晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

矢作俊彦 『ららら科學の子』

2012-08-30 | 日本人作家 や
前からタイトルは気になっていました。ということで読んでみることに。

「鉄腕アトム」のオープニングテーマ曲で有名な一節、とはいっても
ストーリー的にはロボットは関係ありません。

学生時代、学生運動に参加して、本拠地に機動隊が突入してきたところ
階段の上から物を落として、下にいた隊員が潰されてしまい、殺人未遂
になりそうだったところ、中国から来た青年に「本場の文化大革命を見に
きませんか」と誘われ、中国に逃げることに。

そして30年、中国南部の田舎で結婚もした「彼」は、日本に帰ることに
なります。蛇頭という密入国の斡旋グループに金を払い、ボロ船に詰め込
まれ、途中、伊豆あたりで「彼」は逃げ出します。そこから新幹線に乗って
東京に。
しかし、30年のあいだに東京は激変。カルチャーショックに「彼」は戸惑い
っぱなし。そこに、「彼」の昔の友達である志垣の使いである傑が「彼」の
前に現れます。
志垣は、都内の宿泊から食事から当座の金まで用意してくれて、そこまで
してもらう筋合いはないと「彼」は困惑しますが、傑は「志垣から頼まれた」
の一点張り。
それには、「彼」がひとりで中国へ行くことになった時に遡るのですが・・・

「彼」はちょっと出かけて、小腹がすいて牛丼屋に入ることに。そこで、制服
を着たままビールを飲んでる女子高生が。彼女をしげしげと眺めていると、
声をかけられます。
関わらないようにしますが彼女の方は「彼」に興味をもったらしく・・・

30年の間に変わったことといえば、実家の酒屋は無くなっていて、老人ホーム
ができるとのこと。地上げにあったようで、その際に「彼」の親は大金をもら
ってどこかに引っ越した、と志垣から聞きます。しかし両親はすでに亡くなって
います。
では「彼」が中国に行くころはまだ小さかった、なついていた妹は今どこに・・・

しかし、蛇頭のメンバーはとうとう「彼」を捕まえて・・・

東京都庁が「映画とかアニメで悪い組織の親玉が住んでいそうな」と感じてみたり、
しょう油の匂いに敏感になってみたり、その他「30年のギャップ」は想像するに
異国と故郷とが微妙に均衡を保とうとしているような。

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大沢在昌 『炎蛹』

2012-08-25 | 日本人作家 あ
だいぶ遅ればせながらですけど、「新宿鮫」にハマって、シリーズ5作目、
まできました。

今回、鮫島が追っているのは、家電などの窃盗品密売グループで、ジョー
というイラン人。
張り込んでいて、ジョーたちの車は都内を北上し、埼玉県にある倉庫に。
するとそこに、中国語らしい叫び声とともに男たちが襲撃。倉庫の中から
銃声が聞こえ、鮫島は応援を要請。

駆けつけた埼玉県警と鮫島は、ジョーの死亡を確認、アジと呼ばれていた
男は重傷で病院に搬送。一方、襲ったのは中国の福建のグループで、主犯格
は逃走。

そんな大捕物とは別に、新宿のホテル街でコロンビア人娼婦が殺害され、
さらに一件のラブホテル火災が発生します。
エレナ・マリア・ロハスを殺したのは、「サンディ」という娼婦に恨み
を持っていた男が間違えて別の娼婦を殺してしまったのですが・・・

さて、鮫島のもとに、消防庁の吾妻が訪ねてきます。新宿でおきたラブ
ホテル火災は、じつは最近都内のあちこちで多発しているというのです。
無線で時限発火装置をホテルの部屋に隠すという、新手の放火。

放火犯が娼婦を殺したのか?すると、新宿署に電話が。村上と名乗る男
は鮫島に会って、例の埼玉の事件の主犯格を知りたいのでファミレスで
待っていると言ってきます。
しかし、そのファミレスに村上という男は現れません。

そうこうしているうちに、今度は歌舞伎町のアパートでまた外国人娼婦が
殺されたのです。
被害者のリタという女性は、つい最近日本に来たばかりで、このアパート
に住むサンディのもとに居候していて、そのサンディとヒモの男は行方が
つかめず。
部屋に入ると、そこにはジョーが捌いていた家電がズラリ。サンディのヒモ、
モハムッドという男が「ジョー」なのか・・・

そこに、農水省の横浜植物防疫所の甲屋という男が入ってきます。甲屋の話
によると、リタの姉アナが成田の税関でコカイン所持に引っかかり、所持品
を調べていると、民芸品のようなものを持っていて、そこにイネの害虫の卵
が付いていたというのです。
その害虫は「フラメウス・プーパ」というゾウムシの一種で、南米の一部で
イネの被害が出たとのことで、まだ日本には入っていない大害虫。
なんでも繁殖力が尋常ではなく、もし卵が孵ってしまったら、とんでもない
被害が発生するらしいのです。
そして、この民芸品はリタも持っていたらしいのですが、部屋にはリタの荷物
は無く、サンディとモハムッドが持って逃げたらしく・・・

ラブホテルの連続火災の犯人は何者なのか、サンディを追って人違いで2人も
女性を殺害した男は何者なのか、そして害虫の卵はどこに・・・

別々の話のようですが、それぞ小さな接点でつながっていて、まるで雑多な
新宿という街をあらわしているよう。

消防庁の吾妻、農水省の甲屋、そして埼玉県警(ちょっとだけですが)の捜査一課
の人。このシリーズに出てくる別の組織は、たいてい鮫島の邪魔をしたりするの
ですが、今回はむしろ味方というか彼の良き理解者となっています。

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A・J・クィネル 『ブルー・リング』

2012-08-23 | 海外作家 カ
この小説は、クリーシィという凄腕の元傭兵のシリーズ第3弾で、
残念ながら最初と第2作はまだ読んでいません。
ただ、文中のはしばしに、前にどういうことが起こったのか、そして
クリーシィにはマイケルという養子がいるのですが、どういった経緯
で縁組になったのか、ある程度わかるようになっていますので、迷子
になるようなことはありません。

ヨーロッパのあちこちで、若い白人の少女が行方不明になるという事件
が発生していて、デンマークの刑事イェンスは、現地に行って捜査したい
と上司に告げますが、警察は出張を認めてくれません。

そうこうしてるうちに、誘拐された少女たちは、麻薬漬けにされて、今
にも海外に運ばれようと・・・

一方、クリーシィとマイケルは、ベルギーのブリュッセルにある高級娼館
の経営者から、「ブルー・リング」という、謎の組織のことを聞きます。
ところがクリーシィは古傷が傷んで入院することに。そこでマイケルは
前に「ブルー・リング」について聞き込みにきたデンマークの刑事のもとへ
向かいます。

イェンスはマイケルから話を聞いて、デンマーク警察の正式な出張ではなく、
休暇を取って、マルセイユに行くことに。

マイケルは、クリーシィの退院を待つことなく、自分でもやれるんだという
ところを見せたいという気持ちからか、マルセイユで聞いた怪しい組織の
アジトに乗り込もうとしますが、情報は筒抜けになっていて捕らわれてしまい
ます。

それを聞いたクリーシィはすぐさまマルセイユに直行。組織のアジトに乗り
込んで、捕まっていたマイケルとイェンスを、そして2人の少女を救出。

どうやらブルー・リングとは白人少女奴隷組織らしく、ヨーロッパ、北アフ
リカにまたがっていて、その親玉はイタリアにいるようなのです。

デンマーク人の少女はイェンスと武器商人の紹介の男とふたりで家に送る
ことになり、もうひとりの少女ジュリエットは、クリーシィの幼女となり
ます。つまりマイケルにとっては妹。
ジュリエットを家に置いて、いざイタリアへ・・・

しかし、イタリアじゅうのマフィアはクリーシィを目の敵にしていて、のこ
のことイタリアに来た彼は捕まってしまい・・・
そこで、クリーシィは、マフィアのボスにブルー・リングについて訪ねて
みますが、マフィアのネットワークではないとのこと。

クリーシィはどうにかこうにか救出され、マフィアのボスはブルー・リングに
ついて独自でしらべようとした矢先、暗殺されてしまいます。
どうやら、バチカンが絡んでいるのか・・・そして、解散したはずのイタリア
のフリーメイソン「ロッジァ・P2」の残党が絡んでいるのか・・・

そして、マイケルの幼少時代、学校から帰る時に塀に座っていてじっとマイケル
を見つめる謎の女(のちに母とわかる)は、悪いアラブ人に騙されてマイケルを
産むのですが、育てられずに教会に置いてくることに。
その、マイケルの父親?と思しきアラブ人の正体も、のちに明かされることに。

もう、読み始めたら止まりません。

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山本一力 『かんじき飛脚』

2012-08-19 | 日本人作家 や
この『かんじき飛脚』の時代は天明九(1789)年、この年、年号は
寛政に変わります。有名な「寛政の改革」ですね。
この前に、浅間山の噴火で大飢饉が起こり、一揆、打ち壊しなどが全国
で多発、さらに公儀(江戸幕府)内では賄賂などが横行していて、もう
しっちゃかめっちゃかな状態で、その戦犯とされたのが田沼意次だった
のですが、後世の研究では、そんなに悪い人ではなかった(吉良上野介
もそうですね)との見方もあるそうですが。

まあそれはさておき、老中に就任した松平定信は、さっそく「棄捐令」
を発布。これは山本一力の小説でたびたび登場しますが、当時の金貸し
だった札差という、米を担保にして武家にお金を貸す商売だったのです
が、これが武家の大借金という悩みのタネになり、いわばその借金を
「チャラにしてやる」という法令。
しかし、これによって札差たちはそれまでの大金ばら撒きといった生活
を控えるようになりますが、じつは江戸の経済の末端を支えていた札差
たちの豪気な振る舞いが無くなったことで、庶民の生活が苦しくなるこ
とに。

はじめこそ拍手喝采だった改革も、ふたをあけてみれば前より酷い生活
になるとは・・・ここで庶民の、また各藩が幕府に怒りの矛先を向けたら
たまったもんではありません。

定信は、「御庭番」という、幕府の隠密軍団を利用して、大きくて影響力
の強いふたつの藩の謀反をでっち上げようと画策します。そのふたつとは
加賀藩と土佐藩。

前置きが長くなりましたが、ここからが『かんじき飛脚』の物語となります。

藩は「人質」として藩主の内室(奥さん)を江戸に住まわせていて、たまたま
加賀と土佐の内室が病に臥せっていることを知った定信は、なんと年明けに
夫婦同伴で宴会のお誘いをするのです。

これは何か裏があると、加賀藩江戸詰用人の庄田要之助は、懇意にしている
土佐藩の江戸留守居役、森勘左衛門と密会することに。

もし、宴会に内室が同伴できなければ、たちまち公儀から謂れのない嫌疑
をかけられ、最悪の場合は藩の取り潰しとなります。

絶対に表に漏れてないはずの内室の重い病気がどうやって公儀に知られたのか・・・
上屋敷にスパイがいるに違いないと探します。

一方、それはそれとして、幕府からのお誘いは断れず、なんとか内室の病気を
治さなければならないとして、加賀藩に伝わる特効薬(密丸)を急いで江戸へ
運ぶため、加賀の飛脚屋「浅田屋」は、江戸支店と加賀本店とで連携プレーを
駆使して、年末いっぱいに密丸を飛脚によって運ぶことに。

金沢から江戸まで、夏場なら5日、冬なら7日というスーパーマン集団の浅田屋の
飛脚。
しかし、時は師走、日本海側から中仙道あたりは大雪で、しかも途中には「親不知
・子不知」があるのです。

富山県の魚津と糸魚川の間にある、崖のへりに狭い道幅で、上からは風が吹き降りて
きて、下からは大波が襲う、落ちたら一巻の終わりという危険極まりない場所。

しかし、飛脚には危険はそれだけではありません。密丸の存在を知っている定信は、
何としてでも薬を江戸に持ってこさせないように、刺客を送り込み・・・

この飛脚たちの仕事にかけるプライド、彼らの背景など、読んでいくうちにどんどん
引き込まれていって、ページをめくる手が止まりません。

トラックに飛脚のマークをあしらった、現代の某宅配業者の配達が酷いというのがネット
上で話題になってたりしますが、彼らにこの本を「教科書」として研修時に読ませれば
いいのになあ、なんて。
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楡周平 『フェイク』

2012-08-16 | 日本人作家 な
楡周平といえば、ハードなアクションエンタテインメント小説でおなじみ
ですが、この『フェイク』は、ソフトな路線。

主人公、陽一は、田舎で生まれ育ち、大学入学のため上京。大学といっても
名乗るのが恥ずかしいような偏差値最底辺の大学で、就職活動も悲惨な状況
で、かろうじて内定をもらったところが、飲食関係の会社。

といえば聞こえはいいのですが、ようはクラブのボーイ。といってもそこら辺
の安キャバクラなどではなく、いちおう銀座の一流クラブ。しかし安月給。

ある日、下半身に違和感があって、病院に行ったら性病といわれ、高い薬代
を払い、大学時代の友人で、実家の酒屋(歌舞伎町にある)で働く謙介に
借りる始末。

さて、そんなカツカツな生活を送る陽一ですが、よそのクラブから引き抜かれ
てきた新しい摩耶というママの専属運転手をすることに。なんとボーイの月給
とは別に日当がもらえるとあって、陽一は大喜び。この摩耶ママ、少人数の太い
客(来店のたびに大金を落としてくれる上客)を引っ張ってきて、年収はなんと
一億近くというから驚き。
さらに、ひとりの上客の愛人をしていて、高級マンションに住んでいます。

そんな摩耶ママの送迎をするようになって懐具合もよくなり、大学時代からお
付き合いをしている彼女、さくらとデート。
急に羽振りのよくなった陽一から、ホステス業についてあれこれ聞くさくら。
なんでも、実家の印刷工場が大変らしく、ホステスになりたいというのですが、
陽一は反対します。するとさくらは、じゃあ風俗をやる、と言い出します。
仕方なく、摩耶ママに話だけはすると約束することに。

なんと、摩耶ママはさくらを気に入って、ママの妹分ということで採用。

しかも、実家の印刷工場の話を聞いて、ママの上客のひとりから、印刷の仕事
を回してもらうことに。

ママとはプライベートな話や悩みなども聞くようになる陽一ですが、送迎の
ほかに、もう”ひと仕事”があるんだけどやらない?というお誘いが。

それは、さくらの印刷工場に仕事を回した、ワインの貿易をしている社長が、
とある事情で安いワインを大量に仕入れてしまい、それを捌くために、陽一
の働いてるクラブに置いてあるワインとすり替えてほしい、というのです・・・

そもそも、ディスカウントショップにいけば数千円で売られているものを
数万~数十万で売る銀座のお店で、それを”見栄”だけで払うような客に
ワインの味など分かるはずもない、と怖気づく陽一にはっぱをかけるママ。

さくらの実家に仕事が回り、社長も無駄になるはずだったワインが捌け、その
おかげで陽一には臨時収入が入り、ママも大助かり。
しかも、うっかり謙介に話をしてしまい、歌舞伎町のホストクラブにワインを
卸しているということもあって、その”ビジネス”に乗せてくれ、ということで
謙介も加わることに。

ところが、そうそうウマイ話が続くはずもなく、謙介は大金を手にして調子に
乗って、ノミ屋で競輪をやって大借金をこしらえて、ワインの裏仕事を頼んだ
社長は買い付け先の海外で脳梗塞で倒れ、さらに追い討ちをかけるように、
ママの妹分としてホステスのイロハをママから教わっていたさくらが店を
移るというのです。しかも摩耶ママの愛人だった上客を寝取って・・・

ヤクザに追われる謙介、ワインの仕事はいったん無かったことになり、摩耶ママ
は悲しいやら怒りやら、そこで摩耶ママは、なんとか”元”愛人をギャフンと
いわせたいと、ある策略を計画するのですが・・・

いわゆる「コン・ゲーム」とよばれる詐欺小説。詐欺といっても、騙されるほうに
救いようのない悲劇が訪れることはなく、痛快さがあって、楽しめました。

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服部真澄 『バカラ』

2012-08-12 | 日本人作家 は
今までパチンコを一度もしたことがなく、競馬も付き合いで行って数百円
の馬券を買ったのが数回ほど、つまり賭け事にはまったく興味がないの
ですが、ということで、この本のタイトルにもなっている『バカラ』という
ゲーム?ですか、もちろん名前くらいは知ってます、いろいろ有名な方が
バカラで大負けしたとか何とかで。でもルールは知りませんでした。

しかしこの小説、たんに賭け事にハマっていく人間の話だけではなく、
日本の経済、いや日本の国を揺るがす大事まで展開してゆくので、まあ
ギャンブルをよく知らなくても楽しめます。

「ゲートライン」という会社の社長、日継は、とある画廊へと向かいます。
ゲートラインは日継が小さな会社を作ってから急成長し、買収、売却を
繰り返して短期間で大企業となり、つい先日も銀行を買収したばかり。

そこに画廊主の小牧が近づいてきます。小牧は大資産家で、政財界に顔
が利くという大物。
ここ最近、いろんなことに虚しさを感じ始めた日継。それを見抜く小牧。

日継と小牧は何のために会ったのか、そして、小牧が日継にけしかけた
こととは・・・

話は変わって、中堅の出版社に勤める志貴は、バイヤーの仕事で海外から
帰ってきた妻と会います。そこで妻から、そろそろ持ち家を買いたいという
話が。ふたりとも高給取りで生活費はお互いが自分のぶんだけを出している
この夫婦、志貴の給料は年収一千万ほどなのですが、妻の提案を避ける様子。

というのも、志貴は、前に取材の一環で仲良くなった情報源の男に誘われて
闇カジノに行って、それ以来バカラにハマってしまい、給料の大半、ボーナス、
はては会社から借りられる取材費までも借りて、ピンチの状態。

そんな中、カジノで知り合ったヨウジという、噂で社長をやっているという
くらいの情報しか知らない男がいるのですが、ヨウジも同じくバカラで負け
越していて、週刊誌の記者をしている志貴に”ネタ”を売ってきます。

その”ネタ”というのが、アフリカの小国、ロビアの大使館で、闇カジノが
行われている、というのです。
張り込みをしてみると、そこに現れたのは、人気漫画家の黒木魅春・・・

これを詳しく掘り下げて記事にしようと編集長に話しますが、黒木はこの
出版社で漫画を書いていて、コミックやキャラクターの権利などなどで
莫大な売上を貢献してくださってる「黒木先生」の暗部ネタを記事になど
できない、と及び腰。

またまた話は変わり、志貴の週刊誌のフリーライター、明野は警視庁公安部
の男と密会。男から、おたくの週刊誌でカジノに関する肯定的な記事を書いて
ほしい、と頼まれます。
そこで先輩ジャーナリストの風間から話を聞きついでに、風間があるパーティー
に出席していたことを知ります。その会には、パチンコ業界の大物フィクサーが
出席しています。そして出席している政治家の顔ぶれを見ると、カジノ合法化に
むけての話がされたようで・・・
そして、その会に、なんとゲートライン社長の日継の名前が・・・

いよいよ首が回らなくなる志貴、大使館の闇カジノの取材で一発でかいスクープ
で起死回生をはかりたいところですが、さすがに数千万の借金はどうにもならず、
いよいよ自己破産か・・・と思っていたところにヨウジから助け船が。
ヨウジに連れて行かれた倉庫にある金庫の中には、大量の札束が・・・

志貴がギャンブルにハマっていってどうにもならなくなるまでの話、出版社での
さまざまな人間模様、カジノ合法化に動く勢力、そして日継の謎の行動、これら
が複雑に絡み合って、事態は思わぬ方向に。

文中で、志貴がバカラで百万円勝って、じつはこれが落とし穴、というところに
「なるほど」と。というのも、負け続けても「前に百万勝ったから」という自己暗示と
いうか自信過剰になって、まあそういう時は面白いもので、勝てないんですね。

最終的に儲かるのは胴元だけ、というのも「なるほど」と。



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山本一力 『いすゞ鳴る』

2012-08-08 | 日本人作家 や
この小説は、山本一力の今まで読んだ作品とはちょっと違って、ふたつの
舞台を織り交ぜてあり、まあ、とはいっても例えば「日本橋」と「深川」の
ふたつの舞台が出てくる作品もありましたが、『いすゞ鳴る』は、江戸と土佐
という遠い遠い距離です。

さて、どういったことで江戸と土佐がつながってくるのか、というのは物語の
核心なのですが、一言でいうと「お伊勢参り」です。

土佐の鯨漁師の男たち、そして江戸の深川に住む両替商の主人やその他住人たち、
これらがお伊勢参りに行くまでの話と、現地での話となっていて、それこそ「弥次
喜多」のような道中での話は軽くしか出てきません。

ところで、このお伊勢参りに欠かせないのが「御師」と呼ばれる、ツアコンといい
ますか、この御師の先導で旅に出ることになっていて、御師になれるのは、地元の
尊敬をあつめている人格者で、知識、博識、見識もひろく、また、夢見で予言なんか
もできちゃったりします。

この”予言”がキーワードで、土佐の鯨漁師を率いる御師は「お伊勢参りで出会う、
江戸の子どもは、いずれ土佐に来る」、そして江戸の御師はというと、裏店に住む
ごく平凡な家族のひとり息子を、自分の後継者だと予言し、旅に同行させます。

といって、この少年、名前を朝太というのですが、彼が主人公かというとそうでは
なく、話の主軸は、土佐の鯨漁師の歴史や暮らしぶり、江戸深川の両替商、伊勢屋
の歴史や深川界隈に住む住人たちの暮らしぶりとなっています。

土佐藩のなりたちは、藩主の山内家の初代、「功名が辻」でおなじみの山内一豊が
関ヶ原で豊臣方に味方したということで外様となり、江戸幕府が開かれてから、御城
築城の資金や材料などを出させられたり、世間では「土佐いじめ」といわれるほど、
ようは幕府は土佐藩の謀反を恐れ疑っていました。

そこで、幕府から土佐に派遣される役人には、ありとあらゆる接待をして、謀反の
疑いなしのお墨付きをいただくことになります。
その接待の中でも特に喜ばれたのが、鯨の肉。このおかげで、本来は造ることが御法度
とされていた高速船も鯨の漁のためなら、ということでお目こぼしされることに。

安政二(1855)年に江戸で起きた大地震、のちに「安政の大地震」と呼ばれる震災
で江戸ではたいへんな被害となり、その翌年、地震の影響なのか、正月が明けても土佐湾
に鯨がまったく姿を見せなくなり・・・

一方、江戸の深川にある両替商の大店、伊勢屋は、代々がしっかりとした商いを信条と
してきて人々からの信頼も厚く、安政の大地震の前年、主人の勘兵衛は当主を息子に譲り
ます。
そこで、隠居用の住まいとして離れを普請してもらうことに。完成してすぐに地震があり、
棟梁は震災の犠牲になりましたが、離れはびくともしませんでした。
そして、棟梁の息子のために、庭に高い柱を立て、鯉のぼりをあげ、住民に無料で柏餅を
配ります。
そんな勘兵衛はお伊勢参りに行くことになり、御師から「伊勢では土佐からの客たちと相宿
になるであろう」との”予言”を耳にします。
地震でも壊れなかったのはもちろん棟梁の腕によるものですが、土佐の木材を使ったことが
良かったということで、もし土佐の人たちと会ったらぜひその件を話そうとします。

さて、それとは別に、大地震を”予言”していた裏店の住人がいて、周りの住人はまったく
信じません。しかし、その女性のいうことを信じたのが先に述べた朝太でした・・・

文庫で500ページと、やや長めの話なのですが、正直、話を拡げたりして、もっと長くして
もよかったのではないかと思いました。それくらいの軽い物足りなさを感じてしまうくらい
物語に入り込んでしまいます。まあそのくらいの按配がいいんでしょうね。

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海堂尊 『極北クレーマー』

2012-08-05 | 日本人作家 か
海堂尊の「バチスタ」シリーズは宝島社からで、それのスピンオフ的な作品は
他の出版社から、ということになっているようで、この『極北クレーマー』は、
「螺鈿迷宮」からの流れといっていいんでしょうか、または「ジーン・ワルツ」
に繋がってゆく、さらにいうとバチスタシリーズとも関連はあって、最終的に
「全部読め」ということですね。

北海道にある架空の街、極北市は、人口10万で、第3セクターで遊園地やホテル、
スキー場を作っていずれも失敗、巨額の財政赤字を抱えている倒産寸前の自治体。

そこにある極北市民病院も市の失策のあおりを受けて、いつ閉鎖に追い込まれても
おかしくない状態で、そんな病院に、極北大から医師が派遣されてきます。

今中は、いわば貧乏くじを引かされたようなもので、誰もが嫌がる極北市民病院
にやって来ます。
聞いていた”悪い噂”は、病院の事務長に案内されている間に実感します。

勤務態度の酷い看護師連中、入院患者は褥瘡(いわゆる床ずれ)だらけ、自他共に
認めるダメ医者の研修医、事務方と院長は仲が悪く、はやくも今中は後悔します。

しかし、そんな中にあって、産科医の三枝医師は市民からの尊敬も厚く、この病院
の良心といっていいような存在ですが、今中の歓迎会の席で、今中が来る前にある
医療事故を起こしたと聞きます。

その”事故”で赤ちゃんと奥さんを失った極北市の消防士、広崎のもとに、医療
ジャーナリストを名乗る女性が近づいてきます・・・

一方、市民病院では、院長の要請で皮膚科の医師がやって来ます。その医師とは、
「バチスタ」シリーズに出てくる白鳥の部下、姫宮。
はじめは、厚生労働省の役人だということを隠して、この市民病院に来たのですが、
それはさておき、姫宮が来てからというものの、医師を小馬鹿にしていた看護師連中
が言うことを聞き出し、患者たちの褥瘡問題も改善され、少しずつですが病院の
雰囲気が良くなってきます。

ところで今中ですが、外科部長の肩書きの他に「病院環境改善検討委員会」委員長と、
さらに「リスクマネジメント委員会」の委員長も就任しろ、と院長から辞令が。
このリスクマネジメント委員会で、院内医療事故調査委員会が近々開かれることに。

そもそも姫宮は、いや正確には白鳥は、なぜこんな小さな病院を調査するのか。その
裏には「司法対医療」という大きな問題が・・・

そんな中、赤字経営の病院の立て直しを強く望む市長の要望で、「日本医療業務機能
評価機構」なる団体の査察を受けることになります。
そこに、妊婦死亡事案に対する損害賠償の請求が・・・

ジャーナリスト、西園寺さやかという女性は、極北市の監察医のもとへ。このふたりの
関係とは。

いちおうメインの話としては、財政破綻に陥った自治体運営の病院の問題、ならびに
臨床研修制度の問題、出産時の医療事故訴訟、などなどですが、そこにちらちらと出
てくる謎めいた人物、謎めいた話の流れに関しては「詳しくは他の本に書かれているので
そちらで」といった感じで、気になります。

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リチャード・マシスン 『アイ・アム・レジェンド』

2012-08-02 | 海外作家 マ
この作品は、もとは「地球最後の男」という題で翻訳されて、また最近ですと
(最近といっても2007年)ウィル・スミス主演で映画になった原作。

謎の病気が人類をほぼ絶滅に追いやってしまい、ロバート・ネヴィルだけが
無事に生き残ります。
その病気とは、感染した人間が死に至り、やがて吸血鬼となって蘇り、生きて
いる人間を襲うのです。
なぜ、こんな病気が蔓延したのか。原因はまったくわからず、生き残ったネヴィル
の家に毎夜、襲いかかってきます。
「出てこい、ネヴィル!」
ドアを激しく叩く音、そいつの正体はかつての同僚で友人のベンだったのです・・・

”毎夜”というのがカギで、吸血鬼になってしまった奴らは、昼どきには襲って
こないのです。
ネヴィルは家の周りにニンニクをたくさんぶら下げておきます。これも奴らを家に
近づかせないために効果があります。

他にも、杭で心臓を貫くと死ぬ、または十字架を見せると苦しむ、といった、まさに
伝説の吸血鬼の対処方法で、ネヴィルはなんとか生き延びています。

家じゅうの窓を板でふさぎ、電気の供給はストップしているので発電機で冷凍庫や
明かりをつけて、食料は冷凍食品や缶詰。

さて、このままではどうにも終わりのない恐怖が続くので、彼らが吸血鬼になった
原因を突き止めようと研究を始めます。

杭で心臓を刺して死ぬのもいれば、銃で撃っても死なないのもいます。この違いは
何なのか・・・
そして、ほんとうに生き残ったのはネヴィルだけなのか・・・

周りに誰もいなくなって、さらに毎夜に化け物が襲いかかってくる恐怖。ネヴィルは
酒を飲みまくって、人肌さみしさに女性を欲しますが、いたとしても相手は吸血鬼。
病気になったら助けてくれる人はいないので、特に虫歯には気をつけて歯磨きは念入り。
ここらへんの日常や心理の描写がじつに細かく、たんに正体不明の怪物に襲われる
だけではない怖さが身にしみます。

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