非国民通信

ノーモア・コイズミ

浮動票と不動票

2014-04-29 23:05:58 | 政治・国際

 世の中には、時流に合わせて投票先を変える人と、変えない人がいます。前者は浮動票とも呼ばれるところで、後者の場合は固定票と言われることが多いでしょうか。固定票より不動票と書いた方が語呂が良いかなと言う気がしないでもありません。それはさておき、状況次第で票の行き先が動く要素もあれば、状況の如何に関わらず必ず見込める票もあるわけです。

 「動かない」票に関しては専ら組織票を想像する人が多いように思います。特定の組織、団体からのまとまった支持の存在は、幾分かの陰謀趣味も添えられて悪し様に語られることが多いものです。ただ組織もしくは団体に属していない人の場合でも、投票先が完全に固まっているケースを目にすることは少なくありません。何がどうあろうとも断固として民主党支持みたいに、候補者の主張や時代の情勢と言ったものに左右されず、頑なに同じ党を支持し続ける人もいるわけです。

 政治家は自分の支持層に便宜を図るもの――そういうイメージもあるでしょうか。ただ、それは古い固定観念のなせる技で、あまり正しくないようにも思います。むしろ「釣った魚に餌はやらない」タイプの方が今時は目立つのではないでしょうか。かつてハト派が保守「本流」を称していた頃の「古い自民党」では、確かに支持基盤に対して利益を誘導するようなところもありました。しかしレイシストが「保守」を称するようになった現代は幾分か事情が違うはずです。

 転機はやはり小泉時代にあると言いますか、この時代から支持基盤の利益に配慮するよりも浮動票に阿る傾向が強くなりました。それまで自民党を支えてきた固定票、不動の票田にではなく、どこに投票するのかハッキリしない層に向けたパフォーマンスが主流化するようになったわけです。そうした小泉流は自民党よりも民主党にこそ忠実に受け継がれたところですが、その浮沈は浮動票依存の功罪をよく表わしたものという気がします。

 民主党は典型的な「釣った魚に餌はやらない」タイプで、その最大の支持基盤である連合/労組に便宜を図るようなことは最後までありませんでした。利益誘導がない、という点では実に潔癖な政権でしたね。そして専ら民主党の目線は浮動票の方に向いていた、古い自民党への批判票を掻っ攫うことを狙っていたと言えますが、それが上手く行かないと途端に与党の座から滑り落ちてしまうのは思い出すまでもないでしょう。

 石原慎太郎が何度となく暴言を吐いて非難を浴びることもありましたが、それで選挙に負けることはなかったわけです。石原支持層は、差別発言など最初から気にしないので妄言があっても投票先は変わらない、逆に差別発言に批判的な人は最初から石原を支持していないので、やはり暴言の如何に関わらず石原慎太郎が得る票には影響がない――そんな風景が続いてきたところもあるでしょうか。時に問題視されるような発言や政策であっても、票の動きには実は影響が少ないものもあると言えます。

 現在の首相である安倍晋三は、どちらを気にかけているのでしょう。一度は民主党に流れた浮動票も概ね取り戻せている中で、逆に心配なのはこれまで「不動」であった層の票なのかも知れません。前にも少し触れましたが、先の東京都知事選は良くも悪くも国政の縮図でした。専ら国政上のテーマばかりを訴える候補がいたのもさることながら、かつては民主党の「不動票」であったはずの連合が自民党が推す舛添を支援し、一方で安倍内閣の意を汲んで選ばれたはずのNHK経営委員が自民党にとっての対立候補である田母神を応援していた辺り、昨今の勢力図をよく表わしていたように思います。浮動票の離反よりも、飼い犬の暴走の方がむしろ総理大臣にとっての懸念事項にも?

 細川―小泉―民主党ラインに比べれば、舛添―自民党を支持した方がマシであろうとは私も思うところで、都知事選における連合の判断には同意できないでもありません。ただこれは自民党と民主党系の会派が都議会で蜜月関係にある東京だからこその例外とも言えますし、それ以前にもうちょっと早い段階から各政党(候補者)を天秤にかける動きがあっても良かっただろうとも思うわけです。(与党時代の)民主党が労働者の立場を蔑ろにするのであれば対立候補を支持するぐらいの、政権に揺さぶりをかけるような振る舞いの一つもあってしかるべきだったのではないでしょうか。

 不動の票は「なめられる」ことが多いです。どうせなにをやっても投票先は変わらない人のことなんて考えるだけムダですから。単に投票先を変えさえすれば良いというものではありませんけれど、党の掲げる政策や主張次第では票が逃げてしまう、そういう恐れは少なからず政治に影響するものですし、逆に好ましい政策や結果を提示できれば新たな票が呼び込めるという、そういう期待感もまた政治を動かすものと言えます。民主党政権時代の与党にものが言えなかった連合よりも、自民党が政権に復帰して野党気分で気楽に批判できる今の連合の方が随分と口がなめらかになったようにも見えますけれど、一応の労働者の代表としてどれだけ政治に影響力を及ぼせるでしょうか。今はむしろ極右層の方が安倍内閣に揺さぶりをかけるのに成功しているようにも感じられるところ、大きな組織にはよく戦略を考えて動いて欲しいとしか言えません。

 

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