晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宇江佐真理 『おはぐろとんぼ 江戸人情堀物語』

2017-05-27 | 日本人作家 あ
江戸時代にあった(今も名前だけは残ってる)堀を
舞台にした短編となっています。

「ため息はつかない」の舞台は、薬研堀。
「薬研」とは、映画「赤ひげ」やその他時代劇で
お医者さんが難しい顔して半月状の弧の形をした
臼みたいのに円盤状のすりこぎみたいなやつで
前後にゴリゴリやってるシーンがありますけど、
薬をすり潰すのに使ってたやつです。
このお堀の底部分が薬研に似てたということで
この名前になったそうな。ちなみに、江戸時代の
明和年間(1764~1772)には埋められてしまった
そうで、時代的にいうと、鬼平こと長谷川平蔵さん
が「本所の銕」と暴れてた頃から家督のため将軍に
御目見得する頃ぐらいまではこのお堀はあったと
いうことですね。
さて、この話ですが、亡父の妹、つまり叔母さん
に育てられた豊吉という少年が主人公。小さい頃
からこの(育ての母)のことがあまり好きでなく、
働ける歳になったらとっとと奉公へ。
何年かのち、豊吉は奉公先のお嬢さんとの縁談話
があり、久しぶりに実家に帰ると、おっ母さんは
殺されていて、なぜか豊吉が容疑者になり・・・

「裾継」は、深川の油堀が舞台。
油問屋や油売りの店があったからこの名前になった
そうなんですが、地名の「裾継(すそつぎ)」は
よく分からず、裾継というのは武士が「衣冠束帯」
の恰好のときに袴を穿きますが、その裾の縫い目
のことで、ですがこの地域は深川の岡場所(風俗街)。
(加茂屋)という遊女屋の主人は彦蔵。妻で女将の
おなわは彦蔵の後添えで、先妻とのあいだには
(おふさ)という娘がいますが、近頃は難しい年頃。
ある日、おふさは「おっ父つぁんには他所に女がいる」
とおなわに告げるのですが・・・

表題作「おはぐろとんぼ」は、稲荷堀が舞台。
現在の日本橋の蛎殻町、小網町の辺りで、この近くに
お稲荷さんがあって、稲荷の音読みで(とうか)が
変化して(とうかんぼり)と読むようになったとか。
主人公(おせん)は、料理屋「末広」で働いています。
が、女中ではなく、料理人として。
亡き父、長蔵は末広の料理人で、おせんは小さい頃から
末広の厨房で父の手ほどきで下ごしらえなどを手伝って
きました。長蔵が亡くなったあとも、末広の主人は
おせんの料理の腕を認めて働かせてもらうことになった
のですが、当時は女性がプロの料理人という考えは無く、
おせんはずっと裏方。
そんなある日、末広の花板(料理長)が他店に引き抜かれ、
急遽、上方から来た銀助という料理人を雇うことに・・・

「日向雪」は源兵衛堀が舞台。
浅草側から吾妻橋を渡って墨田区役所とビール会社の通称
「ウ○コビル」がある裏手に隅田川沿いに「原森川水門」が
ありまして、その原森川の別名が源兵衛堀。
梅吉は瓦焼き職人の修行中。ある日、兄の松助から母が亡く
なったと知らせが入り、実家に戻ります。
そこで松助から「竹蔵の行方を知らねえか」と聞かれますが
梅吉は「あんなやつ知らねぇ」とぶっきらぼうに返事。
長兄の松助と三男の梅吉の間には竹蔵という兄弟がいて、
船宿に奉公に出たのですが吉原通いの末に船宿をクビになり、
今はどこかいかがわしい店の客引きをしているそうで、
つい先日も梅吉の職場にも金の無心に来て、挙句、梅吉の
行きつけの居酒屋にも「梅吉の兄でーす」と金を借りに。
兄弟の縁を切りたいところですが母の葬式の連絡だけは
一応して、その竹蔵が来るや「飯の用意もしてないのか」
「実家の土地の形見分けは」と・・・

「御厩河岸の向こう」は「夢堀」が舞台。
といってもそんな名前の堀はなく、ある少年の記憶違い。
浅草にある質屋の娘、おゆりに、待望の弟が生まれます。
勇助と名付けられた弟はおゆりによくなつき、おゆりも
子守りをします。ある日のこと、勇助が「自分は(夢堀)
のそばの花屋の息子で、藤助という名前で、十歳のとき
に病気で死んで生まれ変わった」と妙なことを言います。
おゆりは怖くなって兄に相談すると、夢堀はありませんが
本所、石原町には「埋め堀」ならある、と。
そして調べると、埋め堀のそばに実際に花屋があり、数年
前に息子さんが麻疹で亡くなっていて・・・

どれもハッピーな話の内容ではありませんが、ラストに
雲の切れ間に薄く陽の光が差してくる、そんな小さな
希望というか明るい未来が見えてきます。

余談ですが、「ウ○コビル」は、あれは金の雲みたいな
オブジェといいますかモニュメント。じつはあれ、フィリップ
・スタルクという有名デザイナーの作で、たしかあれができた
当時に聞いた記憶ではビール会社の”情熱の炎”とビールの
”気”をデザインしたとかなんとか。
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和田竜 『村上海賊の娘』

2017-05-21 | 日本人作家 ら・わ
読書が習慣となって趣味といえるようになった頃は
「文学賞を受賞したからといって必ずしも面白い
わけではない」などと、イキがった大学生のような
スタンスでしたが、やがて蔵書が百、二百冊と増
えていくと「なんだかんだいって文学賞を受賞した
作品は面白い」と心境の変化が。

中でも『このミステリーがすごい!』大賞と本屋大賞
は、本屋に行きますと、受賞作を優先的に探します。

『村上海賊の娘』は、2014年第11回本屋大賞の受賞作
で、第35回吉川英治文学新人賞も受賞。

たしか、この本が発売されて話題になったちょっと前に
国際ヨットレースの「アメリカスカップ」があって、
それを見てたときに「例えばこれ日本チームのクルーが
村上水軍の末裔だったらどうなんだろう」などと考えて
たちょっとあとにこの本が話題になってなんとなく個人
的に「おおー」なんて思ったのを思い出しました。

さて、この「村上海賊」ですが、起源は平安時代と古く、
彼らのホームタウンならぬホーム「シー」は瀬戸内海。

「因島村上」「能島村上」「来島村上」と三家に分かれて
いて、因島と来島は広島の戦国大名、毛利家の実質支配下
にありましたが、能島だけはどの大名の下にもつかず、
この地域の「海賊」といえば、能島村上家のことを指して
いたとか。

織田信長がいよいよ天下統一に向けて、プロ野球でいえば
優勝マジックが点灯といった状態。
そこで、信長は、大坂の一向宗の本願寺の立地の好条件に
目をつけ「ここを城にしたいからお前ら出てけ」とジャイアン
ばりのことを言ってきます。

出て行かないので、信長は無慈悲にも本願寺を兵糧攻め、
つまり周りを囲って食料の供給ルートをストップさせて、
降参させるという戦略。

そこで、本願寺門主の顕如は、まだ信長の支配下になって
いない広島の毛利家に物資の援助を要求。その量なんと
お米を十万石。今でいうと1万5千トン。
普通に考えて陸路で運ぶには困難で、じゃあ船でとなり、
村上海賊の手を借りることに。

ですが、本願寺を助けるとなれば、つまり毛利家は信長
の敵ということになり、それはまずいということで、もう
ひとりの天下統一の有力候補、上杉謙信が一向宗の味方
になって、謙信は北から、毛利は西から本願寺に向えば
いいと考え、ひとまず謙信の出方を待つことに。

能島村上家の当主、村上武吉の娘、景(きょう)は、
「悍婦(かんぷ。気性が荒い)にして醜女(しこめ。美人
ではない)」と評判で、背も高く色黒で、嫁の行き先
が決まらず、この海域を通る船から通行料を取る(仕事)
をしています。
ある怪しい船が通り、景はその船を止めると、乗っていた
少年が「こいつらは悪いやつだ」と叫びます。
景に歯向かってきた男らはあっという間に退治され、船内
にいた人たちを助けます。

彼らは(門徒)という一向宗の信徒で、大坂本願寺がピンチ
なので救援物資を積んで大坂に向かっている途中でした。

この門徒の中の老人が景のことを「見目麗しき姫」と言う
ではありませんか。当時の女性の美の基準といえば、小柄で
色白で、顔はのっぺりであっさり。景はというと、顔の彫り
が深く、目鼻口がハッキリしていて、大柄で浅黒い、つまり
(南蛮系のルックス)なのです。

老人の話によると、難波の南、泉州の堺は貿易港で、南蛮船
も出入りしていて、泉州に行けば、あなたは美人扱いですよ
と言われて、景は、そんなパラダイスがこの世にあったのか
ということで、勝手に門徒を大坂に送りに行きます。

難波海(現在の大阪湾)では、本願寺の兵糧攻めで海上から
木津川を通って兵糧入れをさせないため、泉州の武士たちが
船で海上封鎖をしています。
その陣頭指揮は、この地域の海賊、眞鍋家の当主、七五三兵衛。

景の乗った船は、難波海に入って、本願寺側の木津砦に向か
おうとすると、織田方の船が止めに入ってきますが、話し合い
どころか、景はいきなり織田方の武将、原田直政の首を斬って
しまい・・・

「えらいこっちゃ」と慌てふためく七五三兵衛。ですが数秒後
には「ま、ええわ」と恐ろしい気の変わりよう。

原田の首を斬ったのは、聞けば瀬戸内海の海賊(村上海賊)
の姫というではありませんか。そしてその姫は、なんという
ことでしょう、スーパー美人ではありませんか。

景は、門徒を送り届けただけで、ぶっちゃけ本願寺がどうな
ろうと知ったことではなく、なんだかんだで織田方の対本願寺
の前線基地である砦に行くことに。
今まで、いわば(海賊ごっこ)しかしてこなかった景は、ここ
大坂で、ホンモノの戦を目の当たりにします。

景に、どのような心境の変化があったのか。

そして、毛利家と村上海賊は、兵糧を運ぶことになるのか。

まず、和田竜さんの作品で面白いのが、登場人物の会話。
なんというか、いかにも時代劇といった口調ではないところが
たまらなく魅力なのです。

もっとも、五百年前の日本人の口調の音源なんてありませんし、
ましてや聞いたことあるなんて人もいませんので、書き言葉と
話し言葉にどのくらい違いがあったのか、言語学や歴史学に
詳しいわけではありませんが、まあ極端に言えば外国映画の
字幕とか吹き替えのような感じでしょうか。

読んでいてずっと気になったのが、景のルックス。
「美の基準の違い」でいうと、真っ先に思い浮かんだのが
アメリカのドラマ「ビバリーヒルズ青春白書」のドナ役
の女優、トリ・スペリング。
初期「ビバヒル」のファンは、まあ大抵がケリー派かブレンダ派
で、「俺はドナ派」という人は、日本人には少なかったのでは
ないでしょうか。
今にして思うとケリーは高慢ちきでブレンダは幼児性むき出し、
「いちばんいい子」はドナだったような気がします。
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佐伯泰英 『吉原裏同心(二) 足抜』

2017-05-14 | 日本人作家 さ
シリーズ2作目。ざっと説明をしますと、江戸の遊里、
吉原には公式に町奉行の出張所が設けられていまして、
ですが、彼らはお飾り、廓内の揉め事は廓内で解決して
くださいというスタンス。
そこで、吉原会所(自治組織のようなもの)は、ある
浪人、神守幹次郎を用心棒に、つまり吉原の(裏)同心
に雇います。

この幹次郎という男、じつは汀女という(人妻)を連れ
て九州の某藩を逃げ出して来たのです。
これにはいろいろあったのですが、なんだかんだで江戸
まで逃げてきて、追っ手と幹次郎が吉原でゴタゴタが
あって、吉原の会所名主、四郎兵衛が幹次郎を用心棒に
スカウトしたのです。

汀女は遊女たちに俳句を教えています。

さて、今作では「足抜け」がテーマ。つまりは「脱走」
ということなんですが、遊女たちは、借金を完済する
まで辞めることができません。まあ中には「身請け」
といって、お客さんがお金を払って辞めさせるという
こともあります。

吉原は、周囲を堀で囲まれていて、出入りできるのは
「大門」と呼ばれる1か所のみ。これは「足抜け防止」
の役割でもあったわけですね。

この時代、八月一日を「八朔」と呼び、江戸では天正
十八(1590)年のこの日に徳川家康が関東入り、
江戸城入城したということで、大名や幕臣の旗本たちは
八朔に江戸城に登城するさいは、白帷子を着て将軍に
ご挨拶をするという「式日」で、これが吉原にも伝わり、
八朔に花魁たちが廓内を白い着物を着てパレードをする
というイベントとなりました。

この花魁道中は、ふだん吉原に行かない一般庶民や女性も
観に行ったそうです。

で、幹次郎は四郎兵衛に、八朔の花魁道中をぜひとも見学
してらっしゃいと勧められます。
ところが、なにやら異変が。太夫と呼ばれるトップ遊女の
ひとりが道中に出てきません。

香瀬川という太夫は部屋にもいません。誰に聞いても行方は
知らず、もしや足抜け・・・?

じつは、この年に入って、遊女の足抜けは香瀬川の前にも
二人がいなくなっていました。
これにはなにか組織的なものが絡んでいるのでは・・・。

さっそく、捜査に乗り出す幹次郎たち。

香瀬川の以前に足抜けしたとされる遊女の行方があと一歩
でわかるというところで、遊女とその家族は何者かによって
殺されてしまいます。

この間にも、吉原の近辺で多発していた掏摸事件を解決
したり、赤穂浪士の子孫という武士が店に居座って、お代
の踏み倒し疑惑が出てきたりとあちこちでトラブルが。

そんな中、汀女の紹介で、もうひとりのトップ遊女「薄墨」
に会えることになった幹次郎。そこで、香瀬川の失踪の
手がかりが・・・

足抜けしたとすれば、どのように、どうやって大門の見張り
の目をかいくぐり、外に出られたのか。

江戸の遊里、吉原が舞台となっていますが、会所の名主を
はじめここで働く男たちは「自分たちは所詮、遊女たちの
生き血を吸って生きています」と、吉原を肯定したりは
していません。

香瀬川失踪の件で、幹次郎がトップ遊女「薄墨」に意見を
聞きに行ったさいに、幹次郎は「遊女三千人の頂点に立ち、
比類なき権勢を手中にした天下の花魁がなぜ足抜けをした
のかわからない」と疑問を投げかけます。その問の薄墨の
答えがとても切ないですね。
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高田郁 『みをつくし料理帖 八朔の雪』

2017-05-09 | 日本人作家 た
この作品のタイトルだけは、数年前にドラマをやって
いてテレビ欄でちらっと見て、覚えていました。
が、そのドラマを見てません。
原作をまず読んでから見ようと思ったのですが録画
するのを忘れていて見られずじまい。じゃあもういい
やと原作を買うのも忘れる始末。

ところが、NHKでこのドラマがはじまるという
ではありませんか。ナイスタイミングというわけで、
さっそく4巻まで買ってきました。

すでにシリーズは完結してまして、全10巻。

神田明神下のそば屋「つる屋」で、料理を作って
いる娘。上方風の味付けで作りますが、いつも
客から「こんなの食えるか」と突き返されます。

名前は「澪(みお)」。大坂の生まれで、幼いころ
に両親を水害で失い、孤児になってさまよっている
ところを、料亭「天満一兆庵」の女将、芳に助けら
れ、そのまま天満一兆庵の女中に。

それから数年後、澪は「出汁の味が変わった」と
言い、店で使ってる井戸水の微妙な水質の変化を
見抜いたのを料理長に気に入られ、板場に入る
ことに。

ところが、天満一兆庵が火事に。助かった料理長
と女将の芳と澪は、数年前にオープンした天満
一兆庵の江戸支店に行ってみると、なんと支店長の
左兵衛が、どこかに消えてしまって、店はありま
せん。

料理長はショックで病気になって亡くなり、芳も
ずっと具合の悪い状態。そんなあるとき、澪は
「つる屋」の主、種市と出会い、働かせてもらう
ことに。
ところが、澪の馴染んできた上方の味付けと江戸
の人が好む味付けが違い、澪は悩みます。
それでも主の種市は、澪が欲しいという江戸では
あまり流通していない昆布や白味噌などを買って
澪を応援してくれます。

澪ほどの味覚の勘がいい料理人であれば、江戸風
の味付けにすることなど簡単なのですが、本当に
それでいいのか悩み苦しみます。

「つる屋」の常連で小松原という武士、青年医師
の永田源斉という澪を応援してくれる人もいて、
どうにか工夫して、やがて「つる屋」の一品は
すごく美味いと評判になります。

ですが、そんな「つる屋」に、旗本や大名も通う
料理屋「登龍楼」が、陰湿ないやがらせを・・・

澪は、幼いころ、手相見の名人に「雲外蒼天」の
相だと言われます。

「頭上に雲が垂れ込めて真っ暗に見えるが、それを
抜けたら青い空が広がっている」

という意味で、苦労が絶えまなく襲ってくるが、
耐えて精進すれば、その先には誰も見たことのない
素晴らしい青空が待っている、と・・・

このとき、澪の友人、野江ちゃんも手相を見てもら
い、こちらは「旭日昇天」の相だと言います。
天下取りの相で、太閤秀吉クラスだとか。

ところが、先述の水害で、野江ちゃんの行方はわか
らず。
野江ちゃんは必ず生きてる。澪は野江ちゃんとの
再会を信じます。

ネタバレにならない程度に、最後の話で野江ちゃん
(らしき)人がちょろっと紹介されますが、それが
はたしてそうなのか、はやく2巻を読みましょう。

巻末に、澪の考案した料理のレシピが載ってるので、
これも作ってみましょう。
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佐伯泰英 『吉原裏同心 流離』

2017-05-07 | 日本人作家 さ
ここ最近というか数年、テレビのドラマは見ていない
のですが、時代劇だったら見てみようかなとたまに
思ったりしまして、テレビ欄の解説などを見ますと、
原作の小説があったりしまして、それがまだ読んで
ない作品だったりしますと、じゃあドラマを見る前に
読んでおこうとするのですが、その本を買ってきて
読み終わっても、その時点でドラマは終わってまして、
あー録画しておけばよかったといつも後悔するので
あります。

で、この『吉原裏同心』、NHKでドラマやってまし
たね、3年ぐらい前でしたか。

その時も、そういえばこの作家名とタイトル、本屋で
見たことあるわ、じゃあまずは原作を読んでからね、
なんて思って幾年月。

九州豊後、岡藩で、ある事件が起きます。
納戸頭の藤村壮五郎の妻、汀女が、馬廻役の神守幹次郎
といっしょに逃げます。

逃亡中、汀女は幹次郎を「幹どの」、幹次郎は汀女を「姉さま」
と呼び合っています。ふたりは幼馴染みで、汀女の家は
藤村に借金をしていて、借金の”カタ”に汀女は十八歳も
年上の壮五郎の妻にさせられたのです。

ある日、句会があって、その席でふたりは再会し、
幹次郎はなんと汀女を連れ出したのです。

ここで青春映画でしたら「今夜、きみの家の前で待ってる」
なんて言って、女の子は部屋の窓からこっそり抜け出して
「パパごめんなさい」なんてのがありますが、このケース
は、男は藩の中でも下級で、相手は藩の重役の人妻。
シャレになりません。

当然、すぐに追っ手がやってきます。が、幹次郎、藤村
壮五郎の右手を切り落とし、藩内で有名な剣士も簡単に
斬られます。
じつは幹次郎、自己流ですが薩摩示現流を体得していた
のです。

ふたりは九州を出て東へ、そして大坂に着き、しばらく
住みますが、追っ手を見かけ、今度は北上して加賀へ。
ここで幹次郎は金沢のとある道場で居合を習います。
ところが、汀女はある日、藤村家の小者と金沢で
バッタリ会います。ということはつまり追手がいる
ということでまた逃亡。

それから仙台、水戸、小田原と転々と逃亡すること九年、
ふたりは江戸に。藤村ら追っ手も江戸にいて、なんだ
かんだあって、幹次郎と追っ手らは吉原で出くわし、
ゴタゴタの中で追っ手の一人が遊女を斬ってしまいます。

吉原は幕府公認の遊里で、なにやら「力」があるようで、
この一件は藤村ら追っ手を世話していた岡藩に厳しい
裁定が下り、岡藩は吉原に慰謝料を払い、家臣数名が切腹、
さらに追っ手らは江戸追放。

これでひと安心の汀女と幹次郎。そこに、吉原の会所名主
の四郎兵衛からお声が。
「会所」とは吉原独自の警察組織のようなもので、いちおう
江戸町奉行の「吉原出張所」のようなものも設けてあるの
ですが彼らはてんで役立たず、そこで、幹次郎に用心棒
になってほしいとお願いが。
町奉行の与力と同心が「表」なら、幹次郎はさしずめ
「裏」同心、と・・・

汀女も、俳句のセンスを買われ、遊女たちの俳句の先生に。

四郎兵衛会所からふたりに与えられた仕事内容は、吉原の
廓内で事件を未然に防いだり、また事件が起きたら、それ
を迅速かつ円満に解決することに。

火付け騒ぎがあったり、巡察に来た町奉行に卵を投げつける
事件もあったり、初めて客を取る遊女がじつは「初めて」じゃ
なかったというトラブルも起こったり。

この作品はシリーズで、全25巻あるそうです。
とりあえず試しに1巻目を買ってきて読んだらこりゃ面白い
ということでとりあえず手元には3巻まであります。
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万城目学 『偉大なる、しゅららぼん』

2017-05-04 | 日本人作家 ま
近畿地方には縁がなく、数回しか行ったことがない
のですが、関西エリアが物語の舞台になっている
「鴨川ホルモー」や「鹿男あをによし」など、
奇想天外な話が出てくるのは、歴史が長いから
もしかしてひょっとして本当にあるのでは・・・
などと考えてしまったりします。

で、この『偉大なる、しゅららぼん』も、舞台設定は
琵琶湖沿岸。そして奇想天外。

琵琶湖沿岸に住む日出涼介は、この春から「石走高校」
に進学することに。しかし涼介はこの高校を受験した
記憶はなく、いつの間にか合格していました。

日出家の本家はこの地域の名士らしく、なんでも県知事
をはじめ近隣の市町村長や国会議員までもが本家に挨拶
におもむくそうな。

涼介は、石走にある本家から高校に通うことになるので、
さっそく本家へ。その本家とは、お城。

「石走城」は、もと近江七万石石走藩の天守で、日出家
はつまり旧藩主、世が世なら「お殿さま」?かというと
そうではなさそうです。

さて、涼介は、日出本家の当主、淡九郎おじに会います。
そこで、日出一族の持つ「力」について触れるのですが、
どうやら涼介もその「力」の持ち主なのですが、本人は
それを受け入れていません。

お手伝いさん風の女性、通称「パタ子さん」に部屋に
案内されます。そこではじめて、同い年でいっしょに
高校に通うことになる当主の息子、淡十郎に会います。

入学式の朝。涼介は高校に向かう途中、あることに
気付きます。他の生徒たちの学生服が自分の着ている
のとは違うことに。
涼介と淡十郎だけが学生服の色が朱色なのです。
淡十郎に聞くと「僕がこの色が好きだから」と。

学校に着くと、教頭先生が「おはようございます、
教室にご案内いたします」とペコペコ頭を下げて挨拶。

教室に着いた涼介ですが、さっそく、ガラの悪そうな
同級生に「お前その制服なんやねん」と因縁をつけられ
ます。
めんどくさいなあと涼介は例の「力」をその男に使おう
とすると、前のほうから「静かにしろっ」という声が。
そして涼介の耳に、この世のものとは思えないひどい
大音響が。そして、前のほうにいたイケメン風の棗広海
という男にいきなり殴られます。

この棗広海も、日出一族と同じく「力」の持ち主とのこ
とですが、日出家の「力」と棗家の「力」は違うらしい
のです。
この両家の付き合いは、はるか昔にさかのぼるほど
古く、なにやら因縁があるらしいのですが・・・

この「力」とは何か。そして石走高校に新任してきた
校長も、なにやら日出家との因縁があるらしく・・・

「力」にまつわるエピソードで、名前に関するものが
あるのですが、はじめにそのキーワードが出されるの
ですがそのときには解説は無く「あれってどういう意味
だったんだろう」とモヤモヤしていると、あとでその
キーワードの説明が出て来るといった、キーワードの
インパクトが強くないと印象に残らず、かといって
強すぎるとストーリー展開にじゃまになるし、逆に
弱すぎても読者にスルーされたら話についていけなくなる。
簡単そうで難しいテクニックですねこれは。

ここまでの奇想天外な話を「バカ話」で終わらせない
のが、この作家の面白いところ。「指輪物語」や
「ハリー・ポッター」のような西洋的なファンタジー
ではなく、落語的なファンタジーがありますね。
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