晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

佐伯泰英 『吉原裏同心(八)炎上』

2017-10-28 | 日本人作家 さ
この「吉原裏同心」シリーズにはサブタイトルがついて
いまして、今作は「炎上」。五社英雄監督の「吉原炎上」
という映画がありましたが、映画の方は明治時代だった
かな、裏同心は江戸時代ですので別の大火ですね。

そもそも吉原と火事との付き合いといいますか因縁と
いいますか、もともと吉原は現在の日本橋のあたりに
ありまして、これが明暦の大火で浅草寺裏の日本堤に
移転します。ですので移転後の吉原を「新吉原」とい
うのはこのためなんですね。

その後もたびたび火災に見舞われます。なにせ「不夜城」
というくらいですから、一晩中ロウソクの火を灯していた
わけで、しかも木造住宅ですから、そりゃ危ないですね。

さて、今作の「炎上」では、じっさいにあった天明七年
(1787)の大火がテーマになっております。

前作では老中・松平定信の側室(お香の方)を奥州白河
から無事に江戸まで運ぶことに成功した神守幹次郎。
剣の腕を鈍らせないために、下谷にある津島道場で稽古
をしています。するとそこに武芸者の三人組が。そのう
ち一人の肩には猿が乗っています。

どうやら道場破りをしているらしく、さらに「この道場
に神守幹次郎という人がいるはず」と。幹次郎は「それ
がしにござる」と名乗り、立ち会うことに。
幹次郎は「この三人のうち誰が頭目なのか」と考え、そ
してひとつの答えを見出し、男の肩に乗っていた猿を
殺します。たちまち動揺する相手。そして「次は命を
貰う」と捨て台詞を残して去ります。

その後、吉原内で遊女が獣に首を噛まれて死んでいるの
が発見されます。あの三人組の仕業なのか。しかし猿は
幹次郎が殺しているはず。

猿を連れた三人組が方々で道場破りをしているという
知らせを聞く吉原会所。どうやら猿はもう一匹いるよう
です。その三人組を探していると、そこに女頭領が率い
る白衣の集団が幹次郎らの邪魔に入ります。

そんな中、郭内の筆頭遊女の薄墨太夫が幹次郎を呼び
ます。なんでも、先日の客が、失脚した田沼家が江戸
を騒乱の渦に巻き込んででも幕閣に返り咲いてみせる
と意気込んでいると・・・

猿を連れた三人組も白衣集団も田沼派の仕業なのか。
手っ取り早い(騒乱)といえば、一番怖いのが火事。
それだけは避けたいので、これはなにがなんでも現
老中の松平定信に伝えなければならないと考え、
幹次郎と妻の汀女は松平定信の下屋敷に、お香の方
に会いに出かけます。
そこで、お香の方に老中に取り次いでもらいたいと
お願いするのですが、お香の方は政事に関する一切
ノータッチだといいます。策は尽きたと思っている
と、廊下から「お香、命の恩人が来てるというのに
酒も供してないのか」と男の声が・・・

この本筋の他に、吉原の中規模の見世で深川の岡場所
出身の遊女をスカウトしてきてたちまちナンバーワン
になります。その遊女が毒殺未遂に遭ったというので
大騒ぎ。ところが、その遊女がいつの間にか消えて・・・

さらに幹次郎と汀女が菊見に出かけていると、どこぞの
旗本の息子とかいうのが町娘に乱暴をしようしていたの
で、幹次郎はそいつらを池に放り投げます。後日、そい
つらが幹次郎に復讐を・・・

吉原では、火事になると(仮見世)といって他所での
営業をするのですが、そのさい、吉原での面倒くさい
(しきたり)は無くなって、結果、売り上げが大幅に
アップとなって、復興も早いんだとか。
ですので、経営不振の見世なんかは「火事になって
くれないかなあ」などと不謹慎なお願いをする者も
いたとか。現代にもあるような話ですね。


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

島本理央 『ナラタージュ』(再読)

2017-10-22 | 日本人作家 さ
ボーっとテレビを見ていたら映画のCMをやってまして、
そのタイトルが「ナラタージュ」と聞いて「あれ、この
小説を読んだぞ」と思い出し、部屋の書棚を見てみると
ありました。

が、まったくストーリーを思い出せません。

外してなかった本の帯に「一生に一度しかめぐり会えない
究極の恋」とあったので、ははあ、これは恋愛小説だな、
と天才的推理をしたんですが。

で、読み始めますと「あーはいはい、高校教師と元生徒の」
「そうそう、演劇部の」と、だんだん思い出してきました。

大学生の工藤泉に電話がかかってきます。相手は高校時代の
先生、葉山。要件は、顧問をしている演劇部が少人数なので
卒業した先輩に手伝ってほしい、とのこと。

しかし、泉は葉山に「それだけの理由ですか」とたずねます。
すると葉山は「ひさしぶりに君と話がしたいと思った」と。

泉と、同じく卒業生の志緒と黒川の3人、そして助っ人として
黒川の大学の友人、小野玲二という演劇経験者も。
毎週末に高校に行って芝居の稽古をした帰りなど4人で行動す
る機会も増えて(志緒と黒川は恋人同士)、しばらくして小野
は泉に「好きだ」と告白します。しかし泉は、葉山への想いが。

ですが、葉山は葉山で、泉のことを想ってはいるのですが、
(教師と生徒)みたいなモラル的なことでブレーキをかけてい
るわけではなく、何か理由があって泉のことは好きなんだけど
恋人にはなれないというのです。

その後、なんだかんだあって、泉は小野と付き合うことになった
のですが・・・

基本的に恋愛小説はあまり読まないのですが、面白かったです。
冒頭の意味深な会話が「ああそういうことだったのね」と、いや
らしくない伏線っていうんでしょうかね。

思春期を描くと淡いとか甘酸っぱいだけではなく悩みや残酷な
こともあったりしますが、そこまでガッツリそういった部分を
描く必要は無かったんじゃないの、とは思いましたが。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

佐伯泰英 『吉原裏同心(七)枕絵』

2017-10-14 | 日本人作家 さ
秋ですね。読書タイムは基本的にベッドに入って
寝入るまでの1時間ぐらいなので、ついこの前まで
の熱帯夜ですと、本を読むのもウンザリするほど
でなかなか問うブログの更新も捗らなかったので
すが、朝晩ヒンヤリとしてきまして、こうなって
きますと読むスピードも上がってきて、更新ペース
も上がってくる・・・はず。

さて、裏同心。今回のテーマは「枕絵」。「春画」
とも言いますが、ようはエロ絵画。

吉原の用心棒(裏同心)、神守幹次郎は、髪結床
に行きます。亭主と雑談中に「そういや、老中様
に禿(かむろ)を贈ったんですが、今頃どうして
るんですかねえ」と。

この時代から十年以上前、現老中の松平定信が
白河の養子になって、いわば(飛ばされた)の
ですが、この背景には、当時の老中、田沼意次
が若くて優秀と評判だった田安家の定信青年を
恐れて、という噂もありました。

髪結いの亭主の話によれば、定信が白河に行って
数年後に吉原が禿(花魁になる前の少女)を贈った、
というのです。定信は徳川吉宗の孫にあたります
ので一応は(将来の将軍候補生)なので、吉原と
しては「早目に唾をつけて・・・」ということだ
ったのでしょうか。

吉原に着いた幹次郎は、吉原会所の四郎兵衛に
「ちょっと白河まで行ってほしい」と頼まれます。
白河といえば、さっきの髪結いの話に出た老中の
松平定信の藩。

白河までの旅の目的は、松平定信の側室(お香の
方)を江戸に呼び寄せたいのですが、秘密裏に、
とのこと。
この(お香の方)こそ、吉原が贈った禿で、白河
に向かった当時、何者かに襲われて命からがら城
まで着いたそうで、今回も、定信に追いやられた
旧田沼派の残党が刺客を用意しているはずで、前
よりもさらに危険。しかも道中に、幹次郎の妻の
汀女も同行するというのです。

幹次郎と汀女、吉原会所の仙右衛門、前作「遣手」
で信州行きにも同行した宗吉の4人でさあ白河へ。
道中、一行が泊まっていた宿屋でいきなり火事に
遭ったり、(女六十六部)という女性と出くわし
たり・・・

白河に行く前に、幹次郎と汀女のかつての同僚、
足田甚吉が結婚するのですが、その仲人をやる
ことになります。で、甚吉と結婚相手(おはつ)
はおはつの実家に挨拶に行ったのですが、ふたり
とも帰ってこず、幹次郎は吉原会所の若い男と
江戸郊外の戸越村へ・・・

そのほかにも、吉原内で秀次というからくり提灯
の職人が殺され、秀次の部屋を捜索してみると、
数枚の枕絵が出てきます。どうやら秀次は襲った
女性の枕絵を描いて、それで脅すという卑劣な男
で、そうなってきますと容疑者は枕絵に描かれた
うちのだれか・・・

このシリーズで、幹次郎はたまに俳句を詠みます。
妻の汀女は吉原で遊女たちに書や俳句を教えていて、
幹次郎は汀女に「ヘタですが・・・」と披露します
が、そこは年上女房、「幹どのらしく素直な句です」
などと褒めてくれます。

テレビ番組でタレントが俳句を作ってビシバシと
ダメ出しをする(毒舌先生)こと夏井いつきさんは
どういった評価をするのでしょうか、ちょっと気に
なります。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

池波正太郎 『秘伝の声』

2017-10-09 | 日本人作家 あ
この作品はあとがきによると池波さんの晩年に書かれた
もので、「鬼平犯科帳」と「藤枝梅安」は(作者急逝に
より未完)でしたが、こちらは完了はしています。
ですが、この作品を新聞に連載を始める前に入院された
ようですね。

武蔵国、豊多摩郡、角筈村の名主、本郷庄左衛門宅に、
盗賊が押し込み、下男らは殺され、金は盗まれますが、
名主家族は縛られ脅されただけで無事でした。
じつはもう一人、この緊急事態から抜け出したものが
いたのです。

(雪丸)という少年で、名主が近所の成子と呼ばれる
坂で赤子を拾ってきた(みなしご)なのです。
雪丸はこの夜、台所の隅の小部屋で寝ていて、これに
は女中のふりをしていた盗賊の(引き込み役)も雪丸
のことを忘れていました。

さて、雪丸が向かった先は剣術の道場。(日影一念)
という老剣客。雑木林の中を逃げていた盗賊が日影
一念によって次々と打ち倒され、首領は捕えられま
す。

この日影一念は何年か前にふらっと角筈村に来て、
ここで道場を開きます。剣の流派は無く、教え子
は主に近所の農民の子。
この一件から、雪丸は道場に住み込みで剣の修業
をすることに。もうひとり、白根岩蔵という門人
がいます。

十年後、日影一念は亡くなります。亡くなる前、
一念は雪丸と岩蔵を枕元に呼びつけ、それぞれ
に脇差を与えます。そして巻物を出し「この巻物
は、遺体といっしょに埋めてくれ」と頼みます。
雪丸は名主を呼びに行って帰ってくると、そこに
岩蔵の姿はありません。しかも、巻物も無くなって
いたのです。

あれから数年、雪丸は一念の道場を継ぎます。
そのころ、名主宅の奉公人が「岩蔵を江戸で見かけ
た」と・・・

あれから岩蔵は(大久保八郎)と名を変え、諸方の
道場に顔を出し(道場破り)のようなことをやって
いました。先々で岩蔵は勝ちつづけ、あらためて
師である日影一念の偉大さを思い知るのです。

そして江戸に戻り、紹介で日暮里の金貸し、島田
九兵衛宅に住み、浅草元鳥越の牛堀九万之介道場
で修業することに。ある日、岩蔵こと大久保は、
老中、田沼意次の下屋敷で開催される剣術試合に
出場することに。ここで優秀な成績を収めれば、
江戸じゅうに名が知られることになります。が、
自分はいつまで変名で過ごさねばならないのか、
そして師の巻物を盗んで消えたことに(後ろめた
さ)があり、夜、巻物をひろげじっと見つめるの
です。

それから、岩蔵こと大久保八郎は、水野鉄斎と
いう江戸でも屈指の道場主に見込まれ、道場の
後継者になってほしいと頼まれます。
これに面白くないのが、門人の大身旗本の二男
三男らとそれの取り巻きたち。彼らの親は水野
道場の(スポンサー)で「いずれ剣の道で身を
立てさせてあげて・・・」ということだったの
ですが、いくら師匠の見込んだ人物とはいえ、
無名の浪人が後継とあっては彼らも黙ってはい
られず、大久保の身に危険が・・・

岩蔵はとうとう島田九兵衛に、自分は変名である
こと、そして師の巻物を盗んで出奔した過去を
告白します。そして雪丸に再会し、詫びて巻物を
返し・・・

巻物は日影一念の「秘伝の書」だと思った岩蔵
でしたが、そこには何が書かれていたのか・・・

ちなみに、ここまでが上巻での出来事。
下巻では、雪丸の出生の秘密やその他もろもろが
出てきますが、それを描いちゃったらもう全部の
内容を書いてしまうことになるのでおしまい。

田沼意次が老中の時代、そして牛堀九万之介が
出てきて、秋山小兵衛、そして三冬の名前も
チラッと出てきます。あと、田沼下屋敷での
試合の相手は、金子孫十郎の門人でした。
「剣客商売」ファンにとってはたまらないですね。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする