晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

ケイト・モートン 『湖畔荘』

2024-07-14 | 海外作家 マ
先月の投稿が一冊だけで、あんまり本を読めてません。それに加えて関東南部ではまだ梅雨も終わってないというのに暑苦しい日が続いてくたばっております。「梅雨寒」とか「冷夏」なんて言葉はもう今後は無いのでしょうかね。まだ人生で一度も夏バテというのを経験したことがないのはラッキーというかありがたいですが、今後もならないとは言い切れませんからね。気をつけます。

以上、クーラーをつけましょう。

さて、ケイト・モートン。オーストラリア出身の作家さんでデビューから現在まで7作品、うち日本語訳されて日本で出版されたのが4作品。これで日本語訳された作品は全部読みました。原文でもいいんですが、さすがに原文を読む気力も知力もありません。

話は1933年、イギリスのコーンウォールからはじまります。湖畔荘と呼ばれる屋敷に、エダヴェイン家が住んでいて、父アンソニー、母エレナ、長女のデボラ、次女のアリス、三女のクレメンタイン、そして長男のセオ。もともとエレナの家系はコーンウォールの名士で、湖畔荘もエレナの家系の所有。

時代はだいぶ進んで2003年、ロンドン警視庁の刑事、セイディ・スパロウは休暇で祖父の住むコーンウォールにいます。じつはセイディは幼い女の子が行方不明になった事件で新聞記者に情報をリークしてしまい、上層部はリークした人物を探していますが、セイディの上司は気づいて「しばらくどこかに行ってろ」というわけで、祖父には休暇とウソをついてしばらくいることに。ある日、犬の散歩で森の中に入っていくと、湖沿いに長い間放置されてたと思われるお屋敷を見つけます。そのことを家に帰って祖父に告げるとエダヴェイン家の地所でローアンネス(コーンウォール方言で「湖の家」)だと教えてもらい、さらにあの家でだいぶ昔に赤ちゃんが行方不明になったという事件があったと聞かされます。
セイディは地元の図書館へ行くと、展示コーナーにミステリ作家アリス・エダヴェインの作品がずらりとあって「地元出身の作家、新作間近」と書かれたポスターを目にします。

話は変わって2003年のロンドン、ミステリ作家のアリス・エダヴェインの家に手紙が届きます。差出人はスパロウという名の警察官、じつはアリスのファンの中には現役の警官が多く、はじめはファンレターと思ったのですが、内容は1930年代のコーンウォールのお屋敷で起きた未解決事件に関するもの。
セイディは1930年代にローアンネスで起きた「事件」を調べます。それは、あの屋敷でパーティーがあった夜、家に戻るとまだ1歳になってない赤ん坊のセオがベッドからいなくなっていて、当時は警察も大々的に捜索をしたのですが見つからなかった、というのです。

その事件の捜索に加わった元警官がコーンウォールにまだ住んでいると聞いたセイディは連絡を取って家に行きます。セイディも幼い女の子が行方不明の未解決事件に深く関わっていたこともあってか、70年前の事件が気になっています。はたして70年前の事件の真相とは・・・

単行本(上下巻)で読んだのですが、上巻がなかなか読み進められなくて、ケイト・モートンの作品に共通する現在と過去がいったりきたりする展開が今回は途中で頭がこんがらがってしまって、じっさいかなり複雑な構成になってまして上巻を読み終わるまでだいぶ時間がかかってしまいましたが、下巻に入っていろいろな謎がわかってきてからはサーッと読み進めることができました。そして終盤になってきて、なんといいますか、あくまでこちらの勝手なイメージですが、なんかディケンズっぽいな、と思ってしまいました。もちろんいい意味で。
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ケイト・モートン 『秘密』

2022-10-22 | 海外作家 マ

悲しい知らせ。毎年秋のお楽しみ、千葉県の一部で栽培されてる希少品種の「紅小町(べにこまち)」というサツマイモがありまして、例年ですと9月の下旬には道の駅で販売開始になるのですが、今年は生育不良で収穫がなんと11月になるんだそうな。

なんだか今年の生サンマも細長くて食べるのが可哀想になるくらい。異常気象ですかね。まあ秋の果物系は普通に出回ってますけどね。

以上、地球の気候変動に警鐘を鳴らす。

さて、ケイト・モートン。オーストラリアの作家で、デビュー作「リヴァトン館」が大ヒット、今までの作品は全世界40カ国以上で出版され累計発行部数は1000万部を超えてるそうです。この作品はオーストラリアのなんとかという文学賞を受賞。この前の作品の「忘れられた花園」、そしてこの『秘密』は日本の翻訳ミステリー大賞と翻訳ミステリー読者賞を受賞されています。

 

1961年、イングランド東部のサフォークにある農家。私道のはずれにあるポツンと一軒家「グリーンエイカーズ」敷地内にあるツリーハウスに、ニコルソン家の長女、ローレルが寝ています。そこにある男が家に近づいてきます。この男にローレルは気づきますが、どうみても百科事典かなにかのセールスマン。家の中にいた母が玄関のドアを開けると、母はとっさにそばにいたローレルの弟を背後に投げるように置きます。するとその男は「やあ、ドロシー、久しぶりだね」と母の名前を呼びます。すると母はケーキを切ろうと手に持っていたナイフで男を刺します。その一部始終をローレルはツリーハウスから見ていて・・・

話は2011年。女優になったローレルはある病院にいます。そこに妹のローズが来ます。もうふたりの妹アイリスとダフネ、弟のジュリーはまだ来ていません。ローズから母の様態がだいぶ悪くなったことを聞かされ、ベッド脇に座ったローレルは置いてあったアルバムを見ていると、一枚の写真がはらりと落ちます。ローズに聞くと、家の掃除をしていたらたまたま出てきたそうで、若い女性がふたり写ってます。なんでも芝居の台本に挟まっていたそうで、これを聞いたローレルは母が若い頃に芝居をやっていたことに驚きます。その台本には「真の友は闇を照らす一条の光、ヴィヴィアン」と書いてあったとローズが言います。その名前を耳にしたローレルは脳裏によぎり「ヴィヴィアンって誰なの?」と聞いたところでアイリスが入ってきます。じつはその時、眠っていたと思っていた母がはっと息を呑んで苦しい表情をしたのを3人の娘たちは見ていませんでした。

1961年、母が男を刺して男が動かなくなり、警察が来ますが、母はショック状態からか何も答えません。そこにローレルが「私、あの男を見ました」と言い、男が弟につかみかかろうとしたところを母と揉み合いになったと説明しますが、男が母の名前を口にしたことは言うのを忘れていました。男はピクニック場荒らしの容疑者と外見も年齢も似ていたのでおそらくそいつだろうということで、新聞にはピクニック場荒らしのホームレスがニコルソンの家を襲って正当防衛で刺されて死んだことになっていました。その後、ローレルは俳優養成学校のオーディションに合格し、ロンドンへ旅立ちます。

再び2011年。姉妹たちが実家に帰り、食事をして話をしていると、ローレルは頭が痛いといって先に休ませてもらいます。ローレルは物置に入ってトランクを開けます。そこには1961年の母が刺した男のことが書かれた新聞記事の切り抜きが入っていて、その記事の後半部分に「ジェンキンズは1938年ヴィヴィアン・ロングマイアと結婚したが、1941年、ノッティングヒル大空襲でヴィヴィアン・ジェンキンズは死亡」とあり、病室でヴィヴィアンの名前を聞いたときに脳裏をよぎったのはこれと思い出します。しかしこのヴィヴィアンと母の知り合いと思われるヴィヴィアンは別人の可能性も。

そして話は1938年、ドロシー・スミザムが一家で海へ旅行に行ったときに、青年カメラマンのジミーと出会います。ふたりは恋仲となりますが、ジミーは仕事でロンドンに行くことが決まります。

さて、1961年に死んだジェンキンズは名前をヘンリーといい、小説家でした。母ドロシーはジェンキンズときっと親密な間柄でふたりの間に何かがあってドロシーは彼のもとから消えてずっと探し求めていたのだろうとローレルは考えますが、その証拠はありません。

ここで話は1940年のロンドン。ドロシーはジミーを追ってロンドンへやって来て、お屋敷で気難しい老婦人の世話係をして暮らしています。ジミーは戦場カメラマンとしてロンドンには不在。ドロシーは向かいの家に住む同い年くらいのものすごい美人を気にかけています。向かいの家の主人は作家のヘンリー・ジェンキンズで、美人の女性は彼の妻でヴィヴィアン。ドロシーはどうにかしてヴィヴィアンと知り合いになりたくて、彼女が国防婦人会の活動に参加していることを知ります。

2011年。ローレルは母の病院にお見舞いに。いくらか元気な母に戦争中はなにをしてたか尋ねると「国防婦人会のメンバーだったのよ」と答えます。これはローレルは初めて聞きます。そして例の写真を見せて「お母さんといっしょにいるのはお友達?」と聞くと「ヴィヴィアンは戦争中に死んだの」と答えます。すると母は「大変なことをしてしまった」とつぶやきます。ローレルはそれであの男が来たのかと思いますが、何をしたのか聞こうとしたら看護師が入ってきます。

はたして、ローレルの母ドロシーは戦時中のロンドンでヘンリーとヴィヴィアンのジェンキンズ夫妻となにはあったのか。ヘンリーから身を隠すようになった出来事とは。

時代が現代(2011年)と過去(1940、41年)と交錯し、ローレルがいろいろ調べて、戦時中のロンドンで起きた出来事が明るみになっていって、そして実は・・・というところで驚いてなぜか涙があふれてきてしまいました。ミステリーというにはちょっと弱い気もしますが、まあ「謎解き」という部分では広義の意味でミステリーではあるでしょう。

個人的に今まで読んだ海外の作品でベスト5に入ります。

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ケイト・モートン 『忘れられた花園』

2022-06-29 | 海外作家 マ

いつの間にか関東は梅雨明けしちゃいましたね。降るときにはしっかり降ってもらわないと梅雨や台風のおかげで日本は地下水や河川の水量が豊富ということもありますからね。温帯湿潤気候に住んでいれば避けようのないことでしょうがないのですが、いっぽう世界のどこかでは干ばつやら水不足やらで大変なんて地域もあるので、なかなか「ちょうどいい」なんてないものですね。

以上、地球の気候変動に警鐘を鳴らす。

さて、ケイト・モートンさん。オーストラリアの作家で、デビュー作「リヴァトン館」が大ヒット、ということですが、当ブログで確認しましたら2013年に投稿してますので9年前に読んでますね。この作家さんの別の作品も読んでみたいと思いながらはや9年。

1913年、ロンドン。小さな女の子が(おばさま)といっしょに船に乗り込みます。女の子はなにかのゲームかと思って樽の陰に隠れます。

話はだいぶ飛んで2005年、ブリスベン。カサンドラは祖母のネルの葬式の後、ネルの妹から衝撃の事実を聞かされます。それは、長女のネルは実は養女だったということ。ネルの21歳の誕生日に父親(じっさいは養父)がネルに「じつはお前は小さいころにトランクひとつだけ持ってイギリスから来た船に乗っていたところを港で働いていた私が見つけて、預かってそのまま育てた」と告白したのです。それまで仲の良かった親子間、姉妹間の関係もギクシャクしてしまいます。

カサンドラは幼少期から大学卒業までネルといっしょに住んでいました。おばあちゃんとの思い出に浸っていると、ネルの長年の友人で弁護士のベンが訪ねてきて封筒を渡します。それはネルの全財産をカサンドラに譲り渡すという内容の遺言書。さらに別の封筒を出します。これは病気になったネルがベンに「自分にもしものことがあったら封を開けてくれ」と預かっていたもので、ネルが亡くなった翌日に開封します。それは、イギリスにある家の権利書だったのです。正確にはコーンウォールのトレゲンナという村にある(クリフ・コテージ)、登記は1975年。カサンドラがネルといっしょに暮らしはじめる前の話なのでネルがイギリスに行ったことじたい知りませんでした。その別の封筒には「これをカサンドラに遺贈する。いずれその意図を理解してくれることを願って」との一筆が。

じつは養女だったと聞かされたネル。イギリスから来た船にネルといっしょにやって来たという小さなトランクを開けてみると、1913年に出版されたおとぎ話集が入っていて、開いてみて著者の似顔絵を見るなり奥底に眠っていた記憶が呼び起こされます。小さい頃に一緒に遊んだおばさま。お話のおばさま。イライザ・メイクピース。図書館に行って調べますが手がかりとなる情報は得られません。

話は2005年に戻り、カサンドラのもとにベンがやってきて、ロンドンに住むベンの娘がイギリスの地所について調べてくれたそうで、ネルの買った家の敷地はもとの持ち主がマウントラチェット家といって、ローズという娘と結婚していたのがナサニエル・ウォーカーというアメリカ人の画家。大学で美術史を専攻していたカサンドラは聞き覚えがあります。家に戻り、物置き部屋に入って、小さいトランクを見つけ出し、開いてみると、中にはおとぎ話の本とネルの書いたノートが。そこには、ネルがイギリスに行って自分の出生の秘密を解き明かそうとしたことが書いてあったのです。

居ても立っても居られなくなったカサンドラはイギリス行きの飛行機に乗り、ロンドンに着いてベンの娘に会い、そしてコーンウォールへ・・・

ここから、1900年からのイライザ・メイクピースの話と、1975年のネルのイギリスでの話と、2005年のカサンドラのイギリスでの話が絡み合っては解けてまた絡んで解けて、といった具合に進んでいきます。イライザはマウントラチェット家とはどのような関係だったのか。ローズはどのようにしてナサニエル・ウォーカーと出会い結婚に至ったのか。そしてネルはなぜひとりでオーストラリア行きの船に乗せられたのか。その時いっしょにいたはずのイライザはなぜ一緒に乗らなかったのか・・・

正直、はじめの100ページくらいまでは、話が、というより時代がぴょんぴょん飛んで「なんだか掴みにくいなあ」と思いましたが、少しずつパズルのピースが埋まってくるとそこからはページをめくる手が止まりませんでした。そしてラストで真相を知って泣いてしまいました。

物語の合間に差し込まれているイライザ・メイクピースのおとぎ話が本筋にじつにいいアクセントになっています。

久しぶりに他の人におすすめしたい作品です。喜びを共有したい、そんな自分にとって大切な人に。

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マイ・シューヴァル、ペール・ヴァールー 『笑う警官』

2018-04-05 | 海外作家 マ
当ブログで、だいぶ前ですが「日本の小説と海外の小説を
交互に読んでいけたらいい」なんて書いちまったものの、
ここ数年はほぼ時代小説。

なんとなくですが「これじゃいかん」と思い、本屋の海外
小説の棚あたりをウロウロして、見つけました。

前に佐々木譲さんの同じ題名の小説を読みまして、あとが
きに「これはスウェーデンの有名なマルティン・ベックの
シリーズもののミステリで・・・」とあり、そのときは別
に読みたいとは思わなかったのですが、あれから何年越し
でしょうかね、ようやく読むことに。

ちなみにこの作品はマルティン・ベックという登場人物の
シリーズものの4作目にあたります。
この作品はアメリカ探偵作家クラブ賞(MWA)の最優秀
長編賞を受賞しております。

記憶が正しければ、大沢在昌さんの「新宿鮫」シリーズも
4作目で直木賞を受賞したんでしたっけ。
シリーズ化された作品が、こう、まさにノリにノッて来る
ころというのが4作目あたりなのですかね。

さて、ストックホルム市内で、2階建てバスが事故を起こ
し、駆けつけた警官が車内を見ると、バスの運転手と乗客
全員が銃で撃たれて血の海に、といういきなりキツイ状況
からはじまります。

ストックホルム警察殺人課の捜査で判明したことは
・運転手、乗客8名は機関銃で撃たれて死亡
・犯人は逃亡
・乗客の中の1名のみが意識不明の状態で病院に搬送
・2階建てバスの2階に乗客はいなかった
・被害者の中に殺人課の刑事、オーケ・ステンストルム
 がいた

殺人課主任のマルティン・ベックは、なぜこのバスにステ
ンストルムがいたのかわかりません。犯行時刻は勤務時間
外の夜だったのでプライベートなことか。それとも、上司
や同僚に報告せずに単独で捜査していたのか。

唯一生き残っていた乗客が病院で意識を取り戻したという
のですが、質問をして答えてはくれますがスウェーデン語
なのか英語なのかよくわからず死亡。

ステンストルムの家に行って同棲している女性に聞いても
捜査内容までは教えてもらってません。
ですが、バスの車内では、2人並びの座席で女性と並んで
座っていたことは同棲相手に言っていいものか。
この女性に関しての聞き込みでは、恋人らしき男性はいな
かった、というのです。

わかってきたことは、ステンストルムは何かを単独で調べ
ていたようなのですが、それは何なのか。
生き残りの乗客が発した言葉の意味は・・・

このタイトルは、文中で後半に出てきますが、「笑う警官
の冒険」という古いレコードに収録されてる曲だそうです。
が、この曲は物語と特に関係あるかというと、ありません。
その代わり、ラストの数行で「うわー、なるほどそういう
ことか-!」と唸ります。
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ケイト・モートン 『リヴァトン館』

2013-06-06 | 海外作家 マ

ここ最近、本を買うといえばもっぱら文庫で、移動の途中や寝ながら
読んでたのですが、久しぶりにガッツリぶ厚いハードカバーを読んで、
軽く疲れました。

この『リヴァトン館』という作品は、2006年に作者の母国オーストラリア
で発売されてベストセラーに、翌年イギリスでもベストセラーとなり、
なんと2008年には図書館貸し出しランキングでハリー・ポッターに次いで
2位だったそうです。

ちなみに内容はというと、ハリー・ポッターのようなファンタジーではなく、
けっこう正統派なサスペンス。

老人介護施設に入所している98歳のおばあさん、グレイス。彼女のもとに、
手紙が届きます。送り主はアメリカの映画監督のアーシュラ・ライアン。
グレースがかつて女中として働いていたロンドン郊外のアシュベリー卿の
住む「リヴァトン館」で起こった悲劇を映画化したい、というもの。

その”悲劇”の生き証人はグレイスただ一人。しかし、もう思い出したく
はない、あの出来事は墓に持っていく、と誓っていたのですが、ふと気が
変わり、アーシュラに会うことに。

グレイスは、娘のルースの付き添いで、映画スタジオへ向かいます。そこ
には、「リヴァトン館」のセットが組まれています。
そこで、アーシュラは、映画の主要キャストであるアシュベリー卿の2人の
娘、ハンナとエメリンについて聞きますが、話している途中にグレイスは気分
が悪くなり、帰ります。ルースは、そもそも母が外出することに反対していて、
だからいわんこっちゃない、と連れてきたことを後悔します。
が、グレイスはというと、心は過去に戻っていたのでした・・・

グレイスの孫で作家のマーカス(ルースの息子)は、妻を亡くして傷心の旅
に出かけています。たまに絵葉書がとどく程度でどこにいるか分かりません。
グレイスは1924年に起きた悲劇までの経緯を回想し、語りながら録音しはじめ
ます。
そしてそのテープを、届くかどうかわからりませんがマーカスに送ろうと決めます。

1914年、グレイスは14歳でリヴァトン館のメイドとして働きはじめます。
じつは、グレイスの生まれる前、母親がリヴァトン館で女中をしていて、
当主の妻、レディ・ヴァイオレットから「お母さんは元気?」と聞かれ、
執事のハミルトンやコック長のタウンゼンド、そしてメイドの先輩ナンシー
も母のことをよく知っています。
どうやら、母を知る人たちはみんな母を優秀なメイドだったと褒めますが、
では、子育てをしながらでもメイドは務まるのに、なぜ母は妊娠したから
といって暇を出されたのか。このことはグレイスは聞いたことがありません。

リヴァトン館の住人は、当主のアシュベリー卿とその妻レディ・ヴァイオレット
のふたりだけですが、息子の長男ジョナサン少佐と次男フレデリックはそれぞれ
結婚して他所に家庭を持って暮らしていて、たまにリヴァトン館に帰ってきます。
次期当主のジョナサン少佐には子どもはおらず、フレデリックには息子デイヴィッド
、そしてハンナとエメリンの2人の娘がいます。

ハートフォード家は戦争の功績でアシュベリー卿の爵位をいただき、ジョナサンは
軍に入って少佐になりますが、フレデリックは事業で一旗あげようとしています。

さて、グレイスがメイドとなって最初の夏、ジョナサン夫婦とフレデリック一家が
リヴァトン館に来ます。
そうして、はじめてグレイスはハンナとエメリンに出会うのです。

ちょうどこの時代、ヨーロッパ大陸で戦争が勃発し、イギリスが参戦するかが話題
となっていて、ジョナサンはすぐにでも戦地に赴きたい様子。ですがフレデリック
は、戦闘機の生産工場を作る計画。

その冬、戦争はまだ続き、ジョナサンは戦地へ、そしてデイヴィッドもいつの間に
か軍に志願していたのです。
クリスマス休暇でフレデリックの3人の子どもたちがリヴァトン館に来たとき、デイヴィ
ッドは、友人のロビー・ハンターを連れてきます。
このハンターという男が、1924年に起きたリヴァトン館の悲劇の主人公その人です。

のちに第一次世界大戦と呼ばれる長い戦争はようやく終わりますが、ジョナサン少佐、
デイヴィッドは戦死してしまい、リヴァトン館の従僕は生きて帰ってきましたが重い
後遺症に苦しみます。
ジョナサンが亡くなったことでアシュベリー卿はフレデリックになりますが、事業は
苦しく、アメリカの銀行家の手を借りなければなりません。
その銀行家、シミオン・ラクストンの息子、テディと、ハンナがなんと結婚することに
なるのです・・・

グレイスはハンナとは”メイドとお嬢様”という関係以上に深くなり、やがてハンナの
専属の女中に。思えば、ハンナのためにいろいろ尽くしてきたからこそ、あの悲劇が
生まれてしまったのか・・・

真相は最後のほうで明らかになりますが、グレイスの回想の中でちょくちょく小出しに
伏線が忍ばせてあって、例えていうならジグソーパズルのような、完成系の絵ははじめに
分かっていて、はじめに外枠、それから風景だったり人物のピースが出来上がっていく、
そんな楽しみ。

読んでいる最中、20世紀前半のイギリスにタイムスリップしてしまったかのような
描写は素晴らしいですね。

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キョウコ・モリ 『シズコズ ドーター』

2013-04-29 | 海外作家 マ
この作品は、舞台は日本になっているのですが、作者のキョウコ・モリは
アメリカ在住で大学の英文学助教授をしていて、英語で書かれたというこ
とで、カテゴリーは「海外作家」にしました。まあカズオ・イシグロも海外
作家にしてますので、いいでしょう。

外国の作家が日本人や日本を描くと、痛いとこついてきますな、と思うこと
もありますが、たいていは誇張しすぎだったり、そもそも間違ってたりする
ことが多く、ガッカリしてしまいます。

が、この『シズコズ・ドーター』は、日本人が描く日本が舞台の内容で、
間違いはないでしょう。ただそれがアメリカ人にどう評価されたのか、
結果としては新聞の書評で絶賛され、賞も受賞していますので、これは
もう快挙でしょう。

神戸に住む12歳の有紀。”その日”は、有紀の通うピアノ教室で、レッスン
開始時間が遅れるので、家に電話します。
家には母親の静子がいて、帰るのが遅くなるよ、と伝えます。

家に帰った有紀は、台所で倒れていた母を見つけ、ガスが充満していたので
窓を開けはなちます。父の会社に電話をかけると、父は、すぐ医者を連れて
帰る、と。
もう手遅れです、と診断され、有紀は母の部屋へ行きます。そこには、ミシン台
に有紀の着る縫いかけのスカートが。

テーブルの上には有紀あての遺書が。
「母さんが有紀を愛していることは信じてください」
「母さんがいたら、有紀を邪魔してしまう」

それから一年、父は再婚します。相手は同じ会社の部下。結婚式の前に、有紀は
新しいお母さんの支度部屋へ。継母は、なんとか有紀とうまくやっていこうと
話しかけますが、有紀は、あなたを「お母さん」と呼んでもいいけど、本当の
母さんとは思わない、幸せになれるかわからない、と言います。

それから、父、継母、有紀の3人で新しい家で暮らし始めますが、継母は「この
子は私のことを嫌っている」と思い、有紀も必要以上に関わらず、父はその様子を
傍観するだけ。

学校でも、ちょっとした問題を起こしたり、違う学校の友達ができますが、仲は
長く続かなかったり、祖父母の家に遊びに行っては憎まれ口を叩いたりします。
愛情というものがよくわからなくなっている有紀。
そんな中、母の葬式から父の再婚までの一年間お世話になった叔母の彩だけには
心を開きます。

ちょっと強く握ったら壊れてしまいそうな繊細な心で、でも一方で負けるもんか
というタフさもあり、有紀は高校卒業を機に神戸を離れることに。

長崎の美術大に進学する有紀は、屋根裏にしまってあった母の遺品を長崎に持って
いこうとします。どうせ自分がいなくなったら継母は全部捨てるだろうから・・・
そこで見つけたのはスケッチブック。

母が、家族のなにげない一コマを描いていたのですが、それを見た有紀は・・・

なんともいえない空虚から、燦々とする輝きまで、その瞬間の空気感が伝わって
くる文章の表現力にハッとさせられます。

作者のキョウコ・モリも、12歳のときに母を亡くし、それからすぐに父が再婚、
はやく神戸をいや日本から離れたいと思い、20歳で渡米、ということで、自伝的
作品となっています。
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リチャード・マシスン 『アイ・アム・レジェンド』

2012-08-02 | 海外作家 マ
この作品は、もとは「地球最後の男」という題で翻訳されて、また最近ですと
(最近といっても2007年)ウィル・スミス主演で映画になった原作。

謎の病気が人類をほぼ絶滅に追いやってしまい、ロバート・ネヴィルだけが
無事に生き残ります。
その病気とは、感染した人間が死に至り、やがて吸血鬼となって蘇り、生きて
いる人間を襲うのです。
なぜ、こんな病気が蔓延したのか。原因はまったくわからず、生き残ったネヴィル
の家に毎夜、襲いかかってきます。
「出てこい、ネヴィル!」
ドアを激しく叩く音、そいつの正体はかつての同僚で友人のベンだったのです・・・

”毎夜”というのがカギで、吸血鬼になってしまった奴らは、昼どきには襲って
こないのです。
ネヴィルは家の周りにニンニクをたくさんぶら下げておきます。これも奴らを家に
近づかせないために効果があります。

他にも、杭で心臓を貫くと死ぬ、または十字架を見せると苦しむ、といった、まさに
伝説の吸血鬼の対処方法で、ネヴィルはなんとか生き延びています。

家じゅうの窓を板でふさぎ、電気の供給はストップしているので発電機で冷凍庫や
明かりをつけて、食料は冷凍食品や缶詰。

さて、このままではどうにも終わりのない恐怖が続くので、彼らが吸血鬼になった
原因を突き止めようと研究を始めます。

杭で心臓を刺して死ぬのもいれば、銃で撃っても死なないのもいます。この違いは
何なのか・・・
そして、ほんとうに生き残ったのはネヴィルだけなのか・・・

周りに誰もいなくなって、さらに毎夜に化け物が襲いかかってくる恐怖。ネヴィルは
酒を飲みまくって、人肌さみしさに女性を欲しますが、いたとしても相手は吸血鬼。
病気になったら助けてくれる人はいないので、特に虫歯には気をつけて歯磨きは念入り。
ここらへんの日常や心理の描写がじつに細かく、たんに正体不明の怪物に襲われる
だけではない怖さが身にしみます。

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ピーター・メイル 『贅沢の探求』

2011-09-23 | 海外作家 マ
今年に入って(というか、ついこの前)、これでピーター・
メイルの作品は4作目。
プロヴァンスに移り住んで、そこでの生活をつづったエッセイ
を2冊、アクションというかエンタテインメントというか、
物語小説を1冊、そしてこの『贅沢の探求』、これもエッセイ
なのですが、やっぱりこの人はエッセイが面白いですね。
いや、物語小説も面白かったですけど、まあ、エッセイのほうが
モアインタレスティング。

たとえば、たった1キロですら「歩きたくない」といってタクシー
に乗るのは、まあ並ですが、これが「贅沢」となると、リムジン。
スーツだって靴だってバッグだって、既製品ではなくオーダー。
とまあ、こういった、世にあふれる(中には「アホか」と言いたく
なるような金の無駄もある)贅沢を、“体験”してみようじゃないか、
という企画をまとめた、そんな作品なのですが、もちろん、自分へ
のご褒美として、他者への感謝の気持ちとして、贅沢な一品を買う
のは否定しません。

なんといっても、経済の原則からいって、質の良い、手間のかかる、
あるいは稀少なのだから、値は高くつく。

ごくごく実用的なもの、生活必需品しか買いません、ではあまりに
味気無い人生なので、そういう人しかいなかったら世の中も回らない
ですから、自分には縁の無い世界をちらと垣間見るのも一興。

で、最終的に「贅沢は気持ちの問題」ということが分かります。

ジャズの巨匠、ルイ・アームストロングが晩年、長年の友人に「なあ、
俺もずいぶん出世したと思わないか」といって、楽屋にあった冷蔵庫
を開けると中には卵があって「ほら、いつでも卵が冷蔵庫に入ってる
んだぜ」と言ったとか。
その気になればブラジルにいても電話一本でニューヨークの5つ星
ホテルのレストランのシェフを呼び寄せるが出来たほどの人をして。
贅沢って何なんでしょうかね。

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ピーター・メイル 『南仏のトリュフをめぐる大冒険』

2011-09-06 | 海外作家 マ
ピーター・メイルの南仏に移住してそこでの生活と綴った
エッセイ「南仏プロヴァンスの12か月」、「南仏プロヴァ
ンスの木陰から」がとても面白かったので、ほかの作品を
探しに本屋に行って、見つけてきました。

と、エッセイかと思ったら、舞台こそプロヴァンスですけど
小説形態で、まあどんなものかと思い読み始めたらこれが
また面白い。

イギリス人のベネットは30代で独身貴族を謳歌する、気まま
な男。ビッグビジネスのプランを持ちかけられて大金を騙し
取られ、仕事を探そうと、新聞広告に自分を売り込みます。

そこで連絡があったのですが、依頼主は、ジュリアン・ポオと
名乗る大金持ちの商人で、ポオから頼まれた仕事というのが、
モナコの別荘に行き、ある荷物をもらい、しばらくポオになり
すまして滞在してほしい、とのこと。

経費は自由に使ってよいとのことで、モナコへ向かったベネット
は、高級アパートメント(ポオの別荘)を拠点に、高級車に乗り
まわし、高級ブティックで買い物、高級レストランで食事と贅沢
三昧。これに気が大きくなり、昔の女性を呼び寄せるのですが、
これが事件のはじまりで、ポオから頼まれたもうひとつの仕事、
ある荷物をあずかっていたのですが、ベネットのシャワー中、
女性は訪ねてきた謎の男たちにその荷物を渡してしまうのです。

これはまずいとフランスに戻りポオに報告しますが、その犯人は
イタリア人の小悪党と見抜き、ベネットに取り戻しに行けと命令。
そして、もしもの時のために、助っ人を用意すると言われて、ふた
たびモナコへ戻ります。

その助っ人とは、かつてのポオの愛人でアンナというアメリカ人
女性。しかし経歴はイスラエル軍に在籍経験を持っていて、その
美貌とはうらはらにたよりになる存在。

盗まれた荷物が、悪党のイタリア人が所有するクルーザー内で
オークションにかけられると知り、偽名を使ってそのオークション
に参加するふたり。はたして荷物を取り戻すことができるのか・・・

この「荷物」とは、ポオが大金を使い、長年に渡って研究してきた、
トリュフの人工栽培の方法だったのです。

さて、どうにかこうにか、船内でひと波乱起こし、船から逃げ出し、
荷物を取り戻したのですが、アンナはこれを人質代わりにして、ポオ
から大金をせしめようとベネットに話を持ちかけますが・・・

骨太とはいえないですが、スリルのあるアクションです。
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ピーター・メイル 『南仏プロヴァンスの12か月』

2011-08-14 | 海外作家 マ
つい先月、なにげなく買って、読んでみたら面白く、
しかもそれが第2弾と知って、読み終わるやいなや
マッハで前作を買いにでかけて、そうやって、まあ
順番は逆になってしまいましたが、『南仏プロヴァンス
の12か月』を読んだわけです。

もともとは広告企業のビジネスマンで、ベストセラー本
を書いて、休暇のたびに短期間訪れていたプロヴァンス
地方がいよいよ気になってしまい、家も買って、移り
住んでしまった、ピーター・メイルとその妻が、はじめ
の1年間(12か月)の、移住に関しての繁雑な書類だの、
ご近所はどんな人か、また、暮らすにあたって、水道工事
などの配管工や煉瓦職人、その他もろもろの住居関連の
職人たちの、愛すべき、といっていいのか、いい加減っぷり
(よくいえばおおらか)が、愛情たっぷりに描かれています。

すでに第2弾を読んでしまっていたので、隣家や職人たち
との初めての出会いなどを知って、ちょっと嬉しかったり。

美しい自然ということはそれだけ人間が介入していないこと
であって、人間が介入していないということは住みにくいわけ
であって、すなわち美しい自然がたくさんあるんですね。

しかしそんなプロヴァンスにも人間の侵略がはじまってきて
いるようですが、しかし、自然というのは人間をときには
歓迎してくれますが、時には荒っぽく追い払おうとしてきます。
そもそも、自然を手なずけようとするなんて無理な話なのです
から、「住まわせてもらってる」プロヴァンスの住人たちは、
とても美しい。
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