晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

ケン・フォレット 『ハンマー・オブ・エデン』

2018-11-26 | 海外作家 ハ
先月と先々月は1ヵ月に2回しか投稿しなかった、つまり
2冊しか読んでなかったわけですが、自称「本好き」とし
てはこれじゃイカンと思いつつ、就寝前の1時間を「読書
タイム」にしてはいるのですが、インザベッドするとアズ
スーンアズでスリープしてしまうのですね。

思わず英語が出てしまいましたが、しかし、今月も最後の
週末に入ってようやく3冊目が読み終わるという快挙。

さて『ハンマー・オブ・エデン』です。いちおう邦題とし
て(エデンの鉄槌)とありますが、こころみにハンマーの
意味を調べますと、hammerだけだと(金属製の)とあり、
なるほど鉄槌なわけですね。ちなみに木槌だとmalletで、
柄が1メートルぐらいある両手で持つタイプのはsledgeで、
裁判官の机にあるやつはgavelだそうです。

アメリカ、テキサス州の砂漠地帯、石油掘削の現場にリッ
キーと呼ばれる男が。リッキーは現場にある「サイスミッ
ク・バイブレーター」という、地下の油田を探すのに使う
巨大な振動を起こすトラックを盗もうとしています。

リッキーはある女性に会いに行きます。(スター)という
女性はどうやらリッキーの共犯者で、そしてリッキーは、
スターには(プリースト)と呼ばれています。

このふたり、カリフォルニアの山奥にあるコミューンで暮
らしていて、文明からは隔絶した生活をしています。
しかし、彼らの暮らす地の近くで発電所建設の計画があり、
立ち退きを迫られていて、しかしコミューンのリーダー的
存在であるプリーストは立ち退きをしないどころか、発電
所の建設計画をやめさせようとするのです。

このコミューンには(メラニー)と呼ばれる女性がいて、
じつはメラニー、コミューンに来る前に大学で地震学の研
究をしていて、彼女いわく「地震は人工的に起こすことが
できる」そうで、これを聞いたプリーストは、地震を起こ
すといってカリフォルニア州知事に発電所の建設を撤回さ
せるのはどうかと考え、この作戦を「エデンの鉄槌」と名
付けます。

カリフォルニアには巨大な断層が2本あり、ここに溜まっ
たエネルギーを人工的に(誘発)させれば、エネルギーが
一気に放出、これが地震を人工的に起こす仕組みなのです
が、そのためには何かで地殻に振動を与える装置が必要と
なり、それが石油掘削現場で使う「サイスミック・バイブ
レーター」なのです。

当初の計画どおりとはいかず多少ゴタゴタはありましたが
プリーストはこのトラックを盗むことに成功します。

話は変わってサンフランシスコのFBI支局。女性捜査官
のジュディ・マドックスは、支局長から、州知事が(エデ
ンの鉄槌)と名乗るテログループから脅迫を受けたので、
そちらの捜査に当たってほしいと言われます。

その脅迫内容はカリフォルニア州の発電所新設計画の中止
で、もし撤回しなければ4週間後に地震を起こす、とのこ
と。

こんな頭のいかれた脅迫などまともに取り合う必要はない
と思ったジュディのもとに脅迫文の分析を行うサイモンが
来て「彼らをたんなる異常者と決めつけるのは尚早で危険
だ」とアドバイスします。

ジュディは地震学者のマイケル・カーカスに会い、人工的
に地震は起こせるのか聞きに行きます。答えは「イエス」
ですが、そのためには高度な地質学と高価な振動装置が必
要で、現実的に脅迫に用いるのは考えにくいとのこと。

脅迫期限の前日、ジュディは報告書を作成しますが、支局
長をはじめ知事の側近も真面目に取り合おうとしません。
そして当日、オーエンスバレーという場所で、小規模の地
震が発生します。

地震研究所は「これは普通の地震」と断定しますが、その
少し前に、ラジオ番組に「エデンの鉄槌」から犯行声明の
電話があったのです・・・

地震学者のマイケルに聞いてみると、振動が(あまりにも)
規則的で、人為的の可能性があるとの見解を出しますが、
いざFBIに戻ってみると、この件は捜査本部が置かれて、
なんとジュディは担当から外されてしまい・・・

次の期限は7日後。今度はもっと大規模な地震を起こすと
脅迫が。ジュディは「エデンの鉄槌」を見つけることがで
きるのか。

この物語で重要な部分はジュディのバックグラウンド。
彼女の亡くなった母親がベトナム人で、つまりアジア系。
父親が警官で、彼女は幼い時にサンフランシスコ大地震を
経験しています。FBIというゴリゴリのエリート集団で
男尊女卑文化も消えたとはいえない中でアジア系女性とい
うだけで出世は難しそうですが、こちらの人間模様もまた
面白いところ。

そしてケン・フォレットの作品といえば欠かせないのが、
ロマンス。マイケルはジュディがお気に入りのご様子で
すがマイケルは別居中の妻子あり。その妻というのが・・・
どうなるんでしょうか。
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真保裕一 『アマルフィ』

2018-11-10 | 日本人作家 さ
この作品は、映画化されたと記憶していて、たしかその時に
作者の真保裕一さんが「俺の名前をスタッフロールに入れて
くれるな」とかなんとかあったような。

さて、物語は、黒田康作という外交官が主人公。

冒頭、黒田はギリシャに。なぜギリシャにいるのかというと、
ある環境保護活動団体を追っています。ギリシャで行われる
環境会議で派手な抗議活動やデモを計画していて、その中に
日本人がいるということで、本来は外交官に捜査や逮捕の権
限はないのですが、違法で入国している日本人を地元の警察
に告発する権利はあるということで、団体の船に乗り込んで
捕まえて地元警察に引き渡します。

この黒田の肩書は「特別領事」という、テロ対策・邦人保護
のスペシャリスト。そんな黒田の携帯に、事務次官の片岡か
ら電話が。外務大臣がイタリアに外遊に行くので、ただちに
イタリアへ向かってくれ・・・

黒田がイタリア大使館に着いて早々、火炎瓶が大使館内に投
げこまれます。ギリシャで捕まえたような過激な環境保護の
団体が日本とイタリアが共同開発する天然資源の掘削事業の
妨害のためにやったのか。

また問題が。母親と旅行に来ていた9歳の女の子が行方不明
だと旅行会社から連絡が来ます。火炎瓶の件は別の職員に任
せて、黒田は安達という女性職員と母子の宿泊先のホテルに
向かいます。

母親は矢上紗江子、34歳。娘の名は(まどか)。

観光を終えてホテルのロビーに戻り、娘がトイレに行くとい
って突然消えたというのです。防犯カメラを見せてもらった
のですが、娘の姿は見当たりません。
すると紗江子の携帯に娘から電話が。

相手はイタリア語で「娘は預かってる」と言います。電話を
変わった黒田はイタリア語で話すと相手は「10万ユーロを
明日の朝までに用意しろ」と要求。

こういう場合、大使館としては、地元警察に通報するか相談
します。その国の警察のレベル、つまり本気になって捜査し
てくれるかどうか。マスコミがかぎつければ騒ぎが大きくな
る可能性も。しかし通報せず身代金さえ払えば人質は解放さ
れるというケースも少なくありません。
娘の身の安全を考え、紗江子は警察に通報はしないことに。

ここで黒田は紗江子が外資系銀行の東京支店に勤務している
ことを知ります。
しかし、そこにイタリアの警察が到着し「娘が誘拐されたと
いう日本人はどこですか」と・・・

どうやらホテルが通報してしまったようで、仕方なく黒田は
紗江子を大使館へ連れて行きます。そこに犯人から電話が。
金を持って、翌朝10時15分ローマ発ナポリ行きのユーロ
スターという高速鉄道に乗れ、と。

紗江子はこのチケットを持っているのです。聞けば、娘もこ
のチケットは持っているはずで、イタリア南部のリゾート地
のアマルフィに行く予定だったのです。
黒田もチケットを買い、現金10万ユーロを持ってナポリへ、
そしてアマルフィに向かったのですが、地元警察の失敗で取
引は失敗してしまい・・・

まどかは無事戻ってくるのか。行く先々で紗江子の行動がま
るで監視されてるようなのはなぜか。犯人の目的とは。

常々、フォーサイスやダン・ブラウンのようなアクションミ
ステリの日本版を読みたいと思ってはいるのですが、日本を
舞台に、あるいは日本人を主役にするとどうしても不自然感
が拭えないといいますか。
しかしこの作品(「外交官シリーズ」というシリーズになっ
てるんですね)はそこらへんの不自然はあまり感じられず、
楽しめました。

が、

この誘拐犯グループの犯行の主目的というのが、まあなかな
かヘビーなテーマでして、それとこの物語の雰囲気というの
がちょっとアンバランスと言うか、なんか急に場違いなの持
ってきちゃったなあという感じでした。
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井上靖 『敦煌』

2018-11-01 | 日本人作家 あ
せっかく読書の秋に突入したというのに、先月はわずかに
2冊しか当ブログに投稿できませんでした。

読書していなかったのかというとそんなことはなく、まあ
個人的な問題ですけど、毎朝4時半に起きてまして、そう
するともう午後の6時から7時くらいにはファーファーと
あくびを連発、それから犬の散歩行って犬と猫にエサあげ
て風呂入って寝る、というルーティンでして、さて本を読
もうにも、寝しなに数ページ読めるかどうか。

そんなことはさておき。『敦煌』です。今さらといいます
か。読んでませんでした。「なにが敦煌だよ、お前なんか
(豚公)じゃねえか)」という罵りが聞こえてきそうな。

NHKの「シルクロード」を見ていた方ですと、長安を出
て黄河を渡って、西に行けば楼蘭、北に行けばトルファン
で、そこの分岐点にあたるといえば「ああ」と分かります
よね。当時の交通の要衝ですね。
ちなみにトルファンから天山北路と南路に別れますね。

紀元前の前漢時代にはすでに西方防御の拠点として、さら
に物流の拠点としても栄えていたそうです。それから唐、
吐蕃、宋、西夏、モンゴルと支配が変わって、交易路が
もっと南に移ったということでゴーストタウンになります。
それから何百年かのち、西暦1900年のはじめに道教の
士の王円籙(おうえんろく)という人が石窟群の穴の中に
大量の巻物があることを発見します。が、当時の清の時代、
県の役所に届け出をしたのですが「まあ適当に保管しとけ」
という返事だったそうです。

1907年、イラン・インド研究者のスタインというイギ
リスの探検家がこの地にやって来て、王さんがぶったまげ
るほどの金額で買い取らせてくださいとお願いします。
しかし王さん、さすがに全部売ってしまうとあとで役所の
取り調べがあったときに面倒と思ったのか、スタインには
このときは3分の1ほどをあげたそうですが、その数なん
と6千巻。今度はペリオというフランス人がやって来ます
が、また3分の1ほどを売ります。
その噂を聞いたロシアや日本の研究者たちもこの地を訪れて
巻物を買ったそうです。これらの仏教美術、仏典、古文書は
「敦煌文献」と呼ばれるようになり、世界中の研究者たちの
間で話題になります。
そこでようやく海外流出を知った当時の北京の政府は現地に
行って残りの巻物を北京に持ち帰ります。

さて、物語はそんな「敦煌文献」の発見からおよそ900年
も前の宋の時代、趙行徳という青年が科挙の試験を受けるた
めに田舎から当時の都、開封へとやって来るところからはじ
まります。この高等文官試験「科挙」に合格したら「進士」
と呼ばれるようになるのですが、この試験に受かるのは中国
全土から集まるエリート中のエリート。この試験の難しさは
浅田次郎さんの「蒼穹の昴」の冒頭にありますね。

ところが行徳、試験の最中に居眠りをしてしまい不合格。

街をさまよい歩いていると人だかりがあり、見てみるとなん
と女性の人身売買。「よし、買う」と思わず叫ぶ行徳。
しかし行徳はこの女性をどうにかしようというわけではなく、
もう自由だからどこへでも行くがよいといいます。
すると女性は「ただお金を出してもらうのはいやだからこれ
をあげる」と1枚の布を差し出します。
そこには行徳が見たことのない文字が書かれています。
聞けばこの布はイルガイという西夏の都に入る通行証のよう
なもの。
さて、宿に帰った行徳はさっきの布をよく見てみますがそこ
に書かれている文字の意味は全く理解できません。

そこで勃然とわいてきた、まだ見ぬ西方の新興国、西夏への
興味。

西夏に入った行徳は、なにがどうなったのが捕えられ、漢人
である朱王礼の率いる武隊に入れさせられます。朱王礼に、
自分がなぜ西夏に来たのかを説明すると、のちのち役に立つ
と思ったのか、西夏文字を習得するために興慶府に行くこと
を許されます。
ウイグル族との戦の最中、行徳は甘州の城に入ると、そこに
は女性が。王族の血を引く娘のようで、彼女を城内の安全な
場所に匿います。しかし行徳は勉強のために行かなければな
らなく、朱王礼には女性のことを話します。

数年後、勉強を終えて朱王礼のもとへ戻った行徳はあの女性
がいないことを聞くとなんと「あの娘は死んだ」というでは
ありませんか。

それからなんだかんだあって、朱王礼は西夏の反乱軍となり
ます。瓜州が攻め落とされ、戦いの舞台は沙州(敦煌)へと
移るのですが・・・

このあたりで行徳は重要人物に出会います。尉遅光という、
没落王朝の末裔で、彼は今、ラクダにまたがり隊商を組んで
貿易をしています。ときには他の隊商を襲って商品を略奪し
たり、まあ海賊ならぬ「砂賊」ですね。
そんな尉遅光ですが、敦煌がいよいよ西夏軍によって滅ぼさ
れる前に石窟群に大量の文献を埋めて隠し、それが数百年後
に発掘され、東洋史のみならず世界文化史上さまざまな分野
の研究におおいに役立つことになる「敦煌文献」の存在にひ
と役買っているのがとても面白いです。

タイトルこそ『敦煌』ですが、沙州つまり敦煌が物語のメイ
ンの舞台として出てくるのは文中ではけっこう後半。

文庫で250ページとそんなに長くはありませんが読み終わ
るまでに時間がかかってしまいましたが、久しぶりに「ああ
良質な本を読んだなあ」と心がうるおいに満ちてゆくような、
そんな時間でした。
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