晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

伊坂幸太郎 『終末のフール』

2011-09-27 | 日本人作家 あ
これで、伊坂幸太郎の作品を読み終えたのは3作目ですかね。
ここ十年では間違いなく小説界のトップランナーで、まあそう
いうのを所謂「流行作家」と呼んでいいものか、というのも
流行とは読んで字のごとく「流れて行ってしまう」もので、
普遍的ではなく有限なニオイがして、なんか失礼かなあ、と。

それはさておき、この人の作品を読むと、なぜか虚無的な
世界が見えてきます。なんといいますか、すごく「距離」を
置いているというか、良い表現なら「クール」、悪い表現なら
「突き放してる」といった感じ。
物語や登場人物に感情移入しにくいのは、敢えてそうしている
のか、文体からしてそうなのか、その距離感が心地よいか違和感
かは人それぞれですが。

数年後に隕石が地球に衝突する、これは間違いないという発表が
あり、世界じゅうで殺人、強奪など犯罪が起きまくって、ここ最近
は荒廃もやや落ち着いてきた、そんな状況下で、仙台市内の高台に
あるマンションの住人たちのオムニバスな物語。

残酷な描写はサラッと書いて、それであまり退廃的になり過ぎて
いない、光明を見出す、といったところまでは前向きでもない、
そう、この人の作品は「ニュートラル」なんだという印象。

ここまでだと批判なんだか褒めてるのか、この流れじたいがニュー
トラルみたいなので、締めに、話の展開は「巧いなあ」と唸ります。





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ピーター・メイル 『贅沢の探求』

2011-09-23 | 海外作家 マ
今年に入って(というか、ついこの前)、これでピーター・
メイルの作品は4作目。
プロヴァンスに移り住んで、そこでの生活をつづったエッセイ
を2冊、アクションというかエンタテインメントというか、
物語小説を1冊、そしてこの『贅沢の探求』、これもエッセイ
なのですが、やっぱりこの人はエッセイが面白いですね。
いや、物語小説も面白かったですけど、まあ、エッセイのほうが
モアインタレスティング。

たとえば、たった1キロですら「歩きたくない」といってタクシー
に乗るのは、まあ並ですが、これが「贅沢」となると、リムジン。
スーツだって靴だってバッグだって、既製品ではなくオーダー。
とまあ、こういった、世にあふれる(中には「アホか」と言いたく
なるような金の無駄もある)贅沢を、“体験”してみようじゃないか、
という企画をまとめた、そんな作品なのですが、もちろん、自分へ
のご褒美として、他者への感謝の気持ちとして、贅沢な一品を買う
のは否定しません。

なんといっても、経済の原則からいって、質の良い、手間のかかる、
あるいは稀少なのだから、値は高くつく。

ごくごく実用的なもの、生活必需品しか買いません、ではあまりに
味気無い人生なので、そういう人しかいなかったら世の中も回らない
ですから、自分には縁の無い世界をちらと垣間見るのも一興。

で、最終的に「贅沢は気持ちの問題」ということが分かります。

ジャズの巨匠、ルイ・アームストロングが晩年、長年の友人に「なあ、
俺もずいぶん出世したと思わないか」といって、楽屋にあった冷蔵庫
を開けると中には卵があって「ほら、いつでも卵が冷蔵庫に入ってる
んだぜ」と言ったとか。
その気になればブラジルにいても電話一本でニューヨークの5つ星
ホテルのレストランのシェフを呼び寄せるが出来たほどの人をして。
贅沢って何なんでしょうかね。

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楡周平 『猛禽の宴』

2011-09-19 | 日本人作家 な
デビュー作「Cの福音」があまりにも面白く、続きがある
と知って、はやく読みたいと急いで本屋に行って買ってき
ました。

父親の仕事の都合でアメリカへ渡り、大学入学の直前に
両親を飛行機事故で亡くし、大学に入り、チンピラに
襲われたときに誤って相手を殺してしまい、正当防衛が
認められるも、決まっていた就職先から断られ、大学時代
の友人(この友人は事故死した)の父親を頼ってマフィア
の道に入った日本人、浅倉恭介が主人公の話で、前作『Cの
福音』では、完璧ともいえるドラッグの密輸そして日本国内
での販売網を構築するも、警察ではなく台湾系マフィアに
追われてしまい、いったん日本での活動を休止して、アメリカ
へ戻った恭介、というところからはじまります。

恭介を死んだ息子のように可愛がるファルージオ、この男は
ニューヨークを拠点とするマフィアのドン。ひさしぶりに
再会する恭介とファルージオ。そして、その席には、マフィア
の重役たちも。
ここ数年、どうもマフィアの上納金が減っているとファルージオ
はお怒りの様子。というのも、香港の中国返還にともない、香港
のマフィアがいっせいにアメリカに流れ込んで、その中国系マフ
ィアは、それまでの流儀や縄張りなどお構い無しに勢力を拡大し、
ファルージオのファミリーも手を焼いている状況。

ブルックリンとブルックス界隈を仕切っていたコジモは、もともと
黒人系やラテン系との小競り合いがあった上に中国系とも争わなけれ
ばならず、売上げダウンで窮地に追い込まれます。

そんな中、ラテン系が中国系と手を組んで、ニューヨークに君臨する
イタリア系マフィアのドン、ファルージオを殺そうとする計画が。
その計画は恐ろしく大胆なもので、オフィスへ向かうファルージオの
乗る車に向かって、追撃砲を発射するのです。
車は大爆発、しかし後部座席にいたファルージオはなんとか一命を
とりとめるのですが、車椅子生活を余儀なくされ、ここで後継者争い
が・・・

この騒ぎに便乗してマフィアの頂点に立ってやろうとコジモはたくらみ、
ナンバーツーがドンに就任した直後に暗殺、これを中国系とラテン系の
仕業に思わせ、とうとうコジモがドンの座に。

一方、アメリカはケンタッキー州の山奥で、七面鳥ハンティングを楽しむ
恭介。組織から“あてがわれた”女性ナンシーも魅力的で、幸せな時を
過ごしていました。また山へ狩りに出かけると、反対方向から人間が。
なんとか誤射を避けて近づきます。男はテキサスから来て、アランと名乗り
ます。突然アランは苦しみだし、恭介はバッグの中の薬を取り出しアラン
に飲ませます。

アランはもともと空軍のヘリパイロットだったのですが、湾岸戦争に派遣
されたときに軍から支給された薬が原因でヘリの操縦ができず退役、生活
が荒んで妻と子に去られてしまいます。
軍の払い下げ品を売るという仕事に就きますが、政府の意向で軍費削減、
なんでもかんでも払い下げ、中には海外に絶対に渡ってはいけないとされる
情報の入ったファイルまでもが流れてきて、軍に、そして国に対して憤り
を持っているアラン・・・

アランは今でも後遺症に苦しんでいて、その発作がはじまったときに恭介
に助けてもらい、身の内話を語るアラン、そして軍のファイルも話します。
これは面白そうだと恭介は感じて、自分は商社員で、そのファイルを高額
で買い取ると伝えます。

というケンタッキーでの休暇中にいきなり飛び込んできたボス襲撃の知らせ。
急いでニューヨークへ戻る恭介。なんやかやでコジモがドンに就任と聞き、
何やら怪しいと読みます。
自分を実の息子のように思ってくれるファルージオを恭介も慕い、なんとか
して犯人を探し出そうとしますが・・・

ナンシーとアランも絡んできて、ここから目まぐるしく展開し、手に汗握る
アクション、もう素晴らしいです。

そして、終わりのほうに、なにやら「含み」を持つシーンが。CIAの人間
が恭介を?うーん、どうなるんでしょうか。
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楡周平 『Cの福音』

2011-09-15 | 日本人作家 な
べつに理由も無く、避けてたとかいうのでもなく、その作家
の作品は未読です、というケースがあります。

アクション、ミステリ、エンタテインメントが大好きでも、
なぜか楡周平は読まずにきました。「楡(にれ)」が読め
なかったから、ではありません。念のため。

そして読み終わるやいなや、この『Cの福音』の続編にあたる
「猛禽の宴」を急いで本屋に買いに行きました。

両親の仕事の関係でアメリカへ渡った浅倉恭介は、成績優秀で
全寮制のミリタリースクールに入学、そこでも優秀でブラウン
大学へ入学も決まり、華々しい未来が約束されると思いきや、
両親が乗る飛行機が墜落しふたりとも死亡。

父の会社からはすずめの涙ほどの見舞金、そして遺産やら保険
で大学に通い、卒業間近、通ってた道場の帰り道、強盗に襲われ
そうになりますが、返り討ちにし、そのうちの1人を殺してしま
います。

裁判では正当防衛が認められ無罪となりますが、ブラウン大学で
成績優秀、日米双方の文化をよく知る恭介のもとに殺到していた
一流企業のリクルートはいっせいに背を向けます。

さらに不幸なことが。大学時代の親友、リチャードが事故で死んで
しまうのです。一度リチャードの家に招かれて彼の両親に会ったこ
とのある恭介は、父親の職業がマフィア、しかも大物であることを
知ります。

ビジネスマンになることを諦めた恭介は、リチャードの父親、ファル
ージオのもとを訪れます。そして、ニューヨークマフィアのドンに、
ある魅力的な“ビジネス”の提案をするのですが・・・

ドラッグに溺れた日本人ビジネスマンを使って、あるシステムを
聞き出し、それでドラッグを密輸、国内でさばくのは、それまでの
原始的なやりとりではなく、コンピュータシステムを使い、さらに
ルートが暴かれたとしても恭介のもとには捜査の手がかからない
周到さ。

でしたが、あるアメリカ帰りの商社員が、“ルール”を破ってしまい、
別の台湾系マフィアからドラッグを手に入れてしまい、台湾系マフィア
に、アメリカからの上質のドラッグが日本で流通してるとバレてしまい・・・

久しぶりに素晴らしいアクション、ミステリ、エンターテインメント
を堪能しました。

先述した続編ももうすぐ読み終わります。こちらも面白い。

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ボストン・テラン 『神は銃弾』

2011-09-12 | 海外作家 タ
なんとなくですけど、夏の寝苦しい夜は、ノワールが合う
ような気がしますね。なんとなく、ですけど。

というわけで、アメリカのノワールといえば、ジェイムズ・
エルロイと、ボストン・テランくらいしか思いつかなくて、
とりあえず手にとってみたのがテランのデビュー作。
アメリカ探偵作家クラブ(MWA)最優秀新人賞ノミネート、
ならびに英国推理作家協会(CWA)最優秀新人賞を獲得
したそうです。ちなみにMWAの新人賞は、エリオット・
パティスンの「頭蓋骨のマントラ」という作品で、こちらは
だいぶ前に読みました。ただ疲れた、という記憶しかありま
せんが。

カリフォルニア州の刑事、ボブは、別れた妻に引き取られた
娘ギャビと、ちょっとした「あいさつ」を夜のパトロール中
にするのが楽しみ。
それは、家の近くを通ったときにパトカーの明かりを点滅さ
せると、娘も部屋のライトを点けたり消したりする、という
もの。ところが、ある夜、家の前を通っても、娘の部屋は暗
いまま。

その時間帯、ボブの別れた妻、サラと再婚した男、サムは、
惨殺されて、娘のギャビは謎の集団に連れ去られて・・・

あまりに惨い殺され方をしたサムとサラ。そして行方不明
の娘。ボブは調べていくうちに、「左手の小径」というカルト
教団がこの犯罪に絡んでいるのでは、と考え、その教団から
命からがら逃げ出して、今は麻薬中毒の治療をしている、
ケイスという女性をたずねることに。

しかし、ボブの上司であるジョン・リーや、サラの父親で、
かつての義父のアーサーは、ボブが捜査することを、どこか
嫌がっているような感じがするのです。

ボブはケイスに会い、犯行現場の写真を見せると、ケイスは、
これはやつらの仕業だと断定し・・・

そして、ケイスとボブは、「左手の小径」のリーダー、サイラス
を探しに、娘はまだ生きていると信じて連れ戻しに向かうのです
が・・・

この事件には、25年前の、トレーラーハウスの中で殺害された
女性が絡んでくるのですが、それがサムとサラが殺されてギャビ
が誘拐されたこととどう関係しているのか、という背景というか
過去は重要なカギではあるのですが、そんなことはお構いなしに、
まあ全体的に“ブッ飛んで”いるといいますか、運転の荒い人の
車の助手席に乗ったような気持ち。

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ピーター・メイル 『南仏のトリュフをめぐる大冒険』

2011-09-06 | 海外作家 マ
ピーター・メイルの南仏に移住してそこでの生活と綴った
エッセイ「南仏プロヴァンスの12か月」、「南仏プロヴァ
ンスの木陰から」がとても面白かったので、ほかの作品を
探しに本屋に行って、見つけてきました。

と、エッセイかと思ったら、舞台こそプロヴァンスですけど
小説形態で、まあどんなものかと思い読み始めたらこれが
また面白い。

イギリス人のベネットは30代で独身貴族を謳歌する、気まま
な男。ビッグビジネスのプランを持ちかけられて大金を騙し
取られ、仕事を探そうと、新聞広告に自分を売り込みます。

そこで連絡があったのですが、依頼主は、ジュリアン・ポオと
名乗る大金持ちの商人で、ポオから頼まれた仕事というのが、
モナコの別荘に行き、ある荷物をもらい、しばらくポオになり
すまして滞在してほしい、とのこと。

経費は自由に使ってよいとのことで、モナコへ向かったベネット
は、高級アパートメント(ポオの別荘)を拠点に、高級車に乗り
まわし、高級ブティックで買い物、高級レストランで食事と贅沢
三昧。これに気が大きくなり、昔の女性を呼び寄せるのですが、
これが事件のはじまりで、ポオから頼まれたもうひとつの仕事、
ある荷物をあずかっていたのですが、ベネットのシャワー中、
女性は訪ねてきた謎の男たちにその荷物を渡してしまうのです。

これはまずいとフランスに戻りポオに報告しますが、その犯人は
イタリア人の小悪党と見抜き、ベネットに取り戻しに行けと命令。
そして、もしもの時のために、助っ人を用意すると言われて、ふた
たびモナコへ戻ります。

その助っ人とは、かつてのポオの愛人でアンナというアメリカ人
女性。しかし経歴はイスラエル軍に在籍経験を持っていて、その
美貌とはうらはらにたよりになる存在。

盗まれた荷物が、悪党のイタリア人が所有するクルーザー内で
オークションにかけられると知り、偽名を使ってそのオークション
に参加するふたり。はたして荷物を取り戻すことができるのか・・・

この「荷物」とは、ポオが大金を使い、長年に渡って研究してきた、
トリュフの人工栽培の方法だったのです。

さて、どうにかこうにか、船内でひと波乱起こし、船から逃げ出し、
荷物を取り戻したのですが、アンナはこれを人質代わりにして、ポオ
から大金をせしめようとベネットに話を持ちかけますが・・・

骨太とはいえないですが、スリルのあるアクションです。
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万城目学 『鹿男あをによし』

2011-09-03 | 日本人作家 ま
とにかく最近の作家には疎いのですが、それでもこの作家の
名前くらいは知っていまして、たしかこの作品はドラマ化
されましたっけ。
ドラマは見てないのですが、放送開始前の番宣で、奈良に赴任
した先生が鹿と喋る・・・という、なんともファンタジックな
内容に一瞬心引き付けられたのですが、ドラマは見てません。

コミュニケーション力のやや欠ける大学の研究室で、ちょっと
した失敗をやらかしてしまった「おれ」は、教授から、神経衰弱
なので、ちょっと違う空気を吸ってみないかと、奈良県にある
高校の臨時教師を勧めます。

ほとぼりを冷ますために「おれ」は、奈良の高校「奈良女学館」
の1年生クラスの担任を2学期のみ受け持つことに。
さっそく教壇に立ち、生徒の出席をとっていると、遅刻してきな
がら反省の色も見せない、堀田という生徒が。

反抗的な態度ならまだしも、奈良ではマイシカという、自転車や
車のように、シカに乗って通勤通学していて、そのシカのせいで
遅刻したと、先生を小ばかにしてくる始末。
怒った「おれ」は学年主任に報告、放課後に説教された堀田は、
翌日、教室の黒板に「チクリ」と大文字を書いて・・・

それを皮切りに、生徒と先生のムードは険悪に。それもこれも
あの堀田という女子のせいで・・・と憤っていたある日、「おれ」
は公園を歩いていると、誰かが呼びます。が、あたりに人はいま
せん。また呼ぶ声が。その声の主は、なんと鹿だったのです。

いよいよ頭がおかしくなったと思う「おれ」。しかし鹿は、「おれ」
に、奇妙な頼みごとをしてきます。それは、人間が持っている、
サンカクと呼ばれているものを、奈良に持っていてほしい、お前
はその「運び番」に選ばれた、というのです。

意味が分からずパニックになっていたのですが、答えはすぐに
見つかります。どうやらサンカクとは、奈良女学館の姉妹校の
京都、大阪との定期交流体育大会での、剣道の優勝校に贈られる
三角形の盾のようなものだったのです。

しかし、京都女学館の剣道部は全国クラスで、大阪は今年こそと
鼻息荒く、一方、奈良の剣道部はというと、部員も足りないとい
う悲劇的な状況。

しかし、そこに、堀田が新入部員として入ることに・・・

はたして「おれ」はサンカク」を手に入れることができるのか。
そもそもサンカクとは何なのか。鹿が「おれ」に話かけた理由とは。

もう、荒唐無稽もいいところですが、それらがきちんと整理つけら
れてちゃんとしたストーリーになっており、しかも最後は「おおっ!」
と唸ってしまう、これは素晴らしい、見事な作品。

「おれ」の教員の期限は2学期までということで大学に帰ることに
なり、そのとき堀田が渡した先生への手紙があるのですが、結びの
一言が、なんともくすぐったいような、ほろ苦いような。
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