晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

高橋由太 『もののけ本所深川事件帖 オサキ江戸へ』

2018-04-28 | 日本人作家 た
この作品は、第8回「このミステリーがすごい!」大賞の
(隠し玉)として世に出たもの。

(隠し玉)とは、あとがき解説によれば、出版社の編集部
が「落選はしたけどぜひとも出版したい」と思わせた作品
で、すべての回にあるわけではなく、これで3作品めなの
だそうな。

面白ければ必ず売れるという確証などはありませんが、応
募してきた中で「一番面白い作品を選ぶ」のが公募の文学
賞なので、選考委員の方はそれでいいのでしょうが、出版
社にしてみると、なにはともあれ本を売らなければいけな
いので、作品の出来不出来ももちろん大事ですが「売れる
か売れないか」という視点で見たら「あ、これ売れそう」
と思ったから本を出したということなので、例えばこうい
った(落選作)がのちに大ヒットしたからといって、選考
委員が節穴だったとかそういうことではありません。

さて、時は江戸後期、江戸の深川に周吉というオサキモチ
がいます。「オサキ」とは狐の形をした妖怪の類で、その
オサキに憑りつかれた人間をオサキモチというそうな。
他の人はオサキが見えませんし、周吉とオサキの会話も聞
こえません。

で、この周吉、もともとは江戸から遠く離れた田舎出身な
のですが、村で酷いことがあって江戸に出てきます。
そんな周吉ですが、深川にある献残屋(けんざんや)の主、
安左衛門に拾われて奉公人となります。
「献残屋」とは、武家の多い江戸では時候の挨拶や「ひと
つよしなに・・・」といった貢ぎ物などのやりとりが盛ん
でして、いくら高級な皿だ壺だ絵だといっても宝の持ち腐
れですので、とっとと売っちまうのが正解でして、そこで
こういった故買商の出番となるわけです。

もう百年以上も戦が絶えた天下泰平の世の中、武士はどん
なに剣や弓馬の技術に長けていてもそれで食べてはいけず、
町にはアウトローと化した浪人がウロチョロし、治安は日
増しに悪化。

深川でも、夜中にいきなり槍で突かれるという殺人事件が
頻発し、周吉は夜回りに出ます。周吉はオサキモチではあ
りますが特別な霊能力があるわけではありません。とはい
ってもオサキという妖怪に憑かれているわけですからそこ
らへんの人間よりは(人間離れ)しています。

さっそく槍突きが登場、しかも単独ではありません。殺さ
れる!と思ったそのとき、周吉の顔見知りの蜘蛛ノ介とい
うお侍さんが助けに・・・

献残屋には(お琴)というお嬢さんがいるのですが、どう
やら周吉とお琴の縁談話が着々と進んでいます。
ところが周吉はウブというか鈍感というか、全く気付いて
いません。

槍突きの事件は収まったのですが、まだまだ夜は物騒。
そんなある夜、お琴の姿が家にありません。もしや誘拐・
・・?

物語の冒頭に、小僧と坊主の不気味な話があるのですが、
そこからいきなりこの周吉とオサキの話に飛びます。
まあ最終的に冒頭の話と本編は繋がるのですが、繋がり
が見えてくるまでに途中チラッチラッとヒントらしきも
のは出てきますが、あの冒頭の話はなんだったんだろう
と喉に魚の小骨が引っかかったような違和感がずーっと
残っていました。

それよりも読んでて気になったのは、無理に時代言葉を
使わなくてもいいのになあ、と思ってしまったこと。
そう感じてしまうくらいに、何か時代小説に気を遣って
るなあ、と。キャラ設定やストーリーはさすが編集部に
「これを埋もれさすのは惜しい」と思わせたほど。

もっともそんなのは「余計なお世話」で、この作品はシ
リーズ化されて、他にも多くの作品を出されています。

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池波正太郎 『忍者群像』

2018-04-22 | 日本人作家 あ
この前読んだのが「剣客群像」で今回が忍者、あと他に
「仇討群像」という作品もありますが、これはまたいつ
の日にか。

こちらが想像しうる行動は相手も忍者だと判っているは
ずで、さらにその裏をかかないといけないので忍者もの
は書くのが大変だ、と池波さんもあとがきでこぼしてい
るくらい(それがまた楽しみでもあるそうです)、まあ
読んでるほうもけっこう大変なもので。

さて『忍者群像』ですが、短編集です。書くまでもあり
ませんが、全編の主人公は忍者。

本能寺の変で、秀吉が毛利との戦を中断して引き返す、
例の有名な「中国大返し」ですが、これには信長側に、
そして明智側にも忍びがいて・・・という「鬼火」。

十七年前に山に逃げていた明智光秀を討った岩根小五
郎という忍びのもとに仲間から「明智は生きている」
と教えられ、もしや自分が討ったのは影武者?・・・
という「首」。

秀吉の天下取りのために次に狙うのは関東の北条氏。
ですが小田原城は「難攻不落」との噂もあり、秀吉は
得意の籠城攻めにしようとしますが、秀吉が北条側に
送り込んだ忍びによれば、家臣に「城を出て戦おう」
と言っているものがいるのですが、忍びの寅松はいか
にして・・・「という寝返り寅松」。

徳川家と真田家の合戦の際に真田幸村と忍びに命拾い
された武士が、あれから数十年のち、大坂でふたたび
幸村と忍びと相対することに・・・という「闇の中の
声」。

実質的に家康の天下となり、あとは秀頼をこちら側に
従わせるだけとなりましたが、そうやすやすと応じる
はずもなく、秀吉の筆頭家来でありながら三成が嫌い
という理由で東軍についた加藤清正は忍びの者を使い
・・・という「やぶれ弥五兵衛」。

徳川家の家臣、水野監物忠善は剣術、弓馬が好きでし
たが世の中は戦が絶えて数十年。そんな水野に幕府の
老中、酒井忠勝は三河の岡崎に国替えを命じます。
これには特に意味は無かったのですが水野は「自分に
尾張家の見張りをせよとの御命令だ」と勘違いします。
そして酒井が水野家に送り込んだ忍びによると、監物
が名古屋城に侵入しようと・・・という「戦陣眼鏡」。

江戸初期の幕府転覆計画「慶安の変」に、自分は長宗
我部元親の子と名乗る忠弥という槍道場主。忠弥は、
軍学者の由井正雪と通じていて・・・という「槍の忠
弥」。

短編ですので、忍びが騙し騙されの応酬というにはい
きませんが、しかしそこは短編の名手、短いあいだに
もアッと驚く「仕掛け」が施されています。
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藤沢周平 『隠し剣孤影抄』

2018-04-18 | 日本人作家 は
だいぶ遅咲きで本を読む楽しさをおぼえてから、いつの
間にか時代小説を率先して読むようになったのですが、
藤沢周平さんの作品は「なんか暗い」という先入観とい
うか偏見があったので、今にして思えば「読まず嫌い」
だったと思うのが「海鳴り」「蝉しぐれ」を読んで、暗
いというのは「味わい深い」のだな、若いうちにはこの
深さは判らんだろうなあと思ったものですが、今回読ん
だ作品の解説に「藤沢周平の初期は暗い一方の作風」と
あって「はぁ」となりました。

さて、この作品は短編集で、主人公の共通点は「剣士」。
といっても、門弟を百や二百を抱える道場主や不敗を誇
る達人といった人ではなく、強いがゆえに、秘伝の技を
知ってるがゆえに無益な争いに巻き込まれてしまう、と
いったもの。

「剣客商売」でも「好むと好まざるにかかわらず」相手
の申し出を受けなければならない、そんな世界を描いて
いますが、現代の平和な日常にいる身からすると「まあ
大変だったんだろうなあ」とのん気な感想。

藩内に新しくできた道場からたびたび試合の申し出があ
りますが断り続ける絃之助。ところがある夜に雰囲気で
関係を持ってしまった女性がじつはその道場主の女房だ
と・・・という「邪剣竜尾返し」。

極端な怖がりで妻からも馬鹿にされているような侍が、
あることから藩の若殿の身辺警護を任され・・・という
「臆病剣松風」。

藩のゴタゴタに巻き込まれて父が暗殺された志野。と
ころが、自分の許嫁が父が殺された夜に非番で近くに
いたらしいというのですが、もしや許嫁が藩に伝わる
代々隠密を請け負う家なのでは・・・という「暗殺剣
虎ノ眼」。

悪政の根源とされる殿の愛妾を斬ってしまった藩士の
三左エ門。が、沙汰は想像以上に軽く、数年後には元
の家禄に戻ります。近習頭取という殿の傍仕えとい
う役に就いたのですが、殿は「お前の顔など見たくも
ない」と・・・という「必死剣鳥刺し」。

同僚を斬って牢獄にいた狭間が脱走し、かつて同じ
剣道場で修業した宗蔵に狭間を捕まえてこいとの命
令が。ふたりの実力は拮抗していたのですが、師匠
は宗蔵に秘伝を教え、それから狭間は師匠と宗蔵に
恨みを抱くように・・・という「隠し剣鬼ノ爪」。

近ごろ結婚した同僚の奥さんが美人だったので、そ
の妹もさざかし美人だろうと思って結婚してみたら
十人並みで、ふてくされて夜遊びの毎日な俊之助。
藩内で不明瞭な金の流れがあって、その内偵に抜擢
される俊之助ですが、とうとう相手の尻尾を掴みか
けたらバレてあろうことか決闘を申し込まれます。
ところがそれを知った俊之助の妻の邦江が「夫では
なく自分と勝負を」と・・・という「女人剣さざ波」。

兄が亡くなって、あろうことか夜な夜な義弟の寝室に
来る義姉。義弟には許嫁がいるのですが、義姉は「喪
に服している」といって実家に戻ろうとせず、義弟は
誘いを拒み切れません。が、そのうち「あいつは義姉
と・・・」などという噂が広まって・・・という「悲
運剣芦刈り」。

家督を息子に譲って隠居した小関十太夫。が、息子
が果し合いに敗れます。果し合いの相手というのが、
十太夫と長年のライバル関係の伊部帯刀の倅。
おそらく相手も生きてはいまいと思った十太夫でした
が、伊部の倅は死んでいません。聞けば相手は助太刀
を呼んでいたという卑怯な振る舞いで、これに怒った
十太夫は帯刀の家に乗り込み・・・という「宿命剣鬼
走り」。

どれもあらすじを書いただけでは「暗い、じつに暗い」
と思われるでしょうが、中にはラストに暗い隙間から
一筋の光が見えてくる作品もあります。
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真保裕一 『ダイスをころがせ!』

2018-04-14 | 日本人作家 さ
真保裕一さんの作品はけっこう好きです。なぜ「けっこう」
なんて言葉をチョイスしたのかというと、まだ5作品しか
読んでないのに好きだファンだいうのはちょっと。

真保裕一さんといえば江戸川乱歩賞でデビュー、「ホワイ
トアウト」が映画化され一躍有名に、ということでミステ
リ、サスペンス、アクションといった作風なのかと思いき
や、前に読んだのは、ミステリではありながらもコメディ
タッチで、幅が広いなあと感心したものでした。

さて、この『ダイスをころがせ!』は、選挙小説です。
選挙とはいっても、特に堅苦しくはありません。それどこ
ろかミステリ要素もあります。

会社を辞めて妻と子に出ていかれた駒井健一郎。再就職先
を探しにハローワークに行った帰り、偶然に高校の同級生
の天知達彦が声をかけてきます。話を聞けば天知も勤めて
いた新聞社を辞めたのです。なんと達彦は次の衆議院選挙
に出ようかと思ってると言い出し、さらに、健一郎に達彦
の選挙活動を手伝ってほしいとお願いします。街中で偶然
再会したというのはウソで、じつは達彦は健一郎が就職活
動中だというのを噂に聞いていたのです。

ところがこのふたり、高校時代に女性関係でちょっとした
揉め事が。しかし卒業してからもう10年以上、お互いに
34歳といい年で人生経験もそれなりに積んでいます。

立候補はふたりの地元の静岡県秋浦市の選挙区から出馬し
ようと考えていますが、そもそも立候補しようと思った
きっかけは、市の公共事業である疑惑があり、それを追求
しようと健一郎は新聞社を辞めたそうなのですが、じつは
その秋浦市の公共事業というのは達彦が前にいた会社での
プロジェクトだったのです。

はじめは老人ホーム建設の計画だったのですが計画は中止、
代わりに大規模な再開発になったのです。達彦は中止の責
任を取らされ子会社に出向させられる前に辞表を出します。
で、この老人ホーム建設が中止になるとスクープ記事を出
したのが健一郎でした。

それからなんだかんだで結局達彦は健一郎の(秘書)にな
ります。実家に戻っている妻と子とはまた一緒に住みたい
と思っていますが、就職活動どころか友達の選挙の秘書と
はフザケルナといったところ。
ですが、一応給料は健一郎の少ない貯金から出してくれる
し、選挙が終わるまでという期間限定でなんとか許しても
らいます。

地元に戻ったふたり。無所属で立候補の予定なので選挙の
お手伝いは基本的にかつての仲間たち。知名度も無ければ
カネも無し。はたしてどのように戦ってゆけばいいのやら
・・・。

天知達彦は、祖父が静岡県知事だったのですが、戦時中に
突然辞任し、その理由を誰にも告げないまま亡くなります。
どうやら建設会社との癒着があったという噂なのですが、
それを明らかにしたいというのも立候補したきっかけのひ
とつでした。

どうにかこうにか形は整ってきて、この時点でまだ衆議院
は解散してないので、当面は「政治活動」をしていこうと
するのですが、駅前で街頭演説をしはじめると、2日目に
いきなり「汚職知事の孫が・・・」などというビラがまか
れます。その後も嫌がらせはエスカレートし・・・

次の衆院選に出馬予定の政治活動と並行して市の再開発の
問題を調べていくのですが、はたしてどのようなカラクリ
が出てくるのか。
さらに、高校時代に達彦と健一郎が揉めることになった、
同級生のサキ。どうやら彼女は秋浦に帰ってきていて、
健一郎と会っているのか・・・

文中で、選挙というのは、当選させて国会に送り込んで、
地元に補助金や公共事業という名の五穀豊穣を祈るお祭り
なんだ、というのがあって、たしかにそう考えると、選挙
でやたら楽しそうな人がいますが、祭りの血が騒ぐという
のもあるのでしょうが、なるほどそっちの一面もあるの
かと腑に落ちました。
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マイ・シューヴァル、ペール・ヴァールー 『笑う警官』

2018-04-05 | 海外作家 マ
当ブログで、だいぶ前ですが「日本の小説と海外の小説を
交互に読んでいけたらいい」なんて書いちまったものの、
ここ数年はほぼ時代小説。

なんとなくですが「これじゃいかん」と思い、本屋の海外
小説の棚あたりをウロウロして、見つけました。

前に佐々木譲さんの同じ題名の小説を読みまして、あとが
きに「これはスウェーデンの有名なマルティン・ベックの
シリーズもののミステリで・・・」とあり、そのときは別
に読みたいとは思わなかったのですが、あれから何年越し
でしょうかね、ようやく読むことに。

ちなみにこの作品はマルティン・ベックという登場人物の
シリーズものの4作目にあたります。
この作品はアメリカ探偵作家クラブ賞(MWA)の最優秀
長編賞を受賞しております。

記憶が正しければ、大沢在昌さんの「新宿鮫」シリーズも
4作目で直木賞を受賞したんでしたっけ。
シリーズ化された作品が、こう、まさにノリにノッて来る
ころというのが4作目あたりなのですかね。

さて、ストックホルム市内で、2階建てバスが事故を起こ
し、駆けつけた警官が車内を見ると、バスの運転手と乗客
全員が銃で撃たれて血の海に、といういきなりキツイ状況
からはじまります。

ストックホルム警察殺人課の捜査で判明したことは
・運転手、乗客8名は機関銃で撃たれて死亡
・犯人は逃亡
・乗客の中の1名のみが意識不明の状態で病院に搬送
・2階建てバスの2階に乗客はいなかった
・被害者の中に殺人課の刑事、オーケ・ステンストルム
 がいた

殺人課主任のマルティン・ベックは、なぜこのバスにステ
ンストルムがいたのかわかりません。犯行時刻は勤務時間
外の夜だったのでプライベートなことか。それとも、上司
や同僚に報告せずに単独で捜査していたのか。

唯一生き残っていた乗客が病院で意識を取り戻したという
のですが、質問をして答えてはくれますがスウェーデン語
なのか英語なのかよくわからず死亡。

ステンストルムの家に行って同棲している女性に聞いても
捜査内容までは教えてもらってません。
ですが、バスの車内では、2人並びの座席で女性と並んで
座っていたことは同棲相手に言っていいものか。
この女性に関しての聞き込みでは、恋人らしき男性はいな
かった、というのです。

わかってきたことは、ステンストルムは何かを単独で調べ
ていたようなのですが、それは何なのか。
生き残りの乗客が発した言葉の意味は・・・

このタイトルは、文中で後半に出てきますが、「笑う警官
の冒険」という古いレコードに収録されてる曲だそうです。
が、この曲は物語と特に関係あるかというと、ありません。
その代わり、ラストの数行で「うわー、なるほどそういう
ことか-!」と唸ります。
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