晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

ニック・ホーンビィ 『ぼくのプレミア・ライフ』

2012-01-31 | 海外作家 ハ
この作品の原題は「Fever Pitch」つまり直訳すれば「熱狂」とか
そういう意味なのですが、イギリス在住の作者が、ロンドンにある
フットボール(イギリスではサッカーと呼ばない)チーム、かつて
元日本代表の稲本も所属したことのあるアーセナルを中心に、世相
も交えて描いた、スポーツライターでもない「いちファン」のエッセ
イ的な作品です。
そういえば、メジャーのボストン・レッドソックスの熱狂的ファンの
男、その恋人の女性(ドリュ-・バリモア)のラブコメ映画も原題は
同じでしたね。

アーセナルといえば、現在ではイングランドのプレミアリーグ(1部)
では、つねに優勝争いにからみ、"Big 4"だか"Top 4"の中の1チーム
(他は、マンチェスター・ユナイテッド、リバプール、チェルシー)
に入るくらいの強豪ですが、この作者が少年時代に父親に連れられて
観に行って、ニック少年を虜にした1960年代後半当時のアーセナル
は、絶不調のど真ん中で、退屈なつまらないフットボールしかしない
ようなチームでした。

クラスメイトにアーセナルのファンはほとんどいなく、逆にファンを
標榜した日にはからかわれる始末。しかしニック少年は、チームの
スタイルであったり、シンプルに強いから好き、といった具合で夢中に
なったわけではなく、ホームのハイベリー(現在はエミレーツ・スタジ
アムに移転)の雰囲気込みで好きになったのです。

それから少年も成長し、一時期はスタジアムに足を運ぶことが無くなった
りもして、大学生活でロンドンを離れなくてはならなくなったり、しかし
カップ戦の決勝ともなれば、ロンドンにあるフットボールの聖地ウェンブ
リーまで出かける、どこか、好きとか嫌いとかいうレベルを超えた、家族
のような間柄といいますか、そういうスタンスで彼とクラブは結ばれて
いるように思えます。


作品では1968年から1991年まで描かれて、その間に起きた「ヘイ
ゼルの悲劇」と呼ばれる、1985年にベルギーで行われた欧州チャンピオン
ズカップ決勝リバプール対ユベントスで、死者39人、負傷者500人以上
を出した事故や、1989年のFAカップで死者95人という事故「ヒルズ
ボロの悲劇」も登場し、前から問題視されていたフーリガンや、サッチャー
政権当時の国内情勢などに言及しています。

この続編にあたるエッセイが出ているのか分かりませんが、ベンゲル監督が
就任してから、「1-0の退屈なアーセナル(せいぜい勝ててもこのスコア)」
とバカにされていたチームが、それまでの守備重視から、中盤から前にかけて
豪華な布陣となり攻撃的なチームへと変わり、2回のダブル(リーグとFAカップ
の両方に優勝)を達成、2003~04シーズンのリーグ戦無敗、2005年に
チャンピオンズリーグ決勝に進出したことなど、どういう気持ちで観ていた
のか、気になるところです。「今のガナーズ(アーセナルの愛称)は俺の好きな
ガナーズじゃない」とふてくされていたりして。


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山本一力 『大川わたり』

2012-01-28 | 日本人作家 や
どうにも、昨今の人間のドス黒い部分をフィーチャーして「リアリティ」
と評価する流れが好きではなく、できれば本を読んでいるときぐらいは
気の滅入ることから逃れたいと思うのです。

となると、丁度いいのが、山本一力の時代小説。江戸の深川界隈を中心
に、市井の人々が主な登場人物で、彼らの息遣いまでもが聞こえてくる
ような描写で、たまに悪人は出てきますが、基本的には粋な下町っ子が
互助精神で、些細であれ大事であれ問題を解決していき、読み終わるこ
ろには、ホッコリした心持になります。

そういった意味では、宮本輝に通ずるものがありますね。

この『大川わたり』という作品は、出版された順番こそ後になりますが、
オール読物新人賞や直木賞の受賞作よりも前に書かれた作品で、といって
も、とある新人賞に応募して落選したもので、そこに手直しが加わって、
世に出されたということになったそうです。

漁師の家に生まれた銀次は、九歳で親をなくし、大工に預けられ、そこで
かなりの給金を貰うまでに腕を上げるのですが、立て続けに女にふられて、
さらに世話になった大工の棟梁も失って、気が付いたら博打にはまって、
あっという間に20両もの借金が。

銀次は、賭場を仕切っている親分の「達磨の猪之介」に借金の利息を帳消し
にしてほしいと直談判し、親分はあっさりと承諾。
これに怒ったのは、代貸(だいがし)という、猪之介の右腕、新三郎。代貸
とは、賭場で金が無くなりそうな客に貸し付けて、後で厳しい取立てをする
役割で、どうやら金を回収するだけではなく、客を追い詰めるのが純粋に
楽しいような、根っからの性悪。

銀次は、利息無しの20両だけをきっちり頭そろえて返すまで、大川(現在
の隅田川)を渡るな、という厳しいルールを課されます。
もし、渡ってそれが親分の手下に見つかったら、その場で殺す、と・・・

そこで銀次は、大工時代に普請に行ったことのある堀正之介という剣術の
道場の家に行くことに。そこで事のあらましを話すと、正之介は銀次に道場で
修行をさせます。
そこでの修行を終えた銀次は、正之介から、千代屋という呉服屋の手代に
なってみないか、と言われます。
それまでも道場から通いで大工仕事の手伝いで、そこそこの給金を貰うように
なってはいたのですが、千代屋の手代ともなると給金は高額に。
それと、千代屋の当主は正之介の弟子で、誰か先生の目にかなう、使える人材
を欲しがっていたことで、正之介は迷うことなく銀次を勧めたのでした。

そうして、呉服屋ではたらくことになった銀次ですが、ささいなことで手代の
先輩から恨みを買うことになり、それが新三郎の耳に入り、厄介ごとに巻き込
まれることに・・・

あとがきでも言及していましたが、ラストの展開は強引といいますか、何か
ひとつふたつ、作品中で解決していない問題も残っています。
が、それを差し引いたとしても、良い作品を読んだなあ、とホッコリ気分。
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三浦しをん 『まほろ駅前多田便利軒』

2012-01-25 | 日本人作家 ま
むかし、音楽のレコード(古いですね)を買うときに、知らない
歌手でも、そのアルバムのジャケットが気に入って買う、いわゆる
「ジャケ買い」というのがありましたが、本においては、装丁買い
をする人がいるかは分かりませんけど、タイトルに心惹かれること
はあると思います。
この『まほろ駅前多田便利軒』も、前から「タイトル買い」しようか
なあ、と考えていた作品。もっとも、直木賞受賞作なので、未知の
作品ではありませんが。

東京の南西部にある都市、まほろ市で便利屋を営む多田。この「まほろ」
とは、文中によると「神奈川に突き出すようなかたちで存在」して、
友達が遊びに来て、都知事選のポスターを見て「まほろって東京なのか」
と驚かれ、市内を国道16号、JR八王子線(横浜線?)が走り、八王子
線と交差する私鉄の箱根急行(小田急?)、映画館も、デパートもあり、
わざわざ都心まで出なくても不便しない、とまあ、ここまで書けば関東
にお住まいの方は「ああ、あそこね」とお分かりになるかと。

そんな多田のもとに、バスの時刻表が正しいかどうかチェックしてくれ
という依頼があって、バス停に行ってみると、そこには多田の高校の
同級生、行天が。
行天は高校時代、誰とも話さず、唯一発した「言葉」は、裁断機で小指
を切ってしまったときの「痛い」だけ。もちろん多田とも会話らしい会話
はしたことがありませんでした。

それがいきなり、馴れ馴れしくも「今晩泊めて」ときて、そこからずっと
居座ってしまいます。

はじめは多田の仕事に付いて来て、手伝うわけでもなく、留守番を頼めば
電話番も伝言もろくにできず、そのうち仕事をもってくれば、厄介ごとで・・・

このふたりに漂う、なんともいえない無気力というか退廃的というか、
多田は何か行天に対して思うところあり、過去に何かがあって、しがない
便利屋をやり、行天は結婚していたらしく、子供もいたと本人は言います
が、きちんと大人の生活をしていたとは思えないほどで、修羅場をくぐって
きたようなところもあり・・・

この1冊で一応完結はしていますが、なんだか続編を読まずにはいられない
ような、そんな気持ちにさせられます。
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山本一力 『赤絵の桜』

2012-01-23 | 日本人作家 や
もともと時代小説はそんなに好んで読んでたわけではありませんが、
気が付いたら(もう歳なんですかね)書棚に増えてきました。
山本一力の作品は、主な舞台が江戸の深川、たまに深川の外にも出
ることはありますが、基本はその一帯。
戦国時代でもありませんし、武家屋敷でもないので、登場人物は、
市井の人々、「殿!」みたいなオエライさんは出ません。
街のそこここが人情の染み渡ったような、とてもほっこりする話が
多く、とても重宝しております。

この『赤絵の桜』は、「損料屋喜八郎始末控え」のシリーズ2作目
で、登場人物の喜八郎は、損料屋という、現代でいえば生活用品の
レンタル業で、前職は同心でしたが、上司のミスを肩代わりして、
そのときにお世話になった札差(金融業)の先代米屋政八から後継ぎ
の後見人をお願いされ、さらに同心時代からお世話になっていた与力
の秋山からも密偵のような仕事を頼まれます。

シリーズ1作目では、札差という、江戸時代に興った金融業を中心に
描かれます。武家は、給金は基本的に石高(米)でもらうことになって
いて、その米を担保に金を貸すというシステムで、この武家と札差との
間にはたびたびトラブルもあり、棒引きしてほしい側はヤクザを雇い、
返して欲しい側も用心棒を雇うという状態。

こんな中で、政府は武家の借金を心配し、ついに「棄損令(きえんれい)」
が発布されます。つまり武家の借金の棒引き。これによって、それまで
江戸市中の経済の一役を担っていた、札差や両替商といった金持ちの
道楽、ようは「無駄遣い」が一斉に縮小します。

そんな、きゅうきゅうとした状態ですが、大川(隅田川)を越えた押上村
(スカイツリーがあるところですね)に、大規模な湯屋ができるという話
があって、その話に乗った札差の米屋は3千両を出すことに。

何かこれはおかしいと喜八郎、この取り引きの間に入った伊勢屋と青山家
を調べていくうちに・・・

また、喜八郎の手下の一人の親子の話、喜八郎と伊勢屋が騙される話、
そして、前作から登場していた深川の料亭「江戸屋」の女将、秀弥との
淡い恋の話など、短編で5話、どれも素晴らしい作品。

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宮本輝 『葡萄と郷愁』

2012-01-20 | 日本人作家 ま
本を読むということは旅をするということだと強く感じるように
なったのは、宮本輝の作品を読むようになってからなのですが、
もちろん、旅というのは実際に行ってナンボ、百聞は一見に云々
ということは重々承知の上で、正確にいえば、旅を「感じる」と
いうことですかね。文章だけで旅とは如何にと聞かれても、そりゃ
面倒みきれません。

この『葡萄と郷愁』は、たびたび登場する東ヨーロッパが舞台に
なっていて、さらに、もうひとつの話が交差し同時進行していき
ます。

ハンガリーのブダペストに住むアーギは、偶然の出会いで、アメ
リカ人女性からアメリカに来ないかと誘われます。
他の東欧諸国よりは多少は産業もあって、統制も厳しくはない
ハンガリーですが、それでも西側諸国に対する憧れは若い世代に
強くあり、また、どこか退廃的な国にも嫌気が。

日本の大学生、沢木淳子は、年上でイギリスの大学院に留学している
外交官の卵からのプロポーズを承諾。しかし淳子には、同郷で上京し
てきた恋人がいたのです。

アーギは、何かに理由をつけて返事を遅らせますが、アメリカ人女性
は、最終的な返事を聞かせてちょうだいと時間を指定。しかし、そんな
日にかぎって、大学の友人が自殺したと聞いて・・・

一方淳子も、イギリスからの電話を待ちますが、それまでに恋人とケリ
をつけなければならず、会いに行きます。そこでいろいろあって、さらに
英会話学校の先生に相談したり、さらに帰路の途中で先輩に会い、おでん屋
に誘われていろいろ話をしているうちに、自分が打算的な結婚をすることに
どうしていいか分からなくなって・・・

同じ日の同じ時間に(時差はありますが)、日本とハンガリーに住む
女子大生が、これからかかってくる電話によって今後の人生が決まる、
いわば一大事を描いています。
別にスリリングではありません。が、ドキドキします。当人たちにとって
は一大事でも他人にとっては何の変哲もない日を、シーンとシーンを紡ぎ
合わせて「面白い話」にする筆の力は、今まで読んだ日本人作家のなかでは
半村良と宮本輝がずば抜けて「巧いなァ」と思います。

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海堂尊 『アリアドネの弾丸』

2012-01-17 | 日本人作家 か
最近は、新聞やテレビなどメディアの露出も増えて、本の中で
指摘してきた日本の医療の諸問題を、現実の問題として取り上
げている海堂尊さんですが、この人は、「バチスタ」シリーズの
登場人物、田口のような人なのか、あるいは白鳥のような人な
のか、はたまた両方を持ち合わせているのか、興味のあるとこ
ろではあります。

東京への通勤圏としてはギリギリの距離にある桜宮市にある、
東城大付属病院の「不定愁訴外来」、分かりやすくいうと、患者
の愚痴を聞くという科で、そこの責任者である田口は、この
大学病院で起こる(ときには厚生労働省へも乗り込んで)さまざま
なトラブルに巻き込まれます。
そのパートナーは、厚生労働省の嫌われ者、「火喰い鳥」こと、
白鳥。ロジカルモンスターとあだ名され、ようは、理屈でも屁理屈
でも相手を言い負かし、しかも相手を必要以上にイラつかせる「特技」
もあります。

『アリアドネの弾丸』は新型のMRIのそばで、技術者の友野が
死体で発見されるところからはじまり、ついで、この(事件)の日
から話はさかのぼり、田口は院長に呼び出されて、「死後画像診断
センター(エーアイセンター)長」に任命されます。
というより、田口のいない場所で決められた人事で、あっちを立てれば
こちらが立たず、その折衷案で決められた、田口にとっては、またも
厄介ごとを引き受けるハメに。

そもそも神経内科の田口がエーアイのシステムを知るはずもなく、
同期で田口が心を許す放射線科の島津のレクチャーを受けることに。

第1回のエーアイセンター運営会議が開かれることになるのですが、
院長、放射線科の島津、東城大病院のエシックス・コミティ(倫理
委員会)の沼田、そして監察医、元警察庁の刑事局長、厚生労働省
からは白鳥、「スカラムーシュ(大ぼら吹き)」こと病理医の彦根
などなど、厄介なメンバーが揃って・・・

この病院内での話と並行して、なにやら警察庁の人たちが集まって、
キナ臭い話し合いが。そして、桜宮にあった悪名高い碧翠院桜宮病院
の医師だった女性(火災にあった病院から忽然と姿を消した)が、
ふたたび桜宮に戻ってきます。この女性と、エーアイセンターの会議
に出席している、元極北市監察医務院院長は、こちらも何やら怪しい
話を。

そんな中、なんと院長が収賄の容疑で警察に抑えられ、さらに病院内
で銃声が。音の聞こえた地下へ行くと、銃を握った状態で倒れている
院長と、元警察庁刑事局長が頭を撃たれて・・・

今までの医療ミステリーから、今回はよりアクション要素の強い内容
となっています。そして、今までよりもさらに、警察側の存在が日本
の医療問題、とりわけ死因の解明にとっての「弊害」として強く描かれ
ています。
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ジョン・グリシャム 『謀略法廷』

2012-01-15 | 海外作家 カ
グリシャムの作品は大好きで、他にもスコット・トゥローやリチャード・
ノース・パタースンといった、現役の弁護士で作家の書くリーガルサスペ
ンスを読むたびに思うのが、アメリカの裁判制度の功罪といいますか、
「そんなの自分のミスだろ」ということでも企業を訴えて、それがまた
驚くことに企業側がそんな「屁理屈」に負けて巨額の賠償を支払わされ、
しかし、極端な例はさておき、訴訟というのは、市民の持つ当然の権利
でもあって、それを考えると、多少のセクハラは目をつぶるのが「社会」
「大人」ってもんじゃないのかね、なんていう日本の風土は、よその国
を笑ってなんかいられない、と考えさせられるのです。

『謀略法廷』は、ミシシッピ州(グリシャムのホームグラウンドですね)
の架空の郡、架空の街で起こった、工場の汚染で、市民対企業の裁判が
はじまり、市民の勝訴、企業側は巨額の損害賠償の支払いをせよ、という
判決が出たところからはじまります。

ボウモアという小さな街にできた、クレイン化学という会社の農薬工場は
長年にわたって、有害物質をきちんと処理せずに、裏山の穴に捨てていて、
それが地下水に侵食、土壌、水質汚染はひどくなり、やがて市民の中から
がん患者が大量に出ます。

主人と子どもを相次いで亡くした未亡人、ジャネットはウェスとメアリの
夫婦の弁護士を立ててクレイン化学を提訴、クレイン化学の親会社である
トルドー・グループは全米屈指の大金持ちで、この裁判は5年におよび、
ウェスとメアリは破産寸前、銀行から金を借りてまで裁判費用を工面し、
ようやく判決が下りたのですが、相手側は上訴するのは分かりきっていて、
4,100万ドルという損害賠償はジャネットにも弁護士夫婦の事務所に
も入ってきません。

ニューヨークの高級マンションに住むトルドーはこの知らせを受けて怒り
狂い、会社の株価も自分のセレブリティ価値も急降下、こうなれば何が
何でも最高裁で逆転判決を出さなければならず、トルドーはマイアミに
飛び、あるコンサルタントの男に仕事を依頼。

そのコンサルタントとは選挙の工作で、ミシシッピ州の最高裁判所の判事
は、任期を終えるか任期途中で欠員が出た(亡くなったり)場合に、選挙
で投票して判事が決まるのです。
最高裁での判決は、今までに企業側に不利な判決が出た場合、その票は
たいてい5対4(判事は9人)になるケースが多く、つまり保守的な判事
とリベラルな判事はほぼ半々、そこで、保守系の判事を当選させることが
狙いとなるのです。
そして、コンサルタントは巨額の選挙資金をバックに最高裁判事の選挙に、
ある男を立候補させるのですが・・・

ウェスとメアリは事務所に仕事が入ってきて、小額ですが銀行の借金を
返していきます。しかしそこにもトルドーの悪企みが入ってきて苦しめます。

ジャネット側が勝てば、勧善懲悪でめでたしめでたし、トルドー側が勝てば
こんなにつらい話はないですね。
しかしそこはさすがグリシャム、どちらの結末にしたのかは読んでのお楽しみ
ですが、久しぶりに震えが来るくらいの上質な構成です。
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乙川優三郎 『生きる』

2012-01-13 | 日本人作家 あ
何年前か忘れてしまいましたが、乙川優三郎の「冬の標」という
作品を読んで、下級武士の家に生まれた娘が水墨画を書いて生きて
いこう、とかいう内容だったと記憶していますが、とにかく淡々と
(多少の恋愛話もあったでしょうか)話は進んでいって、これと
いって盛り上がりも無いのですが、それでも読後には「ああ、良い
作品を読んだなあ」と。

直木賞受賞作の表題作のほかに2編が収められていて、いずれも時代
小説。『生きる』は、江戸時代、どこかは特定で書かれていませんが
そんなに大きくはない藩の藩主である飛騨守が病に伏せ、その藩主に
重用されて出世した石田又右衛門が、家老に呼ばれるところからはじ
まります。
もうひとり、又右衛門と同じく小姓から出世した小野寺という家臣も
同席していて、家老の待つ部屋に入ると、藩主の命はもうあと少しで、
そこで藩主の後を追って切腹することを禁じることはできないか、と
相談をもちかけられるのです。

しかし、武士たるもの、主君に忠義を見せて、そしてその数の多寡で
生前の主君がいかに慕われていたかというバロメーターになるような
世界で、これを禁じたとしても出てくるのは止められず、しかし若い
有能な家臣が次々に死なれては藩の存続も危うくなり、かといって
経験も知識もある重役が死なれても次の世代の育成が止まってしまい
ます。
そこで家老は、藩主に“特に目をかけてもらった”又右衛門と小野寺
が切腹をしなければ、一連の後追いに歯止めがかけられるだろうとい
うことで、ふたりに「切腹はしません」と覚書を書かせます。

それから数日後、江戸屋敷で藩主飛騨守が死去という知らせが届き、
遺体が城に運ばれてくる数日内にはやくも切腹者が出ます。娘の嫁いだ
主人(つまり又右衛門の義息子)も切腹し、藩内では、なぜ石田と小野寺
は切腹しないのかという声が出てきて、やがてそれは彼らを卑怯者呼ばわ
りに変わります。

しかし又右衛門は家老との約束があり、冷たい視線にさらされながらも
自分の仕事をまっとうしようとするのですが、未亡人となった娘は心の
病になってしまい、妻は病気で寝込み、そしてとうとう、ひとり息子が・・・

この時代からちょっと後に、幕府から正式に「後追いの切腹禁止令」が
出るのですが、不忠義者のレッテルを貼られ、あげく、その約束をした
家老までも、又右衛門にそっぽを向くのです。
自分はなんのために生きながらえているのか、又右衛門は苦しみます。

辛い話ですが、ラストに光明を見出せて、かろうじて救われます。

「安穏河原」は、同じく下級武士が出てくるのですが、こちらは上司
と対立し、妻と娘を連れて江戸へ出て、暮らしが苦しくなり、妻は病気
に、最終的に娘を身売りに出します。
それを父親である素平は、女郎屋に娘の様子を見てきてほしいと、織之助
という男に頼み・・・

そして「早梅記」は、これまた下級武士の話で、金もコネもない喜蔵は
自力で出世しようと縁談の話も断ってきますが、女中に雇った足軽の娘
に恋してしまい、結婚も考えますが足軽の娘が妻では出世ができないと
いうことで、喜蔵は30になって良い話が来て、結婚します。
その足軽の娘を近くに住まわせようと考えましたが、しかし娘は断り、
それまでの給金ももらわず実家に帰ります。
それから年月は過ぎ、喜蔵も隠居生活に入り、日課の散歩と趣味の釣り
をしようと、普段は行かない道を歩いていると、見覚えのある女性が・・・

この2作とも、武士の、というか、男の、というか、薄汚ない部分が
描かれています。やれ武士道だ、若者よサムライになれ、などといった
安直な「武士賛美」の声に、いやいや実際そんなカッコよくはないよ、と
いうアンチテーゼだとしたら、読了後のイヤーな気持ちは消えて、面白い
です。

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アーサー・ヘイリー 『マネーチェンジャーズ』

2012-01-09 | 海外作家 ハ
アーサー・ヘイリーの作品はジャンル的には「経済小説」に属する
のでしょうか、全部読んだわけではありませんが、企業内での出世
物語もあり、業界の内幕もありで、それでも堅苦しさはあまり無く、
自身を小説家、作家ではなく「ストーリーテラー」と称してるあたり、
なんとなくジェフリー・アーチャーのエンターテインメントぽくも
感じられます(翻訳者が永井淳さん、ということもありますが)。

アメリカの中西部にある大手銀行、ファースト・マーカンタイル・アメ
リカン(FMA)の創業者一族の頭取、ロッセリが、自分の死期が近い
ことを取締役会議で発言、そこでは後継者つまり次期頭取の指名はあり
ませんでした。

通常どうり、取締役会での投票で次期頭取が決まるという運びに
なるということで、副頭取の2人、アレックスとロスコーのどちら
かに期待が集まり、策士のロスコーはさっそく票集めの作業にとり
かかりますが、アレックスは、正当に評価されれば頭取に任命して
いただければ幸い、といったスタンス。

そしてロッセリが息を引き取り、次期頭取を決める会議で、アレックス
とロスコーは演説をしますが話し合いで決着がつかず、暫定的に、
副会長のパタートンが頭取に就任することに。

アレックスは、市内の貧困地域の再開発や支店の充実といった公共性
を主軸に、これは創業者であるロッセリ一族の信条でもあり、それを
守っていくことを主張、いっぽうロスコーはFMAを田舎のトップから
全米屈指の、バンカメリカ、チェースマンハッタン、モルガン、シティ
といった大手と肩を並べる銀行にすべく、悪評の耐えない巨大コングロ
マリット企業と提携をすべく奔走しますが・・・

物語はロスコーとアレックスの2人どちらが頭取になるかのレースを
中心に描かれていますが、それぞれのプライベートな部分もあり、
アレックスは心の病で入院している妻がいて、仕事にかまけて家庭を
顧みなかったことを悔やみます。そんなアレックスには弁護士の恋人
マーゴットがいますが、マーゴットは離婚を迫ったりはしません。
ロスコーの家庭はというと、こちらは仮面夫婦状態で、しかも妻は夫の
稼ぎ以上の暮し向きをして(ボストンの上流家庭出身)、家計は火の車
ということもあり、ロスコーは何が何でも頭取に就任したいと焦ります。

そこに、FMAのお膝元の支店で6000ドルが消えるといった事件が
起こり、女性支店長と本社の保安部長が犯人を探しますが・・・

本社でのゴタゴタと同時進行で、この支店の現金紛失騒ぎがあとあとに
なって絡んできて、偽造カードの組織と対決したり、話があっちこっち
に飛びますが、それらがうまい具合に重なっていて、最終的にまとめあ
げられているあたりは、さすが。

日本の某カメラ会社が巨額の粉飾決算をして、それを告発しようとした
外国人社長が解任させられ、その元社長が先日、再就任を断念したという
ニュースがありました。その理由は、取引先銀行との関係がうまくゆかな
いからだ、と述べていて、つまりその取引先銀行は、そんな内部告発を
するような「危なっかしい」人をトップにするのは考えもの、ということ
らしいです。まあその銀行の名前は敢えて書きませんが(○井○友銀行)、
その銀行の役員、いや行員すべてにこの本を読んでほしいです。

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垣根涼介 『ヒートアイランド』

2012-01-06 | 日本人作家 か
垣根涼介の作品は、出版された順どおりに読んでるわけではなく、
本屋で見つけると手当たり次第に買っていく、といった状態。
まあつまりそれだけハズレの無いからこそ、なのですが、この
「信頼感」は、はじめに読んだ作品が面白かったかどうかが強く
影響してきますね。

それは「ワイルド・ソウル」だったのですが、もう度肝を抜かれ
ました。まだ書棚に並んでる数こそ少ないですが、きっとコンプ
リートすることでしょう。

『ヒートアイランド』は渋谷にたむろするストリートギャングを
束ねるアキとカオル。この2人の出会いは、カオルが街中で不良
たちに袋叩きにあってるところをアキが助けたとことから始まり、
ということでカオルはケンカの腕に自信があるわけではなく、雅
の中の頭脳的存在。一方アキは腕っぷしが強く負け知らず。

雅のアキとカオル以外の4人は、今でもそれぞれ渋谷でチームを
率いている猛者ですが、アキにケンカで負けて、おいしい商売の
話を持ちかけられて仲間入り。

そのおいしい商売とは、“パーティー”と称して腕自慢がエントリー
してトーナメント戦でファイトして、優勝者には賞金をあげるという
イベントで、定期的にバーを貸切にして行うのです。
そのほかにも「遠征」と称して、東京近郊でケンカの強そうなヤツに
大金を賭けて対戦を申し込むというもの。

そんな話と並行して、3人の男が、ヤクザの経営する闇カジノに
催眠ガスを仕込んで、ガスが店内に噴出したところで侵入、一億円
近くの金を盗み出します。
ホテルにふたたび集まった3人は盗んだ金を分配し、解散しようと
したときに中の1人「オヤジさん」と呼ばれる男が、もう高齢だし
抜けさせてくれと言います。残る2人も無理に引き止めることなく
素直に今までの貢献に感謝し、オヤジさんはタクシーで帰路へ。

その道中、ふと、車窓から一軒のバーが目に止まり、タクシーを
止めて、バーに寄ります。そこで若者が女性に絡んでいるところを
助けますが、帰り際、若者たちに待ち伏せされて殴り倒されて、
カバンを盗まれます。

ところが、そのカバンとは、カジノから盗んだ金の分配金3200
万円が入っていて、ふたりの若者は慌てふためきます。
で、この若者とは、じつは「雅」のアキとカオルの下につく4人の
うちのタケシとサトルだったのです。

金を強奪されたカジノを仕切っているヤクザは激怒、何が何でも
奪われた一億円を取り返そうと動き出します。
そして、オヤジさんが襲わたと聞いた仲間の2人も、奪われた金を
取り戻そうと動き出します。

アキとカオルは、夜中にボストンバッグに3千万円も持ってる男が
まっとうな職業であるはずはなく、その金もまともな稼ぎではない
ということで、なんとか持ち主(つまりオヤジさん)に返して、厄介
なトラブルに巻き込まれることを避けようとしますが・・・

背景の描写、流れるようなスピード感、どれをとっても素晴らしい
ですね。しかも、ストリートの不良とヤクザと殺しも厭わない窃盗団
が絡んできてノワール系になると思いきや、読了後の印象はサッパリ
としています。

こういったアウトロー的な若者を描く作品に共通するのは、彼らの名前
をカタカナで表記するというもの。ここに社会との繋がりの希薄さも
表れているのでしょうが、退廃的で刹那的な彼らの関係性の脆さのよう
なものも含まれているのでしょう。


コメント
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