のお話。

「椿寺まで」では、日本橋の商人、小兵衛が店の小僧の新太をつれて
八王子に反物を買い付けに行く道中からはじまります。
この道では”追いはぎ”が多発していて、小兵衛たちも追いはぎに
やられそうになりますが、小兵衛は返す刀で追い払います。

江戸から甲州街道を八王子方面に行くと最初の宿はたいてい府中ですが、
小兵衛と新太は手前の布田で一泊します。

新太はずっと、役立たずの自分を買い付けの供にした理由が分からなかった
のですが、ここで小兵衛から、「お前を連れてきたのにはわけがある」
と言われ・・・

「箱館証文」では、工部小輔(明治の中央官庁、工部省の上のほうの役職)
の大河内厚が主人公。大河内のもとに、「警察官、渡辺一郎」と名乗る
男がたずねてきます。すると渡辺、「大河内伊三郎どの」と大河内の旧名
を知っているようで、さらに、千円をもらいに来た、と。

元徳島藩士、大河内伊三郎と、渡辺と名乗る元武士の中野伝兵衛の間に
交わされた約束とは・・・

「西を向く侍」では、幕府の天文方、成瀬勘十郎が主人公。新政府になり、
出仕を待っていますが、もう5年が経ちます。なかなか声がかからない中、
政府は、旧暦から西洋式の暦に変更することに決めます。これに納得の
行かない勘十郎は文部省に直談判に・・・

「遠い砲音」では、近衛砲兵隊中尉の土江彦蔵が主人公。官舎に住まず、
今でも”殿さま”のもとで暮らしています。”殿さま”とは毛利家の
分家大名で、今では下屋敷住まいで、仕えているのは彦蔵とその息子のみ。

彦蔵は新しい時間単位に馴染めずに遅刻ばかり。ミニウト(分)、セカンド
(秒)などややこしいのですが、砲兵は空砲を撃って時間を知らせる重要な
役割であって、早く慣れなければならなず・・・

「柘榴坂の仇討」では、元彦根藩井伊掃部頭(かもんのかみ)御駕籠回り近習、
志村金吾が主人公。江戸城に登城するときに殿様が乗る駕籠の横に付く役。
安政七年三月、雪の日の朝、登城しようとした途中、刺客に襲われます。そう、
これが「桜田門外の変」で、あの時、金吾は駕籠の横にいて何もできず、国元
の両親は自害し、御録預かりになります。せめて水戸の刺客を仇討でもしなけ
ればとしていたところ幕府は倒れ、明治政府に。あれから13年過ぎて、金吾
は生き残りを探すのですが、政府から「仇討禁止令」が・・・

そして表題作「五郎治殿御始末」は、「私」と曾祖父の話。「私」には曾祖父
の記憶はほとんどないのですが、一度、曾祖父が小刀で栗の皮を剥いていた
ときに近づこうとした「私」をきつく叱ったのです。すると
「わたしはおまえの年頃に、いちど死に損なった」と言ったのです・・・

曾祖父、半之助は、桑名藩の家来、岩井家の生まれで、父は幕府軍として北越の
戦いで死に、母は旧尾張藩の出で実家に戻って、残されたのは半之助とその祖父
のみ。祖父は残った旧藩士の整理を終えて、半之助を母のところに連れて行く
ことに。そして祖父は・・・

読んでいて、なんとなく「ダンス・ウィズ・ウルブズ」を思い出しました。

建物から文化風習までそれまであったものを片っぱしから”ぶっ壊して”いった
感のある明治新政府ですが、それまで700年も続いた武家政権を否定する
にはそこまでしなければならなかったという新政府側の心中もわからないわけ
ではありませんけどね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

佐々木譲 『制服捜査』

2014-07-18 | 日本人作家 さ
今ごろになって佐々木譲にハマッております。ただ、残念なのが、
けっこう厚いページ数でも読み始めたら1日か2日で読み終わって
しまうところ。面白いからまあ苦情でもなんでもありませんが。

北海道の十勝平野のはじっこ、道警本部釧路方面広尾警察署管内の
志茂別駐在所の、いわば「駐在さん」である川久保が主人公。

「笑う警官」でもあったように、不祥事が発覚して、道警では
その対策としてひとつの職場に長く在籍させないでコロコロ人事
異動させるというものがあって、たとえばべテランの刑事といった
人がいなくなる弊害もあります。

そんな川久保も、札幌から道東の駐在さんに。基本的に駐在所勤務
は家族同伴なのですが、家族は札幌に残して単身赴任。

「逸説」では、高校生が行方不明だと母親が連絡。どうやら調べて
いくうちに高校の同級生とトラブルに・・・

「遺恨」では、ある牧場で飼っている犬が散弾銃で射殺され、その
聞き込みをしているうちに、篠崎という大規模牧場のオーナーと
殺された犬の飼い主とのあいだにトラブルがあったと知り、さらに
篠崎家の父親が殺され・・・

「割れガラス」では、前科持ちの大工がやってきて、車上狙いが多発
するようになり、疑いの目が・・・

「感知器」では、放火や不審火が相次いで起き、はじめはホームレス
か本州から来る旅行者が疑われていたのですが・・・

そして「仮装祭」では、13年前に起きた少女の失踪事件と似たこと
が今年の祭でもあって、この地域のさまざまな問題が浮き彫りに・・・

川久保は、地元に詳しい元郵便局員に地区のことや人間関係について
教わります。地域の”有力者”が、ときに捜査の妨げになったり、
都会で起きる華々しい事件とは違って、田舎の”しがらみ”といいま
すか、この地域のコミュニティそのものと川久保は闘っているのでは
ないか、と感じました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

池波正太郎 『剣客商売 辻斬り』

2014-07-10 | 日本人作家 あ
鬼平シリーズはけっこう進んで、この前9巻を読み終えたところ
なのですが、『剣客』シリーズは、だいぶ間をおいて2巻目。

ざっと説明しますと、主人公は秋山小兵衛・大治郎の親子。小兵衛
は老人ですが剣の達人。息子の大治郎は父の”弟子”で、剣の修行
で諸国を渡り歩いた後に江戸に帰り、道場をひらきます。

時代は江戸後期、老中、田沼意次が権勢をふるっていた時代で、
小兵衛は田沼にことのほか気に入られます。

で、主要な登場人物に、佐々木三冬という、女性剣士がいるのですが、
田沼意次の妾腹の娘ということで、有名な道場で”四天王”のひとり
というぐらい強く、はじめのうちは小兵衛に思慕を抱いていますが、
小兵衛は娘ほど歳の離れたおはるという女性と結婚します。

無愛想で体の大きい店主のいる居酒屋での話「鬼熊酒屋」、
どこぞの侍が街中で辻斬りをしているとのことで犯人を探す表題作「辻斬り」、
大治郎が修行中に世話になった人が息子を探しに江戸に来ていたところ
再会しますが、息子は・・・という「老虎」、
又六という鰻焼き売りの男が大治郎に弟子入りする「悪い虫」、
三冬が誘拐されそうになった小間物問屋の娘を助けたことによって事件に
巻き込まれる「三冬の乳房」、
”百鬼夜行”に出てくる妖怪にそっくりな男が小兵衛に襲いかかる「妖怪・
小雨坊」、
小兵衛の馴染みの料亭で、男たちがある御家人を襲う計画を立てているの
を聞いた「不二楼・蘭の間」、の7話。

知らなかったのですが、「旗本」というのは二百石以上の武士で、御目見得と
いって、いわば将軍に会えるわけで、それ以下が「御家人」と呼ばれる武士
になって、でも旗本クラスになると家来を置かなければならず、彼らの給金
なども払うとけっこうカツカツな生活になっちゃうわけですね。

たとえば御家人の末端になると「三十俵二人扶持」とよくありますが、二俵半
が一石だとすると、年間の給料は十二石、で一石=一両で換金したとすると
一ヵ月を一両で、今の価値にすると十万円ぐらいで生活するわけですね。

でもまあ百年以上も戦争のない平和な時代が続いて武士なんて「存在自体が職業」
という、これを当世風にいえば「セレブリティー」となるわけですが、じっさい
プチセレブどころの話ではなく、街には浪人があぶれ、下屋敷では賭博が行われ
るなど、かなり荒んでたようです。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする