晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

佐伯泰英 『吉原裏同心(四)清掻』

2017-07-30 | 日本人作家 さ
本屋に行きますと、たとえばこの『吉原裏同心』のような
シリーズもの(吉原裏同心は全25巻)が棚にずらっと
並んでまして、でもよく見ると、7巻だけないとかって
たまにあります。

7巻だけたまたま読んでなかった方が買っていったのか。
あるいは「どれにしようかな」のように眼を閉じて指を
さしたのが7巻だったのか。

ついこの前、吉原裏同心を買いに本屋へ行き、3巻まで
は読んで、どうせだったら一気に10巻まで買っちゃえと
思ったんですが7巻が無く、仕方ないので4~6巻の3冊
だけ買ってきました。

まあどうでもいいんですけどね。

さて、今作のテーマは「清掻」。(すががき)と読みます
が、検索してみますと、「江戸初期の箏 (そう) または
三味線で、歌のない器楽曲。江戸吉原の遊女が客寄せのた
めに店先で弾いた。見世 (みせ) 菅掻。」とあり、つまり
インストゥルメンタルってことですね。

江戸の一大遊郭、吉原のボディガードを務める「吉原裏同心」
こと神守幹次郎は、妻の汀女の出先まで送っていき、あたり
を歩いていると剣術道場を見つけます。(津島道場)の主は
幹次郎を迎え入れてくれます。もともといた藩を出奔し全国
を逃亡しながら江戸にたどり着くまでの間、加賀の国の居合
道場でちょっとだけ修業させてもらって以来、久しぶりに
ちゃんとした修業ができるというので幹次郎も汀女もうれし
い様子。

ある日のこと。幹次郎が吉原に出かけると、入り口の面番所
に見慣れない男が。
吉原は(脱走防止)の目的で郭内の出入口は大門1か所のみ
で、大門横に町奉行所の吉原出張所があります。吉原は町方
支配下ですが、吉原には独自の自治組織の(会所)があり、
長年の習慣で(郭内のゴタゴタは郭内で処理してくれ)とい
うように彼らはお飾りだったのです。

ところが幹次郎が見た(見慣れない男)の同心、山崎蔵人は
就任早々に会所頭取の四郎兵衛をはじめ吉原の(顔役)を呼び
つけ、吉原会所の活動停止を言い渡します。
ということは幹次郎の役目も無くなり、しばらくは出入り禁止
に。

これにより、吉原の郭内では掏摸やひったくり、果ては殺人まで
起こるようになり治安は悪化。といって郭内はさほど詳しくない
町奉行所の役人は後手後手に。

そもそも、同心ごときが独断で吉原内をどうにかできるのか、
それに山崎の傲岸不遜な態度はバックによほど大物がいるのか。
ヒマになった会所の人たちと幹次郎は山崎を調べることに。

貧乏御家人の息子が町奉行所同心の山崎家の養子に入ったそう
なのですが、その仲介役になったある人物はどうやら吉原の
利権を狙う一橋治済卿の手のものらしいのです・・・
幹次郎は、山崎がかつて通っていた道場を探り出して行きます。
道場主は「訳あってあいつは破門した」というのですが・・・

前作「見番」でもあの手この手で吉原をものにしようとした
一橋治済卿ですが、今回は町奉行所から攻めてきたようです。

タイトルの「清掻」はどうした?てなもんですが、三味線の
楽曲は遊郭の開店と閉店のときに弾かれるものなのですが、
清掻の当代一の名手は、八重垣という遊女。
八重垣は遊女としてはあまり客が取れませんが、三味線の
腕は抜群で、このたびめでたく落籍(身請け)されることに。

この吉原の近くに、出羽国本庄藩、六郷家の下屋敷があり、
たまに吉原と間違えて六郷屋敷に向かってしまったなんて
ドジな客もいたそうな。

どういう伝手か、吉原会所の(臨時事務所)は、この六郷
屋敷内に間借りすることに。ここなら町奉行も入ってこれ
ません。現在は隠居している前本庄藩主は、吉原から漏れ
聞こえてくる清掻が好きで、ですが当代一の弾き手は落籍
されると聞き残念なご様子。

このまま吉原を好き勝手にされては困るので四郎兵衛は
ついに反撃開始に。これに六郷屋敷のご隠居様と清掻が
どう絡んでくるのか。

この一橋治済という人物、「剣客商売」でも田沼意次を
暗殺しようとしたり、実際に田沼意次失脚のキーマンと
されていますが、今度は松平定信の失脚にも絡んでいる
ようで、とにかくこの人は「自分が将軍になれないのな
ら一橋家から将軍を出す」この執念ひとすじだったそう
ですね。
そのために必用なのは金ということでこの物語では吉原
の利権を狙う黒幕として描かれています。
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宇江佐真理 『卵のふわふわ』

2017-07-21 | 日本人作家 あ
はじめ、このタイトルだけを見たときに「お、料理屋さんの
物語かな」なんて思ったのですが、よく見るとサブタイトル
があって、「八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし」とあり、
なあんだ、八丁堀てことは捕物帳か?と思いきや、これもまた
ちょっと違って・・・

江戸の八丁堀といえば町奉行の役人が住む町でおなじみで
すが、町奉行の与力や同心もいちおうは武士ですからこの
一帯は「武家屋敷エリア」というイメージですが、町人の
住む長屋もあったり、飯屋もあり、風呂屋もあります。

同心の俸給は(三十俵二人扶持)といわれており、現代の
金銭感覚でいうと年収300万円ぐらいでしょうか。
「公務員なんてそんなもんじゃねえの」と思うでしょうが、
先述のように彼らは(いちおうは武士)ですから屋敷には
女中や下男を置くといった(体面)が大事で、さらに同心
は御用聞き(岡っ引き)、さらに御用聞きの下働きをする
情報屋や密偵などにも捜査費用や報奨金をあげたりと大変
なのです。じゃあどうしてたかというと、敷地の一部を医
者などに貸していたというのです。

これは表向きの話で、大名や旗本家から(つけとどけ)が
あり、「もしうちの家臣が何かやったら目こぼしを・・・」
ということですから、与力や同心はそこそこ稼ぎは良かった
ようですね。

さて『卵のふわふわ』の物語ですが、主人公は隠密廻り
同心、椙田正一郎の妻(のぶ)。のぶも同心の家に生まれ
、独身の頃は正一郎に片思いをしていました。

のぶさん、初恋の相手と添い遂げて良かったね、と言いた
いところですが、正一郎は何かというとのぶに冷たくあた
ります。二度も流産をし(当時は子が産めないと離縁され
た)、さらに偏食が激しく、自分を責めるのぶ。

ですが、結婚前、正一郎には恋人がいました。相手は貧乏
御家人の娘でしたが、幕府の役人に嫁いでしまいます。
正一郎は一時期、自暴自棄になり、そんな中、のぶと結婚
したのです。女性不信になった正一郎は妻に怒鳴ったり
なじったり。

しかし、のぶの義父の忠右衛門と義母の(ふで)はのぶに
とても優しく、屋敷内の一部を貸してる幇間(太鼓持ち)
の今助や女中とも仲良くやっていて、夫婦問題を別にすれ
ば、とてもいい嫁ぎ先。

忠右衛門は隠居ではなく現役の町奉行役人なのですが、
幇間に家を貸してるというぐらいのちょっと変わった人
で、武勇伝というか逸話も多いそうな。

さて、この小説は短編形式になっていまして、それぞれ
タイトルが
・秘伝 黄身返し卵
・美艶 淡雪豆腐
・酔余 水雑炊
・涼味 心太
・安堵 卵のふわふわ
・珍味 ちょろぎ
となっていて、料理がそれぞれの話の重要な部分になって
います。

全体的な話の流れとしては、自分は正一郎の妻にふさわし
くないとふでは一度は家を出て実家に戻ります。
とはいえ出戻りにとって実家は居づらく働きに出ますが、
当時の女が一人で働いて暮らすというのは容易なことでは
ありません。
しかし正一郎は離縁状を書きません。それどころか、のぶは
なにかと元の嫁ぎ先にお世話になってます。
のぶと正一郎の関係は修復できるのか・・・

表題作の「卵のふわふわ」は、東海道の袋井宿の名物料理で、
「東海道中膝栗毛」のも出てくる一品なのだとか。
文中の説明によると、熱い出汁に泡立つまでよく溶いた卵を
さっと入れる、まあウフ・ア・ラ・ネージュの甘くない版と
いいますか。
フランスのモン・サン・ミシェルにも名物料理で泡立つまで
溶いた卵のオムレツというのがありますね。
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宮部みゆき 『桜ほうさら』

2017-07-17 | 日本人作家 ま
そういえば宮部みゆきさんの作品はずいぶん読んで
ないなあと思い、当ブログで調べたら、2015年8月
以来でした。そんなに読んでないんですね。

あの映画化されたやつもまだ読んでないですし、
まあいつの日か。遠い未来か近い将来かわかりま
せんが。

さて『桜ほうさら』ですが、時代小説です。

江戸、深川にある長屋にひとり住む、古橋笙之介。
笙之介は、いちおう武士です。
生まれと育ちは上総の国、搗根(とうがね)藩で、
父の宗左右衛門は無実の罪を着せられて切腹。
藩校で学問を続けていた笙之介は、母の命令で、
江戸留守居役、坂崎重秀に会いに江戸へ。

なぜ坂崎に会いに行くのかというと、笙之介の母は
再婚で、最初に嫁いで死別した夫の親戚が坂崎とい
う旧知の間柄で、なんとか古橋家の再興のお取りな
しをしていただくため。

ところが、坂崎は笙之介にやってほしいことがある
から江戸に呼んだのだというのです。

じつは搗根の藩内では跡継ぎ問題で勢力争いがあり、
笙之介の父が切腹することになったのは、そのゴタ
ゴタに巻き込まれたというのです。

そこで笙之介は、勢力争いのキーとなる、ある(特殊
技術)を持つ人間、父もそのせいで切腹することに
なったのですが、江戸のどこかにいるはずで、そいつ
を探すために長屋住まいをはじめます。

坂崎の知り合いの書物問屋から、貸し本の写しなど
の仕事を与えられて、長屋の他の住人たちとも仲良く
やりつつ過ごします。

そんなある日の朝、部屋から外を見ていると、桜の木
の下に、女性がたたずんでいます。
一瞬(桜の精)かと思った笙之介。のちにその女性は
(和香)といい、めったに外出しないということも
わかります。

それから、なんやかやと笙之介の周りで問題が起こっ
たりしますが、和香の協力もあって乗り切ります。

笙之介は父を陥れた真相を見つけることができるのか。
そして和香との関係は・・・

文中の(搗根藩)とは架空ですが、上総の国、現在の
千葉県には(東金市)があり、町は古く戦国時代には
城があり、徳川家康が鷹狩りに訪れたこともあったそ
うな。
ですが、文中には「遙か北方には険しい山地」とあり、
東金は外房の九十九里海岸沿いで、そのような山地は
見当たらず、おそらく鋸山のことを指しているのでは。
なので搗根は上総でも内房の設定なのかな、と。

笙之介の江戸での暮らし、住民とのふれあいといった
話と、藩内の勢力争いといった暗くてきな臭い話が
絶妙なバランスで描かれて、読んでる最中は心地よい
んですね。文庫でしたが、挿し絵の雰囲気もいいです
ね。

タイトルの「桜ほうさら」とは、笙之介が通っていた
藩校の老女中が言った、甲州(山梨県)の方言で
「ささらほうさら」といい、いろんなことがあって大変
だ、という意味で、これに和香を見初めた(桜)を
くっつけたものですね。素敵なタイトルですね。
こんな店名の和風カフェがあったら行きたいですね。

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池波正太郎 『黒幕』

2017-07-08 | 日本人作家 あ
この作品は、だいぶ初期に書かれた短編集となって
おります。(だいぶ初期)とは、昭和36年から
41年。直木賞を受賞したのが昭和35年で「鬼平
犯科帳」の連載が始まったのが42年。

別の文庫のあとがきで見た記憶があるのですが、
この時期は、小説雑誌や文芸誌などでの発表は
けっこう多かったそうですが、身も蓋もない
言い方をすれば「あまりパッとしなかった」
そうで、じっさい読んでみて、面白いは面白い
のですが、なんといいますか(遊び)が少ない
といいますか。

「雲州英雄記」は、戦国時代の山陰地方、出雲
の国の尼子家という戦国大名の家臣、山中鹿之介
の話。

「猛婦」は、武田の家来、秋山兵蔵の妻、お津那
の話。

「勘兵衛奉公記」は、(わたり奉公人)渡辺勘兵衛
の話。

「霧の女」は、豊臣秀吉の家臣、福島正則に近づい
た謎の女性(小たま)の話。

「夫婦の城」は、関東管領、上杉憲政の家臣、
小幡信定と妻、正子の話。

「紅炎」は、毛利吉成と息子の勝永の親子と、
勝永の妻、喜佐の話。

表題作「黒幕」は、徳川家康に仕えた山口
新五郎の話。

「槍の大蔵」は、真田信幸に仕えた雨宮大蔵
の話。

「命の城」は、真田家と秀吉配下の忍びの者
の話。

「獅子の眠り」は、江戸の初期、信州松代の
真田家の弱体化を計画する老中、酒井忠清と、
隠居していた真田信之(信幸)の話。

「開化散髪どころ」は、幕末、薩摩の中村半
次郎と、幕臣、小野助三郎の話。

真田家に関する作品は、のちの「真田太平記」
につながりますし、最後の「開化散髪どころ」
は、「その男」という作品の原点になってい
ますね。

以前、テレビで見たか本で読んだか忘れました
が、ある作家が生前に池波さんに「自分は歴史
小説を書きたいけれど、自信がない」とかいう
相談をして、池波さんが「歴史に近づこうとす
るとダメだ。歴史をこっちに引き寄せないと」
と教えていただいた、というのがあって、この
短編集を読んで「ああ、なるほど」と思いまし
た。

そのフォロワーとして真っ先に浮かんだのは、
和田竜さんで、非常に上手く「歴史をこっち
に引き寄せてる」感じはしますね。

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和田竜 『小太郎の左腕』

2017-07-02 | 日本人作家 ら・わ
先日、ボーッとテレビを見ていたら「忍びの国」
の映画が近日公開というコマーシャルをやってて
ちょっとびっくりしました。

というのも、和田竜さんは「のぼうの城」でデビュー
して今まで4作品、そのうち2作がすでに映画化、
そしておそらく「村上海賊の娘」も映画化あるいは
ドラマ化にむけてどこかで動いていることでしょう。

まあ別に小説が映像化されることが偉いとか成功とか
そういったことではないのですが。

戦国時代、弘治2(1556)年。この前の年に
織田信長が織田家の頭領になった、そんな頃。

西国、戸沢家の領国では、火縄銃が大ブームで、
鉄砲の大会が開催されると、武士はもちろん、領民
も、大人も子どもも関係なく参加できます。

11歳の少年、小太郎は祖父で猟師の要蔵とふたり
暮らし。小太郎は生まれてから髪を切ったことがない
くらいのボサボサの長髪で、身長は6尺といいますから
180センチ超、笑う以外の感情を表に出しません。
ので、周囲からは「小太郎の阿呆」と呼ばれたり。

そんな小太郎、近所の悪童といるところに要蔵が
「戦がはじまる」と呼びに来ます。

戸沢家の武将、林半右衛門は百騎の騎馬の先頭を
駆けています。すると半右衛門を呼ぶ声が。
藤田三十郎という老人は半右衛門の幼少時代から
の教育係で、他国の武将にも恐れられてる勇猛な
偉丈夫の半右衛門も三十郎には逆らえません。

さて、三十郎は「泉州は堺から取り寄せた左構えの
種子島じゃ」と鉄砲を半右衛門に見せびらかします。
日本に鉄砲が伝来してから10年ちょっと。戦場に
おける主力武器になるのはまだ先の話で、ゴリゴリ
の騎馬武者である半右衛門からすれば鉄砲など
(足軽の道具)扱い。戸沢家の鉄砲ブームも困った
もの。

「左構えの種子島」とは、珍しいサウスポー仕様。
三十郎は左利きなので、鉄砲試合も好成績を出せず
にいたので、これは嬉しいはず。

戸沢家と争っているのは児玉家。戦況は戸沢家の
不利。この戦を山の上から見ていた要蔵と小太郎。
要蔵は戦の途中で「戸沢の負け」と見て帰ります。
それもそのはず、戸沢家の陣頭指揮は現当主
の甥の図書。半右衛門は図書を(臆病で戦下手)
と見ていて、しかも児玉家には半右衛門も認める
強者、花房喜兵衛もいて、戸沢軍はボロボロになり、
半右衛門と三十郎は命からがら逃げます。

半右衛門は怪我の状態がひどく、山の中で意識を
失います。目が覚めるとそこは人家。要蔵と小太
郎の家だったのです。
すると要蔵、「あの戦は半右衛門殿の指揮では
なかったな」と見抜き、さらに三十郎の鉄砲を
見ただけで「それは堺の種子島」と当てます。
半右衛門は要蔵を(只者ではない)と思います。
(左構えの種子島)を小太郎が興味を持って触
ろうとすると要蔵が「触るな」と諌めます。

回復して帰ろうとする半右衛門と三十郎。あとで
礼をするというのですが要蔵は「ここで会ったこと
は忘れて口外するな」と礼を拒否。
ですが見送りにきた小太郎は「俺を鉄砲試合に出して
くれ」とお願いします。

この年の秋、鉄砲試合が開催されます。半右衛門は
あのとき山中で出会った少年を待ちます。
終わりごろになってようやく小太郎が飛び入り参加
しますが、2発とも的を外れます。しかしその2発
とも同じところに命中したと聞いた半右衛門は、
「ひょっとして」と三十郎の鉄砲を小太郎に貸します。
すると要蔵が「それで撃ってはならん」と叫びます。
しかし小太郎は銃を持ち、火薬を入れて弾をこめて
火蓋を閉じてという一連の動作を流れるように行い、
あっという間に2発とも的中させます。
さらにこれを見ていた戸沢家の領主は「飛んでる鳶
を撃てるか」と小太郎に聞き、鳶を撃ち落とします。

半右衛門は、要蔵が隠そうとしていたのは小太郎の
鉄砲の技術のことだったのかと気付くのです。

城に招かれた要蔵と小太郎。そこで戸沢家の家臣に
ならないかと誘われますが、要蔵は「この孫は少々
知恵が足らず、武家奉公はできません」と断り、
小太郎も「猟師のままがいい」と言います。

帰りに、要蔵は半右衛門に声をかけます。自分たちは
鈴木という姓だというのですが、半右衛門はピンと
きません。
「他国のものに分かりやすくいうと、雑賀だ」
それを聞いた半右衛門は驚愕し・・・

雑賀衆とは、紀伊の国、現在の和歌山県が本拠の、
鉄砲傭兵・地侍集団で、当時の戦国諸家が競うよう
に雇いたがっていたといいます。

そんな要蔵ですが、なぜ孫を連れて紀州を逃れて
西国の山奥に住んでいるのか。

戸沢家の城は児玉家の軍勢に囲まれていて、戸沢
は籠城します。
はじめこそ戸沢側は応戦しますが、そのうち危なく
なってきます。しかも児玉側は(忍びの者)まで
投入してきます。すると家臣の中から「鉄砲試合
で優勝したあの少年を」と言い出し・・・

出版順でいうとこの『小太郎の左腕』は「忍びの国」
と「村上海賊の娘」の間で、舞台設定もストーリー
も違いますが、古い順から「忍び」→「小太郎」→
「村上海賊」となっているので、その順番で読めば
よかったなと今さらですが。

最初に伝わった火縄銃は背が高く手の長いヨーロッパ
人仕様でして、当時の日本人は鉄砲の作り方のマニュ
アルも無く、分解して構造を理解して、そしてわずか
数年で小型の(日本式)に改良、大量生産し、戦国時代
後半には世界最大の銃保有国(50万丁)となっていた
といいますから驚きです。

ところでこのタイトルは「ひだりうで」なのか「さわん」
なのか迷いましたが、このブログを書いてるときに
表紙を見たら、右隅に小さくローマ字でKotaro no Hidariude
とあって解決。
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