晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮本輝 『流転の海』

2011-10-30 | 日本人作家 ま
とうとう読みはじめることになりました、『流転の海』シリーズ。
5部作になっているようで、とりあえず2部「地の星」、3部「
血脈の火」は買ってきました。

愛媛から大阪に出て、自動車の部品を扱う会社を興した松坂熊吾。
熊吾は50歳になって、妻の房江が妊娠、父親になります。
しかし、時は戦争真っ只中、会社を畳んで郷里の愛媛に戻り、敗戦
から2年が過ぎて、ふたたび大阪へ。

もともと会社のあった辺りはヤミ市になって、熊吾の土地にはバラック
が建っているような有様。どいてもらおうにも彼らのバックにはヤクザ
がいて、熊吾はチンピラ風情の辻堂という男に頼みます。

なんとか会社も復帰、さあこれからという時に、熊吾が片腕と信頼
していた男が会社の金を持ち逃げして行方をくらまします。
そこで熊吾は辻堂を雇うことに。話を聞くと辻堂は、もとは京都帝大
出で証券マンというエリート街道を歩んでいたものの、戦争に召集され、
妻と子を郷里の長崎に疎開させたばかりに原爆で死なせたと悔やんでい
たのです。

この熊吾という男は、豪放磊落かと思えば繊細で、騙すことが嫌いで、
騙されると分かっていても相手に金を貸したり、そして学が無いと謙遜
するも、なまじ学のある人を唸らせるほど頭が切れます。
パワフルな突進タイプであるがゆえに敵を多く作ってしまうことも。

房江が熊吾に出会うまでの、悲惨な人生も描かれています。幼くして
両親を失い、親戚に預けられ、小学校にも通わせてもらえず奉公に出され
ます。
そんな状況を知った別の親戚が房江を引き取りますが生活は苦しいまま。
最初の結婚をして、子供ももうけるのですが、その夫というのが変態。義母
もいやな人で、房江が別れを切り出すと出て行くかわりに子供と引き離され
ることに。
しかし、知り合いの紹介で茶屋で働きはじめると、女将や芸者からの信頼を
得て、給金も一般の会社員よりも多くもらうように。
そこで、茶屋の客として来た松坂商会の社長、熊吾と出会うのです。熊吾は
房江の明るくも後ろに垣間見える暗さに惹かれ、房江も熊吾を意識するよう
になりますが、海千山千を渡り歩いてきた女将にいわせると、あの男はやめ
たほうがいいと反対。しかしふたりは結婚します。

女将の予想通り、たいへんな悋気で、酒癖も悪く、ことあるごとに房江に
暴力をふるいます。

ふたりのあいだに生まれた伸仁は病弱で、重い病気を併発して死にかけ
ます。熊吾は、息子が二十歳になるまでは絶対に死なない、死ねないと
固く誓い、自分の生まれ育った愛媛で子育てをしたほうがいいと思い、
軌道にのりはじめた会社をまた畳んで、辻堂には大手の証券会社を紹介し、
家族は愛媛へ・・・

というのが第一部。どうやらこの先は、熊吾と房江、そして伸仁の親子
二代記になるんだとか。
人間の業、強さ、弱さ、それらを説教くさくなく、ドラマチックに描き、
宮本輝の「筆の力」というものを見せつけられます。
はやくも第二部「地の星」を読み始めたくてうずうず。
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アダム・ファウアー 『数学的にありえない』

2011-10-25 | 海外作家 ハ
ずいぶん前からですが、タイトルだけは気になっていました。
しかし、故・児玉清さんのあとがき解説にもありましたように
「数学アレルギー」的な人は、避けてしまうタイトルでもあり
ます。

まあ、たしかに、確率統計であったり、物理学であったり、
数学を通り越して「理系アレルギー」は、もはや降参、と思い
つつも、久しぶりにぐいぐいと物語に引き込まれていきました。

大学で統計学の講師をしていたデイヴィッド・ケインは、マフィア
の経営する闇カジノで1万ドル近くの借金をすることに。そもそも
大学講師からポーカーとばく師に転落したのは、突発的に襲って
くる、不快な臭い。それは体臭などではなく、どうやら意識下で
臭ってくるようなもので、これのせいで日常生活に支障をきたす
ようになってしまいます。

マフィアの借金をどうにかしようと考えますが手持ちはすっからかん
で、ニューヨークの街をふらふらと歩いていると、またあの“臭い”
が。ケインは路上で倒れてしまいます。

ケインには双子の兄弟がおり、小さいころから癲癇持ちで、よく
不思議な言動があり、現在も、語尾に奇妙な韻をふむ(踏む・組む・
住む、のような)癖があります。
ケインの“臭い”の原因が突発性の癲癇によるものだとわかりますが、
目を閉じると、なぜかそこには、これから起こる出来事が映画のよう
に浮かんでくるのです。

とりあえず差し迫った問題として、マフィアの借金があり、ケインは
恥をしのんで大学の講師時代に世話になった教授を訪ねます。
カフェで教授の知り合いと3人で食事をしていると、急にケインの頭
の中に、そのカフェに車が突っ込んでくる映像が浮かび、逃げるように
周りの人に言い、そして現実に、数分後に車が店に・・・

このケインの予知能力?の話と並行して、CIAの女性スパイの話が。
この女性、ナヴァはもともとソ連で生まれ、スパイのスパイのような
かたちでアメリカに渡ってくるのですが、機密情報を他国の組織に
横流しして小銭を稼ぐようになります。
しかし、北朝鮮の組織とトラブルがおきてしまい、ナヴァはCIAに
入り、他の重要な情報を盗みに行こうとするのですが、そんな時に
上司から出頭の命令が・・・

ある教授が、愛人関係にある大学院生を「人体実験」しようとして、
実験が失敗し、学生は窓から飛び落ちてしまいます。
ナヴァは、詳しいことは聞かされないまま、その教授のいる大学へ
行くと、なんとビルの上階から女性が転落するのを目撃。
かけよると、その女性は「ケインを殺して」と謎の言葉を残して・・・

話があっちこっちに飛ぶのですが、そのバラバラの話がまとまって
一本の線となって進みはじめると、流れは急加速し、あっというまに
ゴール、つまり読み終わります。

複雑な情景の描写も丁寧にわかりやすく、また登場人物の感情というか
息づかいまでもが聞こえてくるようで、そのテクニックも見事。

今さら数学や理科の勉強をしたいとは思いませんが、こういう小説を
読んで「勉強した気」にさせてくれるのは嬉しいものですね。

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大崎善生 『アジアンタムブルー』

2011-10-18 | 日本人作家 あ
ついこの前、大崎善生のデビュー作で吉川英治文学新人賞受賞作
「パイロットフィッシュ」を読んだばかりで、その続編的な作品。

ハードカバーの単行本で買ったのですが、まず装丁が美しいですね。
トレーシングペーパーみたいな半透明カバーに表題と作者名が書い
てあって、そのカバーの下に透けて見える植物の写真。
この植物が「アジアンタムブルー」という観葉植物の一種。
あ、このブログのテンプレートの右上にある植物がアジアンタムブルー
ですかね。

なぜ装丁なんかに言及したのかといいますと、デビュー作もそう
だったんですが、文体というか、雰囲気が装丁のような“半透明”
という印象なのです。
別に、内容がボヤけてるとか、そういう否定的なことではなくて、
よくドラマや映画の演出で、特に回想シーンなんかで、フィルター
がかかってるような焦点をボカしていたり、手ブレだったりの映像が
ありますけど、そんな感じ。

この回想と、物語上での現在が、折り重なるように構成されていて、
フィクションなんだけどもフィクションの中にある現実と虚構の間
を見ているような、食感の違う、例えばスポンジとパイを層にした
ケーキのような。分かりにくいですか。

エロ雑誌の編集をしている山崎は、デパートの屋上でひとりボーっと
しているのが日課。そこに女性が声をかけてきます。
これは物語の核ではないのですが、この見知らぬ女性との会話から
山崎の中学時代から高校生のあいだにあった、彼のその後の人生観
というか、人格形成に大きく影響を及ぼした出来事が描かれ、やがて
葉子という女性と出会うのですが、この女性が病気で・・・

あれ、「世界の何とかで何とかを叫ぶ」っぽくないか?と思いました。
特に山崎が退院なんてできないような状態の葉子を連れ出すところなど。

ただ「世界の何とか~」とは違うのが、個性的なサブキャラ。SM嬢の
ユーカ、エロ雑誌の人たち、病院の先生、高校時代の美術部の先輩、外国
のタクシー運転手、などなど。

ちょっと作者が方向性を変えて、たまにギャグに走ったり、泣かせに
走ったりもできたのでしょうが、そこは淡々と描いているなあ、と。
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万城目学 『鴨川ホルモー』

2011-10-12 | 日本人作家 ま
ついこの前、「鹿男あをによし」を読んで、こりゃ面白いと
いうことで、順番は逆になってしまったのですがデビュー作
を読んでみることに。

この作品が世間でじわじわ知名度が上がってきたときに一度
テレビでどなたかが絶賛していたのを思い出しました。

まあそれはさておき、荒唐無稽な出来事を「本当っぽい」話
に仕立て上げるといいますか、もうこれはおそらく天性のもの
と思われますね。

京都大学に入学した安倍は、アルバイトで葵祭のエキストラを
やることに。そこで出会った同じ大学の高村という男と祭が終わ
って歩いていたところ「京大生ですか?」と声をかけられます。

そして、チラシを渡されます。それはサークルの勧誘で、見ると、
正直いって怪しい文章とサークル名。

一応、代表者である菅原(通称「スガ氏」)の電話番号と、コンパ
の日時だけは聞きます。それからコンパのある日になりますが、
行く気は起きません。しかし安倍は二浪して大学に入ったという
ことで生活費くらいは自分で工面しようと決めており、連日、入る
気も無いサークルの新歓コンパに顔を出してはタダ飯を食べて食費を
浮かしていて、この怪しいサークル「京大青竜会」のコンパに行
ってみることに。

そこで安倍は、早良という新入生に一目惚れをしてしまいます。
もうこれでこのサークルに入る気になってしまったのです。

ところが、しばらくたっても、具体的な活動はせず、実体がよくわか
らなかったのですが、ある夜、新入生が集合をかけられ、スガ氏があ
らわれるのですが、その姿は青い着流しでさながら武士。
何を聞いても「とりあえずついて来て」というので新入生たちは後を
ついて歩くと、橋のたもとに、スガ氏の似たような格好の、しかし色
は違う、黒、白、赤の3人がおり、さらに彼らの後ろには、安倍たち
と同じく10人ほど引き連れていたのです。

そこで、スガ氏から、499代ホルモーから500代ホルモーの引継ぎ
が宣言され・・・

「ホルモー」とはいったい何なのか。安倍はなぜこのホルモーに
参加してしまったのか。
これに関しては、ちょっとでもネタばらしをしてしまうと面白さが半減
どころか台無しになってしまうので、とにかく読んでください、としか
書けません。

人に話せば「アタマ大丈夫?」というレベルのブッ飛んだ内容ですが、
現実的なストーリー(大学生活であったり、恋の悩みであったり)を
上手に織り交ぜて中和させていて、そのブッ飛んだ話も「面白エピソ
ード」くらいの温度にしています。

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パトリシア・コーンウェル 『スズメバチの巣』

2011-10-06 | 海外作家 カ
この作品は、コーンウェルの大ヒット作、検屍官ケイ・スカーペッタ
のシリーズではなく、警察小説で、舞台もおなじみのリッチモンドで
はなく、こちらはシャーロット。まあどちらもアメリカ東部には違い
なく、しかもどちらも治安が良いというイメージはありません。

で、このシャーロット市とタイトルの「スズメバチ」との因果関係
を文中で軽く触れています。なるほど、シャーロットが本拠地の
バスケットボールチーム(ホーネッツ)もハチですね。

話の主軸となっているのは、シャーロット市警察の美人で独身の
署長補佐ヴァージニア・ウェストに、署長(こちらも女性)の
ジュディ・ハマーから、“ある人物”とパトロールの同行をして
ほしいと頼まれます。その人物とは、市内の新聞(オブザーバー)
誌の警察担当記者アンディ。

これには、署長、オブザーバー誌の経営陣、さらに市長の意向が
あるようで、要は(警察のイメージアップ作戦)のようなもの。
というのも、ここ最近で、シャーロットに仕事で訪れたビジネス
マンが立て続けに殺害されるといった事件があり、しかもこれら
のに共通しているのが、人影の無いところの車内で殺されている
のです。そして、死体の股間にオレンジ色のスプレーで謎のマーク
が・・・

ところが、この連続ビジネスマン殺しの犯人探しは主軸となって
はおらず、もっぱらヴァージニアとアンディの、はじめは反りが
合わずギクシャクしていて、そのうち理解し合うようになってい
く、そういった関係、ヴァージニアとアンディそれぞれの家族の
問題、それからハマー署長の家族問題も、あとはその他の人物と
の複雑な人間関係といったところに重点が置かれていて、つまり
これはミステリーやサスペンスと期待して読み始めたら「あれ?」
と肩透かしをくうことになるので、あらかじめそうではないと
知っておいたほうが良いですね。

ビジネスマン連続殺人の犯人、その捜査過程その他諸々、まあ
ずいぶんアッサリと描いていて、やや物足りない感はありますが、
あとがきによると、この作品もシリーズになるようで、第1作は
あくまで顔見せ的スタンスなんだとか。

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ディーン・R・クーンツ 『ファントム』

2011-10-02 | 海外作家 カ
我が家の書棚(翻訳本エリア)には、クーンツがけっこう
増えてきたんですが、青い背表紙の文春文庫が多く、この
『ファントム』はハヤカワで、文春時代が傑作が多いと
クーンツファンは言うのですが、この『ファントム』は、
間違いなく(傑作)に入りますね。

両親を無くし、歳の離れた妹リサを引き連れて、勤務先の
スキーリゾート地、スノーフィールドへ向かう医師、ジェニー。
しばらく会ってなかったので会話もぎこちない姉妹ですが
なんとか打ち解けようとします。

そして、スノーフィールドに着いたのですが、シーズン前
とはいえ、街はあまりに静か。静かを通り越して不気味。

診療所に入ると、いつも出迎えてくれるはずのお手伝いの
女性がいません。奥に行くと、女性の惨殺死体が。仲の良い
近所の家でも、パン屋でも、住人が殺されています。

分署に向かうと、保安官はいなく、無線機は破壊されています。
どこかの気のふれた奴の仕業なのか、様子をうかがうと、姉妹
は、不思議な“影”のようなものに見られているような気が
します。

なんとか通じている電話を見つけ、警察に電話をします。
500人からの住人が消えた、あるいは殺されたという怪事件
に、保安官は、放射能、細菌兵器、あらゆる疑いをかけて、
米軍の生物化学課チームの派遣を要請。

警察が到着し、姉妹といっしょに街の様子を見てまわっている
と、警察の1人が突然消えて・・・

はたして、街の住人はどこへ消えたのか、誰に殺されたのか。
誰に、ではなく、何に・・・?

とても恐ろしいです。「見えない敵」の心理的恐怖がじわり
じわりと読み手の本を持つ手を震わせ、まさにホラー。
でもただのホラーではなく、人間模様もしっかりと描いていて、
幅と奥行きを持たせています。

途中で出てくる暴走族のリーダーと、殺人犯。何か関係あるの
かどうか、まったく関係ないのか、そういうサイドストーリー
と本筋との絡ませ方も面白いですね(最終的にこのふたりは
かなり関係してくるのですが)。

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