晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

池波正太郎 『剣客商売』

2012-12-30 | 日本人作家 あ
何も関係ないのですが、名前に敬称をつけないと、なんだか”おさまり”が
悪いみたいなのってありますよね。
その代表例が西郷”さん”と一休”さん”。どうにも呼び捨てだとおかしい
といいますか。
漫画家だと、手塚治虫”先生”って、漫画家でもないのに、つい付けてしまい
ます。作家ですと、池波正太郎”先生”ですね。

そんな”先生”の作品、じつはこれが読むのはじめて。すみません先生。

時代は江戸中期、老中、田沼意次が幕府の政治を主導していた頃。
もう老人ですが凄腕の剣士、秋山小兵衛とその息子、大治郎が、江戸に
はびこる悪を剣で成敗する、といった話。

小兵衛はすでに隠居同然の暮らしをしていて、息子と年齢がほぼ近い、
だいぶ年下の女と同棲なんてしちゃってます。
一方、息子の大治郎は、剣の修行の旅から帰ってきて、江戸に剣術の
道場を開きます。しかし生徒はいません。

そんな道場に、「大垣四郎兵衛」と名乗る男がやって来ます。なんでも、
前に行われた試合を見て、腕を見込んで、”ある仕事”を五十両という
大金で依頼してきたのです。

しかし、その仕事内容は、了解してくれなければ教えられない、と。
その場では返事をせず、父に相談してみることに。
そして、わかってきたことは、どこぞの旗本家の息子と、田沼意次と
”侍女”との間に生まれた娘、三冬との縁談が関わっているようで・・・

この三冬、男勝りの剣術使いで、のちの話にも登場してきます。

といった話の他、短編が7篇あり、武士が刀を”お飾り”くらいにしか
扱わなくなってしまった太平の江戸中期に、剣の達人親子が活躍する、
もうこれは、さっそく第2巻を読みたくなってしまいました。

そして、”先生”といえば料理。彼らの食事風景の描写が素晴らしい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

浅田次郎 『天切り松 闇がたり 初湯千両』

2012-12-26 | 日本人作家 あ
大正時代の盗っ人「目細の安吉」一家の小僧だった”松”こと
松蔵が、現代になって、留置場の犯罪者や警官に話を聞かせる
シリーズの第3巻。ここで終わりかと思ったのですが、どうやら
4巻まで出ているそうです。

1巻、2巻と、この時代の有名人がゲストとして登場するわけ
ですが、今作もまたビッグゲスト。ネタバレするといけないの
で具体名は避けますが、誰もが知ってる文豪と有名画家。

表題「初湯千両」では、戦争で父を失った母子を助けるため、
寅が入った家は、なんと陸軍大臣の子爵の家・・・

「共犯者」では、とんでもない手口で、成金を騙すのですが、
その”鮮やかさ”からいって、これは安吉の子分、「書生常」
の仕業と警察は見ます。ところが親分は、その件は常から何も
聞いてない、というのです・・・

「宵待草」は、例の”有名画家”が、おこん姐ェに絵のモデル
になってほしいと頼み・・・

「大楠公の太刀」は、英治兄ィの幼馴染で芸者の小龍が、もう
命が短いということを知り、安吉親分の協力で、もとは楠木正成
の持っていた、のちに明治天皇に献上されたという名刀「小龍景光」
を、芸者小龍(芸名の名付け親は、なんと伊藤博文)に見せよう
としますが、なんといっても皇室所有。そこで松吉が頼みに行った
のが・・・

「道化の恋文」は、松が親友の康太郎といっしょに女子学習院の
女学生たちを見学に行ったときに、府立一中の秀才、花谷君がいる
のを見つけます。花谷君のお父さんは、人気サーカス団のピエロ。
頭も良くて器械体操では大会で優勝候補。そんな花谷君に、女子
学習院の美人女学生がラブレターを渡すのですが・・・

「銀次蔭盃」では、安吉の親分「仕立屋銀次」が登場します。
銀次は網走刑務所に収監されているのですが、その理由は、
かつて、警察と検察、そして安吉以外の銀次の子分たちが手を
組んで、銀次を引退させて安吉に親分を継いでもらいたい、
という計画があったのですが、安吉はこれを拒否したため、
警察は出所して東京に帰ってきた銀次を逮捕、また刑務所に
送り返してしまいます。銀次は安吉が裏切ったと誤解したまま。
そこで安吉は松を連れて網走へ・・・

今作でも、スカっとしたり、考えさせられたり、涙が止まらな
かったりして、「良い本と読んだなあ」としみじみ。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

浅田次郎 『天切り松 闇がたり 残侠』

2012-12-24 | 日本人作家 あ
大正時代に大活躍(?)した、盗っ人の「目細の安吉」一家、
そこに小僧として弟子入りした松蔵が、現代になって昔の出来
事を留置場で同部屋に入ってきた犯罪者、または警官に話を聞
かせる、といったシリーズで、前作の「闇の花道」では、見事
に泣かされてしまいました。

目細の安吉親分の弟子、松の兄貴分、姐貴分には、英治、寅、
常、おこん、と4人いて、この人たちがまたカッコイイ。

シリーズ2巻になって、安吉含め5人のバックグラウンドが
明らかになってきて(全部ではありませんが)、そして今作
でも、ビッグゲストが登場します。

新年、寅兄ィは松を連れて初詣でに。そこで大道芸を見て
いると、江戸時代の格好そのままの老人がやってきて、見事
な居合抜きを披露します。

そのまま寅は博奕へ出かけます。するとそこに、先程の老人
がいて、老人はすごいツキで勝ち続けています。

翌日、安吉の家に、その老人が訪ねてきます。玄関先で仁義
を切り、「遠州の政五郎」と名乗ります。
なんと、死んだといわれていた清水の次郎長の子分、小政だ
ったのです・・・

その他、安吉が警察と手を組む・・・?の「目細の安吉」、
常次郎が見事な詐欺を披露する「百面相の恋」、おこんが
軍人に一目惚れされる「花と錨」、英治が登場する「黄不動
見参」、松が吉原で”筆おろし”をする「星の契り」、そして
最終話「春のかたみに」では、松を盗っ人一家に売った父親
が死んで、母を見殺しに、姉を吉原に売り飛ばした父を許せ
ずに、葬式に出ようとしない松を安吉親分が怒って破門させ
られそうに・・・

今の腐った時代より昔が良かった的な単純な話ではなく、
日本人が置き忘れてきた大事な何かを教えてくれます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

浅田次郎 『天切り松 闇がたり 闇の花道』

2012-12-21 | 日本人作家 あ
いろんなジャンルで楽しませてくれる浅田次郎作品ですが、
とりわけ時代小説と悪漢(ピカレスク)小説が面白くて、この
『天切り松 闇がたり』は、そのふたつが合わさった、いわば
「面白くないはずがない」と、読む前から楽しみでした。

時は現代、とある警察署の雑居房に、老人が入ってきます。
中には先客がいて、老人を「懲役太郎」と小馬鹿にします。
「懲役太郎」とは、年末年始あるいは寒い時期に、暖と食事
のためだけに、軽微な罪で留置場に入ってくる人のこと。

しかしこの老人、どうやらただ者ではなさそうです。

そこで、「闇がたり」という、夜盗の得意技で、その部屋から
は声が漏れない音量で語りはじめるのです・・・

ここから、「天切り松」こと松蔵が、まだ小さな頃に、大正時代の
東京にいた盗賊集団の一家に預けられることになり、彼らの活躍を
雑居房にいる面々ならびに看守、ときには警察署長まで、話を聞か
せる、という流れになっています。

松蔵の母親は病気だったのですが父は家に帰らず博打に精を出して
あげく母は亡くなり、美人の娘(松蔵の姉)を吉原に売り飛ばし、
松蔵を、盗賊の「仕立屋銀次」一家に預けます。

仕立屋銀次と父は刑務所にいたころに知り合って、何かあったら
息子を頼む、とお願いしていたようですが、銀次はまだ収監されて
いて、その代わりに銀次の弟子の安吉が出てきます。

すると、安吉は、松蔵の父親に向かって「お子さんは、預かるの
ではなく、貰いうけます」と言うのです。
しかし、目先の金が欲しい父はこれを了承。

かくして、松蔵は「抜弁天の安吉」のもとで暮らすことに。

さて、安吉には4人の弟子がいて、上から若頭の「説教寅」こと
寅弥兄ィ、「黄不動の英治」こと英治兄ィ、「振袖おこん」こと
おこん姐ェ、そして「書生常」こと常次郎兄ィ。

寅は説教強盗、英治は屋根から家に侵入する夜盗、おこんはスリ、
常は詐欺。親分の安吉もスリですが、「中抜き」という、スった
財布の中身だけを抜いて、またもとに戻すという”離れ業”。

ある日、安吉のもとに、東京地検のエリート検事が訪ねてきます。
検事は、近いうちに銀次が釈放されて東京に戻ってくるので、その
ときに、銀次を引退させて、跡目を安吉に継いでほしい、と。

というのも、この時代は警察と盗っ人は、ある意味「持ちつ持たれつ」
で、ある窃盗事件が起きたら、盗賊は組織化されていたほうが犯人が
分かりやすく、場合によっては盗んだ金品は返す、という不文律があり、
2千人のトップに君臨する銀次は、もうそのスタイルは古く、新しい
関係を築きたい警察と検察は、安吉にトップになってほしいのです。

が、安吉は「わたしは銀次親分の弟子に変わりありません」と断ります。

そして、銀次が帰京する日、東京市にいる銀次の弟子やその他もろもろ
大勢が上野駅に出迎えます。
すると、銀次が汽車から降りて安吉と再会したところで、銀次が警察に
捕まります。
安吉、裏切ったな、と銀次。

そこには、銀次の弟子たち、安吉にとっては兄貴分たちが勢ぞろいしていて、
その傍らには先日の検事が。
跡目を安吉に、となるところでしたが、安吉は「仕立屋銀次の子分にござんす」
と言って、彼らと縁を切るのです。

そして、安吉と4人の子分、そして松は、それまで住んでいたお屋敷を夜逃げ
して、うらぶれた長屋に引っ越します。

という背景があって、ここから短編形式に、松が見たり聞いたりした安吉一家の
かっこいいエピソードが「闇がたり」で語られていくのです。

「槍の小輔」では、山県有朋元帥が登場、おこんが元帥の金時計を盗んだことが
きっかけでふたりはなんといっしょに暮らすことに・・・

「百万石の甍」では、加賀百万石の前田侯爵をペテンにかけて金をせしめ・・・

そして「白縫華魁」「衣紋坂から」では、吉原に売り飛ばされた松の姉の話で、
もうこれは涙なくしては読めません。
ここで出てくるのが、この後のシリーズでも登場する、松の親友、康太郎。
偶然出会った、年齢が同じのふたり。康太郎は、吉原では大店の跡取り
息子。慶応の中学に通うおぼっちゃまですが、クラスメートには遊郭の”せがれ”
であることは話していません。不思議とウマの合う康太郎と松。

吉原で姉と再会する松。なんとかして吉原を抜けさせたいのですが・・・
寅兄ィがカッコ良すぎます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

A・J・クィネル 『サン・カルロの対決』

2012-12-17 | 海外作家 カ
この本(文庫ですが)のあとがきに、クィネルが”仮面”を脱いだ
理由と、彼の経歴が書かれていて、そもそも実名も写真も公開しな
かった理由としては、ある人によってはかなり”ヤバイ”ネタを小説
のテーマにしている、ということだったのですが、『サン・カルロの
対決』も、中南米にある架空のサン・カルロという国で起こったクー
デターの話ですが、ここらへんの国々では、いつ同じようなことが
起きても不思議ではない、というか、どこかの国をモデルに書いたの
では、なんて思ってしまうほど。

中南米の小国サン・カルロで、革命軍「カマリスタ」が首都を攻撃、
アメリカ大使館までもカマリスタに制圧され、大使のピーボディは
とらわれてしまいます。

学生戦士のリーダー、フォンボナはピーボディを今すぐにでも殺した
くて仕方がないのですが、そこに現れたのは、キューバ情報局のホルヘ・
カルデロン。

ピーボディはキューバでも「反共主義者」として名前が通っており、
情報局の持っている、カストロ暗殺計画をピーボディが知っているの
では、ということで、彼を尋問することに。

カルデロンは、拷問による聞き出しを好まず、対象者の”心”を掌握
し、ネタを吐き出させることに快感をおぼえるタイプで、手荒なことは
しません。が、じわじわとピーボディを追い詰めます。

しかしピーボディも、心の底から憎んでいる共産主義に屈してたまるか
という意地と、アメリカ合衆国の外交官というプライドにかけて、なか
なか口を割ろうとはしません。

ところがここで問題が。カマリスタの指導者が首都制圧してからという
もの、はやくも独裁者じみてきて、カルデロンが連れてきた愛人に手を
出している様子。しかも尋問の期限はあと少しで、もし話を聞き出せな
ければ、ピーボディをフォンボナに引き渡す、と・・・

さて、この事件はアメリカでも問題になっていて、はやいところ解決し
なければ、ということで大統領補佐官は、陸軍大佐のスローカムに、大使
奪回作戦の指揮をとってもらうことに。
しかしスローカムは、補佐官の持ってきた作戦案を聞いて愕然。これでは
前線の兵士たちが無駄死にではないか、と怒り、なんと直接大統領に自分
の立てた作戦で行かせてほしい、と提案します。

なかなか口を割らないピーボディ、あせるカルデロン。そして期限の日が
・・・

はじめは、あれ、ちょっと読みにくいな、と思ったのは、この小説のほと
んどが、ピーボディとカルデロンとスローカムの「一人称現在形」で書かれ
ていることです。
ですが、読み進めていくうちに、この文体こそが緊迫感をこれでもかと盛り
上げていると気づいてからは、もう夢中になってしまいます。

ピーボディとカルデロンのせめぎ合いは、ひらたくいえば「話せ」「いやだ」
の繰り返しなんですが、それこそ超一流の剣士の決闘を見ているよう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

角田光代 『八日目の蝉』

2012-12-11 | 日本人作家 か
文学賞を受賞する前から話題になって、映画化もされドラマもやって、
なるべく情報(話の内容)をスルーするようにして、そんな『八日目の
蟬』、ようやく読みました。

とはいっても漏れ伝わるものでして、どこぞの女が赤ちゃんを誘拐して
逃げ回って、けっこうな年になるまで女の子を育てて捕まって、みたいな
話だ、ということは知ってしまいましたが。

希和子は、前に不倫関係だった同じ会社の男の家にいます。毎朝、男の妻
は駅まで送って数十分は留守になることまで調べています。
家に忍び込む希和子。そこには、男とその妻の間に生まれた赤ちゃんが。

衝動的に赤ちゃんを抱く希和子。そして、抱いたまま家を出ます。

赤ちゃんの実名は知らないので、勝手に「薫」と名づけ、とりあえず希和子
は友達の家に。赤ちゃんの存在は適当に話を作ります。しかしいつまでも
お世話になっているわけにもいかず、希和子はあてもなく彷徨います。

そして着いたのは名古屋。公園で薫をあやしていると、謎の老婆が「家においで」
と誘ってくれるので、行ってみることに。とはいったものの、老婆は希和子と
赤ちゃんには無関心。それどころか薫が泣くと「うるさい!」という始末。

とりあえずお世話になっている希和子ですが、この家は立ち退きを迫られて
いるようで、あまり長居はできそうにありません。そして、ある日、新聞を
読んだら、そこには、赤ちゃんを連れ去った男の家が火事になった、という
ニュースが。たしかにストーブはつけっぱなしだったけど、私はやってない・・・

ある日、この家の近くをふらふら歩いていると、友達の家にあった、アトピーが
治るとかいう水を売ってる、ちょっと怪しい「エンジェルホーム」という団体の
移動販売車が。

そして希和子は、「エンジェルホーム」に入会することに。そこは女性だけで
共同生活をしている集団で、外部との接触は基本的に禁止。それどころか、
このホームで暮らすには、全財産をホームに渡さなければならず、しかし希和子
は、当面はここにいたほうがいいということで、父の遺産や自分の貯金の、かな
りの大金をホームに差し出します。

さて、ホームでは、俗世間とは違う呼び名といえばいいのか、みんなカタカナ名
でお互いを呼び合います。寝るとき以外は薫と引き離される、たまにホームの外
には「娘を返せー!」という集団が。そんな奇妙な生活をしばらく続けていくうち
に、希和子は瀬戸内海の小豆島出身の久美と親しくなります。

ここでの生活も、やがて難しくなり、希和子は久美の手助けで脱走することに。
そして希和子と薫は、久美の実家へと向かいます。

小豆島での生活は、はじめはラブホテルの住み込みのバイトをして、そのうち久美
の母親が家の仕事を手伝ってくれ、といってくれたので、久美の実家にお世話に。
薫はすっかり島に溶け込んで友達もできます。
そのうち、希和子にお見合いの話まで出てきます。
しかし、ある日、久美の母親から「今日はこなくていい」という電話が。事態を
察した希和子は急いで島から逃げようとするのですが・・・

ここで第一章の終わり。そして二章では、薫こと秋山恵理菜が大学2年になっています。
居酒屋でのバイト帰り、いきなり「リカちゃん」と声をかけられます。
「リカ」とは、恵理菜が”あの女”に連れ去られていたときに、怪しい団体の内部で
呼ばれていた自分の名前。
「リカちゃん」と呼んだ女は、同じくエンジェルホームにいた、いっしょに遊んでいた子
、マロンこと千草。

千草は、エンジェルホームでの生活を自費出版で本にしようと、当時いた人を探していて、
特に恵理菜から「あの事件」について詳しく聞きたがっているのです。

ここから、「あの事件」、つまり”誘拐犯”の希和子が捕まったことですが、あの日から
今まで、薫として育ってきたことが全部嘘で、実の両親のもとで”恵理菜”として過ごして
きた過程が描かれてゆきます。

そして、希和子が赤ちゃんを連れ去った動機というか経緯、秋山家と希和子の関係が、
マスコミや希和子の取り調べ、裁判での陳述などから分かってきます。


ずいぶん陰鬱なテーマですが、これをさらっと読ませ切るのは、作者が文中で説教じみた
内容を書いてないことですかね。これによって登場人物に感情移入しそうでできない、
そこらへんのバランス配分が絶妙。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

浅田次郎 『憑神』

2012-12-05 | 日本人作家 あ
そういえば、ついこの前「壬生義士伝」を読んだばかりで、この『憑神』
とは、舞台は違えど時代は同じ幕末、当時の下級武士の悲哀といいますか、
肩書きとしての”武士”だけではなく、”人間として”という描きっぷりは
心を揺さぶりますね。


江戸の幕末、徳川初代から続く御家人の家に生まれた彦四郎。幼いころから
武芸に秀でていたのですが、次男で家の後継ぎにはなれず、養子に。しかし
養子の家で男の子が生まれるやいなや主人から疎まられ、挙句、ゴタゴタを
起こして実家に戻ってきます。

同じ身分の同年輩の友人の中にはものすごい出世をした者がいて、羨ましく
もあり、妬ましくも。今夜も母親から金を借りて、夜泣き蕎麦屋へ。
そこで、”出世稲荷”というのを蕎麦屋の親父から聞きます。

ほどほどに酔って家に帰る途中、土手にすっ転びます。起き上がった彦四郎
の目に入ったのは、小さな祠。たしか、蕎麦屋の親父の話していたお稲荷様
の名前とよく似てる・・・ということで、彦四郎は願掛けをします。

翌朝、目を覚ましてみると、母親が奇妙なことを言うのです。知らない男と
いっしょに帰ってきた、と。
ところで、母に例の祠を聞いてみると、「まさか、あの祠に手を合わせたり
してないだろうね」と・・・

あの祠は「ツキガミ」という名前だそうで、彦四郎は、出世の神様が”憑いて”
くれると大喜び。あくる夜、ふたたび蕎麦屋へ行くと、知らない男が。この男
こそ、昨夜いっしょに家まで帰った男、つまり例の祠の「ツキガミ」と思い、
聞いてみますと、神は神でも、貧乏神だったのです・・・

ただでさえ、うだつのあがらない彦四郎に、貧乏神なんて憑いてしまったら、
これはただ事ではありません。しかし、”ある技”というのがあって、いわば
ババ抜きのジョーカーを違う人に取ってもらうように、不幸を他人におっ被せ
てしまう、というもの。さて、彦四郎は、自分をここまで追い込んだ婿入り先
の家に復讐を・・・

ところが、これで話は終わりではなく、さらにパワーアップした不幸を呼ぶ”神”
がやって来るのです。

武士としての矜持を、ただひたすらに守り続ける彦四郎。しかし時代は、忠誠を
誓った幕府は薩摩や長州に戦で負けるという有様。これからの身の振り方を考え
る彦四郎ですが・・・

江戸時代も260年も続けば、あちこちにガタがきて、腐敗が出てきます。間違って
いるものは間違ってると声に出すのは勇気ではなく世渡り下手と揶揄されます。
しかし、たとえそちらの道を選んだほうが得策と分かっていても、愚直に己の信じ
る道を選ぶ、こういう人物を描くのは上手いですよねえ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする