晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

ピーター・メイル 『南仏プロヴァンスの木陰から』

2011-07-29 | 海外作家 マ
この作品は、南フランスのプロヴァンス地方に夫婦で移住した
イギリス人の作家、ピーター・メイルが、家を買い、ご近所と
の触れ合いやさまざまな出来事を綴った「南仏プロヴァンスの
12ヶ月」というエッセイ本の第2弾にあたり、また例のごと
く、あとがきを読んで、じつはこれが続編と知ったのでありま
して、この『南仏プロヴァンスの木陰から』を読み終えるやい
なや、本屋に「~12ヶ月」を買いに行ったのです。

プロヴァンスに住む人々、美味しい食材、それらを使った料理、
ワインなどの酒、厳しくも優しい雄大な自然、などなどを、ユー
モアをまじえた語り口で、興味をそそられます。

もともと、イギリスやアメリカに住んでいたときに、ちょくちょく
プロヴァンスに旅行で訪れていて、いつかここに住みたいと願って
いたようで、しかし、英語圏の人たちが学校で習ったフランス語と
この地域で話されているフランス語とはかなり違うらしく、また、
日本と負けず劣らずの、さまざまな手続きが、書類書類で繁雑に
なっていて、暮らし始めるには順調とはいかなかったようです。

それでも、ご近所さんや、レストランの店主とシェフ、知り合い
などとの交流で、だんだんと生活にも慣れてゆき、都会生活では
味わえない、「不便を楽しむ」といったことが、とても魅力ある
ように思えてきます。

前作「~12ヶ月」が世界中で大ヒットとなり、一大プロヴァンス
ブームが巻き起こり、メイルの家には本を読んだという人がしじゅう
ひっきりなしに訪れるようになって困っている、といったことが
書かれています。それと、別荘が増え、ホテルができて、畑が潰され
テニスコートになる、といった観光地化に、本人もその一因はある
と感じているようです。

なんだか、一時の「北海道移住ブーム」が頭をよぎりました。北海道
もプロヴァンスも、冬が終わってから秋口までは、とても快適、つき
抜けるような青空で、ああ、住みたいなあと誰もが思うでしょうが、
じつは一年の半分くらいは、北海道は雪、極寒。プロヴァンスは遠く
ロシアから吹いてくるミストラルという寒風が吹き続き、それに耐え
きれなくて断念、という人も少なくありません。
しかし、そういった厳しい自然で育ったからこそ、食材が美味しいの
でしょうし、快適な季節を思い切り楽しめるのです。
「楽しい」ことと「楽(ラク)」は違う、ということを、あらためて
考えさせてくれますね。
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フィリップ・プルマン 『琥珀の望遠鏡』

2011-07-25 | 海外作家 ハ
この「ライラの冒険」シリーズは、全3作をすべて読み終えてから
ブログに感想を載せようと思っていたのですが、前の2作は掲載し
ていたのですね。

あまりに間隔をあけすぎていたので、話の流れがまったくつかめず、
前作「神秘の探検」の下巻を引っ張り出してもう一度読んだのですが、
ああ、そうだったそうだった、と。今さらですが、1~3作とぶっ通し
で読んだほうがよかったと軽く悔やみつつ。

ただこの最終巻、話があっちに飛びこっちに飛び、一作目での疑問が
ようやく解決したり、特に説明のないまま謎の登場人物(人物ではな
くて、なにか虫のような小型生物)がいつの間にか物語にとって重要
なポジションにいたり、なかなか頭を混乱させてくれました。

ライラという少女のいる世界とは別の世界(パラレルワールド)があり、
なにやらそれが「ダスト」と呼ばれるものが原因なのでは、というのが
一作目、それからライラは別の世界へ行き、ウィルという少年と出会い、
そのウィルが「神秘の短剣」を手にして、この剣で空を切ると、その
向こう側に別の世界があり、そこを行き来し、ウィルの父親を探す、と
いうのが二作目、さて、そこからふたりは離れ離れになってしまい、
なんとライラは、母親に連れ去られてしまい・・・

そして、二作目に登場した大学の研究員が、別の世界への穴をくぐって
たどり着いたその世界は、馬のようなロバのような4本足の、しかし、
彼らの足で移動するのではなく、大きな車輪のようなものを転がして
いたのです・・・

さらに、ウィルとライラがふたたび出会い、なんと「死者の国」へ行く
と言い出し・・・

ある程度、話を整頓させつつ読まないと、読んでいる自分自身がどこの
世界にいるか分からなくなってしまうような、そんな感じ。
しかし、これがたんなる子供むけファンタジーではないところが、子供
のみならず大人にも受けている(大人向けファンタジー)のでしょうね。


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奥田英朗 『町長選挙』

2011-07-19 | 日本人作家 あ
この作品は、精神科医、伊良部シリーズ第3弾で、例の
ごとくハチャメチャで、それでもズバッと現代社会の病
を治療する、痛快なお話なのですが、今回収められてい
る4作品のうち2つが、あれ、どこかで見たような聞いた
ことがあるような、と思ったら、今年のはじめにドラマ
化したときに放送した話でした。

「オーナー」という話は、日本一の発行部数の(大日本
新聞)の会長にして、プロ野球の“中央リーグ”の人気
球団、(東京グレートパワーズ)のオーナー、太平洋
リーグの1球団が経営難で、この際リーグを1つにして
10チームに編成、これに反発した選手会に対して「
たかが選手が」と言い放ち・・・とまあ、ここまで書けば
誰をモチーフにしているか(というかそのものですけど)
お分かりになると思うのですが、そのオーナー、高齢の
せいか、このところ体の不調を訴え、秘書に病院へ行く
ことを勧められ、医師会の理事が経営する病院の息子が
精神科医ということで、不承不承行ってみると・・・

そして、「アンポンマン」という話も、安保貴明という
IT企業の社長で時代の寵児ともてはやされ、某ラジオ
局の株買い付けで物議をかもし・・・まあこれも容易に
想像できますね。
そんな彼が、なんとひらがなが書けなくなるという症状
に・・・

他にも、40代で全力でアンチエイジングに取り組んで
若さを保つ女優が、強迫観念にとらわれて・・・という
「カリスマ稼業」や、伊豆の小島に無医村派遣で2ヶ月
訪れることになった伊良部が、この島内を二分する選挙
に巻き込まれ・・・といった表題作「町長選挙」、どれも
伊良部ワールド、いや奥田ワールドを存分に楽しめます。
コメント (2)
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篠田節子 『弥勒(みろく)』

2011-07-16 | 日本人作家 さ
篠田節子の小説は、着眼点が面白いなあといつも感心する
のですが、この『弥勒』という作品も、題名だけだとかなり
重みのある、仏教をテーマにした?と想像しますが、まあ
そのとおり重いテーマで、ちなみにハードカバーも550ページ
とかなりの重量がありますけど。

地方の美術館を辞めて、東京の新聞社の事業部に転職した永岡
は、ある新聞社主催のパーティーで、妻の髪についていたヘア
アクセサリーに目を奪われます。

それは間違いなく、ヒマラヤの奥地にある小国パスキムの独自
に発展した仏教美術だったのです。でも、パスキムは美術品の
国外持ち出しは禁じられていて、日本に、それも妻が所有して
いるとは信じられなく、妻に問いただすと、あるコレクター
のお店で買ったといいます。

そのコレクターから出所を聞くと、前に永岡がパスキムを訪れた
時に、案内をしてくれてた男が帰国していて、その男の話による
と、パスキムで大政変が起こり、命からがら脱出したというのです。

自分の勤める新聞社にもパスキムのニュースは入ってなく、海外の
通信社のニュースもかなり前の情報しかなく、永岡はパスキムの美
しい仏教美術がもしや破壊されていないか心配に。そして百貨店と
共催で、日本でパスキム美術展を企画するも中止に。

ある仕事でニューヨークに訪れていた永岡は、会社から、インドに
出張していた社員が入院してしまったので、そのままインドへ行って
くれと連絡を受け、インドで代理として業務を済ませ、その穴埋め
として休暇をくれと告げます。同僚にはインド美術を見て回りたい
と言うのですが、永岡は、パスキムへ行くと決めていたのです・・・

しかし、飛行機はおろか、道路も封鎖されていると知り、絶望的に
なる永岡でしたが、ある地元のガイドから聞いた話では、今は使われ
ていない山道ルートがあり、そこからならパスキムに入れるという
のです。そこで、そのルートを知る老人に道を教えてもらうのです
が、老人はパスキムの寺にどうしても米を寄進したく、永岡に米を
持っていってもらうよう頼みます。

そんなこんなでパスキム入りした永岡ですが、国境近くの村に着く
と、そこはもぬけのからで人は誰もおらず・・・

はたしてパスキムでは何が起きたのか、神秘的な仏教美術は無事
なのか・・・

ここから永岡はとんでもない方向へと行ってしまうのですが、生
きるとは、国家とは、宗教とは、人間のつながりとは、愛とは、
さまざまな葛藤、自己矛盾などに苦しみます。

それにしても、逃げようと思えば逃げられた永岡は、もはや何かに
取り憑かれていたとしか思えない状態で、よく、お宝の鑑定番組で、
それこそ家族を泣かしてまで骨董の蒐集をしている人を見ると、正直
理解できないのですが、人を狂わす“何か”があるんでしょうね。


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宮部みゆき 『心とろかすような』

2011-07-09 | 日本人作家 ま
この作品は、前作「パーフェクト・ブルー」の主人公の犬、
探偵一家にもらわれたマサという元警察犬が語り手となる
ちょっと変わった作品の続編で、今回は短編の構成となって
おります。

宮部みゆきの作品に、財布が主人公の作品というのもあった
りして、犬が主人公ということで今さら驚きもしないので
すが、それにしても、こういう切り口だと、文章力が無いと
ただのオフザケになるところ、そこは流石。

マサの暮らす(飼われている)「蓮見探偵事務所」には、
代表の父、長女の加代、次女の糸子の3人の探偵がいます。
そこに「パーフェクト・ブルー」で何かと蓮見家に関わり
を持った進也というバー店員、バーのマスターなどがマサ
の近辺の人間たち。

今回の事の起こりは、糸子と進也が、ふたりそろって朝帰り
をしたということで一家は大騒ぎ。
よく聞いてみると、塾の帰りは物騒なので普段は加代が迎え
に行くのですが昨夜は忙しく、かわりに進也に行ってもらう
ことになったのですが、帰り道、車のトランクに入る女の子
を見かけ、どうしたと声をかけようとしたら、背後からスタ
ンガンでビリッ・・・そして目が覚めたらふたりともホテル
にいたのです。

朝帰り疑惑はさておき、なにやら怪しいと加代はその車の
持ち主を探し当てますが、少女の誘拐などしそうもない、
お金持ちの中年男性。そしてその少女はというと、こちら
はちょっと問題ありそうな家庭だったのです・・・

基本的に犬は人間同士の会話は理解していますが、でも
人間に自分の思っていることを伝える術はなく、その辺り
が読んでいて軽くもどかしくなるといいますか。

この短編の最後に、なんと探偵事務所に「宮部みゆき」と
いう女性作家が依頼に来ます。そしてある「告白」をする
のですが、まあこれは人を食ったようなオチ。

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ダン・ブラウン 『パズル・パレス』

2011-07-06 | 海外作家 ハ
この作品は「ダ・ヴィンチ・コード」や「天使と悪魔」で
おなじみのダン・ブラウンのデビュー作ということなので
すが、デビュー作にしてこのクオリティというのは、衝撃。

アメリカの「米国家安全保障局」、通称「NSA」の開発
した、暗号解読のスーパーコンピューター「トランスレータ」
は、当然ながら、防犯上の利用がメインで、テロを未然に
防いだり、麻薬や武器の闇取引を一網打尽にしたりするの
ですが、一歩間違えれば、一般市民の通信内容もすべて見ら
れてしまうという危惧から、市民団体などはトランスレータ
の使用を止める運動をしています。

そして、NSAにとって、市民団体よりもさらに厄介な“ある
男”を敵に回してしまったのは痛手でした。その男とは、手に
障害を持つ日本人でコンピュータの天才。彼は元NSA職員で、
このトランスレータの使用をめぐりNSAを辞職します。そこ
で彼は、(解読できない暗号はない)トランスレータでも解読
できない暗号ソフトを開発し、なんとそれをオンライン上で
プログラムをオークションにかけて、さらにそのソフトを全世界
に無料配布するというのです。

休暇中だったNSA職員スーザンは、NSA副長官ストラスモア
から呼び出され、至急本部へ。今までどんな暗号でも数分で解読
してしまうトランスレータが、なんと10時間以上も解読できず
に作動中で、じつはこの原因は、元NSA職員だった男が送りこ
んだ暗号で、それを解読するパスワードはその男自身が持っている
(あるいは知っている)ということで、ストラスモアは、スーザン
の恋人で大学講師のデイヴィッドをスペインに送ったのでした。

しかし、その暗号ソフトの開発者であった日本人は、なんとスペイン
で死亡してしまったのです。そして、もし自分が死ぬことがあれば
それはNSAの仕業なので、ただちにトランスレータにウィルス攻撃
をしかける、と喧伝していたのです。

デイヴィッドは遺品を“すべて持ち帰るように”と頼まれて、確認を
しますが、そこにあるはずの指輪が無く、ストラスモアからその指輪
を探し出すように命じられます。しかしデイヴィッドの後ろには謎の
影が・・・

半日以上も解読作業を続けるトランスレータの(異常)に職員たちも
おかしいと感じますが、ストラスモアは通常の解読中と説得します。

そもそも、なぜ“素人”であるスーザンの恋人をスペインに送りこん
だのか、ウィルス汚染されたトランスレータを停止させずに稼動させ
続ける真意とは・・・

専門用語のオンパレードで多少読み辛い部分もあったりしますが、
それでもスピード感、スリリングは一級品です。
ただ惜しむらくは、ラストの“オチ”といいますか、そこがやや
蛇足かなあ、と。
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矢口敦子 『償い』

2011-07-02 | 日本人作家 や
まずこのタイトルからして「重い、苦しい、切ない」といった
イメージがどうしても浮かんできてしまうのですが、そんな
やりきれない話がこのまま続いたら「う~ん」となるところ
でしたが、とりあえず光明を見出せる締めくくりにしてくれて
ホッとした、といいますか。

36歳の元医師、(男)という人称ではじまります。(男)は
子どもを病気で失い、妻に自殺され、それを自分の責任と感じ
何もかも捨てて、ホームレスになってしまいます。

そんな(男)のベースとなっているのは埼玉県光市(おそらく
和光市ではないかと)。はじめこそ都内の公園で寝泊りしてい
ましたが、どこかで知り合いに会うことも有り得るので、自分
とは縁も無い地へ移ることに。

といっても、この光市は、(男)にとって縁の深い地だったの
です。

(男)が日高英介という医学部の学生だったころ、当時の恋人
とドライブへ出かける途中、光市のスーパーで、小さい男の子
が自転車に乗せられるところを見て、その後にその男の子の母
親が血相を変えて我が子を探しているのを知り、さきほどの
自転車の男は誘拐?と理解した英介はその男を行方を探し出し
ますが、男の子は首を締められていて意識不明だったのですが
英介の救助のおかげで一命をとりとめます。

このような少なからぬ因縁の街で、次々と殺人事件が起こります。
(男)は放火殺人の現場にたまたま居合わせて、通報します。と
ころが、署に連れていかれ放火の疑いをかけられ、取調べを受け
るのです。

しかし、取調べをしていた山岸という刑事は、(男)こと日高英介
を使えると踏んで、探偵を命じるのです・・・

そんなこんなで英介は、日中を図書館で過ごすことにしたのですが、
そこで出会った高校生と話をするようになります。なんとその高校生
は、自分が15年前に命を救ったあの男の子だったのです・・・

そして、連続殺人の真犯人は、その高校生ではないかと英介は疑い・・・

構成は丁寧だなあ、という印象。物語に没頭し過ぎないように適度に
距離を置いて読んだほうがいいな、と思いました。
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