晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

佐伯泰英 『吉原裏同心(十五)愛憎』

2020-07-28 | 日本人作家 さ
なんだかものすごく久しぶりに読んだ気がしたのですが、今年の三月に十四巻を読んでました。そういやこの四か月か五か月近く、世間的にも自身的にも激動だったので、正直忘れてました。

今回読んだのが十五巻。あと十六、十七と、私の人生暗かった・・・ではなくて、十七巻まで、ネットで購入。自粛期間中というのもあったんですが、そもそもこの「吉原裏同心」シリーズ、書店に行ってもちゃんと揃ってない場合が多く、どうせだったらということで。

新興勢力の札差との対決も終わり、「裏同心」こと神守幹次郎は、吉原会所の四郎兵衛と番方の仙右衛門と相撲見物。そこで、仙右衛門と幼馴染のお芳との結婚話になって、ようやく吉原に平和が・・・とはいきません。

吉原に、脅迫文が届いたのです。

そこに、正体不明の不気味な男が幹次郎の前にあらわれ、「夜嵐の参次」と名乗って消えます。数日後、相撲取りがいきなり刺されます。どうやら「夜嵐の参次」の仕業。「恨むなら吉原裏同心を恨め」と謎のメッセージ。しかし、幹次郎になんの恨みがあるのか分かりません。
吉原の大籬「三浦屋」の花魁、薄墨太夫が禿の小花といっしょに吉原内にある池にいるところに「参次」があらわれます。どうやら相手は薄墨の出自(武家の出)を知っている様子。すると薄墨、「あなたは旗本の次男、町野参次郎様ですね」と。
その昔、琴の稽古に通っていたとき、参次郎が突然「好きだ」と告白。しかしフラれます。それがきっかけかどうかは知りませんが、参次郎は琴の教室から金を盗んで消えます。それから十数年。逆恨みで「お前の邪魔をしてやる」と言い残します。

参次郎の宣言どうりなのか、薄墨の側にいて付き人のような役をしていた禿の小花が誘拐されます。しかし、この誘拐の犯人は参次郎ではなく、薄墨にご執心の遊び人の若旦那の仕業らしいのです。
遊女の脱走を厳しく見張っている吉原から、はたしてどうやって小花を連れ出したのか。

さて、今作でも幹次郎のモテっぷりが。そのお相手とは、包丁投げの女芸人。サーカスとかでよくある、人を立たせて、ギリギリのところに刃物を投げるやつですね。幹次郎はその芸人「紫光太夫」に弟子入りします。というのも「夜嵐の参次」は西洋式の短筒(ピストル)を持っているようで、それに対抗できるのは、手裏剣か小刀を投げつけるしかありません。そこで幹次郎は特訓。すると紫光太夫は報酬として「いっしょに見世物の舞台に上がってほしい」といいます。

妻の汀女は「モテない男と結婚した覚えはありません」と、浮気のバレた俳優(奥●英●)の奥さん(安●和●)の記者会見ばりに振舞います。
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池井戸潤 『下町ロケット ガウディ計画』

2020-07-24 | 日本人作家 あ
なんだかんだいって池井戸潤さんの作品、けっこう読んでいるのですが、ミーハーと思われるのもアレなので一応言い訳させていただくと、こちとらデビュー作の江戸川乱歩受賞作「果つる底なき」を読んで以降まったく読まず、倍返しだなんだとドラマでブームになっていたころにも読まずにいたので、世間でいうところのミーハーではありませんのであしからず。

さて、この作品は「下町ロケット」の続編にあたります。下町の町工場「佃製作所」が会社の技術に関して日本を代表する大企業を相手に一歩も引かないで交渉するという、まあそんな感じの話で、今作も会社がピンチの状態からはじまります。

佃製作所のもとに、試作品の話が持ち込まれます。開発にもお金はかかるわけでして、採用されれば大量生産といった流れにならないと会社としてもキツイところ。ところが、取引先の会社からは佃製作所にとって不利な条件しか提示してきません。「他にやってくれるところがあるのでね」これを言われたら中小企業は参ります。場合によっては赤字覚悟で取引を継続なんてこともあったりするのですが、今回のケースは取引先の態度がどうにも腹に据えかねて、社長は取引を断ります。さらに、今度はロケットエンジンの部品でも取引先から「コンペで」と言われます。先述のも、ロケットエンジンも、同じ会社に「してやられた」ようで、その会社とは新社長がNASAがどうたらこうたら。

ある日のこと。佃製作所の元従業員から連絡が。話は、医療機器の開発で、心臓の人工弁。これが完成すれば多くの患者の命が救えるとても尊い仕事ではありますが、医療機器の製造は医療事故の賠償金といったリスクも大きく、潤沢な資金など無い町工場は手を出しづらいのです。

社長は、話を持ってきた元従業員と、この「計画」に関わっている福井にある工場を訪ね、そこの社長の情熱に動かされ・・・

ところが、待ち受けていたのは、前途多難の四文字。挙句、佃製作所の従業員があろうことかライバル企業に転職。

この「計画」に関わるお医者さんが出てきますが、またこちらも医学界のドロドロした模様に巻き込まれ・・・

近江商人の商売哲学に「三方よし」というのがあります。「客よし、店よし、世間よし」、買った人も売った人も満足し、世の中にとっても良い商売をしなければならない、というもの。しかしここ近年の「ビジネス」では、金儲けこそ絶対、騙される方が悪い、といった風潮が目立ちます。
池井戸潤さんの作品は、全部が全部というわけではありませんが、この「三方よし」の哲学を持ってる側が最終的に報われる、報われなければおかしい、というスタンスがあると思います。それがつまり「読後のスッキリ感」があるのでしょう。

そういえば、この作品に登場する「元NASA」という人物が出てくるのですが、「NASAが開発した」と書けば「おー、すげー」となるもので、中にはマユツバどころか99.9%ウソだろといったものまでありましたね。モザイクが消せる装置もたしかNASAが開発したんじゃなかったでしたっけ。あれ本当に消えるんですかね。


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北村薫 『空飛ぶ馬』

2020-07-17 | 日本人作家 か
この作品は北村薫さんのデビュー作ということで、文庫のあとがき解説でよく説明されていて、いつか読もういつか読もうと思っていまして、このたびようやく読んだという次第。

主な登場人物は女子大生の(私)と、落語家の春桜亭円紫さん。不倫関係ではありません。円紫さんは(私)の通う大学のOBつまり先輩。
「推理小説」「ミステリ」となってはいますが、刑事や探偵は出てきません。殺人事件も起こりません。時刻表トリックもありません。じゃあどういう設定なんだという話ですが、基本的には(私)の見たり聞いたりしたちょっとした不思議な現象や謎を、円紫さんに相談、円紫さんは現場を見たわけではありませんが(私)から聞いた情報をもとに謎解きをします。

戦国時代の武将、としてよりは茶人として有名な古田織部の絵が・・・という「織部の霊」
とある喫茶店で女性客がテーブルの上に置いてある砂糖の入れ物を・・・という「砂糖合戦」
旅先で出会った子どもが・・・という「胡桃の中の鳥」
歯医者で聞いた赤頭巾の話・・・という「赤頭巾」
幼稚園の庭に植えられた遊具の馬が・・・という「空飛ぶ馬」

謎解きができたからといって犯人が逮捕されるわけでもなし、(私)がモヤモヤしていたのが晴れたといいますかそんな感じなのですが、ここが北村薫さんの上手さといいますか、読んでるこっちもスッキリします。構成といいますか演出の力ですね。

ふたりのやりとりの端々に落語が出て来て、「こんな話である」といった具合にあらすじ説明がありますが、この話にこの落語を登場させるというチョイスもいい感じ。
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池井戸潤 『七つの会議』

2020-07-11 | 日本人作家 あ
去年から今年にかけて、なんだかすごい「激動」ですね。個人的にも、といってもまあ小さなことですが、去年から今年にかけていろいろと動きがあってなにかと大変ですが、代り映えのしない日々をだらだらとやり過ごすよりはいいかなと。おかげで気持ちは若返ったような気がします。

さて、池井戸潤さん。
テレビに映画に、もうひょっとしてすべての作品が映像化するんじゃないかというぐらいの勢いですね。ちなみにこの作品も映画化しましたね。

大手総合電機メーカー「ソニック」の子会社で「東京建電」という中堅企業。ここで、ある奇妙な人事異動が。営業部のエース、坂戸が(人事部に飛ばされる)というのです。その理由というのは部下へのパワハラ。しかし部下といっても先輩。八角という、出世街道から外れた万年係長で、居眠りはするわ、ふらっと消えて帰ってこないわ、そりゃ切れ者の坂戸からしたら八角に対する態度ははじめこそ多少は遠慮気味の注意だったのが、最近は遠慮なく声を荒げて叱責。

ある日。坂戸がパワハラ委員会にかけられるという噂が。訴えたのは、まさかの八角。それまでは坂戸からガミガミ叱られても(馬の耳に念仏)のごとく平然と受け流していたように見えていたのですが、根に持ってたのか・・・

そこで新しく営業一課の課長に就任した原島。

舞台は変わって、町工場の「ねじ六」。名前の通りネジを作っています。しかし、東京建電との契約が切れてからは赤字続き。ある日のこと。ねじ六に新しい営業一課長の原島がやって来ます。話を聞けば、以前の坂戸という課長はどこかに異動したそうで、原島は「またねじ六さんのネジを使いたい」と言うのです。
増産体制に入ったねじ六は、おかげで資金繰りもどうにかなりそう。しかし社長にはどうにも解せません。というのも、前任の課長からバッサリと切られた契約をなぜまたすんなりと再開させたのか。しかし原島は具体的には教えてくれませんでした。ふと、社長は、原島が持ってきたネジを見つけ、それを手にすると・・・

ふたたび東京建電。経理課の新田は、営業一課で行われた部品の仕入れ先の変更が気になりますが、営業部の人間に聞いても「そんなの経理に関係ないだろ」とけんもほろろ。これはあやしいと思った新田は独自調査に。営業部のエースだった坂戸が突然(飛ばされた)あの不可解な人事もなにか関係あるのではと思った新田は、とうとう八角に直に質問。すると「あまりこの件に首をつっこまないほうがいいぞ」と言われます。そんな脅しに屈するものかとさらに調べを進めようとした新田に「大阪に行って営業をやってもらう」という辞令が・・・

いったいこの会社で何が起こっているというのか。ひた隠しにしている「秘密」とは・・・

この「本筋」に、社内でドーナツ販売をはじめようとする女性社員の話や、カスタマー室(クレーム処理)の話、ソニックと東京建電との関係性などが「会議」というキーワードで繋がっていきます。
そして、合い間合い間で語られる、登場人物の背景。
この組織の中における人を「人」としてきちんと描く、というのは、池井戸潤さんの作品に共通していますね。
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柴田錬三郎 『岡っ引どぶ』

2020-07-02 | 日本人作家 さ
先月は3冊しか投稿できませんでした。試験勉強も終わり、家の補修工事も終わって、さあ読書だと意気込んだのですが、疲れてあまり読めませんでした。やはり1年の折り返し地点にさしかかると疲れがドッと出ますね。歳だなあ。

以上、梅雨の時期だけにジメジメした言い訳。

さて、柴田錬三郎さんの作品は初めて。

そういえば、ちょっと前の朝ドラ「とと姉ちゃん」で、主人公が入社した小さな出版社の編集部にいた(五反田さん)という先輩が、じつは柴田錬三郎さんがモデルだそうでして。

時代的には「十二代将軍の~」と出てきますから、江戸も後半。

身なりが薄汚い、お顔が、ちょいと、その、(まずい・・・)岡っ引、名前を(どぶ)といいます。本人も「親分じゃなくて(どぶ)でいいよ」と言ったり、周りが「(どぶ)の旦那」と呼んでいるので別にいいのですが、数年前にふらりと江戸に現れて、岡っ引になったんだとか。

(どぶ)を岡っ引にしたのは、盲目の与力、町小路左門。

第一話「名刀因果」は、世間から「怨霊屋敷」と呼ばれている武家屋敷があり、そこで起きた奇妙な出来事という話。
大番組八千石という大身旗本、近藤右京亮友資の家は、代々、精神異常や身体障碍などが生まれ、現(殿さま)も、過去に「ご乱心」あそばされて蟄居の身。跡継ぎの長男は知的障害。妹は目が不自由。過去にご先祖様が何かひどく悪いことをしでかして「呪い」がかけられているのか、という話も。
そんな近藤家の用人が左門の屋敷を訪れ、あるお願いをします。
それは、将軍家に家宝の刀を献上することになったのですが、用人はこれを機に跡継ぎを廃嫡にして他家から養子をもらって御家存続をはかろうとしますが、どうやら、家宝を盗んで献上できなくさせて改易(取り潰し)と誰か企んでいるのでは・・・と不安になって相談に。
そこで、左門は(どぶ)に、この家宝の刀を見張れ、と命令。
知り合いの盗賊に頼み、近藤家の屋根裏に侵入し、刀を見張る(どぶ)。刀は、盲目の娘(小夜)が片時も離さず持っています。ところがある夜、(どぶ)がほんの少し目を離している隙に何者かが小夜の寝室に忍び込んで刀が盗まれ・・・

第二話「白骨御殿」は、立て続けに起こる奇妙な事件の出所は将軍様のご息女が輿入れした屋敷・・・という話。
(どぶ)は、水死体の引き上げ現場に出くわしますが、この死体、顔だけが白骨化しているという不思議な状態。これとは別に、幻覚でも見てるのか、ふらついてる女形の役者と出くわします。ところがこの女形は後日死亡。この出所を探った(どぶ)は、七千石の大身旗本、土屋千四郎の屋敷が怪しいと発見。
江戸城は基本的に中級以上の武士しか入れないのですが、たまに町人や下級武士も入れるイベントが催されます。そのイベントに参加したとある小大名の十石取りの小姓が、大奥に住む、ある「訳あり」の姫様に見初められます。そこで周囲はその小姓を廃家になっていた旗本家を継がせ、そこに輿入れさせたのですが、この家で一体何がおこなわれているのか・・・

第三話「大凶祈願」は、巷で大流行している占いのたぐい、特に「犬神様」の流行はすごいもので、なんでも五代将軍綱吉の時代にいた「お犬の方」の祟りが云々、そこでお犬の方の霊廟が建てられるという話があり、その土地の提供者が、前の若年寄、土井但馬守光貞その人。この大金持ちの大名、なにかと(黒いウワサ)があり、密貿易に加担しているのでは、なんて話も。そこで(どぶ)がこの家を調べると、当主は暴君、三人の息子と一人娘はそろいもそろってごくつぶしと、まるでいい所ナシ。すると、件の霊廟の建設現場で、木乃伊が発掘されたのです。若い女性の木乃伊をしげしげと見ていた(どぶ)がふと見物人の方を見ると、木乃伊の骨相にとても良く似た女がいるのを見かけます。これとは別に、家の工事に関わった職人が次々と死んで、さらに息子たちも次々に行方不明になるという奇妙な事件が・・・

3篇とも「奇妙な事件」ですが、ホラー的、ファンタジー的なものではりません。

柴田錬三郎さん、面白い。なにを今さらという話ですが。さっそくオンラインショップで他の作品を注文しちゃいました。
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