晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宇江佐真理 『雷桜(らいおう)』

2015-09-27 | 日本人作家 あ
秋ですね。

「んなことお前にいわれなくてもわかってる」という声が聞こえてきそうなものですが、まあそれはそうと、この作品は今まで読んだ中でベスト10に入るぐらいに良かったです。

榎戸という名の老武士が、ある山中の茶店で休憩し、店の老婆が囲炉裏にくべていた炭が気になり訊ねてみると、瀬田村というところから運ばれてくるというのです。その村は榎戸が昔に訪れたことがあり、さらに、炭焼きの人はおなごかと訊ねると、「狼女のお遊様だで」と・・・

瀬田村は島中藩の領地なのですが、かつては隣の岩本藩の支配地で、岩本藩がゴタゴタで国替えさせられてる間に島中藩に移ったのですが、その岩本藩が戻ってきて、瀬田村を返してくれと強く迫ってきます。度重なる岩本藩の嫌がらせに島中藩は抗議し、それが逆恨みとなって、ある事件が起こったのです。

瀬田村の庄屋、瀬田助左衛門の家に生まれたばかりの娘がいたのですが、お遊という名の娘のため初節句のお祝いがあったのですが、その日は激しい雷雨で、村に被害があったので外に出て、娘のお祝いに来た客の接待にと忙しく、気が付いたら「お遊の姿が見えない」と叫び声で目を覚まします。
連れ去られたのか。助左衛門は岩本藩の仕業だと考えます。村じゅうを探しても見つからず、残すは瀬田山だけ。

瀬田山はひとりで登っては帰ってこれないといわれている迷いやすい山で、村人総出で瀬田山での捜索もお遊は見つかりません。

あれから五年・・・

お遊の兄の長男、助太郎は家督を継ぐべく勉強のため京へ、助太郎が戻ってくると今度は弟の助次郎は江戸へ。油問屋で奉公しながら学問所と剣の道場へ通うことに。その油問屋は御三卿、清水家の御用も賜っていて、ある日のこと、清水家で中間を探していると知った油問屋の主人はまじめでよく働く助次郎を推薦します。

そうして助次郎は十七歳の春、御三卿清水家の中間になるのです。御三卿とは、八代将軍吉宗が紀伊藩主から徳川将軍になるにあたってかなり揉めたということで、後継がいなかった場合のために新たに作った大名家で、江戸城の門の名前から田安、一橋、清水の三家のこと。田安家は吉宗の次男、一橋家は吉宗の四男、清水家は九代将軍家重の次男が初代。ちなみに通常の大名家とは違い、藩つまり国があるわけではなく、参勤交代や領国の政治運営などする必要がなく、幕府から十万石が支給され、まあなんていうんでしょうね、公儀の台所事情が苦しい中、そういった「金喰い」な御役を作るわけですから、さしづめ不必要な財団法人といったところでしょうか。

それはさておき、助次郎の直属の上司は清水家用人、榎戸角之進。

ところが、清水家当主の斉道は心の病で、中間を刀で斬りつけたり、女中を追いかけまわしたりと狼藉を振る舞い・・・

さて、助次郎は一年間の中間のお勤めを終えて瀬田村に帰ることに。途中、瀬田山の裾野で、馬に乗った少年が後からついてきます。
その少年は助次郎に馬で瀬田村まで送るといい、さらに近道で瀬田山を越えるというのです。
山に詳しいという少年に、十三四歳の娘を知らないかと訊ねます。そして、もしお遊という女の子を見つけたら、瀬田村の瀬田助左衛門という家に知らせてくれとお願いします。

榎戸が助左衛門に宛てた手紙には、助次郎に正式に武士になってもらい、清水家家臣になってもらいたいとあり、ふたたび江戸に向かう助次郎。
瀬田山を越えるルートを通ってみると、あの少年が・・・

雷雨の夜、行方不明になったお遊ぶは十五年ぶりに瀬田村に帰ってきます。ところが「狼に育てられた」との噂が・・・
お遊を瀬田山に連れ去った謎の男の正体は。

タイトルの「雷桜」とは瀬田山にある、根本が銀杏の木で途中から桜の木が挿し木の状態で生えている不思議な木。雷に当たって偶然そうなったのですが、その珍しい木は迷いやすい山にあって目印になっています。

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宇江佐真理 『ひょうたん』

2015-09-27 | 日本人作家 あ
だんだん我が家の書棚に宇江佐真理の本が増えてきました。というか時代小説が増えてきたんですね。
まだまだ読んでない有名な時代小説はそれこそ山のようにあるので、これから楽しみです。ただ人物の伝記になるとものすごい長編になるので、そこらへんはどうも。池波正太郎の「真田太平記」とか読んでみたいのですが、なかなか腰が重いといいますか。

さて、「ひょうたん」ですが、江戸、本所にある古道具屋「鳳来堂」の亭主、音松と妻のお鈴のお話。
「鳳来堂」は骨董など高価なものは置いてなくて、中古の生活用品などを扱っている文字通りの「古道具屋」。十歳になる長五郎という息子がいますが、音松の兄の質屋に奉公に上がっています。この店は夕方になると友人たちの溜まり場となり、お鈴はそれがちょっと迷惑ですが音松はそんなの気にせずほぼ毎日「鳳来堂」に集まっては飲んで喋ってといった感じ。

「織部の茶碗」では、ある日、音吉が出かけた帰りに浪人が道端で道具を売っているのを見かけ、そこに良さげな茶碗があったので音松は四百文で買うのです。その茶碗は織部作のものと音松は言うのですが、折り紙(鑑定書)も付いていません。
ところが後日、地元の岡っ引きが来て、半月ほど前に浪人が空き巣をして盗品を道端で売っていたところ捕まり、被害にあった家の人が品物を見てみると、先祖が殿様からいただいた家宝の茶碗が無いというのです・・・

表題作「ひょうたん」では、音松が突然、客を連れてきます。夏太郎というこの男は橋から身投げしようとしていたところを助けます。しかし、なかなか自分の身元を話そうとせず、ただ「親方と喧嘩して出てきた」と・・・

「そぼろ助広」では、「鳳来堂」に武士が刀を売りに来ますが、話を聞けば、妻が病気で薬代や滋養のある食べ物を買うために売るというのです。そこで音松は質屋をやっている兄に見てもらうことにして武士に一旦帰ってもらうことに。そこで、この刀はどうやらすごい刀と分かったのですが・・・

「びいどろ玉簪」では、「鳳来堂」に身なりの貧しそうな小さな女の子と男の子が来て、簪を買い取ってほしいというのです。応対に出たお鈴は話を聞くとこの二人の母親が奉公してた家からいただいた簪で、その母親は病気になって、売りに来たといい、気の毒に思ったお鈴が何か食べさせてあげようと思い台所へ行って田楽を持って店に戻ると二人の姿はなく簪もなくなっていて・・・

「招き猫」では、音吉お鈴の息子、長五郎が「鳳来堂」に来ます。そこで、奉公先の質屋を辞めたいと言うので、話を聞くと、亭主の竹蔵と番頭が留守中に客が来て、長五郎が応対します。質草は招き猫で、しかも十体も。なかなか上等な招き猫だったので長五郎は買い、番頭が帰ってきたので見せると番頭は褒めてくれたのですが、亭主は怒り出し・・・

「貧乏徳利」では、瓦職人と名乗る男が、自作の徳利を売りにきます。音松はその徳利を買いますが、二合の徳利で、なぜ「貧乏」なのかというと、近頃は「ちろり」という金属製の酒燗が主流で、今では場末の飲み屋でしか使われていないそう。ところが後日、岡っ引きが、最近焼き物の贋作が出回っているというのですが・・・

話に派手さは無く、淡々としていますが、読み終わって、じんわりと心が暖かくなります。





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池波正太郎 『雲霧仁左衛門』

2015-09-21 | 日本人作家 あ
この作品名にもなってる『雲霧仁左衛門』という人物は一応モデルとなった盗賊はいたようで、講談や歌舞伎の題材にもなったそうです。
文中でも一般庶民が「え、雲霧仁左衛門って実在したの?」と驚くぐらいもはや伝説となっているレベルの大盗賊。まあ今風にいうならルパン三世でしょうかね。

尾張名古屋の薬種屋、好蘭堂の主人、松屋吉兵衛は江戸に来ています。吉兵衛は数年前に女房を亡くし、後継ぎの息子も結婚し、女遊びが趣味といったところ。そんな吉兵衛にある人から紹介されたのが、なんと尼僧。吉兵衛はこの尼僧にたちまち参ってしまいます。

じつはこの尼僧、名をお千代といい、「七化けのお千代」と異名を持つ、雲霧仁左衛門の一味だったのです。

そんなお千代が舟に乗ってどこかへ行くのを後ろからつけている舟が。これを見ていた六之助という、これもまた雲霧一味の若い男がすぐあとを追います。

その翌日のこと、火付盗賊改方の密偵が水死体となって発見されます。与力の山田藤兵衛はその知らせを聞いて、かつてこの密偵が雲霧一味だったことで、雲霧一味に殺されたという勘をはたらかせます。

ところが、この火付盗賊改方が密偵殺しを雲霧一味の仕業と目星をつけたことが、なんと雲霧仁左衛門の片腕とされる木鼠の吉五郎の耳に入るのです。

さて、松屋吉兵衛は名古屋へ帰る際、尼僧もいっしょに連れて帰るというのです。吉兵衛は隠居をして尼僧と再婚でもするのでしょうか。

一方、雲霧一味の吉五郎、六之助らは、火付盗賊改方に自分たちの動きを見破られないように行動をはじめます。
お千代の舟をつけていた密偵を殺害した六之助は、その密偵が駒寺の利吉という、これも盗賊と会っていたことを知ると、その利吉を探し出すことに。
さっそく利吉の居所を探し出した六之助らは、利吉を殺そうとしますが、そこに謎の侍が現れ、利吉を助け・・・

仁左衛門は今度の”おつとめ”を松屋吉兵衛宅に狙いをつけます。はたして雲霧一味は成功するのか。あるいは火付盗賊改方は雲霧一味の動きを見つけることができるのか。

この話とは別に、尾張名古屋と江戸の複雑な関係から、先述した利吉を助けた「謎の侍」が名古屋入りするのですが、はたして尾張藩がやろうとしてうることとは。

雲霧仁左衛門は「さむらいのような・・・」という描写がたびたび出てくるぐらいですが、ではその武士がどのようないきさつで盗賊になったのか。
仁左衛門はある人に「最後のおつとめは城の中の金蔵」と話しています。この「城」が関係しているのか・・・

読んでいると、雲霧一味の”おつとめ”の成功を応援したり、一方で火付盗賊改方にも雲霧一味を捕まえてほしいと願ったり、どっちに感情移入しているのかわからなくなってきます。
「鬼平」にもたびたび出てくる「真の盗賊の三か条」というのがあって、・盗まれて難儀するような家からは盗まない・殺傷しない・女性を手籠めにしない、というのがあって、雲霧仁左衛門という人もこの掟を守ります。
そもそもまずは「人のものを盗まない」っていうのを守れよって話なんですけど、盗賊にもこういった矜持があって、最近のむごたらしい事件のニュースを見るたびに、犯罪者に「鬼平や雲霧仁左衛門を読めよ」と言いたくなったりします。



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宇江佐真理 『無事、これ名馬』

2015-09-12 | 日本人作家 あ
宇江佐真理の初めて読んだ作品は短編で、それから長編も
読むようになったのですが、「短編の名手」と評価の高い
作家の作品は、まあ長編も面白いわけで、逆に「短編は
面白いけど長編はちょっと」なんていう作品にはいまだ
お目にかかったことはありません。

さて、そんなわけで、この作品は長編です。

江戸町火消「は組」の頭、吉蔵の家に、侍の子供が
訪ねてきます。
その子、村椿太郎左衛門は突然、吉蔵に「弟子にして
ください」と言うではありませんか。

吉蔵にはお栄という一人娘がいて、その連れ合いは
由五郎、これもまた火消し。
お栄には好き合ってた男がいたのですが、その相手は
吉蔵の甥、つまりお栄の従兄にあたる金次郎。

金次郎もまた火消しで、金次郎の父、吉蔵の姉の夫
つまり義兄、金八も火消し。

吉蔵はお栄と金次郎が一緒になることに反対し、
無理やり別れさせます。いとこ同士だからというのも
ありましたが、金次郎は別の娘とのあいだに子どもが
できたのです。

そういうわけで、金次郎は火消しのことで吉蔵の家に
ちょくちょく来るのですが、お栄はまだ金次郎のことが
心に引っかかってます。金次郎もそんなお栄の心を
知ってか知らずか思わせぶりなことを言ったりします。

さて、吉蔵に弟子入り志願してきた太郎左衛門ですが、
相変わらず泣き虫は直りません。
そこで、太郎左衛門の道場で紅白試合があり、見に来て
ほしいと吉蔵に頼むのですが・・・

はたして太郎左衛門は立派に生まれ変わることができるのか。

吉蔵をはじめとした火消しの矜持もまたかっこいいですね。
この当時の消火方法は、火元の家の隣の家を急いでぶっ壊して
燃え拡がるのを防ぐ、というもの。
町屋はすべてが木造住宅だったので、晴れの日が続いて乾燥
して、風の強い日だと、あっという間に燃え拡がってしまいます。
「明暦の大火」などは江戸じゅうを焼き尽くしてしまうほどでした。

しかも、料理の煮炊き、夜の灯りはすべて火だったわけですから、
ちょっとした不始末でたちまち火事で、じっさいに暮らしてた人たち
からすれば「江戸の華」なんて呑気なもんじゃなかったですよね。



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五木寛之 『親鸞』

2015-09-04 | 日本人作家 あ
そういえば、なにげに五木寛之の本はこれが初めてです。
だからといって別になんてこともないのですが、やっぱり
面白いですね。文章がスッと心に染み入るように入ってきて
とても読みやすい。

「人気作家イコール作品が面白い」という式は必ずしも成立
するとは限りませんが、なんだかんだいって「売れ続ける」
ってことは容易じゃないもので、例えば売れてる自動車の
車種は乗り心地が良かったり故障が少なかったり、食べ物や
飲み物のロングヒット商品の要因は結局のところ「おいしい」
ってことだったりします。

京の都。ここに忠範という少年が。ひとりで、牛の角合わせが
行われるという場所に来ています。
ここで忠範は黒衣の大男と出会います。名は河原坊浄寛。

浄寛は宿無しの坊主で、河原に捨てられた死体の残した食べ物
をもらったりして生きています。

さらに石投げの名人、ツブテの弥七と、法螺坊弁才という坊主
とも出会います。

この三人との出会いが、忠範のその後の人生に大きく関わって
くるのです。

忠範は都のはずれで生まれます。父は朝廷の下級官人だったの
ですが、突然、出家します。
母は病気で亡くなり遺児となった忠範と四人の弟はそれぞれ
親類に引き取られることに。忠範は弟二人と伯父である日野範綱
のもとに。
ここで忠範は日野家にまつわる話を聞きます。それは「放埓の血」
が流れている、ということ。

この「放埓」の家系であるということが、むしろ忠範にとって
気が軽く思えるのです。

さて、時は平安末期、都は平家の天下で、範綱が仕えていた
後白河法皇は幽閉の身で、日野家の家系は苦しく、忠範を寺に
預けようという話が。

そんな中、日野家の使用人、犬丸が六波羅童に捕まったという
のです・・・

「六波羅童」とは、町に出て平家の批判をしている人を探す、
いわば平家版のナチス親衛隊のような組織で人々からは嫌われて
いました。

犬丸を助けるため、忠範は浄寛、弥七、そして法螺坊らは
六波羅王子の館へ・・・

忠範は、法螺坊に、「お山」こと比叡山に行くことを勧めら
れるのです。極悪人も弥陀の名をとなえれば地獄に落ちずに
すむのか。お山へ行ってその答えを見つけたいと真剣に思います。

そして忠範は、範宴(はんねん)という新しい名前をいただき、
「あたらしい人間に生まれ変わるのだ」と・・・

十九歳になった範宴は、入山するときに力になってくれた慈円
という高僧から、都で法然という僧が大変な人気で、慈円の兄で
摂政の九条兼実までもが法然に夢中になっているというのですが、
いったい法然が都でどんなことを教えているのか調べてきてほしい
と頼まれます。

法然はかつては比叡山で学び、天才と呼ばれ、将来の天台座主は
間違いないといわれていたのですが下山したのです。

範宴はある法会で法螺坊と再会し、法然の教えを調べに行くことを
話すと、「それなら浄土を見に行って来い」と言われ、大和に行く
ことに・・・

範宴は「綽空(しゃくくう)」と名前を改め、法然の弟子になり、
のちに「善信(ぜんしん)」という名を法然からいただき、
念仏が禁止され、法然は土佐へ、善信は「親鸞」と新しい名になって
越後へ流罪に。ここでおしまい。次に「激動編」「完結編」と続きます。

詳しいことは省きますが、親鸞は法然の弟子時代に妻帯します。
この当時、女性はそのまま死んでも極楽浄土へは行けなかったそうで、
お坊さんに「男」にしてもらったそうです。ひどい話ですね。


一年前、入院したときに集中治療室のベッドで「もしかしてこのまま
一生寝たきりになるんじゃないか」と生きる希望を失いかけていた
のですが、ある時、「なにがなんでも良くなって退院してやる」と
急に前向きになったのです。それが仏なのか神なのか何かの導き
だったのかは分かりませんが、別にスピリチュアルに目覚めたわけ
ではありませんが、『親鸞』を読み終えて、見えない何かの力って
あるよなあ、としみじみ思いました。

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