goo blog サービス終了のお知らせ 

晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

半村良 『湯呑茶碗』

2009-06-16 | 日本人作家 は
以前著者の「雨やどり」を読んで、新宿という街を舞台に
オムニバス形式に話は進み、舞台設定の範囲は狭いの
ですが、話に奥行きと広がりを感じさせて、さらに話自体
もこれといって大きな波風も立つことはないのですが、そ
れでも気がつくと物語に意識が入り込んで、自身が物語
が展開していく目撃者になっているような、まるで現場に
いるような心境で、観客と演者の境界が曖昧な小劇場と
でも例えましょうか。キャストは豪華で制作費もたっぷりか
けた舞台が必ずしも良作とはいえず、半村良の作品は、
座席がパイプ椅子で、チケットも手刷りなチープ全開の舞
台ながら、これは素晴らしい、絶対観たほうがいいよと誰
かに伝えたくなるような、そんな小劇場。

本作『湯呑茶碗』は、東京西部の多摩地区にあるマンション
「宝田ハイム」に住む住民たちの織り成す、それぞれの部屋
の家族に起こるちょっとした出来事を描き、次に部屋の家族
へとバトンタッチされていくオムニバス形式。

自分史編纂をしようとする老夫婦、受験を控えた子供のいる
家族、家にいても疎外感のある元植木職人、会社重役一家
など、バラエティ豊かな住民達。もちろん、ただ同じマンション
というだけで他に接点のない住民同士もいますが、何組かは
管理人の宝田夫人を介したりして仲良くなります。

・・・と、これだけ書いていても、これといって大きな出来事や
事件が巻き起こることはありません。なんだかどこかのマン
ションを覗き見しているような、あるいは自分がそこの住民に
なっているような気持ち。

事の起こりと帰結の振り幅の大きさだけがドキドキ感を味わ
えると思っていたら間違い。こんな、はっきりいってしまえば
とるにたらないどこぞのマンションでの日常が淡々と描かれ
ているだけの作品ですが、そんな中にも心が揺り動かされる
のです。