晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

レイモンド・チャンドラー 『長いお別れ』

2013-02-26 | 海外作家 タ
だいぶ昔、20年くらい前でしょうか、「ハードボイルドだど」でお馴染みの
故・内藤陳さんのエッセイか何かを読んで、「フィリップ・マーロウ」という
作家を本屋で探しても見つからず、あとでレイモンド・チャンドラーの創作
したキャラクターということがわかったという、こっ恥ずかしい思い出があり
ます。

そのときに読んだのが、確か遺作の「プレイバック」だったと記憶しているの
ですが、正直内容はほとんどおぼえておりません。

カリフォルニアに住む私立探偵、フィリップ・マーロウは、バーの前に停めて
ある車の中にいた、白髪で頬に傷のあるテリー・レノックスという男と知り合
いになります。
レノックスはひどく酔っていて、同乗していた女性はひどく怒っています。

レノックスを家に連れて帰り、そこで、さっきの女性は離婚した妻で、名前は
シルヴィア・レノックス。後日、シルヴィアはカリフォルニア在住の億万長者、
ハーラン・ポッターの娘とわかるのですが、それはおいおい。

ある日突然、レノックスがマーロウに「メキシコのチュアナに連れて行ってくれ」
と頼みにやってきます。じつは、シルヴィアが自宅で殺されているところを発見
されますが、レノックスは「僕じゃない」とだけ言い、マーロウの運転でチュアナ
まで送ってもらい、メキシコシティ行きの飛行機に乗って別れます。

さて、それから後、マーロウのもとに警察が来ます。シルヴィア殺害の容疑がか
けられている元夫のテリーをチュアナまで車で送っていたことで、マーロウは警察
に連行されます。

厳しい取調べにもマーロウは、なぜレノックスを空港に送っていったのか話しません。
しかし、そこに衝撃の知らせが。なんとレノックスがチュアナのホテルで拳銃自殺を
したというのです。

彼は自殺するような男ではないと信じるマーロウ。が、すんなり警察から釈放されます。
ハーラン・ポッターがこの事件を闇に葬りたいのか・・・
後日、ギャングのメネンデスという男が事務所にやってきます。彼はレノックスの軍隊
時代からの有人で、レノックスのおかげで命拾いしたこともあるそう。そこでメネンデス
は、もうこの件に首を突っ込むのはやめろ、と脅します。

それから数日して、ニューヨークの出版社の人から電話があり、こんどロスに行くという
ので会う約束をします。その日の夜、家にメキシコからの手紙が届いていました。
中を見るとそれはレノックスの”告白文”で、5千ドルが同封されていました。

「事件についても僕についても忘れてくれ。だがその前にぼくのためにギムレットを飲んで
ほしい、そして、こんどコーヒーをわかしたら、ぼくに一杯ついで、バーボンを入れ、タバコ
に火をつけてカップのそばにおいて、すべてを忘れてくれ」

さて、出版社の人とホテルで会ったマーロウは、そこでとんでもない美人を見つけます。
出版社の人はその美人と知り合いで、作家のロジャー・ウェイドの妻アイリーンと名乗り
ます。
依頼はというと、ロジャーはスランプというかアル中で、つい先日は妻を階段から落とした
そうで、今は行方不明だというのです。手がかりは頭文字がVの医者のところにいるらしい
というだけ。
マーロウはなんとかして、その”V医師”を探し出し、ウェイドを見つけ、家に連れて帰り
ます。

ところが、このウェイド夫妻と関わることになって、思わぬ方向に・・・

途中まで、のらりくらりと話が進んでいたのが、ウェイドの登場で急転直下、展開が激しく
なって、最後は「なんと!」という驚き。

もう、フィリップ・マーロウの”名言””迷言”が炸裂しっぱなし。あとがきで翻訳者が
「一歩まちがえばキザで嫌味になるところを崖っぷちでとどまって」とありますが、まさに
素晴らしいたとえですね。
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山本一力 『八つ花ごよみ』

2013-02-24 | 日本人作家 や
この作品は短編集で、前に読んだ「いっぽん桜」と同じく、花の種類に
ちなんだ話になっています。

全編、登場人物が高齢で、たとえば、長く連れ添った妻が痴呆症になって
(江戸時代では痴呆はまだ原因不明の病とされていました)、うろたえる
夫や家族のもの、しかし愛情は失われずに妻と向き合う・・・といった話
(「路ばたのききょう」)だったり、老いらくの恋だったり、それまでの
山本一力さんの作品に多くみられた、登場人物のひたむきさに元気をもらう、
といった感じではなく、むしろ”重い”です。

ですが、人の情の大切さはジーンと伝わってきて、ちょっとホロリときたり
します。

この中で好きな話は「砂村の尾花」。東京都江東区にある砂町のあたり、今
では埋め立てでだいぶ海からは遠くなっていますが、当時が海の近くで、広大
な荒地がひろがっていて、そこに土地を買って、ススキを栽培して売っている
「柏屋」の話で、安易に売ればいいのではなく、愚直にそれまでの流儀を曲げず、
だからこそお客さんは柏屋のススキを選んでくれるのだという信念のもと商売を
続ける、といった、「仕事とは」「お金をいただくということ」の心構えを
ビシッと描いています。

あと、「御船橋のの紅花」は、さきほど挙げた”老いらくの恋”の話なのですが、
こちらも好きです。

山本一力さんの「だいこん」という作品で、「なまじっか才覚があるよりも、仕事が
遅くてもまじめな方がよっぽど尊い」みたいなセリフがあって、これはすべての
作品に通じる作者の伝えたいことですね。



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パトリシア・コーンウェル 『女性署長ハマー』

2013-02-20 | 海外作家 カ
この作品は、パトリシア・コーンウェルの「検屍官ケイ」シリーズの
合い間に、といいますか、別の作品でして、この『女性署長ハマー』
で3作目となるのですが、まあ講談社文庫さんも紛らわしいといいま
すか意地悪といいますか、「検屍官」シリーズと同じ青の背表紙で
出版順の番号に混じっていて、表紙の構図も同じ。「ハマー」シリーズ
の第1作「スズメバチの巣」は、はじめてっきり「検屍官」シリーズ
かと思って読み始めたら違ってビックリしたものです。

まあそれはさておき、登場人物のジュディ・ハマーはリッチモンド市の
警察署長で、今作からはバージニア州の警察署長に。

ところでケイ・スカーペッタはバージニア州の検屍局長ということで、
このふたり、地位のある独身女性という”共通点”があって、まあ
境遇は違うんですけど。で、前作では名前だけ出てきましたが、今作
ではケイががっつりと登場します。

バージニア州の警察署長に就任したハマー、はじめは記者として警察の
捜査を取材していたアンディ・ブラジルも”本物”の警察官になって、
同じくバージニア州警察に移動します。

ここ最近、連続して起こっている殺人事件。どうやらその犯人一味の
ボスは、前作で逮捕された悪ガキのスモーク。スモークは刑務所を
脱獄して、今作ではそのスモークの”彼女”が登場。
「ユニーク」と名乗るまだ10代の女性は、外見こそ可愛らしいのですが、
考えてることは悪魔といいますか、感情が悪魔に支配されています。

さて、ブラジルはというと、「トルーパー・トゥルース」というペンネーム
を使って、ウェブ上で州警察のコラムを書く事に。これは署長のハマーしか
しらない秘密事項。
このコラムが大反響になって、ハマーのことを面白く思ってない州知事は
コラムを拡大解釈して、どういうわけかハマー失脚のシナリオを描こうと。

ところが、そんな中、体に「トルーパー・トゥルース」と傷の掘られた
女性の死体が見つかって大変。もちろん犯人はブラジルではなく・・・

スモーク一味は、ハマーの愛犬を盗んで、手下のポッサムは犬の世話を
しているうちに情がわいてしまい、犬を無事に返そうとします。

はたして、警察はスモークとユニークを捕まえることができるのか。

けっこう話があっちこち飛んでごちゃごちゃしている印象で、ましてや
「ハマー」シリーズは第1作から読まないとわかりにくいですね。
文中のコラムはアメリカに関する雑学がふんだんに盛り込まれていて、
面白いですね。
ところで原題の「Isle of Dogs(犬の島)」とは、タンジール島のことで、
「検屍官」シリーズでも登場します。島民の数は少なく、カニが名物の、
一種独特の”文化”が育まれてきたのですが、それがこの作品の不思議さ
のアクセントになっています。
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藤沢周平 『蝉しぐれ』

2013-02-16 | 日本人作家 は
この前はじめて池波正太郎を読んで、時代小説で次に攻略しておきたい
作家といえば、藤沢周平(勝手にそう選びました)。

ただ、いつぞや誰かから聞いた話だと藤沢周平の作品は「退屈」だ、と・・・

海坂藩の、家禄三十石といいますから、武士でも身分は「下の上」の牧家の
主人、助左衛門は普請組、そしてこの家に養子に入った文四郎は、まだ
元服前。

文四郎は勉強のほうは得意ではありませんが、剣術ではかなりの腕。

隣の家に住む女の子、ふくはまだ十二歳ですが、いっしょに祭りに出かけたり、
与之助と逸平という仲間との友情といった話があって、青春だなあ、と
ほのぼのしていたのも束の間、なんと文四郎の父が謀反で捕まります。

現在の藩主には正室のあいだに生まれた世継ぎと、側室のあいだに生まれた子
がいて、この二人のどちら側につくか、といった藩内で派閥抗争があり、
助左衛門は藩に対する反逆ということで、死罪に。さらに牧家は家禄を減らされ、
組屋敷も追い出されて、うらぶれたボロ家に引っ越します。

さらに、隣の家のふくが、江戸に行くという知らせが。文四郎が留守のあいだに
ふくが訪ねてきたのですが会えず。

それからしばらくして、父助左衛門を処罰した側の家老から呼び出しが。そこで、
前の家禄に戻して、郡奉行役を命じられます。
しかし、この話にはきっとなにか裏がありそうなのですが・・・

勉学の修行のため江戸に行って、出世して藩に帰ってきた与之助から、ふくは
藩主の側室になった(ので、気軽に”ふく”とは呼べず”お福さま”)ことを
聞き、呆然となる文四郎・・・

さて、ここまではけっこう淡々と描かれておりますが、文四郎は剣術の道場主から
”秘伝”を教わり、剣術大会に出場して見事ライバル道場のエースに勝って良かった
と思っていたら、”お福さま”が近々、藩に帰ってくるとかで、でも城にはいられ
ないので、藩主の別荘に住む、という噂が文四郎の耳に入ります。
そこに、文四郎の家禄を戻した例の家老から呼び出しが・・・

明らかに、家老は文四郎とお福が前に隣の家に住んでた「昔のよしみ」を利用して
お福をどうにかしようとしますが、文四郎の答えは。

武家社会の理不尽さ、その理不尽さの中にも存在する人と人との大事な繋がりが胸に
深く染み入ります。
そして、話の展開の緩急の織り交ぜ方などが素晴らしいですね。

久しぶりにページをめくる手がとまらない、読み終わったあとしばらくボーッと
作品世界に浸っていたいと思わせてくれるような作品でした。
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山崎豊子 『不毛地帯』

2013-02-13 | 日本人作家 や
山崎豊子の作品、それも長編を読むにあたっては、ある程度の「覚悟」
がいるといいますか、少なくともカプチーノ飲みながらクッキー食べな
がら優雅に読書というカタチでは読めないな、と。

幼年学校から陸軍士官学校、そして陸大へと進み、大本営参謀となった
壹岐正は、昭和20年8月15日の終戦の知らせを受け混沌となってる中、
満州へ飛んで関東軍司令部に伝えてきてくれと命令を出されます。

さっそく満州へ向かう壹岐。しかし、ソ連の侵攻を防ぐため最前線で張って
いる関東軍の兵士たちには終戦が聖旨であっても言う事を聞きません。

参謀総長からは「必ず復命せよ」と命じられた壹岐ですが、怪我で運ばれて
きた士官学校の生徒を先に帰国させて、自分は満州に残るのです。しかし
それが、11年におよぶシベリア抑留となってしまうとは・・・

想像を絶する過酷な状況で、日本に残してきた家族に会うために、「必ず
復命せよ」という命令を心に刻んで、同じ日本人捕虜がだんだんと”人で
なくなってゆく”のを目の当たりにしたり、自分も危うくそうなりかけたり
して、なんとか死は免れて、ボロボロになってようやく祖国の土を踏むことに。

じつは抑留中に、極東裁判のソ連側証人として日本に帰ってきていて、しかし
その時は家族との面会を避け、さらにいっしょに一時帰国していた秋津中将の
自殺という出来事もあって、かなりバタバタしていて、今度こそ本当の”帰国”
ということで、家族に再会しますが、長男はあまりに様子の変わった父に戸惑い
を見せます。この微妙な父と息子の関係はその後も続くのです。

さて、関西に本社のある近畿商事という会社の社長、大門は、壹岐をスカウト
します。しかし、軍歴しかない壹岐は商売の”し”の字も分からず、とりあえず
見学に行った繊維の取引を見て、これは自分には無理だと思うのですが、大門は
尻込みする壹岐に「日本が負けてすまんと思うなら軍事戦略で培ってきた頭脳を
こんどは日本の経済発展のために使うべき」と諭します。

そこまで高く買ってくれる大門社長のために、壹岐はなれない環境の中、必死に
なります。ひとつは大門のためですが、もうひとつは、復員しても防衛庁には
入らないで欲しい、普通の勤め人になってほしいという家族の強い願いがあった
のです。

さて、なんとかおぼろげながら仕事を覚えてきた壹岐ですが、東京支社のほうから
壹岐を貸して欲しい、と声がかかります。それは、自衛隊が次期導入する戦闘機の
売り込みに、自衛隊の上層部に知己の多い壹岐を使いたい、というのですが、壹岐
は入社の際、大本営時代のコネで仕事をするような真似だけはしたくない、と大門
に宣言していたのですが、社長は壹岐にアメリカ出張を命じ・・・

戦闘機の売り込み合戦では熾烈な競争があり、またそこに政治も絡んできて、ドロ
ドロの汚い世界に足を突っ込んだ壹岐、この一件で得たものもありますが、その代償
も大きいものでした。
それから壹岐はトントン拍子に出世して、業務本部長からアメリカ法人社長、その間
に日米の自動車会社の提携交渉やイランの石油入札など功績をあげ、そしてついに
ナンバースリーにまで・・・

しかし、不幸な事故もあって、また亡き秋津中将のお嬢さんとの関係もどうなること
やら、そしてなにより、シベリア抑留者たちの遺骨帰還や遺族の援助を、手弁当で
会長をしてくれている元大佐には頭が下がる思い。

壹岐のライバルとして登場する鮫島という商社マン、仕事上のライバルだけか、なんと
鮫島の息子と壹岐の娘が結婚までするという因縁浅からぬ関係、これがまたじつに
”イヤな奴”として描いているのですが、「へその緒を切ったその時から商社マン」という
鮫島のバイタリティ、こういう人たちが「ジャパンアズナンバーワン」を作ったんだよ
なあと思うと、イヤな奴ではありますが、多少の敬意を持たざるを得ません。

最終的に壹岐は会社をやめるのですが、その時の社長とのやりとりは、「樅の木は残った」
の原田甲斐を思い出させます。


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