晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

ジェフリー・アーチャー 『運命のコイン』

2022-09-12 | 海外作家 ア

家にいてもあまりテレビは見ないのですが、地上波はニュースぐらいで見るといえばほぼBSの番組で、主に旅番組と料理番組と動物番組。中でもここ最近ハマってるのが月曜の「酒場放浪記」、火曜の「町中華で飲ろうぜ」、そして金曜の「おんな酒場放浪記」。酒ばっかり。番組が始まる時間になるちょっと前にお酒と冷奴とかししゃもを焼いたのとかちょっとしたつまみを用意して、ちびちび飲みながら見てます。毎週欠かさず見られるわけではないのですが、休みの日に見られればラッキー。でも見られなくても見逃し配信があるので安心です。いい時代になりました。

家飲みだと家で飲んでるという安心感と他の人と会話しないので発散しないせいか酔いが回るのがはやくて、そんなにたいした量を飲まずに眠くなるのである意味経済的ですね。

以上、酒とバラの日々。

 

さて、ジェフリー・アーチャー。2011年から7部におよぶ大長編「クリフトン年代記」が続いて、これが終わったらもしかして断筆宣言でもするんじゃないかと思っていたのですが、その後に出版されたこの『運命のコイン』、の前に短編集も出て、まだまだ現役だそうです。

あれは2015年、イングランドでラグビーのワールドカップが開催されたのですが、決勝戦がオーストラリア対ニュージーランド。そのときジェフリー・アーチャーさんはツイッターで「ラグビーワールドカップの決勝がトゥイッケナム(ラグビーの聖地といわれるロンドンのスタジアム)でオーストラリアとニュージーランドとはなんて屈辱だ」とつぶやいていたのをよく覚えています。

 

この作品は「サーガ」と呼ばれる、本来は出会うはずのない2人の登場人物を描く長編もので、「ケインとアベル」が代表ですね。

1968年、ソヴィエト連邦、レニングラード。高校生のアレクサンドルは友人のウラジーミルといっしょに家に帰ります。ウラジーミルはKGBに入ること、アレクサンドルはモスクワの大学進学を夢見ています。アレクサンドルの父は港の同志主任監督官として、母は食堂の調理人として働いています。ある日の夜、アレクサンドルの父がでかけます。それを見かけたウラジーミル。後をつけていくと、教会の中へ。すると他にも数人の男が教会に入っていきます。ウラジーミルはこっそり話を聞くと、港湾労働者の労働組合を作るという話し合い。ウラジーミルは急いで港湾司令官をしているKGB少佐ポリヤコフの家に行きます。

その翌日、アレクサンドルの父が出勤して、作業を始めようとしたとき、クレーンの積荷が真上に来て、積荷が落下し・・・

コンスタンチン・カルペンコの葬儀が行こなわれますが、妻エレーナと息子アレクサンドルをはじめ、コンスタンチンの友人たちはあれは事故死ではないとわかっていますが、それを口に出すことは許されません。さらに、コンスタンチンにはソヴィエト連邦英雄の称号が与えられ、妻エレーナは年金が満額支給され、息子アレクサンドルは父の後をついで港湾労働者になるという「美談」が用意されていました。

港湾労働者であるエレーナの弟がやって来て「金曜に外国船が2隻入ってきて翌日出港するので、そのどちらかに隠れることができる」と、亡命の手助けをしてくれるというのです。土曜日、どうにかこうにかエレーナとアレクサンドルは倉庫に着きます。そこには大きな木箱がふたつ。行き先はアメリカかイギリスのどちらか。アレクサンドルはポケットから5カペイカ硬貨を出し、「表ならアメリカ、裏ならイギリス」と決めて、硬貨を頭上に弾き上げます。

エレーナとアレクサンドルは木箱に入り、蓋が釘で打ち込まれ、クレーンでゆらゆら揺れながら宙に浮くのを感じて貨物船の倉庫に収まって・・・

ここまでが第1部。はたしてエレーナとアレクサンドルはどちら行きの船に乗ったのか、ということになるのですが、第2部のはじまりが文庫の上巻の60ページから。上下巻合わせて残り800ページぐらいがその「どちらか」という話で、ただこれを書いてしまうと豪快なネタバレになってしまうので書けませんが、一応、ふたりは亡命した地で、アレクサンドルは持ち前の頭脳明晰で出世し、エレーナは料理の腕を見込まれてこちらも成功します。

相変わらず面白いです。そして読みやすい。クレームをつけるとするならば面白すぎて読みやすすぎてあっという間に読み終わってしまったのでもっと文中の世界観に浸っていたかったという誰のせいでもないクレーム。

 

訳者あとがきによれば、この作品は「『ケインとアベル』以来の大作と作者自身が豪語」したとかですが、「ケインとアベル」は若い頃に心震わせながら夢中になって読んでしかもその後に数回読み直してますから、まあ「思い出補正」ありきですがやっぱり「ケインとアベル」が一番ですね。

 

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ディーリア・オーエンズ 『ザリガニの鳴くところ』

2022-02-13 | 海外作家 ア

年のせいでしょうか、なんだかものすごーく心配性になってしまいまして、家を出るとき、特にこの時期はコタツやストーブといった暖房器具のスイッチが心配で、ちゃんと切れてると確認してから玄関ドアのカギを閉めて車に乗り込んでエンジンがあったまるまで待ってると「あれ、ストーブ切ったっけ」と、だんだん心配になってドキドキしてきてとうとうたまらなくなって車から降りて玄関を開けて家じゅうの暖房がちゃんと切れてるか確認するもんで、この時間に家を出れば余裕で間に合うという時間より5~10分ほど早めに家を出ることにしてます。ちなみに心配になって家に戻ったら暖房が点けっぱなしになってたということは今まで一度もありません。まあ用心に越したことはないですけどね。

以上、老いと向き合う。

さて、おそろしく久しぶりの海外の小説。たぶん去年は何冊か読んでるはずですが。

この作品は2021年の本屋大賞翻訳小説部門第一位、だそうです。こちらの作者は本職が動物学者とのことで、過去にノンフィクション作品は出されたことがあるのですが、小説はこれが初めて。それでいきなり大ベストセラー。すごいですね。

 

1969年、アメリカ、ノースカロライナ州にある湿地帯の水溜りに男の死体が横たわっているのを、遊びに来た少年が発見します。男はチェイス・アンドルーズで、金持ちの息子でハンサムで学生時代はフットボールのスターで、という人気者。

1952年の話。夏のある朝、カイアという女の子は母親が家から出ていくのを見ます。カイアの家は湿地帯の中にあり、この湿地帯は法的に誰の所有とかいう境界もなく、犯罪者や逃亡者の潜伏地のような状態で、そこにクラーク家が住んでいます。カイアは5人きょうだいの末っ子で、母はマリア、父はジェイク。もともと別の土地にいたのですがジェイクが無一文になってしまい、さらに戦争で片脚を負傷して一家の収入は国からの軍人恩給のみ。ですがジェイクはそのわずかな金も酒に使ってしまい、気に入らないとマリアや子どもたちを殴る始末。そんなことでマリアは出ていってしまいます。

上の兄ジョディは心配するカイアに「だいじょうぶ、母さんは戻ってくるよ」と声をかけますが、夜になっても次の日になっても戻ってきません。母がいなくなって子どもたちへの暴力もエスカレートし、兄や姉はひとりまたひとりと家を出て、ジョディもいなくなって、残ったのはジェイクとカイアのみ。台所に残ったわずかな食材でどうにか飢えをしのぎます。ジェイクは恩給の支給日になるといくらかを置いていって飲みに行きます。その金でカイアは村の食料品店でトウモロコシ粉を買います。そんなカイアも本来なら学校に行かなければいけないのですが、家に来た無断欠席補導員を「自分を捕まえに来た」と思って逃げ隠れてしまいます。が、補導員の「学校に来れば毎日無料でランチが食べられます」という言葉に、空腹には勝てずカイアは補導員の前に出てきて、学校に行くことになりますが、それまでまともな教育を受けてこなかったのと他人とのコミュニケーションが取れないことで同級生たちにからかわれて、学校に行くのをやめます。

ある日のこと、カイアは少年と出会います。「きみはジョディの妹だろ」と言われてびっくりします。テイトという少年は兄のジョディと知り合いで、ジョディから話をきいていたのです。

それから数年が過ぎ、カイアはテイトから文字や数の数え方などを教わります。やがてお互い異性として好意を持つようになりますが、テイトは大学に行くことになります。「大学が休みになったらきっとここに戻ってくる」という言葉を信じますが、テイトからはなんの音沙汰もありません。

さて、チェイス・アンドルーズの死因は、火の見櫓から転落して頭を強く打ち付けたというのですが、まずそもそもチェイスはなぜ湿地帯にいたのか。自ら飛び降りるようなことは生前のチェイスからは想像もできません。あたりには発見した少年以外にはチェイスの痕跡しか残っておらず他殺の可能性も見つからず、捜査にあたっている保安官は進展がないことに苛立ちますが、ある漁師がチェイスの死んだ日の夜、ボートに乗った女性を見た、という目撃情報が。その女性は「湿地の少女」と呼ばれているカイアだったのですが・・・

チェイスが死んだ日に目撃されたのはカイアなのか。ふたりの関係は。

 

正直にいうと、ストーリー的には「まあそうだろうな」という展開なのですが、なにより文章が美しい。とても丁寧です。そして湿地帯の風景、動植物の描写が美しい。この作品がアメリカで出版されたのが2018年、今でもまだ売れ続けているそうですが、古今東西、良いものは良いのです。

こんなご時世ではありますが、読み終わって心がほんのりと明るくなる、そんな作品と出会えてしあわせです。

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ジョン・アーヴィング『ガープの世界』

2020-02-24 | 海外作家 ア
前回の投稿から2週間も間隔が開いてしまいました。
言い訳というアレでもないのですが、今月に入ってから、ある勉強をしておりまして、それで読書タイムが減っていたのです。

もう長々と与太話を書き込まずに、とっとと本題。

アーヴィングです。けっこう久しぶり。というよりか、海外小説じたい久しぶり。

過去にも当ブログでアーヴィングの作品をいくつか取り上げておりますが、正直言って難しいです。その、なんというか、どこまで書いていいのかわからなくなるのです。説明が少なすぎたら面白さが伝わらないと思うし、さりとて説明過多だとネタバレになってしまうし、結局のところ「おもしろいから読んで欲しい」としか書けないのです。

素人書評ですので大目に見てもらうとして、抽象的なことをつらつらと書いておもしろさを伝える術といいますか筆力はありませんので、それでも「読むに堪えうる」ブログ記事にはしたいと思っております。

まず、のっけから強烈。主人公の名前はガープ。一応フルネームは「T・S・ガープ」というのですが、その(特別な)生誕からして、当ブログで知るのではなく「読んで欲しい」です。
というのもなんですので、ざっと登場人物紹介。母親は看護師でジェニー・フィールズ。父親は兵士。ガープは父親を知りません。

やがてジェニーは息子と学校に住み込みで暮らし、ガープはその学校に進学し、卒業すると、母と息子は作家になるための修行というか勉強のため、オーストリアのウィーンで暮らし始めます。しかしガープより先にお母さんのジェニーが作家デビューします。

ガープも作家デビューしますが、母の本はベストセラー。のちにジェニー・フィールズは「女性運動家」という肩書がつくようになります。

さてガープですが、学生時代に入っていたレスリング部のコーチの娘へレンと結婚します。ふたりの男の子のパパになるのですが、事故でひとりの息子を失い、新作の小説を発表しますがそれがベストセラーに・・・

この物語で重要なテーマのひとつが「性暴力」。

まだ子どものときに大人の男にとてもひどい目に遭わされた女性が出てくるのですが、その彼女を信望というか崇拝というか、最終的には狂信的になってしまう人たちや、ガープの母ジェニーのもとに集まる女性(性転換した元男性も)たちに、ガープは彼女たちの怒りの導火線に火をつけようとしますが、別にガープはミソジニー(女性嫌悪・蔑視)というわけではありません。ここで重要なポイントになってくるのが、ガープの「誕生秘話」。

アーヴィングの作品を今まで読んできて思うのは、不幸な登場人物を「ことさら不幸」にしないこと。嘲笑うようなニュアンスはなく、温かみのある「ユーモア」で深刻になりがちなテーマを「ふんわり」と軽く描きます。ウィーン在住時代にガープが出会った娼婦や母ジェニーを信望する性転換した元アメフト選手などなど。

さだまさしさんの「関白宣言」という歌がありますが、発売当時、一部の団体が女性蔑視だと問題視されたことがありました。印象に残る歌詞、特にはじめの部分だけを取り上げれば、確かに時代錯誤の男尊女卑思想と取れなくもないですが、最後まで聞くとそんな意図は無いことがわかります。

アーヴィングの作品も、流し読みだけすれば「なんてヒドイ」小説だ、となるのですが、「ちゃんと」読めばその意図は無いことはわかるでしょう。
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ジェフリー・アーチャー 『15のわけあり小説』

2017-02-16 | 海外作家 ア
この作品は短編集で、ジェフリー・アーチャーといえば人物一代記(サーガ)
が代表とされると思うのですが、短編もバツグンに面白いのです。

まえがきによりますと、15の話のうち10は事実にもとづいた話、ということ
になっていますが、確かに文中で「こんな話を聞いた」といったような書き出し
があります。ただし、どれくらい話を”盛って”いるか(演出の範疇で)は分か
りません。

身分違いの恋人にそそのかされて宝石泥棒の片棒を担ぐことになった「きみに
首ったけ」。

百歳の誕生日を迎えた夫は女王陛下からの祝電に心躍りますが、三つ年下の妻が
百歳を迎えた時に祝電が来ない「女王陛下からの祝電」。

火災保険で働く男の初仕事「ハイ・ヒール」。

目の不自由な男がカフェで隣に座った女性を想像する「ブラインド・デート」。

ある看護婦のサクセスストーリー(?)「遺書と意思があるところに」。

ダイヤ泥棒が刑務所で”ある約束”をする「裏切り」。

骨董屋とスター歌手の「私は生き延びる」。

ドイツの画家とそのパトロンの不思議な話「並外れた鑑識眼」。

あるゴルファーの話「メンバーズ・オンリー」。

名門一家に生まれるも口が災いして閑職においやられた外交官「外交手腕のない
外交官」。

スペインのマジョルカ島で不動産で一旗揚げようとするアイルランド人の話
「アイルランド人ならではの幸運」。

マンションに住む隣人は人殺し、それともテロリスト?「人は見かけによらず」。

一代で大銀行を築いた頭取が死神とサインを交わす「迂闊な取引」。

イタリアの田舎を旅行するイギリス人「満室?」。

インドでの、マハラジャ(王族)の息子が家を捨てて恋人といっしょになる
「カーストを捨てて」。

どれもこれも思わずニヤリとして、まさに「それには、わけがある」ですね。

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ジェフリー・アーチャー 『遥かなる未踏峰』

2012-11-25 | 海外作家 ア
『遥かなる未踏峰』は、ジェフリー・アーチャーの作品では珍しい、
実在の人物の伝記的な作品で、主人公は、ジョージ・マロリー。
マロリーって?名前だけ聞けばよく知られてませんが、「なぜ山に
登るんですか」「そこに山があるからだ」は誰でも知ってる有名な
言葉ですね。それを言ったのがマロリー。
恥ずかしながら、じつはずっと、エベレスト初登頂のエドモンド・
ヒラリーの言葉だと思ってました。

登山家のマロリーは、エベレスト登頂に最後のキャンプを出てから
戻ってこず、遺体は70年以上たってから、発見されました。
そして、遺体の服のポケットには、「あるはずのもの」が入ってい
なくて、捜索隊は歓喜の声を上げる・・・というところから話がス
タート。

イギリスの司祭の家に生まれたジョージ・マロリー。幼いころから
冒険心は人一倍。ただ、どうにも時間にルーズで、あまり大人の
いうことを聞かないような面もあり、高校の登山サークルでは先生
の面目を潰す、大学受験に大遅刻するなど、のちにイギリスの英雄に
なる男の人間くささが描かれていて、序盤からマロリーという人物像
に惹かれます。

さて、ケンブリッジ大学には、なんとか温情もあって合格できます。
登山サークルに入るのですが、そこでマロリーは”事件”をやらかし
ます。フランスの山に登った帰りにパリに宿泊していたマロリー達。
マロリーは、友達といっしょにホテルを抜け出し、夜のパリへ繰り出し、
なぜかそこでエッフェル塔に登ってしまうという奇怪な行動に。
引率の教授がなんとかパリ警察と話をつけて逮捕までは至らなかった
のですが。

大学を卒業することになり、もちろん山登り生活できるわけもなく、
学校の先生に。そこで学校の理事の娘、ルースと出会い一目惚れし、
マロリーはルースと結婚します。

じつはその馴れ初めもちょっとばかりの”事件”が絡んでいて、マロ
リーらの登山隊はフランスにいたのですが、そこから消えて、理事の
家族旅行先のベネチアに向かって、ルースと会って、なんとそこでも
ベネチアの歴史的建造物によじ登ってしまいます。

そんな”変人”マロリーですが、学校の先生の仕事はきちんとやり、
家庭では良き夫、父となります。そこに、ケンブリッジ時代の恩師
から、エベレスト登頂隊のメンバーに推挙され・・・

20世紀初頭、地球上で人類の未到達な場所に誰が一番乗りできるか、
という競争があって、北極点はアメリカ人が、そして南極点へは
イギリスのスコット大佐が挑戦しましたが、隊員のほとんどが死亡
するという惨事があって、その隙にアムンゼンに先を越されてしまい、
残るは世界最高峰のエベレストに、これはイギリス人が人類初になら
なければ、という想いが強かったようです。

しかし、エベレストにせよ南極にせよ、当時は酸素ボンベ使用の是非
などが問われていて、マロリーは使用に反対、そして彼のライバルに
して親友のオーストラリア人登山家、フィンチは使用賛成派でした。

それはさておき、人類初のエベレスト登頂に挑むイギリス隊。残念
ながら最初のチャレンジは失敗に終わります。
ところが、イギリスに戻ってみると、マロリーは英雄になっていた
のです・・・

そんなこんなで2度目の挑戦でマロリーは帰らぬ人となってしまう
のですが、愛する妻に、エベレストの頂上に着いたら、君の写真を
頂上に置いてくるよ、と手紙に残しています。
はたしてマロリーは成功したのか・・・

エベレスト山頂付近の過酷さ、山を「レディー」と擬人化しての
情景や隊員の心理描写は圧巻。コタツに入って茶でも飲みながら
読んでいても「うわ、ここで落ちたら・・・」とビシビシ伝わって
きました。
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ジェイムズ・エルロイ 『ブラックダリア』

2012-11-14 | 海外作家 ア
まあ、そんなに好き好んで読むわけではないですが、ノワールと呼ばれる
暗黒小説ですか、たまに読んだりします。
日本だと馳星周さんが有名ですが、あとがきや解説でよく目にしてきたのが
このジェイムズ・エルロイという作家名。

”暗黒のLA4部作”というのがあって、この『ブラックダリア』は第1作。

舞台は、大2次大戦終了間もないロサンゼルス。

主人公のバッキーは、元ボクサーで、友人だった日系人を戦時中に密告して
収容所送りにして、警官になったという、まあ「いいヤツ」ではありません。

そんなバッキーに、運命の出会いが。こちらも元ボクサー(バッキーよりも
重い階級)のリーが、ロスで起こった暴動の最中に、いっしょに犯人を逮捕
します。
もともと、面識はなかったのですがお互いを知っていて、世間や同僚たちは
ボクシングスタイルからバッキーを「アイス」、リーを「ファイア」と呼び、
なんとこの二人は後日、ボクシングの試合をすることに。

そこで、りーの彼女を紹介されるバッキー。ケイという女性は、かつてリー
が逮捕した銀行強盗犯の愛人というから驚き。

さて、ロサンゼルス市警の企画した「アイス」対「ファイア」のボクシング
はりーの勝利で、大盛況だったことで市警の予算アップに貢献したとして、
バッキーは特別捜査課に移ります。そこで、リーとパートナーに。

とある事件の捜査をしているときに一件の通報が。現場は近く、駆けつけた
バッキーとリーは、凄惨な女性死体を見ることに。
上半身と下半身は切断され、内蔵はくり抜かれ、体中にあざや絞められた痕
がついていて、顔は口が耳まで切られていて、まるで笑っているよう。

被害者の身元は、アメリカ東部出身のエリザベス・ショートで、ハリウッド
女優を夢見てロサンゼルスにやって来たのはいいのですが、そういう人間は
ごまんといるわけで、エリザベスに出番が回ってくることはなく、お金もなく、
夜な夜な、軍人たちの”一夜の相手”をしていたというのです。
しかも、彼女は嘘や大言壮語を吹聴しまくっていて、あまり評判は良くなかった
ようです。
彼女はよく黒い服を身につけていて、美しい顔立ちと黒い衣装から、「ブラック・
ダリア」と呼ばれていて・・・
住処も転々とし、異性関係も激しく、ときには同性愛関係もあったりして、捜査
は難航。

バッキーとリーは別件の捜査があったのですが、リーはこの事件に執着します。
というのも、りーの幼い頃、妹が誘拐されていまだ解決していないという過去
の忌まわしい記憶があり、「おそらく妹は犯人に惨殺されたにちがいない」と、
エリザベスに妹を重ね合わせてしまい、精神安定剤の服用も日に日に増えて、
時には常軌を逸したような言動に。

そんな中、ケイの元”恋人”の銀行強盗犯が出所するという知らせが。もうこう
なったらりーの精神状態は崩壊寸前。
出所してメキシコに行ったと聞いたリーもメキシコへ飛びます。

さて、バッキーは「ブラック・ダリア事件」の捜査をしていて、マデリンという
女性と知り合います。
彼女は大手不動産会社社長の娘で、何よりもバッキーが惹きつけられたのは、
エリザベスに似ているということだったのです。
なんとマデリンは生前のエリザベスを知っていたというのですが・・・

リーはメキシコに行ったまま連絡が取れず、傷心のケイの話し相手をしている
うちに二人は恋仲になり・・・

いちおう本筋は「ブラック・ダリア事件」なのですが、織り混ざるようにして
ロス市警内部の複雑に入り組んだ人間関係、1940年代のロスの状況、そしてリー
の過去が描かれていって、疾走感もあって分かり易い、そんな印象。

話の序盤、リーとバッキーが出会ったとき、リーは「シェルシェ・ラ・ファム」
(女を捜せ)と言うのですが、この言葉がラストに引用されて、この演出には
ぶったまげました。

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アーサー・ヘイリー 『権力者たち』

2012-09-13 | 海外作家 ア
「この作家の本を読めば”おりこう”になった気がする」といえば、勝手に
挙げさせてもらうと、ジェフリー・アーチャーと、アーサー・ヘイリー。
ジェフリー・アーチャーはエンタテインメント的な作品もありますが、アー
サー・ヘイリーは今まで読んだ作品はどれも経済小説。

で、この『権力者たち』は、政治小説。舞台はカナダとなっています。

カナダ首相、ジェームス・ハウデンは、米ソの冷戦(この作品が発表された
のが1962年)が、いよいよ一触即発か、という状態で、地理的にこの両国に
挟まれていて、もし核戦争が起こったら、死の灰がカナダ国内に降り注いで
しまう・・・と危機感をつのらせます。

そこで、アメリカ大統領から、ある”協定”に関する首脳会談が提案されて、
ハウデンはワシントンへ。
その協定とは「統合法」というもので、ひらたくいうと「有事には国境を無視
して、米軍は自由にカナダに入ってミサイルなど配備できますよ」というもの。

しかし、野党の反対は必至で、さらに与党内でも反対が予想され、カナダ独立
以来デリケートな問題として、カナダ系住民との問題もあって、ハウデンとしては
統合法の成立に信念を持っていますが、一筋縄ではいかなそう。

そこにあらたな問題が。

バンクーバーに「ヴァステルヴィク号」という貨物船が入港します。船長のヨー
ベックは、船に乗っている密航者のカナダに上陸させようとしますが、密航者の
アラン・デュヴァルと名乗る青年は、国籍を持っておらず、世界じゅうを転々と
しているのです。

世界各国で上陸を拒否され、カナダでも法律にのっとって、上陸は許可されません。
しかし、それを地元新聞がニュースとして伝えます。

「この不幸な青年に愛の手を」と全国で話題になりますが、ハウデンはじめ市民権・
移民相ウォレンダーは、法改正などもってほのかという構え。

ハウデンは首相になる前の党首選挙のさい、対立候補のウォレンダーと”密約”を
交わして当選し、それ以来ハウデンはウォレンダーに強く出られません。
しかも、ここ最近ウォレンダーは、マスコミが飛びついてきそうな危ない言動が多く、
ハウデンにとっては厄介。
そこにきてバンクーバーのアラン・デュヴァル問題が・・・

一方、これを政権交代のチャンスとみた野党議員は、この哀れな青年に弁護士をつけよ
うとします。
弁護士になりたてのアラン・メイトランドはさっそく貨物船に乗ってデュヴァルと会い、
上陸の申請を出すことに。
そこに立ちはだかるのは、政府から送り込まれた、移民省西海岸本局局長の堅物、クレイ
マーだったのです・・・

アメリカとの統合法の行方は、バンクーバーの無国籍者はどうなるのか・・・

首相の苦悩や、カナダの内政問題などが濃厚に描かれ、はじめこそ「難しそうだなあ」
とページをめくる手が遅かったのですが、読み進むうちに引き込まれていきました。


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ジョン・アーヴィング 『未亡人の一年』

2012-07-06 | 海外作家 ア
アーヴィングの作品は今までけっこう多く映画化されていますが
(まだ「サイダー・ハウス・ルール」しか見たことありませんが)、
監督、というか脚本家は、アーヴィングの作品を2時間とかそれ
くらいでちゃんと内容を抑えて説明出来る、というところが素晴ら
しいと思うのです。
というのも(この『未亡人の一年』も映画化されていますが)正直
この「面白さ」を的確に伝えられるか、と軽く困っております。

あらゆる要素がつまっていて、かといってゴチャゴチャという印象
はなく、話はちゃんと完結しているのに、読み終わったあとに「自分
なりの答え」を探しているといいますか、まあこういうところが(現代
のおとぎ話)と評価される所以なんでしょうが。

ざっと説明しますと、16歳の少年エディが夏休みに、絵本作家のテッド・
コールの手伝いをするために彼の家に住み込みアルバイトをします。
テッドには妻のマリアンと(すごい美人)娘ルース(当時4歳)がいるの
ですが別居状態。
エディはマリアンに夢中になって、マリアンもエディに死んだ息子の面影
を見出して、たちまちふたりは夜をともにします。
が、ある夜、その”時”をルースに見られてしまい・・・

ルースの生まれる前にテッドとマリアンには2人の息子がいました。
その息子たちはエディの高校の先輩にあたり、交通事故でふたりとも
帰らぬ人に。
いまだ悲しみから立ち直れないマリアンは、家中に息子の写真を飾って
います。そのせいかルースに対する愛情はなさそう(あとで、なぜマリアン
はルースを育てるのを放棄したのかの理由は出てくるのですが)。

テッドは違う女性に手を出しまくっていて、エディは複雑な状態に立たされ
ることに。そんな中、マリアンはテッドとルースを置いて家を出てってしま
うのです・・・

ここまでが1958年、夏の話で、次に32年後の1990年に飛びます。
48歳のエディは小説家になっていて、36歳のルースも小説家に(ルースのほうが
評価は高い)。
ルースの朗読会がニューヨークで開催されることになり、エディは招待され、
ふたりは32年ぶりに再会。そこでルースは母について聞きます。

テッドがマリアンに初めて会ったときの歳に近いルースに(母娘だから当たり前
ですがマリアンに似てる)ちょっと惹かれますが、しかしいまだエディの中には
マリアンに対する想いが。

ルースは出版社の社員で彼女のよき理解者と結婚します。が、5年後にルースは
未亡人に。

ルースとエディはマリアンの居場所を探していますが、そのあいだにも、テッドが
亡くなって葬式があったのですがマリアンは姿を見せません。
しかしある日、カナダのミステリ作家の作品が、マリアン自身を描いていると
知ったエディだったのですが・・・

ルースやエディが、あるいは彼らの周りの人たちの思う「小説とは」「作家とは」
の考察が、アーヴィングが彼らに代弁させているようで興味深いですね。

エディの家からテッドの家のある街まではフェリーに乗っていかなければならない
のですが、その船上でエディはハマグリを載せたトラックの運転手と出会います。
ここで(ハマグリトラック)という言葉が、やたら連呼されます。じゃあそんなに
物語のうえでとても重要なシーンかといえばそうでもありません。
こういった、ちょっとは重要だけど振り返ってみればそうでもない、といった部分
が多く、でも最終的にはまとまった話になっている、例えていえば、色も形も違う
ガラスの破片を組み合わせて美しいモザイク絵画を完成させるといいますか。

もっともっともっともっと面白かった部分を書きたいのですが(エディの父親とか
ヴォーンさん家の話とかルースがオランダで遭遇した殺人事件とか)、あまり書き
すぎると最終的にぜんぶ説明しかねないので、とにかく声を大にして(ブログで
「声」ってヘンですが)「読んでほしい!!!」。
文庫本の上下あわせて1000ページ近くありますが、まったく長いと感じさせません。
久しぶりに心がガシガシ揺さぶられた作品です。

泣ける話とは思っていませんでしたが、ラスト、(核心は書きませんが)ルースと
マリアンが再会するシーンのマリアンの一言で号泣してしまいました。
不意打ちで「やられた・・・」という感じ。

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ドン・ウィンズロウ 『犬の力』

2012-06-26 | 海外作家 ア
この本が発売されたのは今から数年前ですが、今年になってもタイトルを
ちらほらと目にします。
ところで『犬の力』とは、旧約聖書の中の詩に出てくるそうで、どうにも
日本語で現すと「ワンちゃんのほのぼの物語」と捉えられなくもないと
いいますか、原題の「ザ・パワー・オブ・ザ・ドッグ」のほうがよりビシビシ
と内容が伝わってきます。

アメリカ麻薬取締局(DEA)の特別捜査官、アート・ケラーが、凄惨な
大量殺人の現場で、長年の麻薬戦争のせいで酷い殺され方をした死体を見る
のはもはや”慣れっこ”なっていたのに、それにしても、と耐えられなく
なります。
「わたしの落ち度だ。すまない、ほんとうにすまない」と自分を責めます。
そして、メキシコ人警官のひとりがつぶやくのです。
「犬の力」。

こんなスタート。

もう、読み終わるまで逃れることはできない、そんな心境。

アメリカで大量に出回る麻薬の根源を絶つためメキシコに送り込まれた
DEAのケラー。シナロア州の麻薬組織の元締め、ドン・ペドロにどう
にかして近づいきたいのですが、そうやすやすとは尻尾を掴ませてくれ
ません。
そこでケラーは、州警察の警官で州知事の特別補佐官という”大物”の
ミゲル・アンヘル・パレーラと、DEAを通さずに単独で、ある(取引)
に応じるのです。

しかし、その(取引)の代償は大きく、パレーラは約束どおり、ドン・ペドロ
を捕まえる協力はしてくれたのですが、しかし、ペドロの代わりに元締めに
なったのは、なんとパレーラだったのです。

まんまと一杯くわされたケラー。

そして話は変わって、舞台はニューヨークのヘルズ・キッチン。
アイルランド系のショーン・カランは、友人の揉め事に巻き込まれて、この一帯
を仕切るマフィアに手を出してしまいます。
なんとかしてマフィアの大物に顔をつないでもらい、彼らのために働くことに。
そこでカランは、北アイルランド出身の女性と恋に落ちるのです。
金も手に入れて、カランは足を洗おうと大工に弟子入り。しかしそう簡単に
逃げられるはずもなく、ある大きな”仕事”を頼まれ、そして”殺し屋”へと
変貌を遂げ、カランの組織は麻薬を大々的に取り扱うことに。

またまた話は変わって、劣悪な家庭環境で育ったノーラは、ヘイリーという
高級娼館の女主人にスカウトされ、マナーや勉強を教わり、高級コールガール
になります。このノーラが、のちに長年の麻薬戦争を収束させる大きな役割を
担うことになるのですが・・・

家族に身の危険が及び離れ離れに、のちに離婚を切り出され、部下も殺されて、
味方であるはずのアメリカの組織も”政治的に”守ってはくれず、数少ない仲間
とともに、奇策のような方法で取締を続けています。
なにがなんでもパレーラを捕まえるために。

麻薬組織では裏切り者は死で償うという掟があるのですが、その「殺され方」
がじつにバリエーション豊富で(こんな表現ですみませんが、こうとしか書きよう
がありません)、もう感情移入なんてできず、ただ傍観。

圧倒的です。読み終わってグッタリ。脱力します。呆けてしまいます。

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ジェフリー・アーチャー 『誇りと復讐』

2011-08-20 | 海外作家 ア
はじめてジェフリー・アーチャーの本を読んだのは、
確か19歳のときで、作品は「ケインとアベル」でした。
読み終わってからしばらく心が打ち震えて、小説の持つ
力を感じまくり、それから、当時は本を読む習慣が無か
ったのですが、アーチャー(あと松本清張)だけは、
ときどき買って読んだものです。

この作品は、ガッツリとしたサスペンスであり、といって
どことなくエンタテインメント性も匂わせつつ、見事!と
唸ってしまいます。

ロンドンの下町に生まれ育ってきた自動車修理工のダニー
は、修理工場の社長の娘、ベスと結婚の約束をします。
ダニーの親友でベスの兄、バーニーも祝福してくれて、3人
はお祝いにパブへ出かけます。
するとそこに、酔っ払った先客がベスに対して口汚い言葉
を浴びせてくるのです。相手にしたくない3人は店から出よ
うとしますが、4人組の男はつっかかってきて、とうとう
裏通りでケンカに。

ベスは助けを呼ぼうと表の通りに出て、タクシーをつかまえ
ますが、タクシーの運転手は、警察を呼べ、と。なぜなら、
裏通りでは、バーニーが刺されていたのです・・・

ところが、警察が来て、バーニー殺害の容疑で逮捕したのは、
なんとダニーだったのです。4人組のひとり、スペンサーは
将来有望の若手弁護士で、スペンサーの証言によると、ダニー
とバーニーは、口論をして、連れの女性の危険を感じた4人組
は心配になって表へ行くと、ナイフを持ったダニーがバーニー
の腹を刺した、というのです。

しかし、これはダニーには全くの身に覚えの無い話で、どうやら
4人組は、自分たちの罪をダニーにかぶせようと企んでいるよう
なのです。
この4人組は大学の仲間でその名も「銃士隊」、例の「三銃士」
の有名なセリフ、「ひとりはみんなのために、みんなはひとりの
ために」を血の掟と守るべく、スペンサーの罪を全力でかばい、
隠そうとしていたのです。

バーニーは、自分が工場の次期社長になれなかったことでダニー
を憎み、それが原因でダニーと口論で、カッとなったダニーは
パブのカウンターからナイフを持って外へ出てバーニーを・・・
という検察側の作り上げたストーリーにより、ダニーは有罪に。

ダニーは、第一級の刑務所(重罪犯の収容される刑務所で、その
警備も厳しく、かつて脱獄した囚人はいない)に収容されます。
しかし、ダニーは、ある「方法」で、刑期途中で、外へ出ること
になり、自分を嵌めた4人組に対して復讐を誓うのですが、はた
してどのようにしてダニーは出られたのか・・・

死んだとされる人間になりかわって、自分を陥れた人たちに復讐
をする、といった形式の小説は、広く知られたものですが、そこに
アーチャーならではのエッセンスを加えて、さらに発展させた、
新しいかたちの復讐劇になっています。また、法廷のシーンも
ハラハラドキドキ、リーガルサスペンスとしても楽しめます。

もうこれは、今まで読んだアーチャー作品の中で、間違いなく5本
の指に入ります。
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