晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮本輝 『睡蓮の長いまどろみ』

2011-02-28 | 日本人作家 ま
宮本輝の小説を読んで思うのは、昨今の、残酷な人間描写を
「リアリティ」と称するのとは違い、悪意を剥き出しにして
いるような人物は出てきません。
そこがリアルではないとされればその通りなのでしょうが、
しかし、そこは「小説」なのですから、リアルじゃない、
イコール嘘くさい、ではなく、リアルではない世界をいかに
して嘘くさくなく描いているのか、という部分を見たほうが
いいと思うのです。

機械メーカーに勤める順哉は、妻とヨーロッパ旅行中に、イタリア
の小さな村を訪れます。目的は、ある女性を探すこと。その女性は
医師の夫と身寄りのない子供たちのための施設を運営し、年にひと
月だけ、イタリアのアッシジという田舎の村で静養しているという
情報を得たのですが、順哉がその女性を訪ねるのは、自分はあなた
が産んだ息子だと告げるためだったのです。

その女性、美雪を見つける順哉。しかし、実の母を目の前にして、
本心を告げることはできませんでした。

順哉が生まれてすぐに「違う生き方をしたくなった」といって、
一方的に別れを告げて出てゆき、のちに医師と再婚し、森末村と
いう施設の運営をはじめた、というところまでは、順哉は耳にし
てきたのですが、父親に折り入って話を聞いてみても、父は美雪
を恨むばかりか、自分も悪かったんだとかばいます。

ある日、仕事中に、ひいきにしている喫茶店からコーヒーの出前
だとウェイトレスが来るのですが、しかし社内に出前を頼んだもの
はおらず、どうやらいたずらと分かると、その出前を持ってきた
女性は、会社のビルから飛び降りてしまいます。
飛び降りる直前、上の階へ向かうウェイトレスを追いかける順哉に、
笑顔で「さよなら」と言ったのです。

それからしばらくして、自殺した千菜というウェイトレスから、
手紙が届いて、中には、彼女の最期の言葉だった「さよなら」と
ひとこと・・・

なぜ、美雪は幼い順哉を捨てたのか。千菜という女性から届いた
手紙の意味は。次第に明らかになってゆく複雑な事情。

奥深い作品です。読み終わったあとに見慣れた景色が違って見える、
そういった本ですね。
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奥田英朗 『最悪』

2011-02-25 | 日本人作家 あ
奥田英朗といえば、現在ドラマ化されている「空中ブランコ」「イン・
ザ・プール」の精神科医、伊良部シリーズがいちばん有名でしょうか。
ユーモラスとシリアスの配分が素晴らしく、とても上手だな、という
印象を持っていました。
そんな奥田英朗のデビュー2作目『最悪』は、ゴリゴリのクライム・
ノベル。

町工場の社長、川谷は、取引先からの無理難題や近所からの騒音苦情に
日々悩み、なんやかやで自分の工場には分不相応と思われる高額の機械
を入れることになったのですが、銀行の担当者から、融資の打ち切りを
言い渡され・・・

その銀行の窓口業務で働くOLのみどり。家に帰ってこない妹、未来の
見えない職場環境、挙句、上司からセクハラ・・・

そのみどりの妹と出会った和也。彼は悪い仲間とトルエンを盗んだときの
不始末でヤクザに絡まれ、盗みの相棒は行方をくらまし・・・

こんな3人の、まったく別な物語があったのですが、ある日、ある場所で、
たまたま居合わせるのです。

こういったクライムノベルの構成というか展開として、例えば事件が起こ
って、逃げる側と追う側はスピーディーに描けるのですが、この話の主軸
となる3人の背景をじっくりと描くと、どうしても途中で「だれる」こと
がよくあります。ですが、ここがとても肉厚で描けていて、なんというか
「嵐の前の静けさ」感がよく現されています。
この3人が、じわりじわりと崖っぷちに追い込まれてゆき、さあ、あと数歩
で落ちちゃいますよ、飛び降りてみますか、死んじゃいますけど?といった
雰囲気作りが秀逸。

そして、締めくくり方もまた素晴らしいですね。
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グラハム・ハンコック 『惑星の暗号』

2011-02-21 | 海外作家 ハ
なんでも、グラハム・ハンコックは、あのエジプト考古学の
第一人者ザヒ・ハワスを敵に回して、強引な調査だの持論だの
をぶつけていたそうで、まあ「神々の指紋「創世の守護神」が
ベストセラーになったことで、いくぶん強気(中には「そりゃ
こじつけが強すぎない?」というのもありますが)な展開に
持っていこうとして、それが反感を買ったりなどもしている
ようで。

今作『惑星の暗号』は、エジプトやインカといった”地球の”
古代文明ではなく、火星。

ご存知の方も多いと思いますが、1976年に火星探査バイキング
1号が撮影した、火星の「顔」。
のように見える、いやいや、あれはたんなる模様だ、などと議論が
あったようで、かのカール・せーガンも文中に登場し、彼はNASA
の見解と同じく「あれは自然にできた顔のように見える山」と
主張しています。

しかしそこはハンコック、どうしても「顔」が自然にできたものでは
なく、人工なのでは?と思われる証拠を集めます。

火星には「顔」だけではなく、たとえば北半球と南半球の平均高度が
数千メートルも違ったり、「顔」近くに謎の小さい丘の群集があり、
その位置というか配列が、自然にできたものとは思えない、らしいです。
さらに、5角形ピラミッドというのもあるようで、これに線を引いて
調べていくと、ある数学的定数が出てくる、などなど。

その他にも、火星はなぜ死の星になったのか、隕石(小惑星)の衝突
だとすれば、6500万年前に恐竜をはじめとした生命が大絶滅した
ユカタン半島に落ちた例の「事件」がいつ起きても不思議ではない、と。

そして、1万2千年前に氷河期が終わった原因も、地球の問題ではなく、
外的要因、つまり隕石なり小惑星なりが衝突して、いっきに海面が上昇
して、ほぼ現在の陸地と同じ形になった、と。

まあ、「信じるか信じないかは、あなた次第」といったことですね。
胡散臭いというわけではなく、宇宙にロマンを馳せるのが大好きな人
にとっては最高に面白い作品です。
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伊坂幸太郎 『重力ピエロ』

2011-02-16 | 日本人作家 あ
世間一般に知れ渡っている所謂「売れっ子作家」の作品を読んで、
「面白かった」と書くくらいだったら、こんな素人書評ブログなんて
やめちまえ、なんて思われる方も多いでしょうが、世間で評価され
ている作品を「オレはそこら辺の読書家とは違ってみんなが評価して
るけど否定できるぜ」とこき下ろすよりは、まあマシでしょう。

つまり、この伊坂幸太郎という作家の作品について何かを書こうと
すると、美味しい料理にとやかくコメントはいらず、ただ「美味しい」
というのが最高の評価とすれば、ただ「面白い」と。

物語の主人公「私」こと泉水には、父親違いの弟がいます。再婚で
連れ子だった、ということではなく、なんと、泉水がまだ赤ちゃん
だった頃に、見知らぬ男に暴行されたときの子が、弟の春なのです。

この犯人は逮捕されたときに他に数え切れない女性暴行をおこなって
いたのですが、逮捕当時は未成年。

泉水は遺伝子関連の会社で働き、春は定職につかず、街の落書きを
半分ボランティアで消す”仕事”をしています。母はすでに亡くなって
いて、父はというと、末期がんで入院。

ある日、泉水は弟の春から妙なことを教えられます。それは「兄貴の
会社が近いうちに放火される」というもの。
というのも、ここ数ヶ月、市内そあちこちで放火不審火が相次いで
起こっているのです。
春の推測によると、その放火現場の近くには意味不明な落書きが
あり、泉水の働く会社の入っているビル近くにも同じような落書き
があったのです。

弟の予言とおり、ビルの物置が燃やされていました。そして春は
次の放火現場をまた予測します。落書きと放火の関係性とは。
「あなたの弟は変なんです」と忠告してくるなぞの女性、入院中
の父は放火犯人を推理、そして泉水は、かつて自分の母を蹂躙した
憎き男をいまだ探していて・・・

なんといいますか、緩急のバランスが素晴らしいんですね。
会話のなんともいえないユーモアと、引き締めるところはギュッと。
読んでいて、疲れません。
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ジェフリー・ディーヴァー 『石の猿』

2011-02-10 | 海外作家 タ
元ニューヨーク市警科学捜査部長、事故によって首から下が麻痺
してしまった、リンカーン・ライムのシリーズ第4作、前作の
「エンプティー・チェア」では、麻痺状態を手術で治す方法を
医師と話し合うためにニューヨークから南部の病院に出かけて、
そこである事件を解決する”ハメ”になってしまったのですが、
『石の猿』のオープニングから、あれから手術をして云々という
部分は無く、相変わらず麻痺状態でベッドに横たわり、介護助手
のトムをあごで、もとい「あごで使うような口調」で使いまわし
ます。
しかし、恋人でニューヨーク市警鑑識のアメリア・サックスの
心情描写で、医師とアメリアとの会話が文中の合い間合い間
に出てきて、成功率の低い手術をライムが受けるか否か、という
内容以外になにやら”意味深”なやりとりがあります。

物語のスタートは、中国の犯罪組織「蛇頭」の手引きでロシアから
アメリカへ不法入国しようとボロ船に乗り込み大西洋を横断して
いるところから。

この船の船長が、「蛇頭」のメンバー、通称”ゴースト”にある
事を告げます。それは、どうやらアメリカの沿岸警備に追われて
いるらしい、というもの。
何者かの密告か、それとも裏切りか?ゴーストは思い切った手段
にうって出ます。それは船を爆破して、逃げるのです。
しかし、狭い倉庫に押し込められた不法移民たちは閉じ込められた
ままで、彼らは必死で倉庫から這い出します。

一方、ロシアから移民を運ぶ船が大西洋を横断していると先読み
していた移民帰化局とFBIの捜査陣は、突然の船の爆破に驚き
ます。
緊急用のゴムボートで逃げるゴーストは、船から逃げようとして
いる移民たちを殺そうとします。なぜなら、彼らは自分の顔を
見てしまっているから。しかし全員を始末するほど時間はなく、
さらに、上陸地点で待っているはずの「蛇頭」の仲間は、逃げて
しまったのか見当たりません・・・

命からがら上陸した不法移民の数人は、とりあえず行く当ては
ニューヨークと決めて、教会に置いてあった小型バスを盗みます。
上陸地点で待機していた警察とアメリアは、捜査を開始。かろう
じて生きていた移民を助けます。

そこから、ゴーストの移民者殺害がはじまるのです。まずはじめに
自分を裏切って上陸地点から消えた仲間を殺害。
そして、どうにかこうにかニューヨークにたどり着いたと思われる
ふたつの家族を全員”始末”しよと探し出します。
それを食い止めようとゴーストの行方を探すライムのチーム。
しかしライムたちは、大都会の雑踏に紛れ込んでしまった中国人家族
の行方を知らないので、彼らに逃げろと伝えることもできず・・・

ライムの捜査チームに、この船の移民たちに紛れ込んでいた中国の
公安局刑事ソニー・リーが加わります。はじめは中国の”迷信”の
たぐいをライムに教えたりして煙たがられます(部屋での喫煙も
咎められます)が、次第にライムとの距離も縮まってゆきます。

しかしこのシリーズ、またもや「ええっ、これで終わりじゃないの?」
と驚かされます。読み始めたら止まりません。
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水原秀策 『サウスポー・キラー』

2011-02-06 | 日本人作家 ま
この作品は、第3回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作で、
まだ「このミス」は10年経ってはいませんが、すでに大物輩出
の文学賞となってしまいましたね。

といって、じゃあすべてが浅倉卓弥、海堂尊クラスのレベルに
至ってるか、というと、まあ正直そうでもありません。
特に目立つのが、全体的にはシリアスあるいは暗黒ミステリー
の流れのなかにポッと差し込むユーモアだったりロマンチックな
会話だったりが溶け込めていない(これはあとがき解説にも同様
の指摘がありました)のです。

全体的に軽めのタッチで、ここは物語の中で重要だ!というシーン
になったら引き締めて硬くする、例えば先述の海堂尊、または
伊坂幸太郎、垣根涼介などは、その“塩梅”がバツグンに上手い
ですね。

日本プロ野球界で人気、実力ともにナンバーワン球団のオリオールズ
に在籍するピッチャー、沢村。
彼の経歴はちょっと変わっていて、高校まで野球をやっていたものの
チームメイトと折り合わず野球に嫌気がさして、大学では野球をやめ
ていました。そこに、高校時代の沢村の素質を知っていた、大学野球部
のキャッチャーに誘われて、野球部に入部。この大学が所属する東京の
リーグの中でも毎年最下位というなか、沢村のピッチングは、強豪の
チームを苦しめます。
沢村は大学卒業後、アメリカへ渡り、本場の「ベースボール理論」を
学びます。
帰国後、ドラフトにかかり、沢村はオリオールズに入団。しかし、
彼の最先端の野球理論は古いタイプの「根性野球」に子固執するコーチ
とたびたび衝突、チーム内でも孤立します。

しかし、彼の最大の理解者は、現役時代は日本中の野球ファンをとりこ
にし、引退後は「野生の勘」頼りの采配で、名選手は名監督にあらずの
言葉を地で行く葛城監督。
葛城は、沢村をことあるごとに擁護します。
(…とまあ、ここまで説明すると、オリオールズは巨人、葛城監督は
ミスターだと想像できますね)

ある日、沢村は家に帰ると、玄関前に怪しい男に因縁をつけられ挙句、
暴行されます。しかし沢村にとってはまったく身に覚えのないこと。
ところが、球団事務所に、沢村が八百長に関与しているとタレコミが
入ってきたのです・・・

この情報はやがてマスコミにも回り大騒動に。沢村はしばらく自宅謹慎
ということなりますが、納得はできず、独自で調べてゆくと、オリオールズ
という球団では、前からこの類の八百長告発文章が来ていたのです・・・

はたして、沢村は何者によって陥れられそうになっているのか・・・

文中に登場する、事件解決のカギを握る、大人気一歩手前の黒坂美鈴という
女優が出てくるのですが、巨人をオリオールズ、ミスターを葛城、また
オリオールズの名物オーナーも実在をモデルにして描いているところを
みると、この黒坂という女優のモデルは黒坂真美?でしょうか。

先述したように、沢村と黒坂とのセリフまわしは全体の流れからやや
「浮いてる」感は否めませんが、それでもミステリーとしての完成度は
高いと思います。野球&ミステリー好きな方にはオススメです。
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恩田陸 『六番目の小夜子』

2011-02-03 | 日本人作家 あ
それまで、本を読むという習慣が無かった僕に、読書の楽しさ
を教えてくれたのが、恩田陸の本屋大賞受賞作「夜のピクニック」
で、それから、俗に言う「本の虫(「読書家」にはまだ程遠い)」
になったのですが、その後、恩田陸のほかの作品はあまり手にとって
いません。

この「六番目の小夜子」は、実質、いや正真正銘のデビュー作。
地方の進学校に伝わる、謎の多い「サヨコ伝説」の話、なのですが、
高校時代のなんともいえない甘酸っぱさというかほろ苦さを描かせ
たら当代一!と言って差し支えないと思いますね(「夜のピクニック」
も高校生の話)。

この高校では、三年に一度、「サヨコ」に選ばれた生徒が、「ある事」
というか、ある任務をするのです。
そして、今年はその三年目、校内には、「サヨコ」が選ばれたことを
あらわす、赤い花が教室に飾られていたのです。

受験を控えた3年生という中途半端な時期に、転校生が。彼女の名前は
津村沙代子。美人で活発、成績優秀。もしや、彼女が「サヨコ」?

しかしどうやら、赤い花を飾ったのは沙代子ではないらしく、別に3年生
の中に「サヨコ」に任命された生徒がいるはず。

この「サヨコ」は、今年で6代目となり、前の代で不幸にも交通事故で
亡くなった「サヨコ」がいて、その呪いなのか、「サヨコ」に選ばれた
生徒が文化祭で“あるイベント”を成功させなければ、その年の3年生
の大学合格実績はひどいことに。しかし成功すれば、実績は良いものに。

話の大事な部分になるので、おおまかにいうと、じつは「サヨコ」は
女性でなければならないというルールはありません。
そして、今年の「サヨコ」を知っているのは、文化祭実行委員長だけ。
なぜなら、文化祭であるイベントを行うために、実行委員も動かなければ
ならないのです。

恋愛、友情、受験、将来の不安、大人になって振り返ってみれば、
ああなんてどうでもいいことにあんなに真剣に悩んだり怒ったり考えたり
したんだろうと笑えることも、高校生の年代にとっては一大事。

文中で特筆すべきは、6代目「サヨコ」の企画した、全校生徒を巻き込んだ
イベントがあるのですが、ここで、このイベントの演出効果として、エリック・
サティの「ジムノペティ」がBGMに使われます。
読み進むにつれて、頭の中でこの曲が流れてきました。
タイトルだけでは分からないという方は、youtubeなどで聴いてみてください。
ああ、この曲ね、と一度は耳にしたことがあると思います。
そして、この「イベント」のシーンで、実際に曲を聴きながら読んでみる、
文中に飛び込んでみて、彼らと同じ体験をしてみる、というのも一興。

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