晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

葉室麟 『山桜記』

2017-09-29 | 日本人作家 は
前回の投稿で「もっと現代や海外の小説を読まねば」
と書いたにもかかわらず、もう時代歴史小説に。

まあ投稿する順番はさておいて、近いうちに現代や
海外の小説を投稿する予定、ではあります。

そんな与太話はさておいて『山桜記』ですが、時代は
戦国時代後期から江戸初期、歴史の教科書でいうと
当時の主役は武士つまり男。この作品は「武将」の
近くにいた奥さんや娘ら「女性」を描いた短編集。

「汐の恋文」は、豊臣秀吉が朝鮮出兵をした「文禄の役」
で、秀吉が九州肥前に陣を構えていたところに、家臣が
一通の書状を持ってきて、秀吉に「是非お読み下さい」
と言ってきます。
その書とは、朝鮮半島の戦地にいる竜造寺政家の家臣、
瀬川采女に宛てた采女の妻・菊子の手紙で、船が難破
して積み荷が海に流されて日本に戻ってきてしまった
のです。で、それを読んだ秀吉の家臣が「これほどまで
に夫を慕う妻女がいるのでしょうか」と感動したので
秀吉が読むと秀吉も感動して「この奥方に会ってみたい」
と言い出し・・・

「氷雨降る」は、京の公家の娘、洗礼名ジュスタは、キリ
シタン大名小西行長の紹介で、有馬晴信と結婚をします。
晴信もキリシタンで領地は島原半島。
関ヶ原の合戦で、小西行長は西軍につき、晴信も行長の
応援で戦地に向かいましたが、晴信は途中で引き返します。
結果、東軍の勝利で晴信は領地は没収されずに済んだの
ですが、行長は捕えられて処刑され、ジュスタは夫の行動
に不信感を抱き・・・

「花の陰」は、関ヶ原の戦いの数か月前、細川忠興の妻、
細川ガラシャは、石田三成が人質にとろうとしたのを拒み
大坂屋敷内で命を絶ちます。が、息子の忠隆の妻、千代は
実家である前田家の京屋敷にいます。世間ではガラシャは
(義死)と讃えられ、千代は(義母を見捨てて逃げた)と
誹りを受けます。忠興は息子と千代の離縁を命じますが、
忠隆は京にいる千代と文通をしていて・・・

「ぎんぎんじょ」は、関ヶ原の戦いの半年ほど前、九州、
肥前の武将鍋島直茂の母、慶誾尼(けいぎんに)が九十三
歳でなくなります。直茂の妻、彦鶴は義母の最期を看取り
ます。すると慶誾尼の侍女が「私が死んだら彦鶴に渡すよ
うに」と書状を持ってきます。そこには「ぎんぎんじょ也」
と書かれており、それを見た彦鶴は涙を浮かべ・・・

「くのないように」は、戦国武将、加藤清正に女の子が
生まれます。「八十(やそ)」と名付けられ、のちに八十
は徳川家康の十男で駿府城主(当時)の頼宜に嫁ぎます。
ところが八十は徳川家に嫁ぐと決まっても、ある疑念が頭
から離れません。それは八十がまだ小さい頃、父の清正は
家康と豊臣秀頼との会見を実現させます。そのあとに清正
は急逝します。当時、世間では家康が清正を毒殺したとか。
しかし八十の心配は杞憂で頼宜はとても優しい夫。
ところが八十が輿入れの荷を開けると、中に父愛用の長槍
が入っているのを見つけます。それを見た頼宜はかの有名
な加藤清正公の槍を見て目を輝かせ、槍を持って振り回し
ていると、それを見た老家臣が顔を真っ赤にして怒り・・・

「牡丹咲くころ」は、柳川藩主、立花鑑虎は、牡丹の花を
毎年、隠居している父の忠茂と母の貞照に送っています。
貞照は仙台藩主、伊達忠宗の娘で鍋姫と呼ばれ、時の将軍
徳川家光のご意向で鍋姫は忠茂に嫁ぎます。それからのち、
鍋姫の実家の伊達家では御家騒動が勃発し、伊達家の後見
人でもある忠茂の話を聞くと、鍋姫にとって懐かしい名前
を耳にします。その名は「原田甲斐」・・・。

「天草の賦」は、寛永十四(1637)年、九州、島原と
天草の農民や浪人がまだ十六歳の天草四郎を大将に蜂起
した、いわゆる「島原の乱」が起きます。
はじめこそ天草四郎側が優勢でしたが幕府軍も総攻撃に
出ます。そのさい、筑前の黒田藩主、忠之も駆けつけま
す。忠之は「五年前の汚名返上」と言ったのですが、五
年前、のちに「黒田騒動」と呼ばれる御家騒動があり、
忠之の父の黒田長政は息子があまりにも頼りないので、
廃嫡をしようとしたのですが、家老の栗山大膳が思い
とどまらせたのです。が、忠之はそんな大膳を疎んじ、
仲良しの倉八十太夫を取り立てます。大膳と十太夫は
対立し、大膳は幕府に陳情、十太夫は出家します。
なんと、その十太夫が、忠之に会いに来ます。しかも、
女連れで・・・

葉室麟さんの作品を、まだ全部読んだわけではありま
せんが、読んで感じたのは、すごく「文体が優しい」
なあ、と。間接照明っぽい優しさ。
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ケン・フォレット 『モジリアーニ・スキャンダル』

2017-09-24 | 海外作家 ハ
久しぶりの海外小説です。というよりは時代小説以外の
本を読んだのが久しぶり。どのくらいぶりかというと5月
のはじめ「万城目学『偉大なるしゅららぼん』」以来
ということで、というか、今年に入って今日現在まで
45冊分の投稿をしていて、うち時代小説ではない現代
小説(海外作品含む)は8冊。

このブログに(時代小説専門)というサブタイトルを
付けないためにも、ちょくちょく現代や海外の作品を
読まねば。

さて、ケン・フォレットですが、けっこう好きです。
まだ日本で発売されている分をコンプリートしている
わけではありませんが、未読の作品を見つけたらとり
あえず買います。先日も今回読んだ作品ともう1冊購入。

モジリアーニとは、アメデオ・モジリアーニという
イタリア人の画家。20世紀初めにパリで芸術活動。
35歳という若さで亡くなっているのですが、生前の
評価は低く、ゴッホのように、死後に評価が高く
なり、あとがきによれば、1989年に大阪市が購入
した「髪をほどいた横たわる裸婦」がなんと20億
円。「20円置くんちゃいますよ」と思わずトミーズ
のネタが出てきてしまいます。

まあ、酒とドラッグと貧困と結核によって夭折した
伝説的画家ということでだいぶ過大評価されたよう
ですが。

物語は、パリに夏季休暇で滞在している芸術学で
博士論文を書こうとしている女子学生のディーが、
モジリアーニの(幻の作品)がどこかに存在する
と知ったことから始まります。

これを、ディーの叔父でロンドンの画廊のチャールズ
・ランぺスに手紙で報告します。
姪からの手紙を見たランぺスは、ちょうど良いタイ
ミングだと(モジリアーニ展)の開催を計画します。

これに怒ったのが若手芸術家のピーター・アッシャー。
自分の個展を延期してモジリアーニ展をやると聞いて
パーティーの席でランぺスを罵ります。

アッシャーの作品は、ほんの前までは高値をつけたの
ですが、最近は1枚も売れず、現在は美術学校の講師
をしています。

家に帰ると友人のミッチが来ていて、恋人のアンが
何気なく「贋作を描くのは原作者と同じくらいの
才能がないとダメなの?」と質問すると、アッシャー
とミッチはサラサラとゴッホの絵を描きます。
アンは冗談で「もし失業してもこれで生活できるわね」
と言ったのですが・・・

一方、ディーは友人で女優のサマンサにも「これから
イタリアに行ってモジリアーニの幻の作品を探しに行く
わ!」と絵葉書を送っていて、これをサマンサの知人で
画廊経営をこれから始めようとしているジュリアンという
男がたまたま見ます。
ところで、サマンサは女優業で問題を抱えていて、そん
な時に出会ったトムという男にたちまち惹かれます。
じつはこのトム、詐欺師だったのです・・・

ディーは恋人のマイクとふたりでイタリアにいます。そこ
で、イギリス人の男に声をかけられます。その男は「ある
絵を探しています」と言うのですが・・・

ジュリアンもディーより先にモジリアーニの絵を見つけて
やると追跡します。

アッシャーとミッチ、アンはロンドンじゅうの有名画廊に
ゴッホやムンクの(贋作)を売ろうとして・・・

ディーは追っ手より先にモジリアーニの幻の作品を見つける
ことができるのか。
アッシャーとミッチ、アンは贋作を売って得たお金である事
をしようとしますが・・・

関係のなさそうな話が徐々ににつながって、最終的に「おー」
と驚くこと間違いなし。

この作品は、フォレットの出世作「針の眼」の前に書かれて
いたそうで、当時は別名義のペンネームだったそうです。
書かれた順番どうりに出版されるとは限らないもので、以前
読んだある海外作家の作品は、シリーズ3作目が国内初出版で、
1,2作目はその当時で発売未定という酷いものもありました。

いずれにせよ、裏表紙のあらすじでは「野心作」と評している
ように、その後書かれたフォレットの作品に比べるとプロット
に気を使いすぎてる感が強くて、作品にのめり込むまで時間が
かかりましたが、それでものめり込み始めたと思ったらあっと
いう間に読み終わってしまいました。


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佐伯泰英 『吉原裏同心(六)遣手』

2017-09-15 | 日本人作家 さ
今作のテーマは「遣手」。(やりて)と読み、現代ですと
「やり手ババア」なんて言葉が残ってますが、もともとは
吉原で妓楼にいる元遊女の役職で、主に遊女の指導・監督、
ならびに客の手配などをします。
優秀な遣り手がいるかいないかで売り上げに関わってくる
ぐらいの重要なポストではあります。

客の素性や懐具合を見てどの遊女をあてがうか、客の要望
どうりにはいかない場合もあったり、遊女にも厳しくしつけ
をしたり、けっこう恨みを買ったりもしたそうです。

さて、夜明け前、神守幹次郎は吉原から呼ばれます。
吉原内では大きな遊女屋(新角楼)へ行ってみると、楼の
遣り手(おしま)が、帯で首を括ってぶらさがっています。
よく見ると、首には絞められた跡が。つまり殺された後に
自殺に偽装工作をしたようなのです。

主人や番頭に聞けば、おしまは金稼ぎが生き甲斐のような
人で、およそ自殺するような性格ではない、と。

おしまには夫がいて、吉原の郭内に住む大工なのですが、
話を聞けば、おしまは二百両以上を持ってるはずだという
のですが、部屋には金はありませんでした。

捜査が進んでいくと、おしまには遊女時代の朋輩が最下級
の女郎として現在も吉原にいて、その(おひさ)という遊女
に、(もし自分が死んだら・・・)という書付を渡していた
のです。さらに、おしまは二十数年前に子を産んでおり、そ
の男の子は養子に出されたのですが・・・

なんだかんだでおしま殺しの犯人を捕まえ、おしまの葬式も
終わり、幹次郎は、吉原会所の頭の四郎兵衛と新角楼の主人
の助左衛門とふたりの若衆の五人でおしまの故郷の信州に
おしまの遺髪と遺産を届けに旅立ちます。

ところが道中、いきなり見知らぬ男たちに襲われます。どう
やら四郎兵衛に個人的な恨みを持っているらしいのですが・・・

なんやかやでおしまの故郷に到着しますが、そこでもひと悶着
があります。

この旅物語と、さらに吉原の内外で卑劣な引ったくりが連続
して起き、とうとう死者まで出ます。どうやら犯人は吉原内
に住む人らしく・・・

文中で、神守様の周りは行く先々で何かが起きますなあ、と
誰かがつぶやいていますが、まあ(裏同心)という設定上、
そうなるのも仕方がないのでしょうが、それにしても、男女
の愛欲、一日で千両の金が動くという金銭欲、さまざまな欲
がうごめいて、人間なんてしょせんは薄皮一枚剥げば獣なん
ですから、幹次郎が、というより(吉原が)が正解なんで
しょうね。
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宇江佐真理 『高砂』

2017-09-10 | 日本人作家 あ
この作品は、先日読んだ「ほら吹き茂平」と同じ出版社
から出ていて、サブタイトルも同じ「なくて七癖あって
四十八癖」で、シリーズものとはまたちょっと違うのか
もしれませんが「人情時代小説短編集」ということで。

「ほらふき茂平」では、茂平さんが出てくるのは最初の
一遍のみで、あとは別の話でしたが、今作はぜんぶ同じ
登場人物。

日本橋堀留町の会所に住む又兵衛とおいせの夫婦。
そもそも又兵衛は深川で材木仲買人でしたが、息子に
商売を譲って息子夫婦とは別居をしたいというのです。

というのも、おいせは又兵衛の正式の妻ではなく、
息子の嫁が「私は将来、お義父さんの面倒なら見る
けど正式の姑ではないおいせさんの面倒は見たくない」
と話しているのを聞いてしまったのです。

それならと又兵衛の友人の孫右衛門が、堀留町の会所
を紹介してくれたのです。「会所」とは本来は町名主
の自宅を兼ねるのですが、名主は会所におらず、かと
いって会所は町内で問題があったらよく利用する場所
ではあるし、そこで、又兵衛とおいせに会所に住み込み
の管理人になってくれとお願いします。

又兵衛は三度も離縁をし、おいせも一度離縁をしてい
ます。
さて、そんな会所に揉め事が。

畳職人の儀助の妻おいせが四人の子供を連れて会所に
逃げてきます。なんでも儀助は給料を酒代にほとんど
使ってしまい、一家は困っているとのこと。
話を聞けば、儀助の職場の畳屋でトラブルがあったよ
うで・・・という「夫婦茶碗」。

おいせの知り合いで、大工の徳次の娘(おつる)が
お武家に嫁入りしたのですが、たびたび実家に帰って
きては金の無心をするというのです。じっさい、お
つるの嫁ぎ先は無役で暮らしは楽ではありません。
ところがおつるの夫の姉がこの家の生活を苦しくして
いる元凶なのでは・・・という「ぼたん雪」。

正月、火消しが梯子に登って軽技を披露する出初式
がありますが、その梯子乗りは浜次だと聞き、おいせ
は「悪たれ浜次・・・」と。
浜次は少年のころから近所の鼻つまみ者で、見かねた
大工の棟梁が引き取り、素行は悪くなくなりました。
じつは浜次には、別れた妻と息子がいるのですが、
その妻の再婚相手を浜次が殴って浜次が捕まり・・・
という「どんつく」。

(口入屋)という、今風にいえば人材派遣業「甲州屋」
は、女主人の(おみさ)が店を仕切っていて、亭主を
四六時中怒鳴り叱っていて、周りは「甲州屋の亭主は
気の毒に・・・」と思っています。が、ある日のこと、
その甲州屋の亭主がおみさではない女と歩いているの
を又兵衛は目撃します。それから三日後、甲州屋では
亭主が行方不明だと・・・という「女丈夫」。

船宿「天野屋」の息子(みっちょ)は発達障害の子で
すが、近所から可愛がられています。
小さい娘が誘拐されて殺されるという事件が続いていて、
その犯人が(みっちょ)なのではないかという噂が
又兵衛とおいせの会所に伝わります。そして、その噂を
流した人物というのが富沢町の畳屋のお内儀らしいので
すが、なんと畳屋のお内儀と天野屋のお内儀は古い友人
だったのです。結局(みっちょ)には動機不充分でアリ
バイもあったので無罪放免となったのですが、ではなぜ
畳屋のお内儀は(みっちょ)が怪しいと告げたのか・・・
という「灸花」。

寒くなり又兵衛は長期間風邪をこじらせて、ずいぶんと
弱気になります。もし自分が先に死んだら、正式に祝言
をしていないおいせはどうなると急に心配になり・・・
という「高砂」。

どうやらこの続編はなさそうなので残念ですが読んでみた
かったですね。ドラマ化にしても面白そうですね。

文中で、又兵衛は名主の手伝いで人別(戸籍)改めをする
のですが、夜逃げや行方不明になった人の「扱い」が、
武士は「出奔(しゅっぽん)」、農民は「逃散(ちょう
さん)」、町人は「欠落(かけおち)」と身分によって
違うというのです。
「かけおち」といえば、親に反対された愛し合う男女が
手に手を取って逃げる・・・まあこの場合は(駆け落ち)
で字が違いますが、行方不明となった町人全般を(かけ
おち)としていたようですね。
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池波正太郎 『おせん』

2017-09-06 | 日本人作家 あ
この作品は、女性が主人公の短編集となっております。

「蕎麦切おその」は、幼少時の精神的ショックで蕎麦
しか食べられないという特異体質になってしまった
(おその)という女性が、東海道中の旅籠で蕎麦打ち
職人として人気になり、濡れ衣を着せられて旅籠を
クビになり・・・

「烈女切腹」は、阿部対馬守の江戸屋敷、吉村嘉六の
娘(りつ)の話。りつは、藩の側用人、渡辺茂太夫の
の家を訪ねるといきなり茂太夫と息子を切り殺します。
茂太夫は殿さま(お気に入り)の家臣で、それをいい
ことに汚職にまみれ自分に抵抗する家臣をことごとく
閑職に追いやりとやりたい放題で、りつには婚約者が
いたのですが、その婚約者は茂太夫一派の養子に入って
しまいます。
この一件で茂太夫の対立派は勢いついて殿にりつの助命
をお願いしますが、殿は「ならぬ!切腹だ!」の一点
張りで・・・

「おせん」は、弥四郎という男が逮捕されますが、この
男、おせんという娼婦の常連客で、島流しが決まって
数日後、おせんの家に弥四郎の妻と母が訪ねてきて、夫
がこうなったのもあんたのせいだと弥四郎の母を置いて
いってしまいます。言いがかりも甚だしいとはいえ、
老婆を放っておくわけにもいかず、下女としておせんの
家に置いておくことに・・・

「力婦伝」は、とある武家のひとり娘(さつ)の話。
さつは体格も良く力持ちで武芸も達者で、となると
嫁のもらい手がいないので困っていた両親のもとに
さる大名家の奉公の話が来ます。
奥御殿の(道女)の専属奉公となったさつですが、
殿さま(お手付き)の道女には、奥方付き年寄の
(沢野)をはじめとして数多くの嫉妬や意地悪が
ありましたが、大女のさつが来てから嫌がらせは
減り、道女とさつの仲も良くなります。
しかし、ある日、沢野の陰謀で道女は恥をかかさ
れ、なんと道女は自害。怒ったさつは沢野を殺し
ますが、殿はさつに「あっぱれ」と・・・

「御菓子所・壺屋火事」は、菓子舗(壺屋)で、
奉公人の惣次郎が包丁で主人を刺そうとした疑い
で捕まります。惣次郎はもとは別の菓子屋の番頭
でしたが店が潰れて壺屋に引き取られ、たちまち
手代に昇格し、壺屋の女将にも気に入られます。
もともといた壺屋の奉公人たちは惣次郎に嫉妬し、
「壺屋の主には惣次郎さんがお似合いだね」という
世間の声に、婿養子の主人は惣次郎に殴りかかり
ます。惣次郎は台所に行って包丁を持ったところ
をほかの奉公人に押さえつけられます。
奉行所の取り調べでは「主人を刺そうとしたので
はなく自害しようとした」と殺意を否定、牢屋の
中で病死してしまい・・・

「女の血」は、さる大名家の家臣の娘(八千代)
の話。八千代は土屋金之助のもとに嫁ぎます。
ある夏の日。八千代の実父の葬式で、八千代の
結婚前に「どうしても嫁に・・・」としつこく
言ってきた石井弥十郎という男が、酔っ払って
葬儀中に笑い出し、注意した金之助にいきなり
斬りつけ、逃走します。
父の葬式で夫を殺害するという狼藉をした弥十郎
を許せない八千代は復讐に出ようとしますが、
妻が夫の(敵討ち)は許可が出ないケースが多く、
しかし八千代は剣術道場に入門して・・・

「三河屋お長」は、足袋問屋「三河屋」のひとり娘
(お長)の話。お長はもうすぐ結婚。ある日のこと、
買い物の帰り(弥市)を見かけます。弥市は三河屋
出入りの足袋職人で、お長の元恋人でしたが、娘が
きずものにされたと言い触らされたくなかったら金
よこせと三河屋を強請し、さらにお長に「不作の
生大根なんかにもう用はねえや」と暴言を浴びせて
逃亡したのが一年前。
お長は弥市の跡をつけ、弥市が家に入って寝静まった
ところに家に侵入して弥市を絞め殺します。
弥市殺しの犯人は見つからないまま時は過ぎ、お長
は結婚し、子をもうけて、店も商売繁盛、不自由ない
生活を送っていますが・・・

「あいびき」は、大店の菓子舗「翁屋」の主人の妻(お徳)
の話。お徳は、上野・不忍池ほとりの茶屋で坊主と(あい
びき)をしています。さて、お徳が茶屋にいるのを若い男
に見られます。文吉という男はお徳の実家の近所にいた男
で、なんとお徳に「だまってあげますから、三十両ばかり
都合してくれませんか」と・・・

「お千代」は、大工の松五郎の飼い猫(お千代)の話。
松五郎は腕の良い大工ですが、まだ独身で、飼い猫と
暮らしています。世話好きの大工の棟梁が松五郎に縁談
話を持ち込み、松五郎は仕方なく(おかね)と結婚しま
すが、自分よりも猫を可愛がる松五郎におかねは不満の
様子。ある日、松五郎は昼飯を食べようとしますが見つ
からず、近辺を探すと、浮浪者が松五郎の握り飯を食べ
ています。そこに飼い猫のお千代が来て松五郎の服の
裾をくわえて引っ張ります。これはおかしいと家に戻る
と家の中でおかねと医者が不倫の真っ最中で、さらに、
松五郎の弁当を盗み食いした浮浪者が血を吐いて死んで・・・

「梅屋のおしげ」は、妾宅で女中兼子守りをしている
(おしげ)の話。おしげは顔に痘痕があり、周囲の大人
は憐れんだり気持ち悪がったりしますが、良い子で働き者。
ある日、子守りをしていると見知らぬ男が「おうめの
知り合いの宗助」と声をかけてきます。おうめはおしげ
の姉で、宗助はおうめの(馴染み客)で、おうめと駆け
落ちを約束して宗助は店から金を持ち出してきたのです
が、おうめの働く汁粉屋では「おうめは辞めました」
というのです。おしげはおうめの家に行ってみるとそこ
におうめがいて、宗助の話をしますが「そんな男は知ら
ない」と言い、口論になり、おうめはおしげに向かって
「この化けもの・・・」と言ってしまい、おしげは金火箸
を姉の胸に突き刺し・・・

「平松屋おみつ」は、煙管職人の娘(おみつ)が買い物
から帰ってくると、父親が殺されています。犯人は見つ
かっておらず、おみつは漁師の甚五郎という父の友人の
家へ。甚五郎は「お前の父さんを殺したやつが憎い」と
犯人捜しをしてくれているのですが、仕事の漁には出て
いません。そればかりか、おみつが家から持ってきた金
を「貸してくれ」と言い出します。
甚五郎の家を出たおみつは奉公先を紹介してもらいます。
(平松屋)という小間物問屋で、内儀(おりん)の小間使
として奉公することに。
ひとり息子は、三十過ぎでまだ独り身。正式には三度も
離縁しているのです。というのも、おりんが口やかましい
ので嫁がすぐ出ていくそうで・・・

「おきぬとお道」は、貧乏御家人の次男坊、木村万次郎に
養子の話が舞い込みます。万次郎はその相手を一目見て
「兄上、あれはだめです」と断ります。(お道)は、今で
こそ(エキゾチックな顔立ち)なのでしょうが当時では
「顔の目鼻口が大きい」は(醜女)の部類で、しかも
身長も高く体格も良いということで(貰い手が無い)ので
した。ところが兄は「つべこべいってないで養子に行け」
と怒ります。が、別方面から養子の話が。相手は菓子舗の
末娘(おきぬ)の婿養子に、というのです。おきぬは
「色白でほっそりとして・・・」ということで万次郎は
即決でおきぬの婿になります。が、このおきぬ、虚弱体質
で、万次郎いわく「まるで骸骨を抱いているような・・・」。
時は幕末、万次郎は突然どこかへ消えたのです・・・

「狐の嫁入り」では、笠屋の弥次郎は、妻が病気で寝たきり、
ふたりの子がいて、仕事に家事に看病に大忙し。そこで下女
に来てもらったのですが、おだいという下女、飯は炊けず、
物忘れはする、買い物に出掛けたまま帰ってこないと最悪。
正月、弥次郎が目覚めると枕の横に狐が。なんでも自分は牝
で、結婚を約束した牡狐がいたのですが、その牡の母狐に
結婚を反対されて、命も危ないということで、一年間だけ、
この家に置いてくださいと涙ながらにお願いしてきます。
そして弥次郎が起きると、おだいがテキパキと働くではあり
ませんか・・・

どの話も、ここでは途中までしか書いてませんので、なん
だか「不幸な女性のオンパレード」みたいになっています
が、それなりにハッピーエンドになっています。

「平松屋おみつ」は、長編小説「夜明けの星」のいわば
「原作」になっていますね。「夜明けの星」では、煙管職人
を殺した浪人と、父を殺された娘のその後の人生を交互に
描いています。
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