非国民通信

ノーモア・コイズミ

どの口がそれを言うか

2010-09-29 22:59:38 | ニュース

専制君主でやる、責任も100%負う(日経BP)

 実際に牛丼は世界で通用する商品だという哲学を持っています。米と牛肉というのは究極の組み合わせです。人類が開発した最高の肉が牛肉で、食品中のたんぱく質の品質を評価するプロテインスコアが一番高い穀物が米なんですね。そして最高の調味料がしょう油。これらを結びつけた単純明快な商品が牛丼。だからシンプルで飽きがこない。

 日経でゼンショー(すき家)の社長の連載インタビューが始まりました。いつまで続くのかはわかりませんが、早くもツッコミどころが満載です。しょせん経営者の話なんてこんなものなのでしょう。偉くなると周りは太鼓持ちばかりになる、それでどんどん勘違いを深めてしまうものなのだという思いが一層深まりました。

 ……で、牛丼に関する「哲学」が語られています。何をもって「究極」だの「最高」だのと称しているのかわかりませんが、とりあえず牛肉と醤油に関しては好みの問題ということにしましょう。しかし米はどうでしょうか、理由として「プロテインスコアが一番高い穀物」ということが挙げられています。う~ん、狭義の穀物ということで豆類は除外するとして、まぁ米は小麦よりもプロテインスコアが高いですが、ただ母数となるタンパク質の含有量が米は小麦より少ないわけで、米がタンパク質の補給源として他の穀物より優れているとは言い難いはずです。そもそもソバの方が米よりタンパク質の含有量もプロテインスコアも高いですし、プロテインスコアという指標自体が卵を基準としたものであって人体のアミノ酸必要量に基づいているわけではないため、現在ではあまり使われない代物です(代わりにアミノ酸スコアが使われます)。社長は自信満々に語っていますが、無知を晒しているだけのようにしか見えません。

 往々にして経済系の言説とはこういうものなのでしょう。事実かどうかは気にしない、社会的に成功した人が何かを断言すればそれで十分、いかなる矛盾をも意に介することなく財界人の言葉をありがたがってこそ経済誌と言えます。付け加えれば、これが「食」に関するものであったことも適当さを加速させているのかも知れません。とかく「食」に関しては思い込みで語られることが多く、かつ無批判に受け止められることも多いですから。「食」に関する分野では何かと外国を侵略者と見なして門戸を閉ざすことを訴え、自国の食文化を神聖視していたりする、日本人の優位性を主張するような言説を差別心の表れと見る人であっても日本食の優位を説くような言葉には何の疑問も感じていなかったり、あるいは外国人排斥を唱える輩には眉を顰める一方で食生活の欧米化を糾弾する、そういう人も多いのではないでしょうか。「経済」と「食」は矛盾だらけの思い込みが無批判に罷り通る二大領域です。その両者がクロスすれば、結果がどうなるかは言うまでもありません。

 だから店舗のオペレーションにおいても、スピードは非常に重要な作業軸です。店舗だけではなく、本部の社員にもスピードを求めています。全社員に配布する、ゼンショーグループ憲章では「歩く時は1秒2歩以上」と規定があります。

 さて写真は別の会社(キヤノン電子)のものですが、ゼンショーも似たようなもののようです。こういう社長の自己満足でしかないカイカクごっこを止めればもうちょっと生産性が上がりそうですけれど、ジャパニーズビジネスマンたるもの、社長のご機嫌取りも仕事の内なのでしょう。しかるにこの社長、連載の第一回で「世界から飢えと貧困をなくす」などと豪語しています。えぇ? ゼンショーで働いている人の中にどれだけ貧困層がいると思っているんですか?

―― 食のリスクを徹底的に排除したとしても、働く人の気持ち一つで再び組織は不安的になってしまうこともあります。2008年4月、仙台市の従業員が、残業代が未払いだったとして、ゼンショーを訴えました。

 何万人の人がそれぞれ目標を持って働いている。これだけ多くの人がいるから自分の思いが伝わらないこともある。色々不満やトラブルが出てきてしまうのが普通です。

 ただ訴訟は他社と比べてものすごく少ない。もちろん少ないからいいのではない。いきなり裁判となるのではなく、きちんと議論をしたい。それが日本のいい伝統なのではないかと思う。「百かゼロか」ではない落としどころを探しています。

 インタビュアーが指摘するように、ゼンショーは賃金の不払いで従業員に訴えられています。これが同業他社と比べてどうなのかは寡聞にして知りません。もしかしたら、本当に他社と比べて少ないのかも知れません(しかし平気で嘘を吐くのが財界人というものであり、平気で嘘を載せるのが経済誌というものです)。ただ報道された訴訟のケースだけでも、ゼンショー側の対応はかなり悪質に見えます。まず残業代の不払い、これは日本中どこの会社でもあることですが、その次は支払いを求めた従業員との話し合いを拒否、この結果としてやむなく裁判に至ったわけです。これに対してゼンショー側はあろう事か原告(従業員)を逆提訴、商品用のご飯どんぶり5杯分を無断で食べたとする窃盗などの疑いで告訴に踏み切るという暴挙に出ました(参考)。飢えをなくすなどと言いつつ、賄いを食べたら刑事告訴とは……

個人請負という名の過酷な”偽装雇用”(東洋経済)

 「『アルバイト』と称する者らの業務実態を精査した結果、『アルバイト』の業務遂行状況は、およそ労働契約と評価することはできないことが判明した」「会社とアルバイトとの関係は、労働契約関係ではなく、請負契約に類似する業務委託契約である」――。つまり「すき家」のアルバイトは会社に雇用されているのではなく、個人事業主として業務委託契約を結んだ個人請負だというのだ。
 
 06年に「すき家」渋谷道玄坂店のアルバイトが不当解雇を訴え組合に駆け込んだことで、同社の残業代の割増分の不払いが判明した。解雇は撤回され、ゼンショーは彼らに謝罪。過去2年分の割増賃金も支払われたが、その後、組合に加入した仙台泉店のアルバイトに対する支払いは拒絶。組合との団体交渉も拒否するようになった。組合が救済申し立てを行った東京都労働委員会の審理の場に提出されたのが、上記の主張である。

 それ以前の問題に際しても、ゼンショーは「アルバイト」ではなく「請負契約」だと称して雇用者責任から免れようとしていたことが伝えられています。すき家の店員はゼンショーが雇用する従業員ではなく業務委託契約を結んだ個人事業者である――ゆえにゼンショーは責任を負わないとの態度を取ってきたわけです。こういう悪質な偽装雇用に手を染めておきながら、平然と「世界から飢えと貧困をなくす」などの美辞麗句を並べる、そして掲載誌も平然とそれを垂れ流す、いやはや呆れるほかありません。

 

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コメント (11)
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