晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

雫井脩介 『犯罪小説家』

2012-09-24 | 日本人作家 さ
これで、雫井脩介の作品を読むのは3作目になります。はじめに「犯人に告ぐ」を
読んで、こりゃ面白いやと読み始めて(ほぼ)ノンストップで読み終えました。
次は「クローズド・ノート」。作風は全く違う、ちょっぴり切ない恋だったり
青春だったりの話で、軽くホロリときました。

で、『犯罪小説家』なんですが、まあタイトルからして甘酸っぱい青春モノでは
なさそうです。

日本クライム文学賞を受賞した作家の待居涼司。受賞作品の「凍て鶴」は発売から
売り上げが好調で、映像化の話も出てきています。

そこで、編集者が推してきたのが、「ホラー界の鬼才」と呼ばれる、小野川という
脚本家。
彼に「凍て鶴」の監督、脚本、さらに主演もやってもらおうという案。

さっそく待居と編集者は小野川と会うことに。「凍て鶴」に大感動した小野川は、
ぜひとも自分に撮らせてくださいと言い、なんとなく乗り気ではない待居でしたが、
話は進んでいきます。

後日、小野川の脚本を読んだ待居はびっくりします。そこには、小説では曖昧にして
いたラストを断定的に決め付けていたのです。
さらに、ヒロインの美鶴は、かつて多摩地域で話題になった、入水自殺した美女が
モデルだというのです。

この女性はインターネットで自殺サイトを運営していて、小野川曰く、蓮美(多摩の池
で自殺した女性)が美鶴にぴったりだ、と。

もう、なんだか「凍て鶴」よりも、蓮美に興味をそそられた小野川は、前に集団自殺(心中)
に関連した本を書いた女性ライターと会うことに。
今泉というライターは、蓮美が関わっていた「落花の会」をけっこう奥深くまで調べていた
ようで、会の中心人物なるもの(しかし基本的にハンドルネームでのやりとり)の素性も
なんとなくまでは掴んでいます。

そこで、かつて「落花の会」の掲示板に書き込んだ(しかし自殺は思いとどまった)ある女性
と、小野川と今泉は会うことに。そこにしぶしぶ同席させられた待居。
その女性は待居を見るや「パインさんですよね」というのです・・・

「パインさん」というのは、「落花の会」掲示板のやりとりから推測するに中心人物だった
可能性が高い男で、蓮美の死後、なにか会の中でゴタゴタがあったらしいのですが、その
「パインさん」と間違われて、待居は(そんな自殺サイトの人と一緒にするな)と不愉快に
なります。

その後、小野川は取り憑かれたように「落花の会」を調べていきます。今泉も協力することに
なって、いろいろ分かってきたことは、蓮美が自殺した池の近くの雑木林に、何かしらありそう
なのですが・・・

物語は、最終的に「まあ、そうだよな」と想像が容易な展開にはなるのですが、そのさらに上を
いく”円環的手法”(物語の最後が話の始まりに繋がっている輪廻状態)を匂わせるような
どんでん返しがラストにあって、「うーん」と唸らされました。


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A・J・クィネル 『血の絆』

2012-09-19 | 海外作家 カ
クィネルの小説は、実際に起こった出来事、事件などが題材になっていたりして、
それがかなり核心をついているとかで、”本物”に狙われるんじゃないだろうか、
ということで、顔写真も本名も所在地も非公開にしていた、などと言われていたり
しましたが、この『血の絆』でも、舞台が(だいぶ後半ですが)ザンジバル辺りと
いうことで、ここで起こった革命の裏話などは、かなり当人たちにとっては耳の痛
いことが書かれているんじゃないの、と。

ニューヨークに独りで暮らす女性、カースティ・ヘイウッド。しかし、都会の喧騒
とは距離を置いていて、どこか寂しげ。
というのも、まだ30代後半で夫に先立たれ、さらに息子は勝手に”自分探しの旅”
に出て行ってしまい、消息不明。

そんな息子、ギャレットですが、かなり特殊な血液型の持ち主で、カースティは、
ちょっと神経過敏になって子育てをして、それが結果的に息子を縛り付けていた
ことに後になって気づくのですが、親子はいがみ合い、息子は父親の信託遺産を
受け取れる年齢に達するやいなや旅に出かけてしまうのです。
そんな息子から、手紙が届きます。

「旅を続けていくうちに、母の自分に対するのが純粋に愛情だったことを理解する
ようになった。もう憎しみは消えた。」

喜びも束の間、警察から「ギャレットがインド洋上で溺死」と報告が。

しかしカースティは、息子が死んだことを認めず、絶対に生きていると確信。
インド洋に行こうとしますが、カースティの恋人、会社の社長から反対されます。
しかし決意は固く、家も財産も売り払い、一路アフリカへ。

カースティは、ラセルという船長の船にギャレットが乗っていて、そこから海に
落ちて死亡したという詳細を聞きますが、彼女は、直接ラセルに聞くまで納得い
きません。

ここから話は変わって、インドの貧しい中年、ラメッシュという男が登場。
本の虫だったラメッシュは冒険願望を密かに持っていて、ある日「マナサ号」
というオンボロ船を見つけて、何を思ったのか即購入します。
うだつの上がらない暮らしに別れを告げて、まともに航海技術も無い(本で
得た知識のみで)まま、船の修理をして、ラメッシュは大海原へ・・・

石油掘削人のケイディは、ちょっとしたことで上司をぶん殴って仕事を馘に。
以前から趣味であった釣りをしようと、インド洋に旅立ちます。
途中、セーシェルへ向かう船の中で、カースティはケイディと出会います。
カースティは旅の目的をケイディに話し、彼も一緒に息子を探しに行くことに。

マナサ号は途中で小さな島に寄って、ラメッシュは水や食料を買い出しに上陸
します。そこで売店にいた少女、ラニーと出会います。
彼女はラメッシュの船旅の話に興味津々で、船を見物に行きます。
買い出しも済ませて、島を離れてから、ラメッシュは船室に潜り込んでいた
ラニーを発見して・・・

そこからいろいろあって、この4人が合流して、マナサ号で悪名高いラセル船長
を追うことになります。

はたして、ギャレットは生きているのか。生きていたとしたらどこにいるのか・・・

途中、マナサ号のエンジンが壊れ、元イギリス海軍という”噂”のジャック・ネルソン
という男にラメッシュは修理を依頼しますが、ネルソンは偏屈で、偏見に凝り固まり、
売り言葉に買い言葉でラメッシュもネルソンを罵倒。

しかし、どういったわけか、ネルソンはマナサ号にやってきて、エンジンを見てやる、
というのです。お互い謝罪して和解し、古いエンジンはネルソンにとって見慣れたもの
で、さらに機械系に強いケイディも加わって、エンジンを修理します。

ネルソンとラメッシュの友情の話は、最後にホロリときます。

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山本一力 『牡丹酒』

2012-09-16 | 日本人作家 や
この作品は「深川黄表紙掛取り帖」の第2弾で、江戸の深川に住む、定斎(夏バテ
の特効薬)売りの蔵秀、女性絵師の雅乃、文師の辰次郎、飾り行灯師の宗佑、この
4人が、スパイ大作戦というか、”裏稼業”(殺しではありません)をやって、
それが痛快で、なんと当時のスーパースター、紀伊国屋文左衛門とも渡り合って、
最終的に、将軍側用人の柳沢吉保の耳にも入るのです。

今回は、土佐での話からはじまります。山師である蔵秀の父、雄之助は、木材の
買い付けに」土佐へ赴き、そこで、灘の酒に勝るとも劣らない「司牡丹」という
辛口の酒を気に入って、ぜひこれを江戸で売りたいと、江戸に帰った雄之助は、
息子たちに話します。

酒は船で運ぶことになるので、それについて蔵秀たちは紀伊国屋文左衛門に相談。
司牡丹を飲んだ紀文は、これなら売れると気に入って、柳沢吉保にも飲んでもらう
ことになり、吉保も大いに気に入って、「ひとに媚びない、生一本な味」と絶賛。
さらに、酒のアテに出た鰹の塩辛も美味い美味いと気に入って、これはまるで
酒をわきに追いやるほど、すなわち酒を盗む、「酒盗」と命名します。

さっそく、大坂から江戸まで廻船を確保するため、大坂へ向かう4人。しかし、その
4人を追う男が・・・

この男、前作で4人組に酷い目にあわされた、品川の悪商人親子の差金だったのです。
しかし、ケチな商人はたいした金を持たせてくれず、焼津から船で大坂へ向かってしま
った4人を追うことができません。

そんなこんなで、大坂から船で土佐に着いた4人。土佐では、蔵元のために飾り行灯を
作成し、その出来栄えの素晴らしさに土佐の人たちは感嘆。

母と小さい息子のいる宿屋があって、4人はそこに泊まります。息子の金太の父親は
江戸に出たきり消息不明となっているのです。
しかし金太は、年齢的に父親に近い宗佑になついて、ふたりはまるで父子のように仲
良くなります。あとでお別れになるのですがこのエピソードはジーンときますね。

ところで、この「司牡丹」というお酒ですが、土佐藩初代の山内一豊が掛川から土佐に
移ってきたときに一緒に来た酒造で、現在も営業しているということで創業は400年。
坂本龍馬とも縁があるとか。

それまで公儀(江戸幕府)から「土佐いじめ」といわれるほど過酷な任務を命令されてきた
のを、柳沢吉保は司牡丹を飲んで、こんな生一本な酒を作る土佐の人たちは、そんなに悪い
人たちじゃないんじゃない?ということで、土佐藩への締め付けを緩めることに。

今回の話は”裏稼業”というよりは、商社みたいなはたらきですね。


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アーサー・ヘイリー 『権力者たち』

2012-09-13 | 海外作家 ア
「この作家の本を読めば”おりこう”になった気がする」といえば、勝手に
挙げさせてもらうと、ジェフリー・アーチャーと、アーサー・ヘイリー。
ジェフリー・アーチャーはエンタテインメント的な作品もありますが、アー
サー・ヘイリーは今まで読んだ作品はどれも経済小説。

で、この『権力者たち』は、政治小説。舞台はカナダとなっています。

カナダ首相、ジェームス・ハウデンは、米ソの冷戦(この作品が発表された
のが1962年)が、いよいよ一触即発か、という状態で、地理的にこの両国に
挟まれていて、もし核戦争が起こったら、死の灰がカナダ国内に降り注いで
しまう・・・と危機感をつのらせます。

そこで、アメリカ大統領から、ある”協定”に関する首脳会談が提案されて、
ハウデンはワシントンへ。
その協定とは「統合法」というもので、ひらたくいうと「有事には国境を無視
して、米軍は自由にカナダに入ってミサイルなど配備できますよ」というもの。

しかし、野党の反対は必至で、さらに与党内でも反対が予想され、カナダ独立
以来デリケートな問題として、カナダ系住民との問題もあって、ハウデンとしては
統合法の成立に信念を持っていますが、一筋縄ではいかなそう。

そこにあらたな問題が。

バンクーバーに「ヴァステルヴィク号」という貨物船が入港します。船長のヨー
ベックは、船に乗っている密航者のカナダに上陸させようとしますが、密航者の
アラン・デュヴァルと名乗る青年は、国籍を持っておらず、世界じゅうを転々と
しているのです。

世界各国で上陸を拒否され、カナダでも法律にのっとって、上陸は許可されません。
しかし、それを地元新聞がニュースとして伝えます。

「この不幸な青年に愛の手を」と全国で話題になりますが、ハウデンはじめ市民権・
移民相ウォレンダーは、法改正などもってほのかという構え。

ハウデンは首相になる前の党首選挙のさい、対立候補のウォレンダーと”密約”を
交わして当選し、それ以来ハウデンはウォレンダーに強く出られません。
しかも、ここ最近ウォレンダーは、マスコミが飛びついてきそうな危ない言動が多く、
ハウデンにとっては厄介。
そこにきてバンクーバーのアラン・デュヴァル問題が・・・

一方、これを政権交代のチャンスとみた野党議員は、この哀れな青年に弁護士をつけよ
うとします。
弁護士になりたてのアラン・メイトランドはさっそく貨物船に乗ってデュヴァルと会い、
上陸の申請を出すことに。
そこに立ちはだかるのは、政府から送り込まれた、移民省西海岸本局局長の堅物、クレイ
マーだったのです・・・

アメリカとの統合法の行方は、バンクーバーの無国籍者はどうなるのか・・・

首相の苦悩や、カナダの内政問題などが濃厚に描かれ、はじめこそ「難しそうだなあ」
とページをめくる手が遅かったのですが、読み進むうちに引き込まれていきました。


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東川篤哉 『謎解きはディナーのあとで』

2012-09-09 | 日本人作家 は
今さら説明は不要ですけど、本屋大賞を受賞してドラマ化、映画化もして、
ここ最近あまり出ていない「大ヒット作」ですね。

ちなみに何も関係ありませんが「○○は○○のあとで」という言葉
で思い出したのが「くちづけはタンゴのあとで」という映画。
原作は「死者との結婚」という古いミステリ小説で、かなりアレンジ
して、一番の見所はシャーリー・マクレーン(主演ではない)。

それはさておき、宝生麗子という国立署の女性刑事、彼女は「宝生
グループ」会長の娘、つまり「超」お嬢様で、そんなのがなんで刑事?
身分は署の上層部のみが知っていて、勤務の時の服装も一流ブランド
なのに、同僚たちには「バーゲン品です」とごまかします。
直属の上司である風祭警部も自動車会社の御曹司とかで、鼻持ちならない
言動。
そして、麗子の執事が、これまた変わった男で、”ご主人さま”であるはず
の麗子に対して容赦ない言葉を浴びせます。

とまあ、”お嬢様刑事”なんて、いかにもテレビの2時間ドラマ的な設定
ですが、本の中身はそれどころではなく、立派なミステリ。

麗子の関わる難事件を、ぽろりと執事の影山にもらすと、「お嬢様はアホで
らっしゃいますか」「お嬢様の目は節穴でございますか」「ズブの素人以下」
と酷い言葉のオンパレード。

現場も見ていない影山が麗子の報告だけで推理をする・・・ということは、
じつはそんなに難しくない事件を麗子や風祭が解決できないで悩んでる、とも
とれますが、一応そこは、麗子の現場観察力が細かいところまで行き届いてる
ということでもあって、そこらへんが陳腐なミステリで終わっていないところ。

キャラ設定がしっかりしていて、これは続編も期待できるな、と思っていたら
年内に続編を書き始めるそうで、楽しみです。



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A・J・クィネル 『燃える男』

2012-09-04 | 海外作家 カ
この作品はクィネルのデビュー作で、元傭兵の謎のアメリカ人
クリーシィが主人公の、その後シリーズになる作品なのですが、
先にシリーズ第3弾「ブルー・リング」を読んでしまっていて、
そこで語られていた妻と娘に関することが、この『燃える男』を
読んで「ああ、なるほど」と。

フランス外人部隊で凄腕の傭兵として有名だったクリーシィも、
その後アフリカやベトナムなど戦地を渡り歩き、今では酒浸りの
毎日。
そして、フラフラと船に乗り、南イタリアのペンションへと向かう
のです。このペンションのオーナー、グィドーもまた元フランス外人
部隊で、クリーシィとは親友でした。
数年ぶりに再開するふたりでしたが、かつての凄腕の傭兵の姿は見る
影もなく、ヨレヨレのアル中のおじいさん。

このままではいかんと、グィドーはミラノに住む弟に仕事を相談します。

さて、話は変わり、ミラノの実業家、バレット家では、深刻な問題が。
紡績業で財をなしたバレット家は、ここ近年、外国産の安価な生地に
市場を奪われて、会社がピンチで社長のエットレは資金繰りに奔走。
しかし妻のリカは、名門バレット家の妻たるべく、浪費をやめようとは
しません。あげく、ひとり娘のピンタをスイスの学校に転校させようと
いうのです。スイスの学校は無理としても、ミラノの学校に通わせるの
なら、ボディーガードを付けてほしい、と。

というのも、最近ミラノでは誘拐事件が多発しており、この前ピンタの
学校の生徒も誘拐されたばかり。しかし父エットレは、そもそも誘拐とは
プロの犯行で、火の車の状態である会社の社長の娘なんぞ誘拐なんてされ
ないと妻の心配を一蹴。
しかし、それでは妻の機嫌がおわまるはずもなく、とりあえず期間限定で
ボディーガードを雇って、何もなければお払い箱にする、ということで、
この求人を聞いたグィドーの弟が兄に話をして、クリーシィはミラノへ。

女の子のボディーガードなんて、と嫌々でしたが、とりあえずバレット家に
行くと、採用されます。
無口で、ナポリ訛りのイタリア語をしゃべる(外人部隊の時代にグィドーから
教わった)アメリカ人は、はじめリカとピンタに警戒されます。
そしてクリーシィもまた、必要以上に関わりあいを持ちたくないと無愛想。

しかしある日、リカの買い物に付き添ったクリーシィは、市内で銃撃戦に
巻き込まれます。とっさにリカをかばう元傭兵。
しかし、かつての機敏な動きはなりをひそめ、クリーシィは自己嫌悪に
陥ります。
そして、ピンタにも徐々に心を開きはじめ、ようやくクリーシィは自分で
このままではいけないと酒を控え、トレーニング(広大な敷地のバレット家の
庭の手入れや柵の取り付け)をはじめます。

ところが、いつものように車で迎えに行くと、ちょうどピンタが何者かに車に
押し込まれているところで、クリーシィはすぐ銃で男を撃ちますが、残りの犯人
に連れ去られてしまいます。
そしてクリーシィは犯人に撃たれて重体。

そして数日後、聡明で魅力的だった少女は無残な姿で発見されるのです。

クリーシィは、グィドーの亡くなった妻の実家のあるマルタのゴッツォ島で
リハビリとトレーニングを開始。
ピンタの誘拐、殺害に関わったミラノのマフィアへの復讐心を燃やします。

そこで、ナディアという女性に出会い、クリーシィは、今は女にうつつを
抜かしている状態ではいと分かっていながらも、その事情をナディアも知って、
ふたりは結ばれます。

フランスの武器商人から大量の兵器を買って、いよいよイタリアに戻ることに
なるクリーシィ。
巨大な組織であるマフィアにひとりで戦いを挑むのですが・・・

シリーズ3作目「ブルー・リング」に出てくるイタリア憲兵隊の大佐(警察官)
マリオ・サッタが登場します。腐敗、汚職にまみれきったイタリアの役人の中
にあって正義感のある男。サッタはミラノで立て続けに起きているマフィアの
連続殺人事件の実行犯を探します。
そこで、数ヶ月前にあったバレット家の娘の誘拐殺人事件を思い出し、その時に
銃で撃たれて重体だったボディーガードの名前が浮上してきます。

同じくマフィアの間でも、あの時のボディーガードの犯行と分かり、独自の
情報網で、クリーシィという名前までバレてしまい・・・

はたしてクリーシィは、最終的にマフィアのボスのところまで行けるのか。
そして、復讐は遂げることができるのか。

ゴッツォの美しい自然、そして島の魅力のひとつでもある素晴らしい住民たちの
描写部分は、その後に起こる復讐劇とは対照的に清涼感あふれています。

久しぶりに「痛快!」と心の底から思える作品。

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浅田次郎 『霞町物語』

2012-09-02 | 日本人作家 あ
この小説に出てくる、赤坂だの青山だの六本木だの、これらの地名は
今も残っているのですが、現在の東京都港区の地図を見てみても、
「霞町」という地名は出てないはずです。

正式には「麻布霞町」、今では「西麻布」という地名のところですね。

この霞町の写真屋さんの息子が主人公なのですが、帯には「著者自身の
感動の物語」とあって、ところが浅田次郎の経歴を見てみると、生まれは
中野で、高校は中央大杉並、この物語の「僕」の通ってる高校は、文中の
説明によると「校舎は赤坂のど真ん中で六本木も青山も銀座も目と鼻の先」
「都立指折りの進学校」とあり、日比谷高校か青山高校のどちらかでしょう。

というように、「著者自身」とは若干の違いがあるにはあるのですが、まあ
細かいことはおいといて、時代は学生運動が華やかなりし頃で、東京大学の
入試が中止になったり、オーティス・レディングの「ドック・オブ・ザ・ベイ」
が街中によく流れてた、ということで、1968年ですね。

まあ、不良といっていいのかわかりませんが、高校生の「分際」で自動車免許
を取って車を乗り回し、放課後になるとコンポラのスーツ(生地がテカテカして
衿幅が狭く、前が一つボタン)、髪はリーゼントでディスコに繰り出す。

ちょっとビックリですが、この時代の東京のど真ん中の高校生はそうだったん
でしょう。

そんな「僕」の高校生活を、甘酸っぱく、ほろ苦く、切なく、刹那的、色とりどり
に描いて、写真館での、ちょっとボケはじめた祖父、婿養子の父、そして母の「家族」
の話もあり(幼い頃の祖母とのエピソードも)、なんだか、この時代を知らないのに
まるで同じ時代を生きていたかのような臨場感。

青春小説・・・かというと、あまり共感できる部分は無いのですが、ある意味「時代小説」
といってもいいのではないでしょうか。

「今ではすっかり渋谷や赤坂や新橋の盛り場と光のパイプでつながれてしまったけれども、
四半世紀以上も前の六本木は、闇の中の食卓にぽつんと飾られた、花束のような街だった。
交差点を五百メートルも離れれば、米軍キャンプや邸宅の木叢が、深い眠りのように街の灯
を蓋ってしまった。」の描写なんて、ゾクゾクしてきます。

この本を読んでいると、東京生まれの人の「東京人の矜持(または江戸っ子の習性)」
みたいなものがよく分かって面白いです。


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