晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

鈴木光司 『シーズ・ザ・デイ』

2010-08-30 | 日本人作家 さ
鈴木光司といえば、「リング」「らせん」「仄暗い水の底から」で、
日本のホラー小説レベルの高さを内外に知らしめた功労者的
な作家とみなしていて、そんな鈴木光司の書く、帯によれば
「感動の大作!」とは、これはもう期待値も高いってものです。

突然、妻から離婚を切り出された、船舶メーカー社員の船越達哉。
大学時代にヨット部に入り、たちまち海と船の楽しさに魅了され、
船に対する情熱のために、融通のきく公務員になり、退職してまで
行きたかった念願のヨットでの太平洋横断で事故に遭い、同乗クルー
を亡くすという悲劇に見舞われながらも、その後も海とかかりあって
きて家庭をかえりみなかったことで、妻が去ってしまいます。

そんな中、ヨット仲間の岡崎の所有しているヨットが売りに出ている
という情報を聞き、船越はそのヨット「リアクター3世号」を、離婚
して新居を売ったお金の一部で買い、船上暮らしをはじめるのです。

ヨット購入の契約を取り交わすときに、岡崎は代理の女性を寄越します。
稲森裕子と名乗る女性は、面白いものを船越に渡します。
それは、16年前、フィジー沖で転覆した、船越の乗っていた「ブルー
ラグーン3世号」の、海底に沈んだ位置を示す海図だったのです。
稲森はダイビングショップを経営しており、フィジーでダイビングを
していて、この船を発見。
それを岡崎に話したところ、この件を船越から聞いて知っていた岡崎は
稲森を代理に寄越した、というわけだったのです。

忌まわしい記憶がよみがえる船越。すると、一本の電話が。かけてきた
相手は、月子。かつての船越の恋人で、「ブルーラグーン3世号」が
フィジー沖で転覆した時に生き残った同乗クルー。

電話の内容は、晴天の霹靂。月子は16年前、転覆事故に遭って帰国して、
船越の子を妊娠していることがわかり、しかし月子の兄に説得されて実家
に戻り堕胎することになり、船越との仲はそれで終わっていたもの、と
思っていたのですが、じつは月子は、そのときの子を出産していたのです。
そして、陽子と名づけられた船越の娘が、家出をしたというのです。

中学3年生の陽子はなんと妊娠していて、年齢と妊娠を隠して、伊豆の旅館
でアルバイトをしていることが判り、船越は月子に、自分にまかせてくれと
伊豆まで自分の船で向かいます。
いろいろあって岡崎と稲森も同乗することになって、陽子を見つけ出します。
しかし、子供は生みたい、母のもとには帰りたくないという陽子。
船越はわかる気がしました。自己中心的、虚栄心のかたまり、他人を利用する
ことしか考えない、心と頭のネジが数本“いかれてる”月子のもとに、船越
としても返すのはしのびなく、稲森にひとまず預かってもらうことに。

船越と月子の交際したては、はじめこそワガママも可愛い範疇に見えていて、
船越は月子をクルーに育てようと船と海の知識を教えて、ある日、念願だった
ヨットでの太平洋横断をするクルーを探しているという情報を耳にし、船長は
知り合いだったので、船越は採用されます。そして、長い航海で、すこしでも
華やかさが欲しいと思い、月子もクルーとして紹介したことが、悲劇のはじまり
だったのです・・・

16年前の航海の途中にパラオに寄り、船越はある男の消息を探します。
それは、自分の父親。船越がまだ母のお腹にいる時に、船大工をしていた父親は
突然蒸発してしまいます。それまでも、たびたび「南洋へ行く」といっては、
一ヶ月ほど家を空けていたという父親。母から聞いた数少ない情報によると、
どうやらパラオであろうということで、この島に長く住む日本人に聞いてまわり
ますが、まったく掴めません。

父親は南洋に行くといって家庭を捨てて、パラオで何をしていたのか。
そして物語は、「ブルーラグーン3世号」の転覆までの経緯、このとき、クルー
たちの間でどんな軋轢が起こっていたかが描かれていきます。
さらに、登場人物たちの「血」と「運命」に翻弄されてゆくさまがとても面白く、
「運命のいたずら」といっても、ご都合主義的なところはあまり感じさせず、そこに
畏敬の念をおぼえるほどです。

ただ、ちょっとどうしても気になったところは、月子と、船越の母の設定。
あれ、それで終わりにしていいの?という置いてけぼり感があったかな。
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ディーン・R・クーンツ 『ストレンジャーズ』

2010-08-27 | 海外作家 カ
前に、クーンツの「ミスター・マーダー」という作品を読んで、その
あとがき解説で、「冒頭で主人公の作家が、自分で書いた記憶のない
文章がタイプで打ってある云々が、『ストレンジャーズ』に似ている」
と、自身の作品のオマージュというか、そういうのが上手だ的なことを
書いてあったのですが、確かに、カリフォルニアに住む作家ドミニック
、通称ドムは、ある朝目覚めると「おれは恐ろしい、おれは恐ろしい、おれ
は恐ろしい・・・」とタイプで打ってあり、もちろんこんな文を打った
記憶はドムにはない、といった始まり。

さらに、ドムは、これだけではなく、重度の夢遊病で悩んでいたのです。
起きたらガレージだったりクローゼットの中だったり。そして、手には
包丁、護身用の銃などを持っていたのです。

この悩みは、処女作の小説が、出版権の争奪戦で高額になり、有名作家に
なってしまったプレッシャーからなのか、じっさい、精神科医を訪ねてみて
も、そのようなカウンセリングをされるのです。
睡眠薬や安定剤を処方されて、それを飲むと一応は落ち着くのですが、また
いつ悪夢がぶり返すかわからず怯えます。

しかし、同様の悩みで苦しんでいるのは、ドム以外にもいたのです。
ボストンに住む、女性医師のジンジャーは、ある日デリカテッセンに居合わせた
眼鏡、黒い手袋の男を見て、恐怖に襲われます。息も苦しく、歩調も定まらず、
逃げるようにして家に帰ります。
しかし、将来を有望視されている若手医師ジンジャーは、先輩医師からの信頼も
厚く、手術をすることに。しかしジンジャーにはあの時の恐怖があり、もし手術
中に危なくなったら・・・そして、心配は的中。手術を終えて、何者かに襲われる
幻覚を見たのか、暴れ叫んで意識を失うのです・・・

さらに、ラスベガスの母と娘、シカゴの神父、ネヴァダのモーテル経営者の夫、
彼ら彼女らも、何かしらの恐怖に怯えているのです。
そして、その恐怖には、ある共通点があるのです。それは「月」。

いったい彼らに、夜に見上げればそこにある月が何をしたというのか。彼らの
恐怖とは。そして、彼らが「見た」ものとは・・・

文庫で買って、上巻は、それぞれの人物が味わう恐怖の状況を描き、じわじわと
謎が分かっていくかと思えばまた謎は深まっていき、の繰り返しで、正直読み進む
のが遅かったのですが、後半、とうとう謎が解明されつつある状態になってきて、
こんどはやめられなくなるくらい引き込まれて読み進むのが早い早い。

相変わらずというか、ホラー、スリル、サスペンス、ミステリー、SF、ロマンス、
なんでもありのごった混ぜ、それでも最終的には上手にまとめて、また別のクーンツ
作品を読みたくなる、ここが魅力ですね。

スティーヴン・キングをして「これは最高傑作だ!」と言わしめるほどです。

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宮本輝 『道頓堀川』

2010-08-23 | 日本人作家 ま
先日読んだ「泥の川」と「蛍川」、そして『道頓堀川』の3作で
「川3部作」を読了いたことになりましたが、宮本輝作品はほか
にも「流転の海」がシリーズとしてあり、これはまだ読んでいない
ので、今から楽しみです。

それにしても、この「川3部作」は、なんというか、昭和を描いて
いるのに、明治の香りが漂ってくる、そんな作風で、この3作に
共通しているのは、「死」が身近で起こり、それなりに登場人物に
影響をおよぼすわけではありますが、あざとくお涙頂戴にしない
というか、自然主義よりも自然に人間を描く追求が感じられるあたりが、
明治文学とどこか通ずるものがあるのでは。

両親をはやくに亡くしてしまった邦彦。大学に通うも、親の遺してくれた
金額では生活も苦しく、道頓堀川近くの喫茶店「リバー」に住み込みで
働かせてもらいます。
マスターの武内は妻を病気で亡くし、息子の政夫がいますが、毎日遊び
にくりだして、家にはあまり帰ってきません。
武内は、終戦で引き上げて大阪に帰って来て、生活の糧として、ヤミ市で
働き、そのうち、子どものころから上手だったビリヤードで稼ぎだします。
ヤミ市時代に知り合った未亡人の女性を出会い、やがて結婚。
市場で成功し、ちゃんとした店を構えるまでになっても、賭けビリヤード
はやめることができず、妻と幼い息子のいる家庭を顧みず勝負に夢中。
やがて、妻は息子を連れて、男と消えるのです・・・

邦彦の父にかつて世話になったという料理屋の主人や、その父の愛人、
顔見知りの水商売のまち子姐さん、まち子の飼っている3本足の犬、と
いったサブキャラクターもいい味を出していて、華やいだ街の中にあって
そこに暮らす人たちは、ごく普通の生活をしていて、困ったときには助け
合い、別に派手派手というわけではありません。

一見、地味とも思える、淡々と話は進み、ドラマチックな大展開も特に
なく、それでも読ませる、というのは、前に読んだことがあったな、と
思い出したのが、半村良の「雨やどり」という作品。
こちらは歌舞伎町が舞台となっていて、東西違えど大繁華街で暮らす人々を
描いており、そこには、都会では廃れてしまったと思われた人情や心意気が
しっかりと残っていて、濁流に抗いながらも生きていく、そんなたくましさ
が見えます。
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スコット・トゥロー 『推定無罪』

2010-08-18 | 海外作家 タ
スコット・トゥローといえば、ジョン・グリシャムやリチャード・ノース・
パタースンなどと並んで、1980年代後半のリーガル・サスペンス小説
ブームの旗手、として有名ですが、特にこの『推定無罪』は、小説は本国
アメリカでベストセラー、イギリスのミステリー文学賞受賞、さらに、
ハリソン・フォード出演の映画は大ヒットと、まさに金字塔といった作品
なのですが、『推定無罪』以降に出版された小説を先に読んでしまった感想
としては、これが最初にして最高だったのではないか、と。

もちろん好き嫌いはあるでしょうが、『推定無罪』は大衆文学的に描き、
それ以降の作品は、純文学的に描いたり、また、純文学と大衆文学の橋の
中間のようにした、とする作品もあったりして、なんというか、いい意味
でいえば「新鮮」なんでしょうけど、この「ぶれ」が賛否の分かれるところ
でもありますね。

でも、今まで読んだ作品すべて、緻密な構成、人物の背景や心理、情景といった
描写は見事で、法廷における、原告対被告といったシンプルな対決構図だけでは
なく、そこに、裁判のあり方、さらに法制度そのものを問う、といった主テーマ
は、たんにハラハラドキドキするだけでなく、いち裁判の深み、重みを感じさせ
てくれます。

4月、女性検事のキャロリンが、自宅で殺害されているのを発見されます。
検死結果によると、性的暴行を受けた後に後頭部に打撃を受けて死亡したと思われ、
キンドル郡の地方検事、レイモンドは、検事補のロバート・サビッチに、検察側
からこの事件の捜査を依頼します。
しかし、じつはかつてロバートは一時期、キャロリンと関係を持った時期があり、
複雑な思い。さらに、地方検事の選挙が間近に迫って、出馬するレイモンドは
頼んだまま多忙で、ロバートの相談に耳をかしてくれず、同じく次期検事選挙に
立候補している、ロバートと同期のニコ・デラ・ガーディア(通称ディレー)から
は、レイモンドの負けは濃厚で、じぶんの当選したあかつきにはロバートを次の
主席検事補にしたいとのたまいます。

ロバートは仲の良い刑事のリップの協力のもと、独自で捜査をはじめます。
そこに、かつてキャロリンが担当していた保護観察時代のファイルが抜けている
ことに気づいたロバートは、なんとか時間の空いたレイモンドにその件を訪ねると、
あるコピー用紙をロバートに渡します。
そこには、ある男が、賄賂を送って無罪となり、それに検察や判事が絡んでいる、
という匿名の手紙で、なんとそこには、ディレーの片腕の検事補モルトの名前が・・・

捜査も行き詰まっていた中、晴天の霹靂が。キャロリンの部屋にあったグラスに
ついていた指紋が検出されます。なんとそれはロバートの指紋。
ロバートは、キャロリン殺害と、独自捜査でつかんだ情報を検察に教えなかった
情報隠避の疑いがかけられ・・・

本筋に並行して、ロバートが精神科医にカウンセリングを受けているシーンが
あり、心の悩みを吐露します。
キャロリンとの出会い、家庭がありながら彼女に惹かれてしまった自分の脆さ、
妻バーバラと自分との問題、そして、突然キャロリンから別れを切り出された
ときのショック、さらに、その後釜の愛人は、ロバートのよく知る人物。
夜、ロバートはショックからか、酒で開放的になったからか、バーバラに不倫の
事実を告白。しかしバーバラは夫を愛していて、別れない、と。
そしてロバートには、ある恐ろしい感情が芽生えます。キャロリンが死ねばいい・・・

ロバートの弁護士には、キンドル郡内きってのやり手弁護士、アレハンドロ(サンディ)・
スターンが担当することに。原告である検察側には、新任の検事であるディレーと、
検事補モルト。

ここから、裁判となっていくのですが、この裁判の判事には、ラレン・リトルという
検察の敵、被告の味方として有名な黒人判事が担当に。しかし、検察側証人に、なんと
レイモンドの名前が。
はたして、ロバートは無罪を勝ち取れるのか。キャロリンを殺したのはいったい誰か。
警察、検察に漂うきなくさい雰囲気。ロバートは嵌められたのか・・・

裁判の行方、真犯人と知るごとに「ええっ」「ああっ」「マジっ?」と思わず声が
出てしまうほど。家で読んでいてよかったです。

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宮本輝 『螢川』

2010-08-16 | 日本人作家 ま
よく、宮本輝の本の裏表紙にあるプロフィールに、代表作が挙げられて
いて、「泥の川」で太宰治賞、「螢川」で芥川賞、そのご「道頓堀川」
で川の3部作完了・・・とあり、これら初期の作品にようやく手をつけ
てみようかと。

文庫で購入。表題『螢川』と「泥の川」も収録されていて、あと「道頓堀川」
も買い、いちおう書棚には川の3部作が揃ったカタチにはなりました。

まずは「泥の川」。
終戦から10年経った昭和30年の大阪、堂島川と土佐堀川が合流して安治川
となり大阪湾に注ぎ込む、その安治川にかかる昭和橋のたもとでうどん屋を営む
夫婦と、子どもの信雄を中心に、川沿いでのごみごみとした雑多な空気感の日常
が描かれています。
そこにある日、うどん屋近くに舟が停泊します。信雄と同年代くらいの男の子
と、姉らしき女の子がどうやらこの舟の住人。
男の子は喜一といい、喜一は橋の上で事故死した馬車引きの商人の荷車を、雨の中、
眺めています。それを目撃する信雄。荷車の鉄を盗もうとしていると思ったので
声をかけてみます。
しかし喜一は「これ、馬車のおっさんのやろ」と、知っている様子。
話は途絶え、川を見下ろしていた少年が突然、大きな鯉を見つけます。
「お化け鯉」と呼び、その全長は信雄の背丈ほどはあろうかというほど大きく、
しかし、喜一は、この鯉を見たことは内緒だと言うのです。
不思議に思う信雄。そして喜一はぱっと振り返ると走り去ってしまいます。

ここから、信雄と喜一のちょっとした交流があり、姉の銀子は信雄の母に気に入られ、
ちょくちょくうどん屋に遊びにきます。
しかし、信雄はあるショッキングな事を耳にします。喜一の住んでいる舟は
「廓舟」と呼ばれていて、川沿いの住人、とくに男たちのあいだでは知られていた
のです・・・

つづいて『螢川』。
こちらは、昭和30年代中ごろから後半あたりの、富山での話。
中学生の竜夫には、還暦を過ぎた父重竜、それよりだいぶ若い母千代という両親
があり、重竜は、戦後復興期には商売で成功したものの、その後陰りが見えて、螢川
今では日がな家でラジオを聴いています。
重竜と千代は再婚同士で、重竜は前妻とは子どもがおらず、千代は男の子がいた
ものの、前夫に愛想を尽かし、子どもを置いてきます。
そんなふたりが出会ったのは、まだ重竜が羽振りの良かったころに、千代は料理屋
の番頭補助として働いていて、やがて千代は重竜の子を身ごもり、重竜は離婚し、
千代と再婚、そして竜夫が生まれます。が、その時点で重竜は52歳。

ある日、重竜が家の中で突然倒れます。脳溢血で、持病の糖尿病も悪化していて、
何がしか障害は残るだろうと医者に告げられます。

竜夫は4月に中学3年生に進級、受験生となります。
クラスメイトで仲良しの関根は、竜夫の幼馴染みの英子と同じ高校に行きたいが
ために猛勉強をはじめます。以前から関根は英子が好きだ好きだと公言していて、
竜夫はどうかというと、子どもの頃こそよく遊んだものの、中学に入ってからは
ほとんど口もきいていません。

4月に入って、大雪が降ります。
季節はずれの大雪の年は、富山市内を流れる川の上流にいくと、ホタルが大量発生
する、という話を竜夫は祖父から聞かされていて、今年はまさに4月の大雪、子ども
のころに、英子にこの話をしていて、英子も誘おうかと迷います。

重竜の入院が長引きそうで、竜夫は父の持っていた手形を換金してもらいに使いに
出かけます。
そして千代は、新聞社の食堂の賄い婦として働き出し・・・

両作品とも、戦後の話なのですが、作品の雰囲気は、どことなく明治時代を思わせます。
タッチが古風、とは水上勉さんのあとがき解説にあったのですが、確かに、セピア色
をしているような描写といいましょうか。
「泥の川」は、大阪の下町の、湿ってゴミゴミした雰囲気を、『螢川』は、富山の
街並みや自然を、こちらはアッサリと描いています。

この2作とも、そんなにハッピーな話ではありません。どことなく物悲しげというか、
それはどちらも、主人公の近辺に訪れる「死」が物語に絡んでくるからでしょうか。
しかし、その死を大々的に描いていないというか、どちらも主人公が少年なので、
若さあふれるエネルギッシュや甘酸っぱさがありつつも、身近なところに死はある、
そういった部分が古風なイメージを思わせたのでしょうね。


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ディーン・R・クーンツ 『バッド・プレース』

2010-08-13 | 海外作家 カ
スティーヴン・キングとディーン・R・クーンツといえば、かたや
「モダン・ホラーの旗手」、こなた「B級ホラー全開」。同じホラー
でも評価が違うのですが、記憶が正しければ、お互いがお互いの作品の
ファンだそうですね。

キングより先にクーンツにハマり、なんでもアリなストーリー展開で
読み出したら止まらない魅力があるのですが、どうにも今回読んだ
『バッド・プレース』は、その勢いがなかったというか、文中にのめり
込めなかったのです。
作品自体の問題なのかわかりませんが、訳者がいつもと違う方で、初めて
お目にかかった、ということが一因なのか・・・
だからといって、英語での原文はとてもではありませんが読む気力は無い
ので、訳者の「せい」にはしたくはないのですが、とにかく、クーンツ作品
にしては、読了までに時間がかかってしまいました。

静かな夜、男は突然、目を覚まします。しかし、今いるところ、自分は何者
なのか判然としません。
ようやく自分の名前を思い出す男。フランク・ポラード。
他に思い出すのは(暴風のなかに蛍の群れ)と、奇妙なフルートのような音。

とにかく、今いる場所から逃げたほうがいいと感じるフランク。路上駐車して
ある車を盗み、出ようとすると、いきなりブルーの閃光がフランクを襲い・・・

なんとか逃げおおせ、車を走らすポラード。どうやら、自分はカリフォルニア
にいて、しかもこの地域の地理は知っている様子。そして、手元にあった鞄を
空けてみると、中には大量のドル札と、知らない名前の身分証明書が。

何者かに追われているという恐怖心にとらわれたままのポラード。鞄にあった
知らない人の身分証明でモーテルに泊まり、目覚めると、ポラードの顔からは
血がしたたり、シーツは血まみれ、傍にはみたことのない奇妙な虫、そして
なぜか手には黒い砂・・・

どうにもならないポラードは、ある私立探偵社に依頼します。「ダコタ&ダコタ」
というボビーとジュリー夫婦が営むこの探偵社に、自分の存在と、金の出所、
虫と砂は何なのか、調べてもらうことに。

はじめジュリーは何となくこの調査に乗り気ではなかったのですが、人の良い夫
ボビーの説得で受けることに。

たんなる記憶喪失でもない、からかっている様子もない、とりあえずポラードを
入院させて、検査をしてもらいます。
探偵社の社員からひとり、日系のハル・ヤマカタを見張りにつけていたその日の夜、
強く風が吹いて、どこからかフルートのような笛の音が。
そして、ハルの目の前で、ポラードが消えてしまったのです・・・

軽いネタバレとして、ポラードを追うには、弟のキャンディで、ポラードは実母を
殺し、母を崇拝していたキャンディは兄を憎み、双子の妹も長兄を憎みます。
そして、兄の行方を捜し、兄に関わる者はみな殺しにしてゆくのです。
この兄弟姉妹には、ある「特殊能力」があり、ポラードが突然消えるのもそうですが、
風とフルートのような音の正体は、キャンディが近づいてくるときに出る音なのです。
なぜポラードは母を殺さなければならなかったのか・・・

そして、ジュリーの弟で、ダウン症で施設で暮らすトーマスは、どういうわけか、
このキャンディとコンタクトを取れるのですが・・・

ホラー、ミステリー、サスペンス、SF、そして人間ドラマもあり、もう寄せ鍋
というか、闇鍋のような状態で話は展開され、最終的には、シメの雑炊とでも
いいましょうか、ああ、これでこそクーンツの世界だよ、と満足。
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三浦明博 『滅びのモノクローム』

2010-08-09 | 日本人作家 ま
この作品は、第48回江戸川乱歩賞受賞作で、よくこのブログでも
書いているように、乱歩賞といえば、「新人で即戦力」をおおいに
期待されていて、実際、過去の受賞者を見てみると、そうそうたる
顔ぶれです。しかしだからといって、全員が全員、受賞後に大活躍
しているわけではなく、まあ、それはどこの世界でもいっしょで、
プロ野球でドラフト1位で鳴り物入りで入団しても「あの人は今」
状態になってしまうことも珍しくはない、プロの厳しい世界なので
すからね。

東京に本社のある広告代理店の仙台支社勤務、日下は、二日酔いで
ふらつく中、仙台の神社で行われてる骨董市を見てまわります。
そこで、日下は、たばこを吸っているところを、ある女性に咎められ
ます。その女性は骨董市で出店していて、その店構え(というほどでも
なく、ただシートに商品を並べているだけ)をみると、食器セットも
箪笥もどれも高額。しかも、その女性はあまり商売の気はなさそう。

商品を見てみると、ある行李に、釣りのリールが入っています。それは
イギリス、ハーディ社製のフライフィッシング用リール。
これは「ビンテージ」と呼ばれる、マニア垂涎のリールで、日下はこの
リールを欲しがるであろう人物を知っていて、このリールを1万円で
買い、ついでにこのリールの入っていた行李も貰います。

売り主の女性は、アンケートに答えてほしいと日下に頼み、職業、趣味、
商品を買った動機などを答えます。
そして、この行李の中には、スチールの缶も入っていたのです。

スチール缶の中には、古くなった映像フィルムが入っていて、触ると
ボロボロと割れてしまうほど。
ちょうど、会社にフィルムに詳しい人物にたずねてみると、ある職人を
紹介してもらいます。

一方、骨董市でリールと行李を売った女性、月森花は、実家の日光にある
旅館に戻ります。市で売っていた商品は、家にある蔵の中にあったもので、
持ち主の祖父から承諾を得ていたのですが、行李の中のリールとスチール缶
は、祖父の趣味とは結びつかず、花は祖父に聞いてみると、たちまち祖父の
顔色が悪くなり・・・

日下は、職人にお願いしていたフィルムを見てみると、外国人とおぼしき男
が釣りをしている映像。場所はどうやら日光らしいことが分かります。

祖父は倒れて入院してしまい、花はリールとスチール缶の謎が分からずにいる
ところに、自称雑誌記者を名乗る男が訪ねてきます。
記者は、戦時中に起こったあるテーマについて調べていたのです。どうやら
そこに、祖父が知っていることがあるらしいのですが・・・

釣り、それもフライフィッシングというマニアックなジャンルと、戦時中の
忌まわしい出来事を絡めて、本筋とマニアックなジャンルとが混合すると、とも
するとごちゃごちゃしてしまうのですが、その辺りはきちんと整理されている
といった構成、ですが、その代わりにスカスカ感は否めませんでした。
登場人物の描写も、メイン級は印象薄く、逆に脇役のほうが印象に残るといった
チグハグ感があったかな。


前に、ミステリー系の新人賞で、プロの作家の選評だから、ありふれたトリック
は通用しないと思ったので、ボディビルをテーマにした、という作品があった
のですが、そういえばこの『滅びのモノクローム』の翌年の受賞作は、プロレス
をテーマにしたミステリー。
たんなるガイドブックではない、そこに喜怒哀楽の込められた物語があって、
知らない世界を垣間見たような気にさせてくれるのが読書の楽しいところ。


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スティーヴン・キング 『ペット・セマタリー』

2010-08-06 | 海外作家 カ
20年くらい前でしょうか、「ペット・セメタリー」という映画が公開され、
海外でも、日本でもヒットしたことはよく憶えているのですが、しかし
それがスティーヴン・キングの原作で、彼の名前は、当時、映画小僧だった
ので、よく耳にしていたのですが、残念ながら本を読むという習慣がなく、
それから20年を経て、ようやく原作を読むことに辿りついたわけであります。

映画では「ペット・セメタリー(Pet Semetary)」と、英語のスペルは正解
なのですが、原作の小説では「セマタリー(Sematary)」となっており、
これは文中に登場する「ペット霊園」という場所があり、ここは近所の子ども
たちが手作りしたもので、入り口の看板に書かれている文字に間違いがあって、
(作品中では「ペット“礼園”」としている)それをタイトルそのままにしている
のです。

大都会シカゴから、メイン州の田舎、ラドロウに越してきたクリード一家。
医師で、メイン大学の診療所に勤めるここになる父ルイス、その妻レーチェル、
そして娘でお姉さんのエリー、息子で弟のゲージは、そしてエリーの飼い猫
チャーチはラドロウの一軒家に移り住み、隣家のジャドとノーマ老夫婦にあいさつ
をします。
とても人の良いふたり、ジャドは気さくで、ノーマは関節炎を患いながらも
親切で、はじめルイスは、自分の職業を隣人の「よしみ」で利用されるのを
嫌がったのですが杞憂、老夫婦はそんなそぶりも見せず、すぐに打ち解けます。

家の敷地はとても広く、裏側は森になっていて、その森に入る小道があります。
それをジャドに訊ねると、あの奥はペット霊園になっている、と言います。
近所の子どもたちが、自分たちで手作りした霊園だというのです。
そして、クリード一家はジャドに連れられて、その霊園へと向かいます。そこは
森の中にぱっとひらけた広場になっていて、奥にはうずたかく積まれた倒木の山。

いよいよ大学の診療所で働きはじめるルイス。早々、ジョギング中に交通事故に
あったという学生が瀕死の状態で運び込まれてきます。頭が割れて、出血もひどく、
ここから大きな病院に搬送してももはや間に合わないこの学生が突然、口を開いて
何か話し出します。
「ペット霊園では・・・」
はじめルイスは意味がわからず、幻聴かと思うのですが、学生は次にはしっかりと
「あの霊園には近づくな」
といった意味の言葉を話し、があああとうなり声をあげ、こときれます。

そして、その後、家で寝ていたルイスのもとに、事故死した学生、ヴィクター・
パスコーがやって来ます。これは夢なのか、ベッドの横に立つパスコー。
付いて来いといわれ、ルイスは起き上がり、ドアをすり抜けるパスコーを見て、
ああ幽霊だ、と恐怖に襲われますが、なぜか付いて行くことに。
そして、ペット霊園に来たルイス。パスコーは、霊園の奥にある倒木の山を指し
「あの倒木の山より向こうには絶対行くな。いけば家族が不幸になる」
と言い、それからルイスは、どのように帰ったのかおぼえておらず、気が付くと
ベッドに寝ていたのです。階下から自分を起こす妻と娘の声。起き上がると、
足には土がべったりとついていて、それでシーツは汚れていたのです・・・

(※ここから物語の重要な部分にふれます。ネタバレ注意)

夢遊病かなにかで、夜中に外に出てしまい、それで足が汚れたんだ、パスコーと
霊園に行ったのはただの夢なんだと言い聞かすルイス。
しれからしばらく経ち、クリード一家に悲しい出来事が起こります。エリーの愛猫
チャーチが死んでしまったのです。
家の前には大きな道路になっていて、そこはしじゅうひっきりなしに大型トラックや
ダンプが走り、引っ越してきた時から危険は分かっていたのですが、おそらく猫は
道路で車に轢かれたらしいのです。
悲しみに打ちひしがれるエリー。チャーチの亡骸は霊園に埋めようとルイスは思うの
です。
そこに、隣人ジャドがやって来て、いっしょに霊園まで行くというのです。
霊園に着き、なんとジャドは、奥の倒木の山を乗り越えようとするではありませんか。
しかしジャドは「いいから黙って付いてくるんだ」の一点張り。
そこからまたしばらく歩き、湿地帯を抜けて、長い階段を登り、着いたのは丘の上。
そこに猫を埋めるんだと命じるジャド。意味がわからず指示に従うルイス。
その理由はあとで話す、とジャド。その理由はあとで分かる筈だ、と。

そして翌日、家の外を見てみると、そこには泥で薄汚れたチャーチがいたのです。
あの森の奥は、先住民ミクマク族が聖なる場所としていて、そのミクマク族と交流
のあったラドロウの住人の中には、ある「神秘」を聞いていたのです。
ジャドは、かつて家で飼っていた犬の話をしはじめます。可愛がっていた愛犬が死に、
森の奥の秘密を聞いたジャドは犬を丘の上まで運び、埋めます。その翌日、死んだ
はずの犬が家の前に座っていたのです。しかし、前とは様子が違い、そしてかなり
「臭い」のです。
じつはラドロウでは、ある住人が大事にしていた牛がいて、その牛も死んだはずなのに
生き返ったという出来事がありました。

そこでルイスはある疑問を聞いてみます。人間はどうなんだ、と。
急に怒るジャド。人間なんてとんでもないことだ!そんなこと口にするな!と・・・

しかし、ルイスにとって、死んだ生物が生き返るというのは医学的にあり得ず、
それこそ聖書の中での出来事でしかなく、帰ってきたチャーチは、おそらく脳震盪
かで一時意識不明状態で、埋めたら息をふきかえして、家に戻ってきただけなんだ、
と自分に言い聞かせます。

またしてもクリード一家に悲劇が。家の前の道路に向かって走り出すゲージ。ようやく
かたこと言葉を話し出し、歩いたり走ったりすることができるようになったゲージが
父親の必死の呼びかけもむなしく、道路で走ってきた大型ダンプにはねられ・・・

人間をあの丘の上に埋めて生き返らそうとすることはできるのか・・・

この本が出版される時、その売り込みに「あまりの恐ろしさに発表が見合わせられた」
とあったのですが、じつはちょうどこの時期、前作まで出していた出版社から別の
出版社で新作を出すことになり、そんな状況を明言できない状態にあり、「発表を
見合わせている」という発言を、誰かが曲解して「あまりの恐ろしさに・・・」という
ことになったそうです(※訳者あとがきによります)。

じゃあどこまで恐ろしかったのかというと、はっきりいうと「恐怖」というよりは、
家族の愛と死を重く切なく哀しく描き、時にホラー要素も絡めて、といったバランス具合。
少なくとも、鈴木光司の「リング」のように、怖くて夜中トイレに行けなくなった(※実体験)
というまでの恐怖はありません。


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