晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

東野圭吾 『手紙』

2009-06-03 | 日本人作家 は
この作品は、兄が殺人事件を犯してしまい、その理由が
弟の進学費用欲しさの犯行ということで、弟はその後の
人生で何かと「人殺しの弟」というレッテルがついてまわ
りる犯罪加害者家族の生き方の話なのですが、こういっ
たディープなテーマだと、あまり重苦しく話を進めていくと、
インパクトは大きい分、忘れるのも早いのですが、本作で
は淡々と話は進み、適度にドラマチックを挿み、それが心
にフィルターから濾過されるコーヒーのように、じんわりと
ぽたぽたと染み入ってきます。

自分は加害者の家族であるという変えようのない事実と
向き合うには、よほど心の強い者でなければ簡単にポキ
リと折れてしまいます。
それにしてもこの物語の弟、そんな強靭なハートではない
のに、定石としてはグレるところなのですが、多分、この
「弟がグレなかった」というのが、あからさまな現実逃避を
しない分、現実をこれでもかと見せつけられるのでしょう。

弟は決して高望みはしません。ただ、普通に接してほしい
だけなのです。その事実を知った周りの人はどこか腫れ物
にさわるように、よそよそしく、かといって無視したり悪し様
に罵ることはせず、できれば関わりになりたくないという雰
囲気を押し出します。
読んでいる最中は、なんて世間は冷たいんだ、という印象
を持つ。ここがポイントで、それじゃああなたは人殺しの家
族と普通に接することができますか?という問いかけ。

戦時下のイラクでボランティアの日本人が誘拐されて、なぜ
か怒りの矛先は、そんな危険なところにのこのこと出かけて
いったという理由で、喉にナイフを突きつけられた同じ日本人
でした。
この時に「自己責任」という言葉がこんなにも軽んじられるの
かという使われ方をしていました。
悪いのは誘拐犯に決まってます。イラクで困ってる人を助け
たいという外国人を連れ去って金を要求するという非道。
でもあの時、日本人の大勢は、悪いのは捕まったほうだと
いう審判でしたね。
なんだかそんなことを思い出してしまいました。
コメント
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