晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

佐伯泰英 『吉原裏同心(十二)再建』

2018-02-23 | 日本人作家 さ
当ブログでは、メインが「素人書評」ということですので
個人的なことを書くのは極力控えているのですが、この
「吉原裏同心」シリーズを読んでいて、ふと思い出すこと
が多いのです。

といいますのも、私の生家は昔吉原があった、今でいうと
東京都台東区千束ですね、町名でいいますと(隣の隣)で
して、今は(吉原)という住所は無く、ですが吉原公園や
吉原神社、見返り柳の石碑がある交差点の信号機には「吉
原大門」と看板があります。その交差点から小説で幹次郎
と汀女の夫婦が住んでる近くの五十間道になり、(大門跡)
があります。

それこそ、観光ツアーのイベントで花魁道中をやってるぐ
らいですから、アンタッチャブルな歴史というまでのもの
でもないのでしょうが、あの近くに生まれた者からします
と、ああいう職種の方たちを茶化したり見下したりの言葉
を見たり聞いたりしますと、とても悲しくなります。
これは憐憫とか同情とかではなく「白い目で見るのはやめ
ましょう」ってこと。

さて、火事で全焼した吉原ですが、公儀からは「五百日
までは仮宅商いを許可する」ということで、妓楼は浅草や
深川など方々で臨時営業をしていましたが、ようやく再建
となります。

まだ本格的に引っ越しのはじまる前、吉原に出向いた会所
の四郎兵衛と幹次郎は、ふたりの遍路を見かけます。稲荷
社に行ってみますと、風雨にさらされた地蔵が置いてあり
ます。その遍路を捕まえて聞いてみますと、火事で亡くな
った(小紫)という遊女の祖父と妹で、地蔵は弔いのため
に在所から持ってきたといい、さらにまだ幼い(おみよ)
という妹ですが、吉原で買ってくれ、というのです。

禿修業ということで、大籬の三浦屋で預かるということに
して、四郎兵衛は祖父の又造に三十両を渡します。

ところが、小紫がいた花伊勢という妓楼の主が、火事の後
に小紫を見た人がいるというのです。
小紫が火事で亡くなったというのは、池に沈んでた判別の
できない遺体が小紫の持ってた打掛を着ていたので亡くな
ったことになっていたのです。
小紫と仲の良かったお蝶という朋輩の馴染み客の大工が、
江ノ島で小紫を見かけ、向こうもその大工のことは知って
るはずなのですが、目をそむけて逃げたというのです。

聞き込みをしていますと、火事の中、湯屋で働いていた女
と小紫が話していたという目撃情報が。ということは、池
で見つかった小紫と思われる遺体はひょっとして身代わり
の遺体なのか。さっそく江ノ島に向かう幹次郎。そこで
驚きの情報が。なんと江ノ島に住むある女性宛に三十両
の為替が江戸から送られてくるというではありませんか・・・

こっちのトラブルが解決し、いよいよ吉原の再会、という
ときに、亀鶴楼という妓楼の主が、うちの瀧瀬という女郎
の命が狙われてると・・・

瀧瀬の元亭主というのが絡んでくるのですが、この元亭主
の名前が「剣客商売」に出てくる秋山小兵衛の友人の名で、
ちょっとびっくり。
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池波正太郎 『真田騒動 恩田木工』

2018-02-18 | 日本人作家 あ
この作品は、タイトル通り、真田家の戦国時代末期から
江戸時代に入っての話で、文庫で20ページぐらいの短編
あり、100ページ超の中編もあり、短編集ではなく「作品
集」ってとこですね。

中でもいちばん読みたかったのが、直木賞作品「錯乱」。
見開きの作者紹介で「昭和35年『錯乱』で直木賞受賞~」
は必ず書いてあり、タイトルだけはよく知っておりまし
た。

前に読んだ「黒幕」という短編集にも「真田もの」が
3作品ほどあります。

「信濃大名記」では、父・昌幸と弟・幸村は豊臣方に、
真田伊豆守信幸は徳川方について、肉親と殺し合わね
ばならぬ武士の悲劇の一方、生き残った側の信幸には
「真田家の血を絶やさないために双方に散ったという
したたかさゆえ、次にいつ徳川を裏切ってもおかしく
はない」と、監視の目はきつく、しかし、家康からは
絶対の信頼をおかれていて、しかしそんな家康も亡く
なって、幕府は真田家を信州上田から松代へ国替えを
させられ・・・

「碁盤の首」は、真田家の馬廻役、馬場主水という侍
が農家の娘に乱暴し、娘は自害するという事件があり、
藩主の信幸は「民百姓をおろそかにする考えは許さぬ」
と、それまで数々の武功があった主水を牢屋にぶち込
みます。「たかが百姓女を犯したぐらいで」と思って
いた主水は家老に、いや殿に会わせろと叫びます。
そんな主水が脱獄し、江戸に行き、なんと幕府の評定
所へ藩主の信幸を訴えたのです・・・

「錯乱」は、真田家二代目藩主の信政が急死しますが
世継ぎの右衛門佐(のちの幸道)はまだ2歳。そこで
上州沼田藩主、右衛門佐の従兄にあたる真田信利が
「俺に相続させろ」と、家督争いが勃発。ところが、
これを機に真田家の取り潰しを画策していたのが、
幕府老中の酒井忠清。忠清は真田藩にスパイを送り
込んで真田家の弱点を探させます。すでに隠居の身
の初代藩主、信幸は、忠清の企みを看破し・・・

「真田騒動 恩田木工」は、だいぶ時代が進んで江戸
中期、八代将軍吉宗、九代将軍家重のあたり。
真田藩の財政は逼迫し、質素倹約を重んじていたの
ですが、五代藩主の信安は「知るかバカヤロー」と
ばかりに濫費にあけくれ、国家老の原八郎五郎も殿
の味方で藩士の給料カット、農民には年貢の取り立
てを厳しくし、とうとう下級武士たちが反乱を起こし
ます。家老の恩田木工は「原もかつては千曲川の治水
工事など業績をあげて頭の切れる男だったのに・・・」
と思いますが、藩内のゴタゴタが幕府に知られると、
最悪「御家取り潰し」になりかねず、話し合いの結果、
原は罷免されますが、次に国家老に就任した田村半右
衛門というのもこれまたひどくて、とうとう一揆が勃
発、田村も失脚。そこで白羽の矢が立てられたのが、
恩田木工でした・・・

「この父その子」では、真田藩の江戸留守居役、駒井
理右衛門の話。留守居役というのは他藩との情報交換
や幕府との折衝(つまり接待)などをするいわば現代
でいう「外交官」のような役目。ある日も金が入用に
なり「三倉屋」という商人から借りてきますが、そこ
で三倉屋から「お世継ぎの信弘様の質素倹約ぶりはお
いたわしく、一度でよいので気晴らしに・・・」と
提案があったのですが・・・

「まあいつか、死ぬまでに読めればいいかな」と思って
いた「真田太平記」ですが、だんだんと読みたくなって
きました。

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佐伯泰英 『夏目影二郎始末旅(一)八州狩り』

2018-02-11 | 日本人作家 さ
佐伯泰英さんの「吉原裏同心」シリーズはまだ読み終えて
いませんが、別のシリーズに手を出してしまいました。
とはいっても「裏同心」に飽きた、とかそういうあれでは
なく、11巻まで読んで、12巻を買いに行ったら無くて、
このシリーズの1巻を買ってきた、かような次第。

主人公の名は夏目影二郎。父親は幕府の勘定奉行、常盤豊
後守秀信。といっても秀信と女中の間に生まれたのが本名
瑛二郎。母が亡くなって秀信の本宅に引き取られるも義母
にいじめられ、無頼の道へ。それでも剣術の修業は続け、
鏡新明智流の桃井道場で師範代を務めるまでに・・・

どこかで聞いたことがあるような気がしなくもないですが、
それはさておき、影二郎はあることで十手持ち(岡っ引き)
を殺してしまい、普通なら死刑のところ、相手の(聖天の
仏七)というのも相当悪い男で、八丈島に遠島と決まりま
すが、牢屋にいた影二郎のもとに、父の勘定奉行、秀信が
やって来て、ある頼みを影二郎にします。

それは、勘定奉行の仕事のうちに、関東取締出役の差配、
というのがあり、上野、下野、常陸、上総、下総、安房、
武蔵、相模の現代でいう1都6県エリアに置かれた警察の
ようなもので、通称「八州廻り」と呼ばれ、そんな八州
廻りが権力を笠に着て私利私欲に溺れ腐敗しまくりで、
特に、上州にいる国定忠治という侠客が八州廻りと結託
して荒らしまわっているとのことで、もし罪状が明らか
ならその場で始末してきてくれ、という密命。

一文字笠を頭にかぶり、南蛮外衣という黒い長合羽(
信長が着てたやつですね)を身にまとい、(法常寺佐常)
という太刀を落とし差しにし、始末の旅に・・・

時代は天保七年(1836)、幕府の弱体化は明らかで、
追い打ちをかけるように大飢饉が。民百姓が飢え苦しん
でいるというのに、幕府は将軍に日光へ参拝してもらっ
て世の不安を取り除こう、と割とマジでこんな考え。
将軍が日光往復の旅でもすれば何千何万両という莫大な
費用がかかります。影二郎が関東を旅している最中に、
どうやら国定忠治は日光参拝途中の将軍を襲う計画を企
てている、という噂を聞いたのですが・・・

旅の途中、(あか)という子犬を拾い、旅の供に。
国定忠治は出てくるわ、二宮尊徳も登場し、水戸藩の学者
藤田東湖という藩主徳川斉昭の腹心、さらに伊豆韮山代官
の砲術家、江川英龍も出てきます。あとエピソードとして
大坂の大塩平八郎も。

このシリーズは全14巻。時代としてはあと30年で江戸時代
が終わってしまいますが、さてどうなるんでしょうか。
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東川 篤哉 『密室に向かって撃て!』

2018-02-01 | 日本人作家 は
この作品はシリーズもので、舞台は架空の市「千葉の東、
神奈川の西」の「烏賊川(いかがわ)市」という、もう
すでになにもかもフザケているわけですが、1作目の「
密室の鍵貸します」で登場する、烏賊川市大学の映画学科
を中退した流平という若者がある殺人事件の現場に居合わ
て、その解決を手伝う(自称)名探偵の鵜飼、そして刑事
の志木と砂川のコンビ、まあこのあたりが主要人物。

で、じつは先にこの作品の続編にあたる「交換殺人には向
かない夜」を読んでしまい、そこで登場する鵜飼の探偵事
務所が入居している貸しビルの女性オーナーの朱美、お嬢
さまの十乗寺さくらが、今回出てきます。といっても朱美
は1作目に出てるんですが。

繁華街で喧嘩騒ぎがあり、相手を怪我させたということで、
町工場の工員の逮捕に向かう烏賊川警察の志木と砂川。
家に帰ってきたところに逮捕状を突き付けると、男はいき
なり刑事を突き飛ばして家の中に逃げ込み、いきなり銃を
発砲します。が、2発撃った後、応答がありません。
男の部屋はマンションの4階。刑事が部屋に踏み込むと男
の姿は無く、ベランダに出て下を見ると墜落しています。
男は死んでいますが、志木と砂川は男が持っていたはずの
拳銃が無いことに気づきます。部屋に戻って探しても見つ
かりません。

発砲音があった直後、何者かがマンション方面から走って
きたという目撃情報があり、つまり拳銃はその「何者か」
に盗まれたのか。

それから2週間後、馬の背海岸でホームレスの男性が銃で
撃たれて死んでいるのが発見されます。ホームレスのポケ
ットに、電話番号の書いてある紙が。その番号を調べると、
「鵜飼杜夫探偵事務所」でした。

そのホームレスは(金蔵)といい、ときどき鵜飼の探偵の
仕事を手伝ってくれたのです。しかし、金蔵のねぐらは、
市の中心部にある橋の近くで、海岸ではありません。
銃を盗んだ何者かが試し撃ちをしたというのか。

鵜飼は流平を呼び出し、金蔵の殺害現場へと向かいます。
そこで流平は砂浜を歩いていると、牛か豚の脚の肉が砂に
埋もれているのを発見します。そこに、いきなり背後から
話しかけてくる女性。「十乗寺さくら」と名乗ります。
十乗寺家といえば大手食品メーカー、つまりそこのお嬢さま。

そこにさくらの祖父の十乗寺十三が。流平は「自分は探偵の
助手」と自己紹介すると、興味を持ったらしく、十三は流平
を家に招待します。その家とは、海岸の崖沿いに立つ豪邸。

翌日、鵜飼の事務所に十乗寺十三が、調査の依頼に訪れます。
話を聞くと、孫のさくらの結婚相手候補が3人いて、その3人
の身辺(特に女性関係)調査とのこと。

1か月後、十三から依頼された調査結果の報告に、鵜飼と
流平は十乗寺家へと向かいます。すると、駐車場には複数の
車が。さくらの花婿候補の3人も来ている様子。

鵜飼と流平は、食事をごちそうになり、酒を飲んで応接室で
寝ていると、突然大きな爆発音がして、流平が起きると、窓
の外には銃を持ったコートを着た覆面の怪しい人物が。
電気を点けると、なんと鵜飼が足を撃たれて痛がっているで
はありませんか。
さくらの花婿候補のひとり、田野上とさくらの父が応接室に
駆けつけ、それからライフルを持った十三も来て、さくらと
さくらの母も来ます。
ところが、花婿候補の残り2人の升村と神崎がいません。

窓の外を見ると、使用人棟から使用人の佐野さん夫婦が本館
に向かってくるのが見えましたが、本館に着いたのは奥さん
だけで、佐野さんは怪しい人物を見かけたのでそれを追って
いるというのです。

佐野さんは(飛魚亭)と呼ばれる離れに向かっています。
すると、2発連続して銃声音が。
流平と田野上とさくらの父が飛魚亭に向かっていると、さら
に1発の銃声が。そこには左腕を撃たれた佐野さん、そして
心臓を撃たれた神崎の死体が・・・
現場付近には、なぜか升村が横たわっています。すると寝ぼ
けてはいますが、死んではいません。

救急車とパトカーが到着し、怪我をしている佐野さんと鵜飼
は救急車で病院へ、刑事の志木と砂川は屋敷に残った人たち
に聞き込み、さらに現場検証。

崖の突端から、コートと靴が発見され、さらにその近くに
拳銃が落ちているのが発見されます。
砂川は銃の弾倉を引き抜き、残りの弾を確認しますが、中
はカラ。8連発形式の改造銃で、はじめに男のマンション
で2発、ホームレス殺害に1発、十乗寺家の敷地内で鵜飼
が足を撃たれて、神崎の心臓に1発、神崎の死体の横のコ
ンクリートに弾がめり込んでいたので、神崎を打ち損じた
ものか、さらに佐野さんの左腕で計7発使われたのですが、
銃弾はもともと7発しか込められていなかったのか、ある
いは8発あったとしたら、残りの1発はどこへ・・・

相変わらずといいますか、全体的にオフザケ満載ではあり
ますが、肝心のミステリのネタ部分はしっかりしていて、
まあ一部「ん?」っていう強引さはあるといえばあるので
すが、それでも「よく練られてるなあ」と感心。
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