晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

スティーヴン・キング 『ゴールデン・ボーイ』

2010-12-27 | 海外作家 カ
もともとは「恐怖の四季」シリーズとして、こちら『ゴールデン・ボーイ』
が春と夏、そして「スタンド・バイ・ミー」が秋と冬で、出版はなんやかや
で逆になってしまったらしいのですが、そもそも中編と長編の間という、
長さとしては「微妙」な4作をまとめたという経緯からか、そのように
なったそうです。

まず、「刑務所のリタ・ヘイワース」。こちらは、このタイトルよりも、映画
「ショーシャンクの空に」のほうが知名度があるでしょう。その映画の
原作であり、ショーシャンク刑務所に収容された、無実を訴え続けた囚人が
なんと30年かけて脱獄に成功した、という話。
いや、成功したかどうかは、はっきりとは描いてはいません。むしろその
ほうが物語としてしっくりくるといいますか。

話は、脱獄したアンディーを別の囚人「便利屋」が回想するというかたちで
語られていきます。
銀行家のアンディーは、妻と浮気相手を銃で撃ち殺した罪で終身刑を言い
渡されます。アンディーは無罪だったのですが、この裁判の検察と裁判官の
“よもやま”の事情で訴えを聞き入れてもらえなかったのです。

そんなこんなでショーシャンク刑務所に入ったアンディー。彼は、たいてい
どこの刑務所にもいる、外からさまざまな品を取り寄せる「便利屋」に話し
かけて、あるモノを手に入れてくれと頼みます。

かつて銀行家であったアンディーは、やがて看守の金銭トラブルを解決したり、
それがきっかけで刑務所の他の看守や、刑務所長までもが何らかの金銭問題に
彼のアドバイスをあおぎ、やがてこの囚人は「図書室長」という地位を得ます。

アンディーが刑務所に入って30年、とうとう彼は決行したのです。それは・・・

そして、「ゴールデン・ボーイ」。こちらも映画化されたとのことですが、
まだ見ていないので、こんど機会があったらDVDでも借りようかと。
アメリカの田舎、まあどこにでもいそうな「アメリカの少年」であるトッドは、
ある日、同じ町に住むある老人が、じつはナチスの残党であると、ひょんな
ことから分かってしまい、この老人に、当時の様子を訊き出そうとしますが、
老人は偽名を名乗っていて、そんなことは知らないといい続けます。

しかし、トッドは老人の家に通いつめ、とうとう老人は白状します。ここから
トッドの心に奇妙な“欲求”が芽生えてきたのです。そして同時に、不思議な
夢を見るようになり・・・

トッドはそれまで成績は優秀、両親にとってもまったく手のかからない「いい子」
だったのですが、老人宅に通ってたことで成績はガタ落ち、そのことを問われると
、その老人は目が不自由で代わりに本を朗読してあげているとウソをつき、さらに
両親とのそれまで当たり前だったコミュニケーションに苛立ちをおぼえるのです。

そう、老人がナチス親衛隊時代の話を聞いているうちに、トッドの心の中に芽生えて
きたのは、「支配欲」「残虐性」だったのです・・・

これで「四季」シリーズを読み終えたわけでありますが、ホラー前面に押し出しては
いない、とはいいつつも、それなりに恐怖な話もあったりはしますけど、それでも
青春小説あり、ホロリとさせる話あり、キングの間口の広さを知ることができます。

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笹本稜平 『時の渚』

2010-12-22 | 日本人作家 さ
この作品は、サントリーミステリー大賞受賞作品で、居並ぶお歴々
選考委員(浅田次郎、逢坂剛、北村薫、林真理子、藤原伊織)も
絶賛。

元警視庁捜査一課の刑事、茜沢は、警視庁退職後、探偵をはじめ
ます。そこに、余命いくばくもない松浦という老人からの依頼が。
昔はバリバリのヤクザで、妻が出産時に死亡、息から酒の臭いが
した医師を、若き頃の松浦は殴りつけ、赤ん坊を抱えて逃亡。
池袋の公園のベンチで呆然としているところに、ひとりの女性が
声をかけてきます。大泣きする赤ちゃんをその女性は上手にあやし、
松浦の話を聞いて、女性は、この赤ちゃんを私に育てさせてくれ、
というのです。

池袋の「金龍」という居酒屋で女将をやっているという女性に、
松浦は、どうせ極道の男手ひとつで育てるのは無理だと思って、
赤ん坊を渡します。
後腐れのないように、ふたりは名前を名乗らず、女性は赤ちゃん
を抱えて去り、松浦は警察に出頭。
出所した松浦は、足を洗い、飲食事業が当たります。

ガンが全身に転移し、ホスピスに入所している松浦は、せめて
息子に金を残してやりたいと思い、極道時代に世話になった、茜沢
のかつての上司から、茜沢へと連絡がきたのです。

そんな折、その元上司から、茜沢が警察を辞めることになったある
事件の新展開を聞かされます。
三年前、茜沢の妻と幼い子どもが交通事故にあい、子どもは即死、
妻は意識不明。
そのひき逃げの犯人は、事故現場のすぐ近くの資産家夫婦を殺害し、
その直後に車を盗んで、茜沢の妻と子どもを撥ねた可能性が。
この事件の当事者関係にあるとされう茜沢は、捜査に加われません
でした。
すぐに捜査線上に、この資産家夫婦の息子の犯行が疑われましたが、
DNA鑑定でシロ。意識不明だった妻も亡くなり、警察に失望した
茜沢は辞表を出します・・・

それから三年後、都内のラブホテルで若い女性が絞殺死体で見つかり、
女性から検出されたDNAが、三年前の資産家夫婦を殺害した犯人の
型と一致したというのです。

当初から、資産家夫婦の息子が犯人だと強く思っていた茜沢と元上司は、
探偵としての松浦老人の依頼と並行して、この息子、駒井昭伸の行動を
追うことに。

松浦老人が赤ちゃんを渡した女性の手がかりは、なにせ30年以上も前
のことなので、当然「金龍」という居酒屋はもう無く、当時のことを
よく知る年配の方々に聞きまわり、なんとか、女性は「ユキちゃん」
という名前、長野から東京に出てきて、練馬、新橋に在住していたこと
が分かります。

一方、駒井ほうは、茜沢はコンピュータに詳しい知り合いに頼んで、
足取りを追うことに。駒井は現在、芸能プロダクションの社長で、どうやら
麻薬に手を染めているらしいことが分かります。

松浦老人が赤ちゃんを託した「ユキちゃん」という女性は見つかるのか、
息子は生きているのか、また現在どうなっているのか、そして、茜沢の
妻と子どもを殺した犯人は駒井なのか・・・

調査を進めていくうちに、驚愕の事実が明らかになります。しかしそれは
ほんの序章で、そこからまたさらにビックリ。
探偵、人探しという、使い古されたテーマから、よくもここまで広がりと
奥行きを持った心揺さぶるミステリーが描けたものだなあ、と感服。

ミステリーを読んでいると、あくまでこれはフィクションで読んでる自分は
傍観者というか第三者、という距離を保って読み進む作品と、気がつくと
主人公に自分が重なって、ともに怒り、ともに涙し、ともに笑う、といった
作品もあり、この「時の渚」は、後者ですね。

そして、ふっと我に帰り、ああ、茜沢さん、これからの人生、幸せになって
ほしいなあ、などと思いながら読了。
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フレデリック・フォーサイス 『戦争の犠牲者』

2010-12-17 | 海外作家 ハ
イギリスの情報機関SISのサム・マクレディは、各国の諜報部では
知らないものがいない、優秀なエージェント。しかし20世紀の終わ
りに、東欧諸国の共産主義体制の崩壊ならびにソ連邦の解体が、それ
まで自由陣営で東側の情報を握っていた機関に、規模縮小という波と
なっておとずれます。先陣を切ってその槍玉に挙げられたのが、マク
レディ本人。
かつて、死と隣り合わせの綱渡りで数々の東側の情報をイギリスにも
たらした栄光を尻目に、彼に引退勧告同然の、指導教官というポスト
に就けという上層部からのお達し。しかし、その裏には、局内にかな
りの信望者と影響力を持つマクレディをスケープゴートにし、その後
局内の縮小をスムーズに執り行いたいという思惑があり、当然これに
反発(時代の趨勢には抗わず、一応のかたちだけの反発)したマクレ
ディと彼が部長を務める部内職員が、聴聞会の開催を要求します。

この聴聞会で、かつてマクレディが母国イギリスのために身体を張り
貢献してきたという武勇伝が語られてゆきます。
これが「マクレディシリーズ」4部作であり、『戦争の犠牲者』は3作目。

だいぶ前に1作、2作目と読んで、それからこの『戦争の犠牲者』を
読まずに先に4作目を読んでしまい、そこから時間が経って、ようやく
任務終了、ならぬ、全部読了。

北アフリカのリビア、ここの軍事政権トップであるカダフィ大佐は、
西側諸国からの攻撃の復讐に燃えて、イギリスのIRAに武器を渡し、
代わりにロンドンを火の海にしようと画策。

この情報をいちはやくキャッチしたイギリス情報部は、リビアからの
武器輸送ルートをキャッチし阻止するためにマクレディに託します。
しかしマクレディは、ルート捜索をするには西側にも東側にも顔が割れて
おり、自由に行動できません。そこで彼が白羽の矢を立てたのは、
かつて諜報部にいて、現在は田舎に引っ込み作家活動をしている、
トム・ロウズ。

しかし、ロウズは首をたてに振ろうとはしませんが、マクレディは、敵の
一人には、昔ロウズと“因縁”のある男がいると教え、ロウズはふたたび
テロリストとあいまみえることに・・・

この作品(マクレディシリーズ4作)は、他の作品に比べれば、やや短い
(といっても、中編よりやや長め)のですが、その分、中身がぎっしりと
つまって読み応えのある、といった印象。

西側を主人公にすると、まあ東側つまり共産圏が悪という構図に仕立てる
のは定石といいますか、フォーサイスの描く人物は、西も東も、純粋な
善も悪もそこにはない、ある意味イデオロギーという見えない「枷」の
被害者たち、というふうに見えます。


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深町秋生 『果てしなき渇き』

2010-12-13 | 日本人作家 は
この作品は第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞、
内容的にはかなり重苦しく、ハードボイルド、ノワールといった
カテゴリーで、その中で、スピード感こそあまり味わえなかった
ものの、それでも構成はしっかりと考えられていて、話の「隙」
は見られず、完成度の高いミステリーだと思います。

元警官で現在は警備員の藤島。雨の夜、ある一軒のコンビニエンス
ストアからの警報で、藤島は直行。中に入ってみると、そこには
三人の死体が・・・

できれば顔をあわせたくない元同僚、つまり警察に、この事件の
発見者として訊き込みされます。藤島はぶっきらぼうに対応。
しかし、藤島が警察を辞めた“事情”を知るかつての後輩が場を
なんとか穏便に済まします。

藤島が警察を退職した“事情”とは、連日捜査捜査で家を放ったらかし
にしていた「ツケ」か、妻は男と不倫、藤島はその男に暴行、そして
免職ではなく“依願退職”となったのでした。

そんな中、別れた妻から電話が。娘の加奈子が帰ってこないというのです。
その理由を聞いても元妻は、とにかく家に来て、の一点張り。
元妻と娘の住むマンションへ行き、娘の部屋で手がかりを探す
藤島の目に入ったものは、高校生の少女が持つには不相応な量の
麻薬が・・・

娘の友人を見つけ、居場所を聞こうにも、どうにも何かを隠している
様子で、さらに、加奈子に対して嫌悪や憎しみまでも感じられます。
どうにかこうにか訊き出せたのは、ある不良グループと娘の関係。
そして、写真の中で加奈子といっしょに並んで写っていたある男。
この男は、中学時代に自殺していたのでした。
写真に写る加奈子の屈託の無い笑顔から推察するに、この男は恋人だった
のではないか・・・

美人で頭も良く、性格も明るい加奈子が、そんな不良グループと付き合い
があったと知り愕然とする藤島。それもこれも元妻の育て方が間違って
いたと詰ります。

コンビニ殺人事件から娘の関係しているとされる不良グループの繋がり
という話とクロスして、娘の中学時代の話が描かれます。
クラスで壮絶ないじめに遭っている少年を、加奈子は助け出します。
ある日を境に、ぴたりと少年に対する悪口や暴力が「消えた」ばかりか、
その少年に対していじめを行っていた中心的な人物はあからさまに少年
の「背後の何か」を怖がります。
加奈子に密かな想いを寄せていた少年は、加奈子に誘われるままに、ある
「グループ」の集まりに誘われますが・・・

警察、ヤクザ、少年不良グループ、これらが複雑に絡まってのスピード感
を期待したのですが、正直いって、スローペース。
だからといって、中身の無いまま突っ走られても困ります。その点では
それぞれの背景や心情などをしっかりと描いていたからこそのスローである
と解釈すればいいのですが、ノワールつまり暗黒的な物語は一気に読み上げ
てこその(そのあたりのスピード感は馳星周の描写が秀逸)魅力というか
醍醐味なのですけど、つまり、暗黒に陥らざるをえないシチュエーション
かどうかの話の持っていき方がちょっと弱いかな、と思うのです。
その理由付けが決まれば、あとは急流に乗るだけで「ああ怖かった~」と
なるわけです。この「怖かった」と「面白かった」が表裏一体。

長時間、ジェットコースターに乗っていたりお化け屋敷に入っていたりなんて
したくないですものね。


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ジョン・アーヴィング 『サーカスの息子』

2010-12-09 | 海外作家 ア
アーヴィングの作品を読むのはこれで2作目、ちなみに1作目は
「ホテル・ニューハンプシャー」でしたが、なんというか、きちんと
説明できませんが、作品の中に描かれている世界に一歩足を踏み
いれたら吸い込まれ、その世界観を体に浴び、でもその作品を読
んでいる“自分”を俯瞰で見ている、なんだか意味不明な解釈で
すけど、つまり読書というよりは「不思議な体験」をした、そんな
感覚になったのでした。

『サーカスの息子』の舞台はインドのボンベイ。現在では公式名称が
英語読みから現地語の「ムンバイ」になった、インド西部、アラブ海
に面する、インド最大都市。
カナダのトロント在住の医師、ファルーク・ダルワラは、ここムンバイ
で生まれ、その後オーストリアで医学を学び、オーストリア人女性と
結婚し、子どもが生まれて家族はトロントへ移住。
ファルークは、たびたびインドへ「帰郷」します。その大義は、軟骨
発育不全が原因の小人症の遺伝子を研究するためで、彼がよく知る
サーカス団員の小人ヴィノドを介し、遺伝子サンプルを集めようと
します。

しかしヴィノドは血液採取を拒否、そしてサーカスで事故に遭いサーカス
を退団、その後、小人でも運転できる「方法」を編み出し、「ダー警部」
シリーズに主演する映画スター、ジョン・Dの運転手をやることに。
このジョン・Dとは、ファルークにとって弟とも息子ともいえる存在で、
産まれてまもなく母親に捨てられ、ファルークの両親のもとで育てられ
ます。
そして、人気シリーズ映画「ダー警部」の脚本を担当しているのは、なんと
ファルークなのです。

この映画は、インドの複雑に入り組んだ宗教問題を扱ったりするので、
なにかと物議をかもします。最近では、映画を真似た殺人事件が起こったり
して、そしてとうとう、ボンベイの会員制高級クラブ「ダックワース・クラブ」
内で殺人事件が発生、被害者の口の中に、ダー脅迫のメッセージが・・・

ファルークは、ある出来事を思い出します。それは20年前、突然キリスト教
に改宗した衝撃的な(本人にとって)身体の“異変”の起こった前後、ある
殺人事件に出くわすのですが、その20年前の事件と、クラブ内で起きた
事件には、ある繋がった“何か”があると考えたファルークに・・・

さらにファルークには悩みが。じつはジョン・Dには双子のきょうだいが
いるのです。彼らの母親は、インドで双子を出産、なんと「片方」だけを
連れてアメリカへ戻ってしまったのです。
その片方が、なんとボンベイに来るというのですが、さて、ジョン・Dに
どうやって話せばいいものか・・・

物語上の現在進行形からいきなり過去の回想へ話が飛び、そしてまた戻り、と
目まぐるしく動きまわります。その中で小出しで語られる、登場人物の出自、
過去、人生を変える出来事。

そして、インドという国の、あまりに独特な世界を、時にリアルに、時に
幻想的に描きます。そこにあるのは「ただ、インド」なのです。

インドに在住しているわけではないファルーク、トロントでも、帰化したとは
いえ、何度も理不尽な差別にあいます。自分の居場所はどこか、帰るべき場所
とはどこか、アイデンティティに苦悩。
歩み続けていた足を止め、ふと「なぜ」と思ったときに、人は「異邦人」を
感じる、とはアルベール・カミュの言ですが、ファルークはまさにどこへ行こうと
異邦人を感じます。彼の帰るべき場所とは?そこは心の中に常にあっても、たとえ
視界に入っていても、本人が気付いていないだけなのかもしれません。

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宮部みゆき 『楽園』

2010-12-03 | 日本人作家 ま
この作品は、宮部みゆき著「模倣犯」に登場したフリーライター、
前畑滋子が主人公で、続編というよりは、スピンオフ的な内容と
なっています。
「模倣犯」を読まなければ話がつかめない、というわけではなく、
かといって「まだ『模倣犯』読んでないんですけど」という人の
ためにも、あまりに具体的なネタバレもせず、ここらへんの按配
は丁寧というか親切を感じ入ることができます。

9年前に自身が関わった猟奇大量殺人事件、心の傷は深く、しば
らくはライターという仕事からも遠ざかっていたのですが、徐々に
活動を再開。
滋子は小さな編集社にお世話になっていたのですが、そこに、ある
中年の女性からの電話が。ぜひとも、滋子に話を聞いてほしい、と
のこと。

その電話の相手と、とりあえず会うことに。やって来たのは、萩谷
敏子という女性で、12歳の若さで交通事故死した息子が、未来の
出来事をノートに書いていた、というのです。

詳しく話を聞いてみると、親子の住む家からだいぶ離れた(同じ都内)
ところで火事があり、その家主が、じつは16年前に失踪した娘が
床下に埋められていると自供した、という事件があり、そのニュース
を見ていた敏子は、息子の等が描いた絵の中に、その燃えた家と、
家の下に灰色に塗られた女性が書かれていたのを思い出します。
その論拠に、家にはコウモリの形をした風見鶏が描かれていたのです。
そして、その家にも、コウモリの風見鶏が・・・
しかも、この火災が起きる前に、等は事故死していたので、まさか
床下に殺された娘が埋められていたことを知っているはずがありません。

しかし、どうにも「胡散臭い」というか、超能力の類の「眉唾もの」
という疑念はあったのですが、しかし、あの9年前の事件を想起させる
他の絵を滋子は見てしまいます。

それは、若い女性をさらっては殺して、庭に埋めていたという陰惨極まる
事件の舞台となった山荘、それとしか見えない絵で、しかも、一般には
流れていない、滋子が特別に捜査にあたっていた刑事に聞いた情報――、
埋められていた死体の数と同数のシャンパンの瓶も埋められていて、恐らく
犯人は記念に祝杯でもあげていたのだろうという推測――、しかしこれは
警察関係者と犯人以外では滋子しか知らないはずなのです。

ところが、その絵には、山荘の周りに女性とみられる手が地面から何本も
突き出していて、しかもその横に、瓶のようなものも描かれていて・・・

滋子は、いずれかは、あの9年前の忌まわしい事件と向き合わなければ
ならないと心では分かっていても、その踏ん切りが今までつかなかったの
ですが、敏子の、息子の等はなぜこんな絵を書くことができたのか調べて
ほしいという依頼を受けることに。
まずは、家が全焼するまで娘を殺して埋めたことを黙っていた両親、しかも
16年間も。この「秘密」を等はなぜ知り得たのか、を調べることに。

はたして、等は、娘が殺されて埋められていたという事実を誰かから聞いた
のか、それとも誰かの「心を読んで」描いたのか、そして、山荘に埋められ
ていたシャンパンの瓶の謎は・・・
16年前に、非行に走った娘に手をかけてしまい、失踪したということにして
家の床下に埋めた土井崎夫妻と殺された娘の妹の周辺、それから生前の等を
知る方面を話を聞き進んでゆくのですが・・・

とても読み応えのある作品です。重苦しくもなく、「超能力」が出てくるので
ファンタジー、という非現実的事象をほんとうに上手に現実(日常)に織り
込ませます。

そして、救いようのない中にも光明を見出せるラスト。宮部作品の醍醐味。

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