晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮部みゆき 『ICO 霧の城』

2014-03-30 | 日本人作家 ま
ファンタジー小説というと、どうしても指輪物語やハリーポッターの
イギリスが思い浮かぶのですが、どっこい、日本だって古くは竹取物語
や南総里見八犬伝、銀河鉄道の夜もそうですか、面白いファンタジー
はいっぱいあるわけです。

現代のファンタジー作品で「これは」と思ったのが、宮部みゆきさんの
「ブレイブストーリー」ですね。翻訳して海外で売れば向こうのファン
タジーのファンも「おおー」となると思うのですが、どうなんでしょう。

さて、『ICO 霧の城』ですが、裏表紙のあらすじを読むと、これも
ファンタジー。で、読み終わって最後の解説を読んだら、これはゲームの
ノベライズとあって、ああ、と。

トクサという村には、何十年かにひとり、角の生えた子が生まれます。
この子は「ニエ」と呼ばれ、大きくなったら生贄になるという宿命。

なんの生贄かというと、トクサから遠く離れた「霧の城」という、村人が
立ち寄ってはいけない森のさらに奥にある城。そこに行けばニエは永遠の
命がもらえるといいます。

では、なんのために生贄になるのか、というと、ニエが生まれたら「その時」
が来るまで育てる役目の村長しか知らず、それを村人にもニエ本人にも
教えてはなりません。

イコは活発で賢くとてもいい子に育ちます。しかし、とうとう「その時」が
やってきて、イコは村人との接触を避けるため隔離されます。

イコの親友トトは、自分もいっしょに霧の城に行くんだと言い出し、ついに
たったひとりで立ち寄ってはいけない森に向かうのです。

そして、そこでトトが見たものとは・・・

とうとう「その時」がやってきて、イコは神官と兵隊に連れられて霧の城に
向かいます。イコは旅立つ直前に継母が織ってくれた御印を着ることに。
すると村長は「必ず生きて帰ってくる」と、今までのニエのしきたりとは
違うことをイコに告げます。

長い道のりを経て、たどりついた「霧の城」そこは人のいない廃墟。神官は
祈りをささげると門が開き、一行は中に入ります。

しばらくすると、広間があり、そこには無数の石棺が。そのなかのひとつに
イコは入れられます。そして、神官と兵隊は帰るのです。

しかし、イコはその石棺から飛び出します。見上げると、そこは高い塔に
なっていて、空中に鳥かごのようなものがあります。

イコはその鳥かご目指して上のほうに登ってゆきます。すると、かごの中
に少女が閉じ込められていたのです。僕と同じニエかな?イコはかごを
降ろして、中にいた少女に話しかけますが・・・

イコはなぜ石棺から吐き出されたのか。この少女は何者なのか。そして、
霧の城の存在とは。そもそも「ニエ」とは何なのか。

この小説の原作であるゲームがそうなんでしょうけど、これは子供向け
には書かれていません。ファンタジー的な要素を切り取れば、世界史の
どこかでこんな話があったのでは、と思ってしまいます。


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冲方丁 『天地明察』

2014-03-27 | 日本人作家 あ
だいぶ間をあけてしまいました。前の投稿が3月の10日だったので、
2週間もほったらかしで、そんなに読み終わるまでに時間かかったの、
というわけではありません。その間に4冊読みました。

はい、つまり忘れてたというわけ。すみません。

そんな話はさておき、『天地明察』やっと読みました。

これはもう、最初の1ページから面白いです。デニス・ルヘインの
「ミスティック・リバー」以来ですね。

まず、江戸城に囲碁打ちという役職があった、というところにグッと
つかまれます。トップクラスになると将軍の御前で対局までできる
というんですから驚きです。

ようは重職の碁の相手をする”家庭教師”みたいな存在ですから帯刀
の必要はないのですが、主人公の渋川春海はなぜか二本差し。それも
かなり不慣れな様子。

囲碁打ちでの春海は「安井算哲」という名前があるのに、別名を名乗る
わけとは。

さて、そんな春海ですが、朝早くに駕籠に乗って出かけます。行き先は
神社。その神社は江戸じゅうの算術に覚え在りの人たちが問題を絵馬に
書いて、それを見た誰かが解く、という今で言えば掲示板の役割として
算術好きの間では有名な神社で、そこで春海はある絵馬に書かれた難問
と出会います。

解くのに夢中になり、神社の娘が掃除をしているのにも気付かず、挙句
には刀を神社に置きっぱなしにして帰ろうとします。

刀を忘れたので急いで神社に戻って、さっきの娘に面目ないなんて謝って、
ふと絵馬を見ると、なかなか解けなかった絵馬の問題のところに答えが
書いてあるではありませんか。

娘に聞くと、ついさっき来て、一瞥して答えを書いて去った、というのです。

そう、この男こそ、稀代の算術の天才、関孝和。

関と春海との話はいろいろあるのですが置いといて、江戸城では、老中の
酒井雅楽頭忠清と春海が碁を打ってます。
じつは、春海に帯刀させたのは、この酒井。何を考えてるのか分かりません。

ところで、酒井雅楽頭といえばピンと来た人は時代小説あるいは時代劇の
好きな方ですね。山本周五郎の「樅の木は残った」に出てくる、伊達藩
取り潰しの黒幕。

ある日、酒井から突然、幕府で天体測量チームが結成されるので、そこに
参加してほしい、と言われます。

この当時、日本で使われていた暦には微妙な”ずれ”が生じてきていて、
新しい暦を採用しようという動きがあって、春海はそのプロジェクトの
一員になるのですが・・・

囲碁打ちの家系に生まれ、算術に魅せられて、やがて新暦作成に人生を
費やす、ざっと渋川春海という人物を書くとこのような感じなのですが、
じつに魅力的。

一見すると理系の小説っぽいですが、分かりやすく読みやすいです。

これだけ科学が進歩しても、いまだに星の動きは人間の生活に影響がある
と考えるのは滑稽なのでしょうか。



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浅田次郎 『天切り松闇がたり 第四巻 昭和侠盗伝』

2014-03-10 | 日本人作家 あ
浅田次郎の小説の中でも、「プリズンホテル」や「きんぴか」など、
当世風な表現でいうところの”反社会勢力”が登場する作品がたまらなく
面白くて、この『天切り松 闇がたり』もそのひとつ。

「天国までの100マイル」だったと思いますが、主人公の「俺はろくで
なしだけど、人でなしではない」といったようなセリフがあって、まさに
この部分といいますか、まだ救いようのあるろくでなし感が魅力的だったり
します。

親に身売りされた松蔵は、「目細の安吉一家」に預けられ、スリ、詐欺師、
夜盗といった稼業のこの一家のもとで、時に厳しく、時にあたたかく見守られ
ながら松は成長していきます。

第一巻では明治の終わり頃の話で、四巻では、関東大震災の復興後から昭和
初期、軍国主義が徐々に日本を覆ってくるころの話。

松の兄貴分である寅弥は悲痛な面持ち。かつて寅が軍人だったときの部下の
子供に召集令状が届いたのです。我が子のように可愛がっていた子を戦地に
赴かせる前に、国に一泡ふかせてやりてえ・・・そして盗みに入るのですが、
その家とは・・・

その他に、学校の日本史ではそんなに深くは習わなかったと思いますが、
「相沢事件」の相沢三郎を描いた「日輪の刺客」そして「惜別の譜」は
圧巻です。「惜別の譜」で、最後に相沢の奥さんに宛てた手紙のシーン
があるのですが、ここはもう不意打ちのように涙が出てきます。

そして、愛新覚羅溥傑と嵯峨浩の話「王妃のワルツ」これは切ない。

じつは、松蔵はそれまで師匠の安や兄貴たちの補佐といいますか手伝いが主
だったのですが、ようやく”技”を披露します。
その技を伝授してくれた黄不動の栄治は、結核におかされて・・・

ラストの「尾張町暮色」は女スリのおこんがなんとも格好いい。

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山崎豊子 『華麗なる一族』

2014-03-03 | 日本人作家 や
山崎豊子の作品は長編が多いので、本屋に行くと上中下や1~5が全部
揃ってなかったりして、困ってしまいます。

だからといって予約して取り寄せてもらうのもなんか面倒だし、揃ってれば
買うよ、ぐらいなのですが、しかし買ったはいいとして、今度は読む気分的
な問題が出てきます。

この人の作品は、なんというか、読んだ後にグッタリしてしまう(前に「沈まぬ
太陽」を読んだ後に頭が”ぐわんぐわん”しました)ので、読みはじめようにも
けっこうな気合が必要なのです。

万俵銀行頭取の万俵大介とその家族の物語、彼の銀行頭取としての経済小説とし
ての側面、両方ががっちりタッグを組んでの激しいストーリー展開。

もともと地方の地主から財閥にまで発展した万俵家。阪神銀行は都市銀の中では
業界ランク10位、不動産や流通、鉄鋼などのグループを形成。さらに、使えるもの
はなんでも使うといわんばかりに、閨閥作りにはげみます。

長男の鉄平は銀行を継ぐ意思はなく東大工学部からマサチューセッツ工科大へ進学、
万俵特殊鋼に入社し、現在は専務。妻は国会議員で大臣の娘。

長女の一子は、大蔵省のキャリア官僚、美馬中と結婚。

次男の銀平は、一応は父のあとを継ぐかたちで万俵銀行に入社。しかし、幼い頃に
垣間見た(見てしまった)ものがトラウマなのか、性格がひん曲がってしまいます。

銀平が垣間見たものとは家庭の問題なのですが、大介の妻は公卿華族出身の昔ふうに
いえば「お姫さま」で、これも閨閥作りのための結婚で、お姫さま育ちの寧子は家事
全般なにも出来ず、その代わりに子供たちの世話係として招かれたのが、アメリカ帰り
の相子という女性。はじめこそ相子は子供たちの家庭教師だったのですが、持ち前の
美貌と本人の野心が”英雄色を好む”大介と関係を持つまでに。なんと大介は調子に
乗って寧子と相子を同じベッドに連れ込むという(文中では「妻妾同衾」と表現しています)
まあなんとも破廉恥な行為に及び、これを幼き銀平は見てしまったのです。

相子は、万俵家のさらなる発展のため、銀平、妹の二子と三子に相応しいお見合い相手を
探す役目をおおせつかります。

とまあ、ざっとこんな家庭環境なのですが、もう一方の話の流れは、阪神特殊鋼の鉄平が
高炉を作って自社で製鉄をしたいために父に融資をお願いするところから始まります。
38歳になった鉄平はますます祖父に似てきて、それが大介にとっては気に入りません。
ひょっとして鉄平は祖父と寧子のあいだの子なのではとの疑いはさらに強く持つように
なってくるようになり、阪神特殊鋼の融資の話もすんなりとは了承しません。

ところが、この阪神特殊鋼が別の銀行に融資をお願いに行ったことが、のちに大介と鉄平
とにあいだにとんでもない亀裂を・・・

中央省庁では銀行再編の動きが高まっていて、業界ランク下位の阪神銀行などは、上位行
に飲み込まれてしまいます。しかし、自分の代で阪神銀行を無くすわけにはいかない大介
は、「小が大を食う」銀行合併を模索することに。

ここの部分の銀行再編劇は、第一銀行と三菱銀行の合併から白紙までを描いた高杉良の
「大逆転!」を読むと、さらにディープなことが分かって面白いかと。

冒頭での、伊勢のホテルで行われる万俵家の新年会の豪華なシーンからのラストシーン
の対比が、あたかも舞台を見ているようで、緞帳が下りて来て客席から立ち上がって
拍手したくなるような気持ち。

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