晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

池波正太郎 『鬼平犯科帳(二)』

2013-07-30 | 日本人作家 あ
シリーズ第1作を読んだのが、3月。面白かったので、さっそくシリーズ
2~4巻を買ってきたのですが、間違えて1、3、4巻を買うという失態。
もうそれで読む気が(2巻を買ってくる気が)なくなってしまい、こんな
に時間が経ってしまいました。

江戸の治安を守る火付盗賊改方の御頭、「鬼平」こと長谷川平蔵が快刀乱麻
の活躍、というのは今さら説明の必要もありませんね。

「蛇の眼」という話では、「蛇(くちなわ)の平十郎」という大盗が出てくる
のですが、冒頭で、平蔵が立ち寄った蕎麦屋でニアミスします。
名の知れた盗賊どもを次々と捕らえ(またはその場で斬ったり)、江戸の犯罪
グループ側では「もう鬼平がいるうちは盗みを控えよう」なんて意見も出たり。

しかし、中には平蔵暗殺を企てたり、あるいは盗賊としての誇り(?)で「鬼平
の鼻を明かしてやる」と意気込む者も。

そんな「蛇の平十郎」が、仲間を集めて、いっちょ”大仕事”をして上方へ逃げ
ようとしますが、鬼平は捕まえることができるのか。

この「蛇の眼」もそうですが、全7編とも、話をカギとなっているのは女性。
一家惨殺に遭った生き残りの女中が犯人逮捕の手がかりに。
「谷中・いろは茶屋」では平蔵の部下、木村忠吾がのぼせてしまう茶屋の芸者。
「女掏摸お富」では女スリ師。
「妖盗葵小僧」では次々と襲われる主人の女房。
「密偵」では、足を洗った元悪党の妻おふく。
「お雪の乳房」では、ふたたび登場、木村忠吾が惚れるお雪。
そして「埋蔵金千両」では、老人が千両を隠してあると告白した下女おけい、などなど。

前に、刑務所の慰問コンサートによく行く演歌歌手が、女性の囚人に聞くと、ほとんど
が男絡み、という話をされていたのを思い出しました。

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奥田英朗 『オリンピックの身代金』

2013-07-22 | 日本人作家 あ
物語の舞台は東京オリンピック開催目前の昭和39年夏の東京。タイトル
からして、オリンピック妨害を目論む何者かが脅迫した、と想像できます
が、史実(50年くらい前を”史実”というとなんか違和感ありますが)では
何事もなく東京オリンピックは開催されましたね。

身代金とは違いますが、東京の次の次に開催されたミュンヘンでは事件が
起こってしまいましたが。

「もはや戦後ではない」という言葉のとおり、焼け野原から奇跡の復活を
遂げた首都、東京でオリンピックが開催されることになり、急ピッチで
工事が進められています。

テレビ局勤務の須賀忠は、彼女と神宮の花火大会を見ることに。須賀の
実家は千駄ヶ谷の一等地、父親は警察キャリア、兄は官僚という絵に書いた
ような「名家」ですが、東大は出たもののテレビ局に入社した忠は「一家の
鼻つまみもの」的扱い。

そこで偶然、忠の東大時代の同級生とばったり出会います。その同級生、島崎
と一言二言くらい会話してお座なりな挨拶で別れます。その直後、花火とは
違う音が聞こえ、忠は実家が燃えてると気づきます。

数日後、工場の事務社員、小林良子は、友達と中野に洋裁を習いにでかける途中、
家の古本屋によく来る客の島崎を見かけます。良子は島崎に話しかけますが、
前に見た島崎は色白で女性的であったのに、今は色黒で精悍になっていて、良子
は少し驚きますが、世間話程度で別れます。
すると友人が「爆発した瞬間をみちゃった」と。中野駅の北側が燃えてるのを
確認します。その方面には警察学校があったはず・・・

ところが、家に帰った良子が家族に中野の火事(爆発?)の話をしても、テレビ
でニュースになっておらず、弟からは「姉ちゃん寝ぼけてたんじゃないの」と
からかわれる始末。

忠も、実家が燃えたのにまったくニュースにならないことを不思議に思います。
ところが、それを問いただすや、なんと父親から勘当を言い渡されます。
意味が分からない忠。しかたなく彼女のマンションに転がり込むことに。

話は変わって、警視庁捜査一課の落合は、引越しの手伝いに来てくれた後輩、
岩村から、中野の警察学校と警務部長の須賀警視監の家で火事があったのに、
なぜかその日のうちに箝口令がしかれた、という話を聞きます。
須賀警視監といえば、東京オリンピックの最高警備本部の幕僚長。

翌日、落合が警視庁に着くと、捜査一課の同僚に岩村から聞いた話を聞いて
みた途端に同僚の顔色が変わります。中野と千駄ヶ谷の火事は事実らしいの
ですがその同僚も詳しくは知らないらしく、しかも公安部が出てきて捜査課
は蚊帳の外に置かれたとのこと。
それから、落合と他数人は半蔵門会館に呼ばれます。そこで、「草加次郎」
からオリンピック開催の妨害をします、との脅迫文が届いたことを知ります。
「草加次郎」とは、まだ捕まっていない爆弾魔で、去年まで頻繁に活動して
いたのですが、また出てきたのか。

そして、上層部判断として、2件の爆発は公表しないことに。落合ら捜査一課
は、極秘任務として「草加次郎」の捜査をすることになったのですが、捜査の
指揮は公安部が握っていて、始まる前から不穏な空気に。

ここから島崎の話に。秋田の貧農の家に生まれた島崎は東大進学のため上京。
年の離れた兄は東京の工事現場に出稼ぎしていますが、その兄が急死したと
いう知らせが。
現場に行って遺体を確認、かんたんな葬儀をすませて遺骨を秋田の実家まで
運ぶことに。そのとき、会社から、今後一切の賠償その他請求は受けないとの
念書に判子を押すことに、島崎は暗澹たる気持ちに。
飯場の同僚たちに「弟は東大なんだぞ」と自慢していた兄。

夜行列車で遺骨を持って秋田まで帰る島崎でしたが、車内で行商の老人と会話
を交わしつつ、駅に降りると、その老人が島崎の香典をスっていたのです。
金は無事戻ってきましたが、なんと老人はその場から逃げます。

「草加次郎」の捜査が続いてる中、第3の爆発が。現場は羽田モノレールの橋脚
がダイナマイトで爆破され・・・

島崎は東京に戻り、兄に苦労をかけた償いという気持ちもあり、また学費を
自分で稼がなければいけないと思い、兄の働いてた現場で働くことに。
しかし、それまで大学の研究室で過ごしてきた島崎にとってそこは過酷の一言。
華やかな東京を謳歌する層と、搾取される労働者の現状を知り、島崎の心に湧い
てきたものとは。

ここらへんの、日本が駆け上がってる感の「光」と、一方、蟹工船のときと
状況は変わってない側の「陰」の対比が実に濃密に描かれていてますね。

捜査一課と公安は「草加次郎」を捕まえることができるのか。一方、忠も独自に
島崎を探しますが、見つけることができるのか。

はじめは、時系列がごっちゃになっていて、中盤くらいに「ああそういうことか」
と気づいてから文にのめり込んで一気読み。

結果は史実のとおり、東京オリンピック開会式の日に爆発事件は起こらなかった
のですが、ラストの描写の切なさは、ひとりの戦死した青年をフィーチャーした
「西部戦線異状なし」を彷彿させます。
コメント (2)
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三浦綾子 『塩狩峠』

2013-07-15 | 日本人作家 ま
連日うだるような暑さの中、本を読む気力が萎えてるといいますか、
まあその本の内容にもよるのですが、暑苦しい話はもちろんアウトで
して、じゃあ涼しげな、ということで、タイトルが北海道の地名である
『塩狩峠』にしてみました。

この話は、明治時代に実際に起きた鉄道事故で、最後尾の車両の連結
が外れて、そこに乗っていた職員が身を挺して脱線を防いだ(この職員は
車両の下敷きになり死亡)、という話をもとに描かれています。

永野信夫は、明治十年、東京の本郷で生まれます。信夫に母親の記憶は
なく、祖母と銀行員の父に育てられます。
祖母は、もともと旗本の家の出で、なにかというと「武士は」「士族は」
と厳しくしつけられます。そして、信夫が祖母に母親のことを聞くと露骨
に嫌がります。

ある日のこと、信夫は父と出かけることに。そこに小さな女の子が寄ってきて
「おとうさま」と父に呼びかけ、馴れ馴れしく抱きつきます。
信夫は仰天、「僕のおとうさんだよ」といって女の子を父から引き離そうと
します。なぜか狼狽している父。

その日の夜、信夫は、父と出かけたときにサラッと小さい女の子に会ったこと
を話した途端、祖母は顔つきが一変。謝る父。
「この・・・親不孝者!」と叫んで倒れ、祖母はその日の夜に死んでしまいます。

葬式が終わって信夫は学校から家に戻ると、あの時の女の子が。そして女の人が。
その女の人こそ、信夫が祖母に聞くことすら憚られていた母親だったのです。
そして、女の子は実の妹である待子。

信夫の母親、菊はキリスト信者で、士族の誉れを生きる全てとしてきた父の実家
にとって、ヤソ(昔はキリスト信者を『ヤソ(耶蘇)』と呼んでいた)の嫁など
言語道断で、改宗するか、さもなければ出て行けと詰め寄られます。

結果として母は信夫を置いて、つまり息子より信仰を取って家を出たということ
で、この事実を知った信夫は軽くパニック。
それから4人での生活がはじまりますが、食事の前にお祈りをしたり、日曜日に
教会に誘われたり、祖母から厳しく躾けられてきた信夫ははじめこそ嫌がりますが
、ずっと夢見ていた母が目の前にいること、妹は可愛いし、そのうちに「自分は
ヤソにはならないけれど、まあいいか」くらいになります。

やがて信夫は4年生になり、吉川という同級生と仲良くなります。吉川が家に
遊びに来たのですが、妹も連れてきます。妹は片足が不自由なのですが、それを
負い目に感じることもなく明るく、信夫は魅了されます。

中学になり、突然、吉川が北海道に引っ越すことに。そこからふたりは互いの近況
報告を文通します。

そんな信夫ですが、今後の進路を考えていた矢先、父が急死します。2年か3年は
残された家族が食べていけるくらいの蓄えは残されていましたが、大学進学を諦め、
信夫は裁判所の事務員になります。

それから数年が経ち、久しぶりに吉川と再会します。妹のふじ子は美人になっていて、
ドキドキする信夫。
さらに数年後、信夫はいきなり北海道で暮らしてみたいと思い立ちます。妹の待子は
結婚して母の面倒は妹夫婦が見てくれるし、信夫は徴兵検査で不合格になり、心機一転
北海道へ・・・

鉄道会社に就職することになった信夫。ふじ子は兄の友人と結納まで済ませたのですが
病気になってしまい、破談に。ふたりの恋の行方はどうなるのか。

キリスト教を全否定する家庭で生まれ、じつは母がキリスト信者であることを知り、
尊敬する父も葬式はキリスト教式でと遺言に残し、聖書を読んでみても、いまいち
ピンとこなかったのですが、ある日、街角で宣教師の説法を聞いているうちに、
信仰を求めることに。

遠藤周作の「大友宗麟」という小説があるのですが、戦国武将の歴史小説というより
は、彼がどうしてキリシタン大名になったのか、その過程での苦悩にフィーチャーし、
殺さなければ殺される、でも宣教師が言うには信じれば極楽に行ける、この大いなる
矛盾と(戦国大名と鉄道職員の苦悩の大小は別にして)心の中でせめぎ合うあたりは
似てるなあといいますか、両作品とも押し付けがましくなく描かれていて、よく日本人
でクリスチャンの作家の小説のあとがきにある「愛とは、信仰とは、そして人間とは」
みたいな重々しさは感じなくて、普通に読めます。

涼を求めて読んだはずが、内容の暑さ(厚さ?熱さ?)にやられて、なんかいろいろ
考えされられてしまい、結果寝られずに。
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恩田陸 『ロミオとロミオは永遠に』

2013-07-05 | 日本人作家 あ
すいません、ずいぶん更新の間が空いてしまいました。

基本的に読書タイムは寝る前の1時間くらいなのですが、読む本によっては
(1ページ目から「これは絶対に面白い!」と引き込まれるような)、気がつい
たら3時間くらい読んでたり、強烈に面白いのになると、窓の外が明るくなって
いて軽く自己嫌悪したりします。

で、今回読んだ『ロミオとロミオは永遠に』、文庫で上下巻あって、そこそこ
長かったのですが、1日1時間どころか、数ページ読んで寝落ちしてしまい、
とにかく上巻を読むのに時間がかかってしまいました。

舞台は、近未来の日本。地球には日本人だけが残り、彼らに任された「仕事」
とは、産業廃棄物、化学物質、核廃棄物などの処理。
住む場所や仕事などあらゆることが制限されますが、唯一「明るい未来」が
約束されるには、高等教育を受けること。つまり「大東京学園」の卒業総代に
選ばれなければならず、しかしそこはものすごく狭き門。

そもそも、入学するだけでも厳しい試験を勝ち抜かなければなりません。

そんな、今年度の新入生のひとり、アキラは、入学試験で最も厳しいとされる
北海道地区から合格したシゲルという美少年と出会います。

さて、意気揚々と入学式にのぞもうとする彼らの前に現れたのが、やけに
ハイテンションのタダノ。彼は生活指導の先生なのですが、普通の人間では
ありません。

「大東京学園」は3年制で、1学年は7クラス。各クラスには、かつての日本
の首都、東京23区名が付けられています。その中でも港クラスは成績優秀の
2年生以上が入れるエリートクラス。そして、新宿クラスは、そこに落ちたら
最後、卒業後も危険な地雷処理の仕事を死ぬまでやらされるのです。

アキラとシゲルは、同じクラスに入ることに。授業といえば肉体労働ばかり。
しかしそんな中、先輩たちは夜毎、どこかへと出かけていきます。
そこは、厳しく禁止されているはずの、サブカルチャーが蔓延する地下世界
だったのです・・・

アキラが「大東京学園」に入った理由。それはもちろん卒業総代になりたいと
いうのもあるのですが、じつは、アキラの兄も「大東京学園」に入学していた
のです。しかし兄は、脱走は不可能とされる学園から(過去に試みた人は途中で
捕まって消された)風のように消えたのでした。いったい兄はどこにいるのか。

何者かにハメられて新宿クラスに落とされることになったアキラ。そこで知った
驚きの事実とは・・・

先述した「上巻を読むのにに時間がかかった」というのは、情報がてんこ盛りで、
混沌とした世界観を頭の中でまとめるのに時間がかかった、というのが正確。
そこからなんとか話を掴んできて、あとはバーッと読み進めることができました。


「人類の衰退の原因はサブカルチャー」という近未来のお話。文中に出てくる
”20世紀”のサブカルチャー用語は「ああ、これはアレね」というのもあれば、
「何だろう?」というものあって、それを見つけたりするのも面白いです(後ろの
ほうに【サブカルチャー用語大辞典】というのがあります)。

これはあくまでSF、フィクションの話なのですが、そういえばある政治家が
児童ポルノ改正法に関して、もしも有名なボーカロイドが死んだら「あしたの
ジョー」の力石の時のように葬式が行われ、若者は犯罪に走る、と発言。
『ロミオとロミオは永遠に』が書かれたのは10年以上前。ちょっと怖くなりました。





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