晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

池井戸潤 『民王』

2020-11-29 | 日本人作家 あ
緊急事態宣言のころ、店頭から小麦粉、ホットケーキミックス、イーストが無くなって、ふだんから家でパンを焼いてる身にしてみればいい迷惑だったのですが、あのときに「パン作りに目覚めました!」なんてインスタあたりに投稿してた人たちは今もパン焼いてるのでしょうか。

母さん、僕のあのホームベーカリー、どうしたんでせうね
ええ、初夏、緊急事態宣言からステイホームのころ
自家製パンを作るために買った、あのホームベーカリーですよ

唐突に西条八十のパロディをぶっこんでみたところで。

池井戸潤さんです。「たみおう」と読みます。

某国、とでもいっておきましょう、総理大臣が続けて任期途中で辞めて、与党の民政党の支持率はガタ落ち、幹事長の武藤泰山は「はー困った困った」といいつつも内心は総理大臣になれるチャンスということで総裁選に立候補、なんだかんだで次期首相になります。

父親の泰山は国の為に汗をかいているというのに、息子の翔は就職活動もそっちのけで大学生活をエンジョイ。そんな翔ですが、意識を失い、目覚めると、目の前には父のライバルといわれている野党の党首が。さっきまで自分が着ていた服が変わってスーツに。周囲の人たちは「総理」「総理」というではありませんか。
一方、泰山は、目覚めるとさっきまでいた国会の議場ではありません。そして今、なにかしらのトラブルに巻き込まれているようです。

泰山と翔をよく知る官房長官の狩屋(カリヤン)も、泰山の妻(翔の母)もふたりの様子が変わってしまって心配していると、泰山は「俺だよ、翔だよ、狩屋のオヤジ」、翔は「カリヤン、俺が泰山だ」と言い、何が起こったのか意味が分かりませんでしたが、泰山しか知らないカリヤンの秘密(女性関係)を翔がペラペラしゃべり出すので、ああ、ふたりは入れ替わったんだ、と納得します。

それはそれとして、国会のほうでは問題が山積。翔のほうもいちおうは就職活動をしなければいけません。はたして入れ替わったふたりがそれぞれの「役割」をこなすことができるのか。そもそも、ふたりが入れ替わったのはなぜなのか。

ざっとあらすじだけ書くと、ドタバタコメディみたいですが、そこは池井戸潤さん、適度な重厚感を持たせて、さすがです。

どんなに政治の腐敗を嘆いたところで、その政治家を選んだのは憲法の前文「日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し~」とあるように国民なわけですから、「壮大なブーメラン」ということですね。
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浅田次郎 『夕映え天使』

2020-11-25 | 日本人作家 あ
浅田次郎さんの作品はずいぶん読んでなかったなと思い当ブログで調べたら去年の12月に投稿していまして、膨大な量の本を読んでいてよく覚えていないというわけでなく、私生活のほうでバタバタしていてよく覚えていないんですね。
まあ今年の全世界のバタバタぶりを見ていると極東の島国の片隅に住む小市民のバタバタ程度なんてどうってことないですね。

と、マクロ的視点で語ってみたところで。

この作品は短編集です。

表題作「夕映え天使」
さびれた商店街で今も細々と営業を続ける中華料理屋に突然「住み込みで働かせてください」ときた女。それまで父親と息子でやっていた店内がぱあっと明るくなったようになりますが、一年前のある日、突然、女は消えます。正月休みでゴロゴロしているところに長野県警から電話が。警察署に行くと、謎の関西弁の男が「おたくとおんなし被害者や」と。これはどういうわけか・・・
「切符」
昭和の高度成長のころの東京、恵比寿に住む小学生の広志は祖父とふたり暮らし。上の階には八千代さんという女性が下宿しています。いよいよ東京でオリンピックが開催するという10月のとある日、八千代さんは引っ越すことになり・・・
「特別な一日」
60歳になり定年を迎えた中島。今日が最後の出勤日。かつて関係を持った部下や、社長になった同期と話をして、帰り道にガード下の飲み屋に寄ります。おかみさんと話をしているうちにいつもより酒の量が増え、そして家に帰ると妻が庭の手入れをしています。なぜなら・・・
「琥珀」
三陸の港町にある喫茶店。ここで15年前に喫茶店を開いた荒井敏男。無人駅を降りた米田勝巳。警察を定年する前に休暇の消化ということで小旅行。喫茶店に「あのう、すんまへん」と関西弁の男が入店します。荒井は左右を見渡します。捜査員が一人で行動するはずはない。米田は店主の顔をひと目見て確信します。この男は今年時効を迎える指名手配犯だと・・・
「丘の上の白い家」
横浜の郊外に住む高校生の小沢。高校には奨学金で通っています。奨学生はほかに清田という同級生がもうひとりいます。ある日、丘の上の白い家に住む少女と出会った小沢は、自分とは身分違いと思い、清田を紹介しますが・・・
「樹海の人」
自衛隊の訓練で、富士の樹海の奥に入っていって、あとは司令部からの無線連絡を待ちます。疲労と空腹で朦朧としていると、人影が。そういえば、ここは自殺の名所だった・・・

浅田次郎さんといえば、硬派な時代小説、ドタバタコメディ(悪漢小説もここに入りますかね)とありますが、この短編集は、ファンタジー要素のあるハートウォーミング系。

一文で説明するとすれば「やはり、面白い」に尽きます。
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井上靖 『しろばんば』

2020-11-21 | 日本人作家 あ
この時期は、読書しながらお菓子とあったかい飲み物がいいですね。サバランに砂糖抜きのミルクティー、またはどら焼きにほうじ茶。

そんな乙女チックな一面を垣間見せたところで。

井上靖さんです。この作品は国語のテストなどでも採用されているそうで、それで知っているという方も多いのでは。なんでも小学生の課題図書に選ばれているそうで、つまり読書感想文ですね。でもこれ、小学生が読んでもあんまりピンと来ないんじゃないですかね。

タイトルの『しろばんば』とは、おそらく(雪虫)のことで、北海道では雪虫がフワフワと飛ぶとそろそろ雪の季節になるという晩秋の風物詩的な存在ですが、物語の舞台である温暖なイメージの伊豆でも見られるんだとちょっとびっくり。

主人公の洪作は、五歳から(おぬい婆さん)と、土蔵に住んでいます。婆さんといっても、洪作の実の祖母ではなく、もともとは洪作の曽祖父の妾で、曽祖父の孫娘がおぬい婆さんの養女になります。この曽祖父の孫娘というのが洪作の母。ではなぜ洪作がおぬい婆さんと一緒に住んでいるかというと、洪作の父親が軍医で、娘つまり洪作の妹が生まれて、上のお兄ちゃんを一時期(預けた)ということになっていますが、おぬい婆さんにとってみれば洪作の面倒を見るということは愛人の本家に住まわせてもらう格好の理由というわけ。本家の家族の住む家は(上の家)と呼んでいて、上の家には洪作の実の祖父母や洪作の叔母(母の妹)や従兄弟が住んでいます。両親と妹は、洪作の住む伊豆から遠く離れた愛知県の豊橋に住んでいます。

本家から見ればおぬい婆さんは妾の分際で土蔵にちゃっかり住み着いてあろうことか洪作を人質に取っている憎らしい存在で、おぬい婆さんも負けじと「躾のなってない○○」といったふうに悪意の形容詞付きで、洪作に毎日毎日上の家の人たちの悪口を吹き込みます。

そんな、けっして良い家庭環境とはいえない状況下で過ごす洪作ですが、けっこうスクスクノビノビと育っています。もっとも、洪作の住む伊豆の山村のような土地柄だと密接なコミュニティ(ムラ社会)が形成されて、周囲の大人が子どもたちの成長を見守っている全員親戚のような状態で、さらに、洪作の叔母にあたる上の家に住むさき子は洪作の通う小学校の教師で、校長は洪作の伯父にあたります。こんな環境ではグレたくてもグレられません。

洪作の家族が住む豊橋までおぬい婆さんと出かける話、運動会の話、さき子と同僚の教師との恋愛話、上級生が神隠しにあった話、「帝室林野管理局」の家族との話、椎茸栽培をしている祖父の話、バス対馬車の話、洪作が猛勉強をする話とその家庭教師の話、そして終わりでは洪作が引っ越す話となっています。

今まで井上靖さんの作品はいくつか読んできましたが、けっこう「かため」な印象だったのですが、この作品は、思わずくすっと笑ってしまう、どことなくユーモラス。
前に読んだ「あすなろ物語」も、主人公の少年が血のつながってない老婆と土蔵に住んでいますね。しかも舞台も伊豆。ですが作者いわく「あすなろ物語は」創作で「しろばんば」は自伝的、なんだそうです。

そういえば、後半で石川さゆりさんの「天城越え」でお馴染みの「浄蓮の滝」が出てきて「おー」となりました。ちなみにこの滝の近くに「伊豆の踊子」の像があるらしいのですが、川端康成の小説ではこの滝は出てきませんよね。

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葉室麟 『孤蓬のひと』

2020-11-10 | 日本人作家 は
我が家では最低気温がひとケタにならないとリビングのガスストーブと和室のコタツを使わないというどうでもいい類のルールがあるのですが、今年は10月中にガスストーブとコタツを使いはじめました。「今年は暖冬」というシーズンはそれこそ12月に入ってようやく使い始めるなんてこともあったりして、もしかして今年の(来年にかけての)冬は例年より寒いんでしょうかね。

そんな与太話はさておいて。

『孤蓬のひと』です。小堀遠州のお話です。「小堀遠州」という名前、お宝の鑑定番組でよく登場しますね。戦国武将というより、古田織部とならんで、もはや茶人として有名ですね。

遠州は近江(現在の滋賀県)に生まれます。父親は近江の戦国武将、浅井家の家臣だったのですが、浅井家が織田信長との戦に敗れると、羽柴秀吉に仕えるようになり、その後、秀吉の弟の秀長の家臣になります。秀長亡き後は秀保、ふたたび秀吉に仕えますが、関ヶ原の合戦では東軍つまり徳川方につきます。父が急死して家督を継ぎ、もともと織部の弟子として茶人として有名ではあったのですが、庭園造りとしても評価が高く、幕府より「遠江守」をもらい、これが「遠州」という名前の由来です。

なぜ千利休は切腹しなければならなかったのか。父とともに仕えた豊臣秀保はなぜ秀吉にあそこまで邪見にされなければならなかったのか。世間の人の知る石田治部(三成)と、小姓時代に遠州が見た、話した石田治部の印象とは。師匠の古田織部はなぜ切腹となったのか。義父にあたる藤堂高虎から聞いた幕府と朝廷との折衝の話とは。当代一の文化人、本阿弥光悦との話とは。沢庵和尚の話とは。世間では遠州と不仲と噂の細川忠興との関係とは。伊達政宗との茶席でなにを話したのか。

戦国時代あたりの話ではありますが、主に「人物」にフォーカスしていて、上記では出てないビッグネームもまだまだいて、勝者側にせよ敗者側にせよ、あの「時代」の主要キャストはやはり「ただものじゃなかった」というエピソードのオンパレードで、歴史にさほど興味ない方でもシビれます。

先日、藤堂高虎の一代記の歴史小説を読んで投稿したばかりなのですが、今作でも「自分は主君をコロコロかえるやつと思われてる」と自虐めいたことを言いますが、「自分は天下に仕えている。織田家、豊臣家、徳川家と主君が変わっても不思議ではない」と言ってのけます。
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佐伯泰英 『吉原裏同心(十七)夜桜』

2020-11-05 | 日本人作家 さ
今年も残すところ2か月を切りました。本当にいろいろありましたね。朝起きて、犬の散歩行って、朝食を食べて、仕事行って、夕飯食べて、風呂入って、寝て、これらの合い間合い間に本を読んで、休みの日に当ブログを更新する、こういった(当たり前の日常)を送れることに感謝しないとだめですね。

さて、吉原裏同心。チンタラチンタラと読んできて、ようやく十七巻目。

話は日本橋からスタート。橋の袂に、若い侍が立っています。その横には看板が。そこには「一丁(約109メートル)競争をして、自分に勝ったら金一両差し上げます。負けたら二分いただきます」と書かれてあり、横には「石州(石見国、現在の島根県西部)浪人、河原谷元八郎」と名前も。
人だかりの中から名乗りを上げる者が。(韋駄天の助造)こと飛脚の助造。
ひい、ふう、みい!で助造はスタートしますが、侍は遅れてようやく走り出します。助造が間もなくゴールという手前で侍が追いつき、そのまま抜き去って侍の勝ち。
これを見ていたのが、読売屋「世相あれこれ」の奉公人、代一。助造に話しかけると「あの侍、全力で走ってない」というのでビックリ。
代一は考えます。これは単なる銭稼ぎではなく、注目を浴びて話題になって誰かをおびき寄せようとしているのでは・・・

それじゃあ、というわけで、「謎の浪人と競走、五番勝負」という企画を吉原でやろうと提案すると、会所の四郎兵衛は「客寄せにいいね」と承諾。とはいえ、さすがに吉原の内でレースというわけにはいかず、見返り柳から五十間道~大門の手前までを使うことに。
この侍の素性を確かめようとしますが、石州の藩に確認するも「そんな名前のやつ知らん」と言われ、ある人の話によれば牢屋敷に入っていたという目撃情報が。
はたしてこの侍の目的は・・・
ちなみにこの五十間道、山谷堀沿いの日本堤から吉原大門までの通りなのですが、S字にくねくねと曲がっています。ここを将軍が鷹狩りに通るときに、直線だったら吉原が見えちゃうから道を曲げたそうな。

この話と同時進行的に、大籬の三浦屋の振袖新造(見習い、新人の遊女)の花邨が病気療養中、なのですが、じつは自分で醤油を飲んで具合が悪くなったというのです。肌も白いし美人なのですが、どうにも愛想が悪く客あしらいが下手とのこと。ところが、病気になって吉原の外に出るのも、足抜(脱走)の計画の一部だったのです・・・

今作は、今までの作品のような、吉原を狙う、あるいは誰かの命を狙うハッキリと分かる悪役が登場するにはするのですが、若干弱め。それよりも幹次郎と町奉行の(こちらは「表」同心)村崎とのやりとりや、身代わりの佐吉や竹松といった脇役のフォーカスといったような、「人間」をしっかりと描いているな、という印象を受けました。
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