晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

キョウコ・モリ 『シズコズ ドーター』

2013-04-29 | 海外作家 マ
この作品は、舞台は日本になっているのですが、作者のキョウコ・モリは
アメリカ在住で大学の英文学助教授をしていて、英語で書かれたというこ
とで、カテゴリーは「海外作家」にしました。まあカズオ・イシグロも海外
作家にしてますので、いいでしょう。

外国の作家が日本人や日本を描くと、痛いとこついてきますな、と思うこと
もありますが、たいていは誇張しすぎだったり、そもそも間違ってたりする
ことが多く、ガッカリしてしまいます。

が、この『シズコズ・ドーター』は、日本人が描く日本が舞台の内容で、
間違いはないでしょう。ただそれがアメリカ人にどう評価されたのか、
結果としては新聞の書評で絶賛され、賞も受賞していますので、これは
もう快挙でしょう。

神戸に住む12歳の有紀。”その日”は、有紀の通うピアノ教室で、レッスン
開始時間が遅れるので、家に電話します。
家には母親の静子がいて、帰るのが遅くなるよ、と伝えます。

家に帰った有紀は、台所で倒れていた母を見つけ、ガスが充満していたので
窓を開けはなちます。父の会社に電話をかけると、父は、すぐ医者を連れて
帰る、と。
もう手遅れです、と診断され、有紀は母の部屋へ行きます。そこには、ミシン台
に有紀の着る縫いかけのスカートが。

テーブルの上には有紀あての遺書が。
「母さんが有紀を愛していることは信じてください」
「母さんがいたら、有紀を邪魔してしまう」

それから一年、父は再婚します。相手は同じ会社の部下。結婚式の前に、有紀は
新しいお母さんの支度部屋へ。継母は、なんとか有紀とうまくやっていこうと
話しかけますが、有紀は、あなたを「お母さん」と呼んでもいいけど、本当の
母さんとは思わない、幸せになれるかわからない、と言います。

それから、父、継母、有紀の3人で新しい家で暮らし始めますが、継母は「この
子は私のことを嫌っている」と思い、有紀も必要以上に関わらず、父はその様子を
傍観するだけ。

学校でも、ちょっとした問題を起こしたり、違う学校の友達ができますが、仲は
長く続かなかったり、祖父母の家に遊びに行っては憎まれ口を叩いたりします。
愛情というものがよくわからなくなっている有紀。
そんな中、母の葬式から父の再婚までの一年間お世話になった叔母の彩だけには
心を開きます。

ちょっと強く握ったら壊れてしまいそうな繊細な心で、でも一方で負けるもんか
というタフさもあり、有紀は高校卒業を機に神戸を離れることに。

長崎の美術大に進学する有紀は、屋根裏にしまってあった母の遺品を長崎に持って
いこうとします。どうせ自分がいなくなったら継母は全部捨てるだろうから・・・
そこで見つけたのはスケッチブック。

母が、家族のなにげない一コマを描いていたのですが、それを見た有紀は・・・

なんともいえない空虚から、燦々とする輝きまで、その瞬間の空気感が伝わって
くる文章の表現力にハッとさせられます。

作者のキョウコ・モリも、12歳のときに母を亡くし、それからすぐに父が再婚、
はやく神戸をいや日本から離れたいと思い、20歳で渡米、ということで、自伝的
作品となっています。
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浅田次郎 『王妃の館』

2013-04-24 | 日本人作家 あ
浅田次郎の作品はずいぶん読んできましたが、集英社文庫から出てる
灰色の背表紙の作品は、どれも大好きな作品ばかり。「鉄道員(ぽっぽや)」
「プリズンホテル」「天切り松 闇がたり」と、感動モノから任侠モノ
まで、そしてこの『王妃の館』は、そのふたつを合わせたような作品。
といってもヤクザは出てきませんが。

桜井香という三十代後半の独身OLが、とあるツアー会社にいます。香は、
上司と不倫をしていて、上司が昇格することになって「身辺を精算」する
ということで体よく”捨てられて”会社も辞めて、リストラ奨励金で行く
パリの豪華旅行の説明を受けています。
飛行機はファーストクラス、宿泊するホテルはパリの最高級、世界中の
観光客の憧れ「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」、10日間ペアでなんと
150万円、おひとり様だと200万円。

45歳、独身、彼女いない歴が年齢そのままの元警察官、近藤誠も、パリの
旅行の説明を受けています。しかしこちらは、10日間で19万8千円という
格安ツアー。でも、泊まるホテルは、パリの最高級、世界中の観光客の憧れ
「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」です。

じつは、このツアーは、香が参加するのは「光(ポジ)」で、近藤が参加
するのは「影(ネガ)」、どういうことかというと、同じ日程で2組のツアー
がパリを旅行、しかも泊まるホテルも同じ、でも、「ポジ」はちゃんとホテル
の客室に泊まれるのですが、「ネガ」は、午後から夜9時まで「ホテルの部屋を
自由に使っていい」というだけで、寝るのは地下のワインセラーを改装した狭い
部屋。ようは、意図的なダブルブッキング。

「ポジ」ツアーには、敏腕ツアコンの朝霞玲子が先導し、香、ベストセラー作家
の北白川右京とその担当編集者、工場が潰れ借金を抱えてパリ旅行を”冥土の土産”
にしようとしている夫妻、不動産成金と恋人の7人が参加。

一方「ネガ」ツアーは、近藤、「クレヨン」こと本名・黒岩源太郎というオカマ、
その正体は詐欺師という不気味な夫婦、元夜間高校の先生とその奥さん、そして、
北白川右京の担当ですが「ポジ」ツアーに参加している人とは別の出版社の2人、
こちらは8人、お世辞にも敏腕とはいえない戸川光男というツアコンが先導します。

とりあえず、戸川の最優先課題は、絶対に「ポジ」とバッティングしないこと。

はたして、こんなムチャクチャなツアーが無事成功するのか。

ところで、2組のツアー客が泊まる「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」とは、”太陽王”
ルイ14世が最愛の王妃とその息子のために建てた、外観は建設当時のまま残る、
第2次大戦でドイツ軍がパリを攻略した際、ヒトラーが宿泊を希望したにも関わらず
「ご紹介がありません」という理由で断った、地位や金があるだけでは泊まれない
威厳のあるホテル。しかし、最近ではそんなことを言ってては経営が成り立つはずもなく、
海外ツアーを宿泊させるまで成り下がってしまいました。

そんな「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ(王妃の館)」に暮らしていたプティ・ルイと
母親ディアナ、そして館の周りに住む人々、ルイ14世が君臨した17世紀の話が
交互に描かれます。

「ポジ」と「ネガ」がニアミスしたり、最終的に2組が合流するまでの構成は見事
としか言い様がありません。
ルイ14世の苦悩、宮廷料理人の親子にまつわる話、”太陽の子”プティ・ルイの純真さ、
その母に片思いする元軍人でコックの男、などなど、17世紀の話も美しいです。

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乙川優三郎 『霧の橋』

2013-04-21 | 日本人作家 あ
この作品は、第7回時代小説大賞を受賞した作品。前に直木賞を受賞した
「生きる」を読んだとき、文章は上手いなあとは思いましたが、悲しいくらい
暗くて、それでもラストに光明が見いだせるかと期待したらラストも暗い、
うーん、この『霧の橋』も、タイトルからして暗そうでしたが、裏表紙の
短いあらすじ紹介のところに「鮮やかなラストシーンが感動的」とあった
ので、ちょっと安心。

江坂惣兵衛という武士が、林房之助という同じく武士を「八瀬」という店に
話があるといって誘います。
惣兵衛は、「八瀬」の女将に惚れていて、若くして妻に先立たれて長男は
すでに家庭を持って、次男は剣術の達人で道場を開きたいといって、ここら
で再婚を、と話そうとすると、房之助は女将を見たとたん「どこぞでお会い
したかな」と言うのです。

そして、女将がふたりの部屋から出るや、房之助は、あの女は「奥津の娘だ」
と思い出します。

奥津とは、藩の普請奉行だった男で、城の工事で不正をしたかどで両外追放と
なっていて、そのときに一緒に藩から出て行った娘のふみだ、と。
そのとき、房之助は勘定吟味方をしていて、奥津の不正を見抜いて上役に報告
したのです。

しかし、厠に立った房之助が廊下で女将に出くわし「お前は奥津の娘ふみだろう」
と問いますが、違います、と認めません。

部屋に戻り、惣兵衛に「あの女は奥津の娘だ、やめておけ」と言いますが、惣兵衛
は本気で、険悪な雰囲気に。そこに女将が部屋に入ってきて、なんと房之助は女将
に斬りかかり・・・

ここで話はがらっと変わって、江戸、深川の小間物問屋の主人、紅屋惣兵衛という
男が登場。
こちらの惣兵衛は、江坂惣兵衛の次男で、父親は「八瀬」で房之助に斬り殺され、
その後房之助は逃亡。次男は仇討ちに出かけ諸国を彷徨い、10年目に江戸でようやく
見つけ出し父の仇討ちに成功して国に戻ったら、なんと兄が横領の罪で切腹、江坂家
は消えて亡くなっていたのです。
次男は江戸に戻って、ある日、女が襲われていたところを助けます。その女とは、
小間物問屋「紅屋」の主人の娘で、それがきっかけとなり、主人に見込まれ、娘と
結婚し、紅屋を継ぎます。もう武士に未練は無く、「江坂与惣次」という名前を捨
てて、新しく紅屋惣兵衛を名乗ります。

それから、小さな商いですが堅実に働き、先代が築いてきた紅屋の扱う紅の評判を
落とさぬように頑張っています。
そんなある日、勝田屋という同じ小間物問屋ですがこちらは紅屋よりもずっと大店
で、そんな勝田屋から、おたくの紅をうちで扱わせて欲しいと持ちかけられますが、
なにぶん紅屋は小さな店で勝田屋さんに卸すほどは作れませんと断りますが、相手は
諦めません。
すると、勝田屋は、惣兵衛に「前職は武士で仇討ちをしたでしょう」などと話しはじめ
ます。どうしてこんな席でと訝りつつ、その場では返事を濁して惣兵衛は帰ります。

それからしばらくして、同業の「巴屋」という店の経営が立ち行かなくなって、そこに
入ってきたのが勝田屋。息子に巴屋を継がせます。勝田屋の目的は巴屋で扱っていた
「白梅散」という評判の良い白粉だったのです。そればかりか、紅の仲買にまで手を出し
はじめます。

どうやら、まずは白粉市場を、最終的に紅を独占しようという魂胆で、しかし紅屋の
ような小さい店は、勝田屋に食いつぶされるか、傘下に入るかしかなく、騒兵衛は
悩みます。

そんなとき、惣兵衛のもとに、かつて住んでいた藩の祐筆頭(武家の秘書、文官)という
人から会いたいと言われ、出かけてみると、そこには志保と名乗る祐筆頭の次女がいます。
志保は、惣兵衛の前の名前、つまり武士だったことを知っています。
すると、「江坂さまは、奥津ふみという名に覚えがおありでしょうか」と・・・

ここから、奥津家が両外追放になった真相が分かり、それが父が殺されたことと
どう関係してくるのか。あの仇討ちはなんだったのか・・・

物語の後半、惣兵衛はとんでもない話を聞かされ、さらに勝田屋の陰謀にも腹が立ち、
それを惣兵衛の妻は「夫は武士に戻ってしまうのではないか」と心配してしまうあたり
ぐらいから、ぐっと引き込まれます。

読み終わって、思わず「ほうっ」と唸る、いい話。

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マイクル・クライトン 『エアフレーム(機体)』

2013-04-17 | 海外作家 カ
この本を読み終わって、うしろにある、クライトンの作品一覧を見て
みたら、けっこう読んだなあ、と気づきました。
好きな作家ではあるのですが、コンプリートしたいと強く思うまででは
なく、それでも読んでるんですね。

さて、『エアフレーム(機体)』ですが、香港発デンヴァー行きの
トランスパシフィック航空チャーター機が、ロサンゼルス航空に
緊急着陸します。そのさい、パイロットは空港に救急車40台を要請
します。ロス空港の管制官は驚き、被害の状況を聞きますが、「よく
わからない」というパイロットの回答に首をかしげます。

さっそく、この飛行機を作ったノートン・エアクラフトという航空機
メーカーにも連絡が入ります。
死者3人、負傷者56人という事故は、猛烈な乱気流に入ってしまい、
客室がミキサーのようにかき混ぜられたような状態がしばらく続いた
ことが原因だ、とのこと。

しかし、近年の最新鋭機は気象レーダー、それから他の航空機から
「あそこに乱気流が発生してる」という連絡を受けたりするので、
小規模の揺れはあるものの、乗客が天井に打ち付けられて死ぬほどの
縦揺れが起こるような乱気流に突入するとはちょっと考えられず、
また、この飛行機の機長はジョン・チャンという優秀なパイロット
で、乱気流の回避ができなかった理由はなんなのか。

ノートンの品質保証部担当副部長、ケイシーは、この事故の原因究明
チームを任されます。
そして、上司から”補佐”として、ノートン創業者一族というボブと
いう若者をつけられますが、法学部卒で、前は自動車メーカーにいた
とかで、飛行機の知識をイチから教えなければならず、ケイシーは
困ってしまいます。

調査していくと、機長と客室乗務員の会話のテープが見つかって、
そこには、主翼のスラットが云々・・・というやりとりがあって、
じつは、この飛行機N22という機体は、過去にもスラットと
呼ばれる主翼前縁についている湾曲を大きくする装置のことで、
飛んでる最中に勝手にスラットが出てしまう「指示されざるスラット
展開」という状態が起きていたのです。

ということは、この事故はスラットが原因なのか。調査を続ける
ケイシーとボブですが、社員の一部はものすごく非協力的。いや
それどころか妨害までします。というのも、近いうちに中国が
ノートン機を大量に買うという契約があり、そのさい中国国内に
現地生産工場を作るという噂が広まっていて、これに組合サイドは
猛反対、”役員のひとり”でもあるケイシーは目の敵にされている
のです。

しかし、そんな中、調査は続きます。が、ケイシーの秘書から、
「補佐のボブは、どこか怪しい」という話を聞き・・・

この事故の責任をケイシーひとりにおっかぶせようと企んでる
”フシ”のありそうな上司のマーダーの真の狙いとは・・・

ところで、ケイシーは一人娘とふたり暮らしで、ちょうどこの
事故調査のときに前夫に娘を一週間預けることになっていて、
そんなプライベート問題も重なって疲労困憊。

そんな中、またもやノートン機の事故がアメリカで起きて・・・

「ニューズライン」という人気ニュース番組の若手ディレクターの
ジェニファーは、ノートン機についての取材をはじめることに。
このジェニファーという女性、アイヴィーリーグ卒で、大学生の
ときに制作したコーナーが大当たり、そのまま「ニューズライン」
に入り、鵜の目鷹の目で”おいしいネタ”を探しています。
そしてジェニファーが食いついたのが、ノートン機の事故。
彼女は「面白ければなんだっていいのよ」といわんばかりの考えで
取材を進めていくのですが・・・

航空機事故の話がメインかと思いきや、クライトンが伝えたかった
のはそこではなくて、ジェニファーに代表されるような、節操のない
マスコミにフォーカスが当てられています。

まるで「1粒で2度美味しい」クライトンの構成力にやられました。
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宮部みゆき 『小暮写眞館』

2013-04-11 | 日本人作家 ま
本を読むことが日常生活の中で大きなウェイトを占めてくるように
なって、ブログをはじめて投稿数が500近くになった、ということは
まあ500冊読んだことになるわけですが、その中で、まるで美味しい
料理を食べたときのような幸福感が読後におとずれる作品というのが
ありまして、今までに何作あったかなあ・・・

そんな、「ああ、美味しかった」と思える作品に、久しぶりに出会え
ました。

ハードカバーの表紙は、桜と菜の花が咲き誇っていて、その向こうに
無人駅。そして表紙の裏側は、ローカル線の車両が。よく見ると、
千葉のローカル線、小湊鉄道かいすみ鉄道の車両のようです。

読んでわかったのですが、最後の方に「小湊鉄道、飯給駅」とあり、
ああ、やっぱり当たってた、と嬉しくなりました。

といっても、この『小暮写眞館』は、電車がテーマというわけでは
ありません。物語の重要なキーではありますが。

主人公は高校生の花菱英一。この一家(花菱家)はちょっと、というか
だいぶ変わっていて、息子を名前の「英一」とは呼ばず、友達が呼ぶよう
に「花ちゃん」と呼びます(父母も弟も苗字は花菱なんだから皆「花ちゃん」
のはずなんですけど)。

そんな変わった一家が、引っ越します。場所は、客の来なくなって久しい
商店街の中にある写真館。もともと不動産屋では、土地の販売で上ものは
取り壊して新しい家を建ててもらうつもりだったのですが、なにせ”変わって
る”花菱家のお父さんとお母さんは、この写真館が気に入って、取り壊さず
にそのまま住むことに。

表通りに面した入口には「小暮写眞館」という字が。」そう、前の家主は
小暮さんという方。

これがまた住めばなんとやらで、なかなか面白くて(快適かどうかは別)
昔のスタジオだったところをリビングにして、記念写真を撮るときに使う
背景のスクロールもそのままあったりして、たまに出したり。

物語は4部構成になっていまして、第一話では、女の子が花菱家の前を
通ります。どうやら、おじいさんが亡くなって店じまいをした写真屋が
再オープンしたと勘違いし、英一にむかって突然「この写真のおかげで
困ってる」と一枚の写真を置いていきます。
なんでも、先日のフリーマーケットでアルバムを買ったら、その中に
「小暮写眞館」と書かれた封筒があり、中に知らない家族写真が入って
いて、そこには女の人が泣いてるような顔が・・・

うちは写真屋ではないし、下の持ち主つまり写真に写ってる家族に
返そうと不動産屋に聞いてみます。
そして、中学からの知り合いで同じ高校に通ってる友達のテンコ
(本名は店子(たなこ)ですが、あだ名がテンコ)とともに、この
謎の写真の出どころを探します。
商店街に古くから住むお年寄りに聞いて、なにやらこの一家は火事に
あって写真に写ってる何人か亡くなって、さらに新興宗教がどうの
こうの・・・
最終的に持ち主といいますか、心霊写真っぽく写ってる、泣き顔の
女の人に返すことができたのですが、どういうわけか、この一件を
写真を持ってきた女の子に報告したら、「心霊写真の謎を解明して
ほしい」という依頼が来るようになって、さながら心霊写真バスター
になってしまいます。

それが第二話「世界の縁側」、そして第三話「カモメの名前」と続き
ます。

”コゲパン”というあだ名の英一やテンコの同級生で甘味処の娘、
そして不動産屋のつっけんどんな女性社員の垣本も、栄一の”謎解き”
に絡んできて、恋に発展?みたいな展開になったりならなかったり・・・

ただの謎解きに終始せず、青春の悩みや怒り、そして花菱家にまつわる
話などが盛り込まれていて、それらが絶妙なバランスで配分されていて、
先述した「美味しい料理を食べたときの幸福感」とはまさにこのことで、
それぞれの素材がぶつかり合わず邪魔せずに見事にマッチしていますね。

素晴らしい作品を堪能させていただきました。
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平岩弓枝 『江戸の子守唄 御宿かわせみ(二)』

2013-04-07 | 日本人作家 は
今のところ、書棚には時代小説のシリーズものとして、「鬼平」と
「剣客商売」と、「御宿かわせみ」の3つが未読として並んでいる
わけなのですが、順番的には先に「鬼平」か「剣客商売」を読む
つもりが、こっちを先に読んじゃいました。

さて、この「御宿かわせみ」のシリーズ2作目『江戸の子守唄』
は、主要キャストである、大川端の旅館「かわせみ」の女主人
のるい、兄が与力で現在は冷や飯食いの東吾、このふたりの関係
は、恋人以上夫婦未満とでもいいましょうか、夫婦同然ではある
のですが結婚はしていません。というのも、るいの亡くなった父
は、かつて”鬼同心”と恐れられていて、東吾の神林家とも付き
合いがあり(るいと東吾は幼馴染)、るいの家には後継がいなく、
るいは旅館をはじめ、東吾の兄夫婦に子ができなくて、兄はゆく
ゆくは弟に与力の後継をさせると公言していて、旅館の女主人と
与力の後継では身分が・・・ということがあるのです。

東吾は足繁く「かわせみ」に行っては泊まって、それを兄夫婦は
知ってるような知らないような。

表題でもある「江戸の子守唄」では、子連れの客が子供を置いて
夜逃げして、親を探しているうちに、ひょんなことから実の母親
が江戸にいることが分かり・・・

そのほか、東吾が夜の縁日でスリと間違われた「お役者松」、頻繁
に起こってる辻斬りの犯人を探す「迷子石」、植木屋の若い男の幼
なじみの女の話「幼なじみ」、かつて東吾と同じ道場で修行し、突き
の名人だった男が今では盗賊になっているかもしれない「宵節句」、
山崎屋という店の主人が奇妙な事件に巻き込まれる「ほととぎす鳴く」、
東吾の知り合いだという大和屋の主人の妻が、江戸の外れの王子で
殺された「王子の滝」などなど。

中でもジーンときたのが「七夕の客」という話で、「かわせみ」が
オープン5周年をむかえ、過去の宿帳を見てみると、毎年7月7日の
七夕に、決まって泊まる客がいます。40代くらいの女性と、木更津
在とだけ書いてある20歳くらいの男。毎年違う部屋に泊まっている
のですが、知り合いなのかも年の離れた恋人同士なのかも分かりません。

ある日、東吾は兄に頼まれて植木屋まで使いに出て、そこの主人から、
この近くの酒問屋に悪い噂があるというので、帰りがけにちょっと寄って
みると、番頭風の男が川沿いでやくざ風の男に財布を渡しているのを
目撃します。東吾は近所に住む下っ匹にやくざ風の男を追跡させます。
後日、このやくざ風の男が「女郎蜘蛛の松吉」という名うての悪という
ことを知り、松吉は品川まで出かけたとのこと。

酒問屋と名うての悪、それと七夕に「かわせみ」に泊まる女と男にどの
ような関係が・・・切ないです。
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山本一力 『たすけ鍼』

2013-04-04 | 日本人作家 や
最近、本を読む時間があまりなくて、それでも買い物ついでに
本屋に寄って数冊買ってしまい、「未読本」がたまる一方。

読みやすい本からサクサクと読んで未読本を減らしていこう、
ということで、こういう時にありがたいのが山本一力さんの作品。

『たすけ鍼』の主人公は、深川に住む鍼灸師の染谷(せんこく)。
彼のお灸と鍼にかかれば、風邪でも腰痛でもあくる日には治ってる
といった名人で、”ツボ師”なんて呼ばれています。

そんな染谷の治療院の隣に、昭年(しょうねん)という、こちらは
医者で、今でいえば内科医のような、病状を看て適切な薬を処方し
ます。

染谷と昭年はともに還暦過ぎ、ふたりは若い頃から仲が良く、今でも
家族ぐるみの付き合いで、さらに患者の取り合いなどはせず、この
症状だったら鍼より薬のほうがいいから隣の昭年のところに行きなさい、
薬よりお灸で治りそうだから染谷のところへ行きなさい、といった感じ。

いちおう短編形式になっていて、大店に女中奉公に行った染谷の知り合い
の娘がいきなり暇を出された話、金貸しの検校(盲目の人の肩書き)の話
からはじまり、3話目が、「野田屋」という醤油屋の話なのですが、この
野田屋の若旦那が染谷に父を看て欲しいと頼んできます。そこで染谷と
昭年が店に行きますが、番頭に追い払われます。

一方、染谷は深川の米問屋「野島屋」に行って主人の息子の治療を終えて
帰る途中、匕首を持った三人の男に襲いかかられます。
この時、染谷は一人ではなく、野島屋の手代で柔道の覚えのある草次郎も
いっしょで、三人の男は染谷と草次郎に叩きのめされます。

そのうちの一人が落としていった匕首をよく見ると、龍の銀細工が。これ
は、野田屋の番頭が持っていたキセルにも同じような銀細工があったと
思い出す染谷・・・

ここから、野田屋の一件はさておき、野島屋の話になります。はじめは
染谷のことを信用していなかった当主の仁左衛門でしたが、彼の鍼灸の
腕、病気を初見で言い当てる力に敬服し、鍼灸院の寺子屋を開くスポン
サーになると言い出します。

なんだかんだで染谷の寺子屋は開かれますが、前述の野田屋の話は「
あの件に関してはいい考えがある」と匂わせて、シリーズの続編へ。

今まで続編の書かれた作品は、正義の味方、弱者の味方が多いのですが、
だからといって痛快さというのとはまた違って、読み終わった時に地道
に働くことや人とのつながりの尊さがじんわりと胸に染み入ってくる、
そんな感じです。



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